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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
プロローグ
18/124

18.ケース

「肩に銃痕がある。新しいものだ」

「データが抜けた可能性は?」

「貫通していない。問題ないと見ていいだろう。処置も適切なものだ」

「再生速度に変化は?」

「特に差はないと考える。三ヶ月ほどで治っているようだが肩を上げるのは痛がった」

「再生速度が平均なら解剖は難しいな」

「それよりも四番は血液と体組織を調べるべきだ。この力があれば政府と対等に取引できる」

「異能力探しが圧倒的に楽になる」











 三面ガラス張りで隣の部屋の会話がよく聞こえ、抱えた足に顔を埋めた。


 さっき肉を抉られたところがまだ痛む。銃創の場所も内側が完治する前に触られて肩が動かないし、腕には焼きゴテで4の数字が入った。それが痛い。


 一年半も逃げ延びたのに。





 じんわりと涙が滲んでいると、突然扉が開く音がした。


 ハッとすると、こちらの部屋ではなく隣の部屋に誰かが入れられた。

 気絶しているようだが、トワイライトの朱髪の人だ。怪我か、左腕が固定されて使えないようになっている。



 今までは研究種類によって数人部屋だったのに、脱出防止か。個人部屋になった。




 特殊な能力の人もいるんだなぁと眺めていると、その人が目を覚ました。



 片腕を押さえて、ハッと顔を上げる。




 周囲を見回すと、自分の服が研究用に変わっているのに気付いた。


 ブチギレて、扉を蹴る。元気だなぁー。





「あ、ドクズんとこの」



 くもった声と視線で呼ばれたのがわかり、小さく会釈した。


 恋弥はこちらの壁のそばに座るとあぐらをかいた。



「ドクズには守られなかったのかよ」

「留守でした」

「肝心なところで役に立たねぇな。まぁお気に入りっぽかったしすぐ来るだろうけど」

「恋弥さん? は……」

「俺は部下がすぐ来るだろうよ。……お前保護は?」

「いえ……佚世さんが、この世界に喰われるからって」

「あぁ、だろうな。……俺ん時もあいつが政府の奴ら追い返したし」

「佚世さんは元々トライトだったんですよね? 恋弥さんとも仲良さそうなのに、なんで抜けたんですか?」

「……火事があったんだよ」




 トワイライトの本部が八、九割焼けた大火事。

 幹部の一人、重役が十人以上、トワイライトのボスが犠牲になった火事。



 それの出火元はわかっていないし、事故か事件かもわかっていない。




「でも皆があの気弱ドクズを犯人だっつってあいつ辞めてったんだ。まぁ、すぐ近くに病院なんか建てやがったけど」

「わかってないのに、佚世さんが犯人と……?」

「……あのビルが燃えた時、全体的に一気に火の手が広がった。だから犠牲者が増えた。……んなこと考えられるのはあいつしかいねぇって感じで」

「同時多発で?」

「そう。たぶん佚世を僻んだ下っ端数人の複数犯。……そう考えりゃ見事にはめられたんだろうけど。そう自覚できる奴が半数いたのに、誰か目に見える奴を犯人に仕立て上げないと怒りが収まらない人がほとんどだったんだ。あいつだって弁明はできたはずだけど、あっさり頷いて出ていきやがって……」



