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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
22/124

2.廃ビル

 来客のベルが鳴って、(むつ)は下に降りた。




「お久しぶりです、睦さん」

「お久しぶりです春雨さん」

小雨(ささめ)です顔面蹴りますよ」


 左の頬にガーゼを貼っている小雨は無表情でツッコミ、濃いグレーの外套(マント)をまとっている睦は面影の残る顔でへらっと笑った。



「約束なんです」

「破ってしまえんなゴミ約束」

「こちらへ」



 小雨を準備していた中に入れ、ソファに腰かけた。



 部下を一人連れた小雨も座り、部下は後ろに立つ。



「まずはこれを返します」

「助かりました」



 小雨は懐からなにかの機械を取り出すと、睦から渡されたカードを差し込んだ。



「終わりましたか」

「とある組織に潜入していたんですが抜ける際に検問に引っかからないよう手紙に包んだんです。気付いてくれて良かったです」

「あぁ話すんですね。聞いてないのに」

「睦さんなら気付いてくれると思いましたがいなかったらどうしようかなぁと。いてくれてよかった」

「話すことなくなってません?」

「どこに潜入していたか聞いてください」

「何しに来たんですか」

「最近(ちまた)で噂の廃ビルを知っていますか?」

「子供たちや悪ノリの大人まで遊びに行っているとか」

「帰ってきたものは一人もいないとか」



 睦が伏せていた青緑の目を上げ、機械から目を離した小雨は反応した睦を見て微かに口角を上げた。



「気になりません?」

「……政府の管轄じゃないんですか」

「えぇ、そうですよ?」

「…………わかりました。気になるのでついてきてください」

「仕方ありませんねぇ」



 小雨は機械を部下に投げると、ソファから立ち上がった。睦も渋々立ち上がり、小間(ブース)の外に出た。




「……行くんですか?」

「怖いんですか」

「だって廃ビルでしょう……?」

「小心者は変わりませんね。廃教会に住んでたくせに()の中じゃ一番の怖がりで」

「あそこは和気あいあいとしてましたし……」

「何十人も死んだくせに」

「そんなに死んでませんよッ! 助けるための病院なんですから」



 まだ幼さの残る顔で怒る睦をくすくすと笑って、ビルの外に出た。




 睦と小雨と小雨の部下と、三人で脇の路地裏に入る。




「路地裏は平気そうにするくせに」

「だって上にも下にも逃げられますし」

「下……?」

「廃ビルは暗いんですよ」

「暗いのが怖いんですか?」

「暗いと出るんです」

「なにが?」

「幽霊」

「信じてるんですか?」

「信じざるを得ない世界で生きてましたから。まぁ鏡界(キョウカイ)がないだけマシな気はしますが……」



 ブツブツと呟く睦に呆れて、腕を掴むと足を早めた。



「さー元気に行きましょう!」

「最近キャラがブレてます」

「自覚は強めです」









 三人でさらに奥に進むと、突然窓がバリンと割れる音が聞こえた。



 小雨が眉を寄せる間もなく睦は走り出し、角を曲がっていく。


 小雨とその部下も慌ててついていき、件のビルの元へ向かった。






 回転式銃(ガトリングガン)の銃声が聞こえ、しかしそれは少しして止まった。間髪入れず爆発音が聞こえ、人の悲鳴が聞こえる。


 まさかと思う間もなく、地面が揺れた。




 走った勢いで滑りながらそこに着くと、ちょうど睦が立ち上がったところだった。




 地面が割れ、人が落ちるほどの地割れ、数人は胴体が挟まって、ほとんどの人がヒビに足が挟まり誰一人としてまともに立てていない。

 数人はジャムって暴発して、手がない者もいる。




「これは……」

「噂じゃただの廃ビルだと聞きましたが」

「私もびっくりです」




 ビルの全窓から人が銃を構え、銃弾の雨。まぁ当たることはないが、何故こんなことになっているのだろうか。


 噂ではただの廃ビル、調査では少女が一人いるだけとの報告だったのに。



 目の前には黒いスーツの男たちが集り、ビルには入らせんと迎撃してくる。数百はいるんじゃないだろうか。





 小雨が眉を寄せていると、睦が何か視たらしい。地面に手を突くと横で銃弾の雨を操っていた奴らを解放した。



「てめぇッ! なんで俺たちまで!」

「裏から逃げます」

「問題ない」



 怒っている恋弥(れんや)とは打って変わって、冷静な陽泰(ようたい)が手をかざした。


 仲間の迎撃に巻き込まれた倒れた奴らの血が紐状で浮かび、ビルに刺さって奥に通っていく。



「左、右で2メートル」

「見つけた」




 何かに触れた感覚を感じると、手を握った。


 血の縄が男と、男が抱っこしている少女の腕を掴んだ。はずなのに。



 それがばすっと切れて、男はさらに走り出す。



