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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
124/124

41.洞窟

 下に降りると、睦にあげた紺色の外套(マント)を景矢が観察していた。




「熱心だね景矢君」

「……こんな魔法印、初めて見ました。全部佚世さんが作ったんですか?」

「自衛は大切だからねぇ」




 佚世は睦に外套(マント)を見せ、睦はそれに目を輝かせた。無邪気な笑顔は残っているようでよかった。これがなきゃ今度こそ小雨の手を落としかねない。




「ようやくできたよ」

「ありがとうございます……!」

「……そのブローチまだ使ってるの」

外套(マント)も靴も残ってますからね」

「君断捨離できないタイプ?」

「いや、基本的にはなんでも捨てます」

「こんな薄情な奴が断捨離できねぇわけがねぇだろ」

「佚世さんから貰ったのは別格です」

「いだいいだい痛いッ!」



 後ろから絡んできた恋弥の首をへし曲げて、ポイッと捨ててから外套(マント)を羽織った。



 やっぱり守られるってわかるとちょっと安心感がある。



「ありがとうございます」

「いいよ。守ってあげるから二度と怪我しないように」

「気を付けます」



 睦は佚世に踏まれそうになった足をかわし、ホッとしたのも束の間額の患部を弾かれた。



「甘い」

「痛いんですけど……!」

「痛覚ができたようで何よりだよ。さ、出かけよう」












 遺体がリオの崖があるニーズにあるということが判明したので、遊樹機でそこに向かう。遊樹機なら一時間もかからない。





 佚世と睦、恋弥と陽泰、小雨、景矢。ミヤはどこに行ったと思うだろう。寝て起きなかったから放置してきた。その代わりの景矢だ。




「ニーズにあるなら前行った時に気付くべきだったな。あの辺り全部魔法かけてるから混じってたらそうそう気付かないんだよね」

「あんな大規模魔法、ここでできるんですね」

「……景矢君は魔力少ないけど」

「補給されませんから」

「しないの?」

「できるんですか?」

「龍眼の住民に魔力がある理由は龍の力が混じった飲食物を摂るからだよ。魔法から湧いた水を飲めば普通に回復する」

「……水を湧かすのも植物や生物に魔法をかけるのも禁止でした。王族から許可の出た実験だけは別ですが……」

「ずいぶん窮屈な世界になってるようで。魔法印を知らないならあげよう。私がいつも使ってるもの」



 佚世が景矢に渡すと、景矢は首を傾げた。

 見たことない紋が組み合わさっている。



「魔法印が使えるのはインクの魔力を消費するからだよ。せっかく体に刻んでるなら体のも使えた方がいいでしょ?」

「ありがとう、ございます……」

「入れ物上に置くだけで使える優れもの」









 一時間ちょっと飛ぶと、リオの崖に着いた。

 ここで待ち合わせらしいので。



 降りると、組織イノンダイが壊滅後に残ったものたちで再結成した、組織『第二期イノンダイ』の数人が待っていた。



「お疲れ様です恋弥さん陽泰さん……!」

「おー、捜索助かった!」

「いえ……! 恋弥さんにはイノンダイ傘下加入にご協力して頂けたので、こちらが恩返しのつもりで……!」

「こっちも名のあるイノンダイが加わるなら利がある。まぁー仲良くやろうぜ」

「はい……!」



 そう喋っている間に佚世と睦が遊樹機から降りると、それが見えたらしいお出迎え組は愕然とした。


 小雨も続くと、顎が外れそうなほど口を開ける。




「……恋弥さん、説明を」

「んぁ? 被害者と保護者と解決役」

「簡潔すぎますよ……!」

「ま誰一人敵じゃねぇからんな身構えんな」

「スレッドの社長……! トワイライトの伝説……!」

「あいつの異名だせぇな」


 違うんなことどうでもいい。



「早く行くぞ! 案内しろ!」






 車に移動し、イノンダイ運転で向かう。


 小雨は運転手として連れてきていたお喋りマシーンこと降水(ふるす)を黙らせるのに必死。




「恋弥さんに指示された通り、この紋様がある場所を探しました。中は見てないです」

「……佚世、これ罠だったどうする気だ」

「さー。まぁ目的は本体消すことだからね。私は死なないし最悪本体返すの諦めて消滅させる」

「佚世さん物騒」

「そうならないように先に敵本体を潰したんだよ」

「わかってますけど」



 恋弥から魔法印を描いた紙を返してもらった佚世は、それを見下ろした。


 とても簡素な隠し魔法。このぐらいなら、岩に極小さく描けば虫眼鏡必須並だろうに。




「よく見つけたね。どこにあるかもわからなかっただろうに」

「血眼で探しました。トワイライト入って初の一大任務ですから……!」

「イノンダイは縮小したとはいえスイハ並には量があるからな。逆にイノンダイ付近でラッキーだった」

「リオの崖があるからさ」



 リオの崖は佚世が来て、ある程度行動できるまで魔法を酷使しながら生活していた場所だ。大人が過ごすにしても、完璧以外のなんでもない。




「……お前世界に何個そういうのがあんだよ」

「トライト本拠地含め八箇所」

「全部孤児院の時に作ったん?」

「まさか。……私がトワイライトの本部にも本拠地にもほとんど行ってないのは知ってるでしょ。永遠その辺回ってたの」

「クソ長い移動時間使って?」

「私含む二人までなら移動できる。私がいない移動はできない」

「へーめんどくさい」

「ほんとは睦君連れ回して管理させたかったんだけど。その前に大事になったし二個は潰れたし、まぁ本拠地の方は恋弥にあげるとして残り四箇所も荒らされてるだろうしもういいかな。ごめんね睦君」

