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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
21/124

1.公園

 もう使えない外套(マント)の綻びをいじりながら、顔を上げた。





響皐月(きょうめい)は?」

「あ……まだ、帰ってきてないですね」

「まったく……」




 机から降りると、結んでいる真っ白な長い髪を払った。



 外套(マント)を自分の席にかけて、外に出る。










 少し道を歩いて、隣のビルを挟んだ公園に迎えに行く。



 響皐月はいつもここで何かしらをやっている。が、なんせ集中力が異常なのでアラームを持たせても連絡をしても電話をかけても気付かない。だからHg(ホログラム)は持っているけどお飾りみたいなもの。

 まぁ寂しがる時は連絡くれるんでいいんだろうけどな。






 公園の中に入ると、響皐月は砂場でしゃがんでHg(ホログラム)と睨めっこしていた。

 その後ろから、小学校低学年ぐらいの男の子三人が砂を飛ばしている。




響皐月(きょうめい)!」



 大きな声をかけると子供たちはハッとして顔を上げ、端っこに逃げていった。





 響皐月の向かいにしゃがみ、目を塞ぐと顔を上げた。




「誰?」

「俺」

(むつ)!」



 手を離すと、灰色の髪の響皐月は真っ赤な目を丸くした。大きく腕を振り上げそのまま睦に抱き着く。



 睦は響皐月を抱き上げ、頭を撫でる。かなり砂を被っているので帰ってまず風呂だな。




「響皐月、今日は何してたの」

「今日ね〜、えーと……えーと…………忘れた」

「そか。帰って風呂入ってご飯食べよう」

「うん」



 少ししょんぼりしている響皐月を階段の下に降ろすと、一緒に上がる。



 響皐月は数え年十五だが身長は140センチもない。本当に、十五かと怪しくなる体格と言動なのだが、集中力もそうだが頭がずば抜けていいためいっそ仙人なのではとも思う。

 妙に、アンバランスでバランス的な個性を持っている。






 一緒に上がっている途中、響皐月が足を止めた。かと思えばしゃがみこみ、何かをする。



 そばに寄って覗くと、靴紐の先が少しバラけていた。固まっていたのが踏んでほぐすので柔らかくなるのだろう。



「響皐月、お風呂冷めるよ」

「ぱらぱら……」

「お風呂入ってる間に直しとくよ。六時になるよ」

「おっふっろ〜」



 響皐月は急に元気になると階段を駆け上がって行った。



 それを見送ると、事務室に戻る。





「おかえりなさい」

「もう仕事も切り上げていいよ」

「もうすぐなんです。今日はお昼長く休憩貰ったので頑張ろうかと」

「無理しないように」

「はい」




 景矢(けいや)は小さく頷くと、紫のポニーテールに指を通してまた仕事を始めた。

 伏せた目でどうやって見ているのかは、その世界特有の技術だろう。




 睦は景矢の斜め向かいに座る、枯梨(からり)の後ろに回った。

 まだ十四か三かの少女だが、何もしないのは気が引けるからと手伝ってくれている。機械は苦戦中。



 桃色の髪を少し押さえながら、後ろから手を伸ばした。


 深い赤の目がきょろきょろと泳ぐ。




「ここ開いて、こっちに資料設定したらここに出るから」

「は、はい……!」

「……景矢、資料間違えてるよ」

「あ、それが昼間に連絡きた……」

「あぁこれか。じゃ大丈夫だね。ごめんごめん」

「いえ」









 大陸を司る中央政府、世界の裏を牛耳るトワイライト。そして六年前まで、その二つの中間を担うもう一つの組織があった。

 たった三人だけの、廃教会と呼ばれた中立組織。


 廃教会という不吉な場所で、普段は法的外病院として。時に、人の命を預かる仕事から、国を買える規模の金が動く規模の依頼まで。



 しかし六年前に突如として解散、そのうち『先生』と呼ばれていた老人は政府へ、『雪』と呼ばれていた少年は政府管轄の街鷹憬(おうけい)に。

 主治医兼廃教会のトップと言われていた若い青年は、行方が知れないまま死んだと言われている。






