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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
プロローグ
2/124

2.買い物

 拾われて二日目の昼にはある程度視界は戻ってきた。



 主治医となった黒髪に淡い緑の目の佚世(いっせ)は思ったよりもイケメンで、雪がいる場所は外に近いのか佚世が外に出ると女子の歓喜の悲鳴が聞こえてくる。ここ家なしが集まる路地裏なのに。



 声通りの年齢をしていた脳之輔(のうのすけ)はたぶん三十半ばほどで、(シルエット)が大きいので小太りかなと思っていたらほんとに体格がいいだけだった。医者って言われるより地下で殴って稼いでますって言われた方があそうですか〜ってなるような。あ、脳之輔は佚世の師匠(先生)で医者。












 人の声が聞こえたあと、教会の扉が閉まる音が聞こえた。



 疲れた顔の佚世が顔を出す。



「はぁー……」

「お、お疲れ様です……すごい人気ですね……?」

「この顔だとねー。昔はちょろっといじって人が避けていくような顔作ってたんだけどさ、今それすると今度面倒な人が集まってくるからさ」

「面倒な人……」

「まぁそれは追々。見て、君にプレゼント」



 そう言うと、佚世は紙袋を三つ掲げた。



 中のものを丁寧に雪の足含むベッドの下側に並べ、雪に見せる。



「その布切れじゃあ外に出ても悪目立ちだからね」



 黒いワイシャツに黒いズボン、白いパーカーに、白いミッドカッドスニーカー。




「私の趣味全開だけど」

「おぉ……! お、お金……!」

「んじゃカラダで返してもらおうか」

「……実験!?」

「まさかまさか。私少年が大好きだからさ」



 ベッドに膝を突いてずいっと寄ってきたイケメンに混乱していると、そのイケメンの後頭部に衝撃が走った。結果雪の鼻を強打し、二人してベッドに伸びる。




「こらイツ、雪君をからかうな」

「ずびばぜん」

「雪君、鼻大丈夫?」

「あ、は、はい。大丈夫です、血も出てませんし」

「おーいせんせー」



 佚世の背中に膝を突いた脳之輔は雪の頭を撫で、雪は少し照れた様子で首をすくめた。







 脳之輔が退くと、背中に穴が開きかけた佚世が起き上がる。



「いたた……」

「イツ、悪い冗談はやめなさい」

「すみません。楽しくってつい」

「ごめんね雪君、これの唐突な言動は冗談だと思ってくれていいからね」

「は、はい……」

「これは君へのプレゼントだしお代はいいよ。またお手伝いでもして返して」

「は、はい! ありがとうございます……!」




 雪が着替えるのに二人が外に出ると、脳之輔が佚世の肩を叩いた。


「あの子、やっぱり?」

「ですねぇ。手を尽くした方がいいかと」

「久しぶりの大仕事だな〜」











 教会の中は結構病院っぽい。

 入ってすぐの右手に三列の長椅子(ソファ)。木だけど。

 左手に医療小間(ブース)が四部屋とその奥に相談室が一部屋、右奥には食堂という名の倉庫があって、奥の階段からは二階に行ける。二階は祈祷室と言う名の三つに区切られた個人の部屋。炊事場はソファの奥、食堂と繋がっているが、見事に調合室と化していた。