外套(マント)二枚目貰えたので気にしません」

「君それ好きだねぇ」






 二十分ほど走ると、着いたのか車が止まった。



「すみません、ここからは徒歩で」

「おう」

「佚世さん、持ち出しどうするんですか」

「ちょちょいと」



 それで納得する佚世信者(阿呆)に呆れながら、だんだん海に面する崖に向かっていくイノンダイに顔を引きつらせた。



「おい……」

「ここを渡ります!」

「崖ェッ! いつ足場抜けてもおかしくねぇだろここォッ!」



 崖、絶壁がちょっとズレて足場が十センチあるかないか。片側が絶壁の分、綱渡りよりタチが悪い。




「お前らよくここ通ったなッ!?」

「一人落ちて半身不随です!」

「被害者出てんのに渡らせようとすんなや! 俺トワイライトの幹部だぞ!?」

「でもここが一番安全な道でして……」


 ここも到底安全ではねぇ。



「陽泰行ってこい」

「えッ!?」

「後輩を巻き込むなアホッ!」



 とは言ったものの、さすがの睦も顔を引きつらせていると、佚世がいなくなったのに気が付いた。



「あれ、佚世さんどこいった?」

「知らねぇよ。足腰弱くなって下にいるんじゃねぇの」



 睦に殴られた恋弥が頭を抱えているうちに、睦は佚世が通ったであろう竹やぶの中に入った。


 恋弥も見失わぬようそれを追い、二人で急斜面を登る。




「佚世さん」

「や〜睦君。ここ飛び降りたら中に入れそうじゃない?」

「あー、たしかに」

「こんぐらいなら行けるか」

「佚世さん筋力ないのに大丈夫ですか?」

「魔法があるよ」

「十全十美ですね」

「そのための魔法だからねぇ」



 三人が覗き込んでいると、同じく端を登ってきた小雨が顔を引きつらせた。



「まさか飛び降りるつもりですか……!?」

「だって他に道ないよ?」

「せめて遊樹機から飛び移るとかッ! ハシゴとか階段作るとかあるでしょう!? 手配しますからッ!」

「変わんないよ。二人は待っときなさいね」

「言われなくともッ!」




 佚世は飛び降りると、洞穴の上の壁に手を突いた。

 魔法印で張り付いて、足を振ると中に着地する。



「二人もおいで〜」


 ここ、なかなかに反響する。




「どうやって行くん?」

「下見える?」

「おん」

「じゃ真似て」



 そう行くと、睦は飛び降りた。


 崖の下のふちに掴まり、飛び乗る。

 声をかける前に、恋弥もやってきた。



「危ねぇッ!」

「おせぇよ」

「声かけを待て!」

「喧嘩しなーいの」

「これ帰りどうするん?」

「どこまでも考えなしめ。……佚世さん!」

「君も変わんないね。上に魔法あるから転移できるよ」

「俺には佚世さんが考えているという考えがあります」

「アホだよ、それ」

「こいつは根っからアホだ」

「ストレスかねぇ」

「俺の話をねじ曲げんじゃねぇ」






 一番奥は行き止まりだった。


 佚世が奥の壁に触れると、魔法印が浮かび上がりそれが消える。と同時に、道を塞いでいた壁も消えた。



 一枚の鉄の扉が現れる。



「扉?」

「遺体を保護するためのものだね。魂が戻ってしまえば、体は腐敗を始めるから」




 扉を開けると、酷く血なまぐさい匂いが鼻についた。



 


 体の機能停止は、止血や血液凝固も同じか。


 ただ、出血機能も止まっているので血は魂が抜ける瞬間に溢れたものだけ。それも、ほとんどが睦の血の匂い。




「酷いなこれ……?」




 三人とも死んだ時の体だ。まぁミヤはほとんど変わらないとして、睦も、恋弥は自殺が十の頃なので今よりも明らか小さい。睦は十五で、佚世と初めて会った時より確実に小さい。一年でよく伸びたらしい。



 暗いが確実にわかるのは、恋弥は左半身が潰れ、睦は左手首に大きな出血が見られた。それに、首にも。


 ミヤは入水だろうか。皮膚が青白く、血色がない。





「こういうの見るとほんとに自殺したんだなぁってなる。ねぇ睦君」

「俺は記憶あるので特に思うことはありませんが。子供の頃の自分見てるのは変な気になります」

「んなの当たり前だろ。さっさと済まそうぜ」

ご愛読、ありがとうございました。

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