 そして廃教会を真似るように、後継になるように。

 本来ならば敵対し、正義と悪を、光と闇を作るべき政府とトワイライトが結託して作り上げた、 秘密結社『スレッド』。


 昼は政府公認の万事屋として民間の依頼を、夜は政府やトワイライトからの依頼をこなすという謎の参界者集団。




 多くの噂が、憶測が流れる中で、一つ。


 そのトップは、廃教会(先代)の一人、『雪』という少年だというもの。











(むつ)さん、どうしたんですか?」

響皐月(きょうめい)の靴紐直してる」




 脱衣所前に景矢(けいや)がやってきて、扉に背をつけ座り込んでいる雪を覗き込んだ。



 響皐月の五代目の靴紐の先を、ライターで炙ってなにかで固めている。




「なんですか、この液体」

「蝋だよ。蝋燭(ろうそく)の」

「蝋燭の? なんで、蝋?」

「これを付けて冷やしたら先に薄く蝋がついてカバーされるから。ちょっと柔らかい種類だからパキッと割れることもないしさ」

「へぇ〜」



 十七歳でも、こちらとは常識がまるで違う景矢は興味深そうに小さな入れ物を覗き込んだ。





 靴紐を乾かしていると枯梨(からり)も上がってきて、二人の中を覗き込む。



「蝋?」

「靴紐の先固めてるんだって。枯梨は蝋燭知ってるの?」

「うん。……景矢は知らないの?」

「こっちの世界じゃ火は紙から出るからさ」

「便利だねぇ」

「二人ともどうしたの? なんか用事あり?」

「あ、さっき手紙が届いて」

「ご飯できたよの連絡を」

「ありがと。景矢は響皐月に声かけといてくれる?」

「はい」

「枯梨はご飯の用意お願い。俺のはあとでいいよ」

「わかりました」




 二人と別れると、封筒を開けながら階段を上がった。


 上質な厚い紙の手紙に目を通し、封筒の中に入っている小型の録音機(レコーダー)を出す。





 部屋に入り、それを耳元で再生した。

 知っている、久しい声が聞こえる。




『お久しぶりです睦さん。いきなりですが、十五日の二時頃にお伺いします。依頼と言うほどでもないのですが依頼と言わなければ怒るので依頼と言います。依頼です。準備お願いします』



 なんとなく馬鹿にしたような言葉が終わって、眉を寄せた。馬鹿にされた気が。





 手紙に仕掛けがないかを確認して、夕暮れ時の部屋を照らす照明にかざした。




 わずかに透けて、紙の中に何かの影が浮かんだ。器用なことすんなぁ。




 手紙を縦に破き、中に入っていたペラペラだが頑丈で柔らかいそれを取り出す。





 響皐月がいなくなった洗面所でそれを濡らし、くっ付いていた紙を剥がした。部屋に戻って、カッターでフィルムをそれに沿って切り中身を出す。




 外のフィルムには中を出さないと見えないシークレット番号、中に入っていた極薄のカードは、なにかのキーだろうか。


 見たことないので、明日用かな。











「枯梨、ご飯お願い」

「はい!」



 リビングに降りて、席に座った。


 響皐月は少し眠そう。





 このビルは四階建て、一階はお客様スペースや荷物置き、二階は事務室。三階に生活スペースと三階四階の間に風呂場、四階に皆の部屋がある。


 アクセスは悪い気もするが、特に問題もないのでしばらくはここを使うつもり。





「睦さん、どうぞ」

「ありがと」

「睦さん、手紙依頼ですか?」

「ううん、知り合いから。明日の二時ぐらいに来るって」

「スペース用意しておきますか?」

「んー……一番ちっちゃいところお願いしていい?」

「わかりました」

「響皐月、眠いなら寝たら……?」



 半分寝落ちかけている響皐月を枯梨が支えて、枯梨は困ったように睦を見た。




 睦は苦笑いをして、響皐月を抱き上げるとソファに寝転ばせた。


 クッションを抱っこして、そのまま眠り始める。




「公園でずっと考え事してたみたいだし、疲れたんだろうね」

「ブランケット取ってきます」

「ありがと」

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