 夜、驚くべき回復力で元気になった雪が佚世について歩き回っていると、佚世が足を止め雪の方に振り返った。



「カルガモか?」

「す、すみません…………ずっと座ってるのも気が引けて……」

「座ってなくてもいいけどそんなついてこなくていい」

「すみません……」



 少し凹む雪を見下ろすと、ため息をついた。


「出かけるからついといで」




 白衣を病室の椅子にかけた佚世は入口付近にあったポールハンガーから黒い外套(マント)を取った。


 ふと雪を見下ろすと、それを渡して教会の奥に向かう。



 本来ならシスターや牧師が食べる場所だが、机を再利用し空っぽになったので倉庫にしている。



 その中から、古い外套(マント)を引っ張り出した。

 同じく黒だが身長が伸びたせいで丈が足りなくなったので雑巾にでも回そうかと思っていたのだ。面倒臭がりでよかったかも。




 それを雪に羽織らせると、微妙に靴までは隠れなかった。まぁ、いいか。



「それもあげるよ。覚えられたらまずい仕事しかしてないからね」

「犯罪、ですか?」

「怖いかい」

「い、や……特に……」

「ならよかった。まぁ人殺しとかそんなんはやらないからさ、安心して」



 雪の外套(マント)をブローチにチェーンを巻いて留めると、フードを被らせた。



「前見える?」

「は、はい……」

「じゃ行こうか」



 踵を返すと、自分も外套(マント)を羽織ってフードを被った。




 教会はほんとに路地裏にあって、佚世はさらに暗い奥の方に歩き出す。



 それについて行って、少し怖いまま佚世の外套(マント)をつまんでいると佚世がその手を払った。外套(マント)の片方を開いて、雪を抱き寄せる。




「静かにね」



 いきなり角を曲がり、歩く足を早めた。



「あの……」

「君有名人?」

「え、や、全然……!?」

「じゃあ私のかな。待ち伏せされていたようだね」



 佚世はフードが脱げないよう押さえると、少し小走りで明るい方へ向かった。





 表通りに飛び出して、人混みに紛れると佚世だけフードを脱ぐ。


 夜でもランプやライトで表通りは結構明るい。



「はぐれないようにね」

「は、はい……」



 いつの間にか片手にりんごを持った佚世はそれをポンポン投げながら、雪の視線に気付いた。



「食べる?」

「あ、いえ……」

「遠慮してたら治らないよー」


 そう言いながら、佚世はりんごを大きくかじった。口でっか。



 りんごを数口で食べてしまった佚世に唖然としながら、脱げそうになるフードを押えた。



「君も邪魔だったら脱いでいいよ?」

「あ、や、大丈夫です」

「そ? まぁ好きにしたらいいけど」

「……あの、これからどこへ……?」

「薬屋と仕立て屋」

「し、仕立て屋……? 服、ですか……?」

「ううん、布の切れ端貰うだけだよ。……今度からはお使い行ってもらうかもだから道覚えてね」

「……え!?」



 佚世を掴んだまま周囲を見回す雪をケラケラと笑い、雪は焦ったように佚世を見上げた。


 佚世は冗談だと笑い、雪は破顔したあとにホッと安心したような表情をした。



「……でも、いつかは行けるようになるので……!」

「まぁそうなったら助かるかなぁ」



 拳を握って気合いを入れる雪の健気純粋さに視界が焼かれながら、雪を引っ張ってまた路地に入った。



 路地のさほど深くない場所に、玄関前にランプと看板を吊るした店が見える。



 佚世はフードを被ると、雪のフードを押さえながらその戸を叩いた。


 ガチャッと扉の覗き穴が開いて、数十秒観察される。



「……そのチビは?」

「新入り。私のお墨付きだよ」

「入りな」





 中に入るとガタイのいい女の人が強くベルを振った。耳が痛くなる音がして、少し顔をしかめる。



 ほんとに一畳もない、人二人が立つだけで精一杯の広さにカウンターを挟んで女性がいると、その奥から杖をついた老人が出てきた。



「何が欲しい」

「いつも通りのと桜の根っこ」

「相変わらず繁盛してるね」

「まー」







 薬や生薬の入った紙袋を受け取るとお代を払い、店を出た。




「ここの店は慣れた顔じゃないとぼったくってくるからさ。初め何回かは一緒に来ようね」

「は、はい。……て言うか、治ってもずっといるんですか?」

「えだって君弱いじゃん。死にかけで十回担ぎ込まれるより死ぬ前に十回守ってもらう方がいいでしょ?」

「そ、それは……そうですけど……その、迷惑じゃ……」

「ううんちびっ子一人増えたところで変わんない」



 確かに身長は170もないが。ちびっ子というほどじゃないだろう。たぶん180を越えている佚世からはどう見えるか知らんけど。



 雪がむくれっ面になると、それを見下ろした佚世は雪の頬をぷすっとさした。



「子供のうちはちびっ子だよ」

「……佚世はいくつですか? すごい若そうですけど……」

「え、そう? そう見える? 五十超えてるよ?」

「えッ!?」


 腹の底から出た驚いた声に佚世はけらけらと笑い、雪はハッと嘘だと気付いた。



「か、からかわないでください!」

「ご、ごめんごめん……! いやぁ可愛い反応するからつい……!」

「でいくつなんですか?」

「私は年齢性別出生不詳でやってるから」

「えっせっ性別……?」

「……男だと思った?」

「違うんですか……!?」

「どうだろうねぇ」



 雪ははぐらかしてくる佚世に混乱しながら、佚世をまじまじと観察する。どう見ても、男っぽいんだけどなぁ……。

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