 恋弥の怒りか後悔か、震える声を聞きながら雪はそれを鼻で笑った。




「じゃ、佚世さんは俺が貰ったってことで」

「はッ!? なんでお前のになんだよ!?」

「だって佚世さんを信じなかった組織に居続けてるんでしょう?」

「俺はアイツの白を証明するためにいんだ! ちんちくりんのお前と違って役にも立ってたしッ!」

「俺だって名助手って言われるぐらいには役に立ってますゥ! 佚世さんにも脳之輔さんにも褒められてますー! 現在進行形でッ!」

「うるせぇ! 俺のじゃねぇけどお前のでもねぇよッ! 俺はお前より長い時間をかけて積み上げた実績と信頼があんだ!」

「俺は佚世さんに色々買ってもらうぐらいお気に入りに入ってるんでッ!」

「あいつは気に入った奴にはだいたいそうだよッ! 俺だってそうだ! スーツ買ってもらったしィ!?」

「佚世さんの趣味に包まれてんのは俺ですけどね!?」

「キモい!」

「それはお前もだ」



 喧嘩だったのか、マウントの取り合いがすっと静かになって二人は真顔に戻った。



 佚世の取り合いは、うん。無駄だった。





「あー……暇。ここなにすんの?」

「実験」

「注射?」

「より痛い。肉えぐったり爪抜いたり」



 寝転がった恋弥はビクッとして、雪はさっき抉られた肉の場所を恋弥に見せた。



「うげぇ……俺左の肘骨折してんのに……」

「もしかしたら骨いじられるかもしれませんね」

「ガチ……!? なんか、切断とかされたりすんの……!?」

「さぁ? 必要となればそうなんじゃないですか?」

「イヤァッ!」


 恋弥は半分ふざけて、半分真面目で。



 叫んでいると、いきなり研究所の電気が消えた。




「あ? 夜?」

「さぁ……」



 雪のケースの入口にだけ間接照明が点いて、扉が開いた。


 ガスマスクで顔を隠した数人が入ってきて、雪は警戒しながら入口に近付くが、すぐに気を失う。




 そのまま連れて行かれ、恋弥はその白い光でケースが薄紫になっているのに気付いた。



 しかしそのあかりもすぐに消え、真っ暗に覆われる。





 ヤバいもん見たなぁと顔を引きつらせながら、部屋のすみっこに寄った。



 ちょっと眠い。
















「思考停止。……開始」

「左腕は触るな。経過観察で身体の差を調べる。左胸部を焼け」

「早くしろ」



 六人がかりで、七番の体を固定すると胸に焼きゴテを押し付けた。


 三十秒ほどしてからそれを離して、すぐに撤収した。




「……四番、想定以上の耐性がついている」

「三番、異常なし」

「緊急! 一番に発作ッ!」

「至急動け!」

「二枚閉めろ! 一人斬られたッ!」

「怪物めッ……!」























 チッチッチッと時計の針の進む音だけが聞こえ、ぼんやりと目を覚ました。



 体を起こして、ジンジン痛む左の、鎖骨下辺りに触れた。余計痛むので、触らぬ神に祟りなしで。




 明るくなったケースには時計と一冊の本が置かれて、隣のケースには明らかに包帯が増えた雪が倒れていた。





 ぼんやりとしてから、時計を取って後ろに針の調整がないのを確認する。樹力時計、デジタルがアナログで表現されたような時計。意図的にもズラせない時計。



 体内時計には自信があるし、これで精神が狂わずに済みそうだ。



 立ち上がると、ケースの中をぐるぐると歩き回る。



 監視カメラがあるからな。時計分解して、支柱外して壊してやろうかな。修理に入ってきたら扉を閉めるだろうし、一人を殺して装備奪って。


 めんどくせぇなぁと足を止めていると、雪が目を覚ました。



 勢いよく咳き込んで、起き上がって、止まらない咳で、途端意識を失う。



 扉が開いて、誰か一人が何かを口元に当てた。



「……四番、喉の炎症を確認。再発確認」

「身体異常はこちらと似通っているな」

「異能力だけを持ち合わせているのか……」




 なんて会話を読唇術で読み取って、雪を見下ろした。異能力、ね。




 恋弥の部屋の扉にも誰かが入ってきて、絶対人体に使うものじゃないものを入口辺りに広げた。



 後ろに下がって、警戒する。




「七番、暴れるなよ」



 すっと意識が抜け落ち、気絶した七番を確認すると血を抜いた。


 200mlほど抜いて、カプセルに入れていく。




 針を抜くと、体を返して気道を確保してから背中にVの字に刃を入れた。

 体組織を10センチほど切り取り、ガーゼを貼るとそそくさと退散する。


 それを確認してから体を起こした。






 カメラを見上げ、鼻で笑う。



「俺には毒も睡眠ガスも催眠術も効かねぇからなッ! 次近付いたら仲間が一人ずつ消えると思えよ」



 二つ向こうのケースが慌ただしくなって、けらけら笑いながら部屋のすみに寄った。貧血で死にそう。

 盛られる分には問題ないけど、取られたら致命傷になりかねないんだよなぁ。




 雪も目を覚まし、そばにいた研究員は薬を置いて少し離れた。



「ゲホッ……ゲホッ……」




 雪はどこかを見て、周囲を見回す。



「…………なにかを、視ているのか?」

「何……なんだ? 何を視ている……!? 四番ッ! 何が視えた!?」



 雪が咳をしながら立ち上がると、それとほぼ同時に視界が赤く染った。




 真っ赤な警光灯と非常ベルが鳴り響き、恋弥は口角を上げる。


 さっさと抜けてかーえろ。

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