「斬られた」

「なんですか」

「知りません。見てきます」



 睦はそういうと走り出した。



 ビルの中に入ると未だ不満気な恋弥に遠距離から守ってもらいながら、男と少女が出た裏口から出て二人を追いかける。






 屋上に飛び上がって、ビルを透かして視認し少女を上から見下ろした。いない。さっき、血の縄を斬った何かがいない。


 ビルの屋上を気付かれないように並走して、試しにそこら辺にあった小石を二人に投げてみた。




 見下ろすと、石が少女に当たる寸前に半透明の化け猫が出た。


 グレーに茶と黒の、猫にしては大きすぎる大型犬ぐらいありそうなほど大きい化け猫。尾が裂けているので、猫又かな。


 バチッと目が合うと、化け猫は睦に威嚇をした。






 ゾッとオーラが漏れて、慌てて猫又を消す。負ける勝負は挑まない。





「右。船」

「ははい……!」






 二人は海の方に逃げていき、睦はそれを追おうと思ったが、相手の全容が分からないうちに一人で深追いはリスキーか。


 まぁ化け猫は視認できたし、成果は中の上といった感じか。戻ろう。













 小雨の元に戻るとビルは包囲され、警察の代わりの役を担う神迎(じんげい)に制圧していた。




 屋上から飛び降り、小雨のそばに着地する。



 外套(マント)の裾を払い小雨の方を見ると、ドン引きした顔をされた。



「なんです?」

「はっ……八階ッ……! ビル……!」

佚世(いっせ)さんは……」

「あの人を例に出さないでくださいせめて帝翔(ていと)さんで」

「聞けッ」




 小雨は普通を理解していない睦を黙らせると、拗ねて小石を蹴っている恋弥(れんや)の方に視線を向けた。



「恋弥さんと陽泰(ようたい)さんはなぜここに?」

「テリトリー荒らされて怒るのは当たり前だろ」

「あぁ……この辺りからそうですか。ちょうど境を狙われたんですね」

「境だろうがちょっと外だろうが周辺を荒らす奴は抑える。これ鉄則!」

「そうですか。陽泰さん、何者かわかりますか?」

「おい!」

「噂も廃ビルで突如人が消えるというもので、亡霊や怪物など姿の正確な情報は」

「……でも俺が視えたし、あの化け猫……」





 睦の識別(シキベツ)は一度見たことあるものしか効かない。


 人間なら自分という人間を見た事があるし、界魔(カイマ)も界魔というくくりで見たことがあるので問題なかった。



 だがこの世界に存在する『神』や『参界者』という別種の人間は目で見るまで効果なし。知らない少女だったがこの世界にないものを使役していたし、参界者。参界者を見た場所と言えば、研究所かな。研究所にはいなかった子なので誰かが同じ人種だったということ。

 化け猫は初めて見た。研究所では見たことのない存在、か。



 もう見たので関係ないが。





「まずはこいつらの身元確認ですね」









 恋弥と陽泰はトライトに帰り、三人はひとまずビルに戻った。




 一階の階段のそばには枯梨(からり)が立っていて、小間(ブース)の中からは景矢の声がした。




「おかえりなさい睦さん」

「お客さん?」

「はい。あ、これ今日来た依頼三件です」





 バインダーに挟まれた資料に目を通して、頭の中でざっと計画を立てる。




「今日はもう閉じていいよ。あとで景矢とこれ行っといで」

「わかりました」



 枯梨は準備の前に二人のお茶菓子を用意しに行き、睦は空いている小間(ブース)の中に座った。



「紙なんですか? 機械化(ペーパーレス)したらいいのに」

「これは完全に癖と思い出浸かりですねぇ。いいでしょう?」

「全く。それよりも先ほどビルにいたものたちの話です」

「どこかの組織に所属でした。所属名は見たことないようでわかりませんでしたが……」

「写真……も、ありませんからねぇ……データも持ち歩いてませんし」

「……文字だけなら、所属組織の名前だけでもいけるかもしれません」

「便利ィ!」

「さすがに中身までは不透明ですよ」

「この辺りに干渉する組織は政府とトイトが覚えていますよ」




 小雨は紙に思い付く限りの組織名を書き出し、睦は枯梨からお茶菓子を受け取った。暑いので冷たいお茶を。


 部下は、走って指揮して喉が渇いていたのか自分の分も持ってきてくれた枯梨に深々と頭を下げてそれを飲んだ。



 枯梨は一瞬戸惑ったが、睦から頭を下げる意味の通訳をしてもらって慌てて頭を下げ返す。




「下がっていいよ。景矢と行っといで」

「はい」



 枯梨は小間(ブース)を出ていき、睦は小雨からそれを受け取った。


 紙に目を通し、名前を視認する。



「……もう一回見に行かないと」

「頭の中で視えないんですか?」

「少女の方にばかり気を取られていたのでモヤがかかりすぎてます」




 二人は立ち上がると、また廃ビルに向かった。

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