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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
119/124

36.過去への怒りと

「おや?」





 島に着く数分前、柵に座って海を眺めていた佚世が顔を上げた。



「はるさめくーん」

「小雨ですなんですか」

「相手に来たの気付かれたよ」

「え」

「感知魔法だね。どうやら相手は私が来ることを知っていたようだ」

「ヴィールヒですか」

「どうだろうねぇ。でもそうじゃない? あのクソアマ」



 佚世は外套(マント)をまとい、星空のブローチで留めた。




「相手からこっちに飛び出してくるようなことはないと思うけど」

「どうしますか」

「どう足掻くか楽しみだねぇ」


 趣味の悪いこって。














 シャンユーの時計台は、山に直接取り付けられた時計を指す。シャンユーは山の名前。


 その島は上は観光地だが、地下は地盤が緩く生き埋めになる可能性が高いとしてまだあまり調査が進んでいない。




 その山の、地下の地下。標高的に言えば深海近くに当たる地中。










「反応した。……ユラじゃないな……」

「ねー誰? 佚世いる佚世」

「知らん。誰だこいつ……」

「ねーカメラ付けて!」

「……俺の目的は乗ってないみたい。ちょっと行ってきまーす」

「騒がし……」














 島に上陸すると、睦がきょろきょろと見回した。



「地下ですね」

「だろうねぇ」

「この島の地下は緩すぎて空間確保は無理ですよ」

「魔法はその限りじゃないからねぇ」

「異能もやろうと思えばできるやつはあると思います」

「おいで。案内してあげよう」


 そう言うと、佚世は港からホテル街に向かって歩き出した。








 ほんとに人っ子一人、従業員も全員いない。小雨の発言力すげぇ。



「よくもまぁここまで一掃できるねぇ……」

「ピステル使ってちょっと脅させていただきました」

「おぉいッ!? 聞いてないよ!?」

「爆破とか殺人とかじゃないので安心してください」

「脅せるぐらいのこと言うなよ勝手にッ!」

「うるっさいですねあなたもやるんですから事実みたいなもんでしょう」

「ちげぇッ!」




 元気な律と小雨を誰も気にせず、佚世は道を曲がると少し坂になっている道を歩き、とある古びたホテルの前で止まった。



 佚世が扉に手を当てると、手を中心に扉に光の筋が通った。

 放射線状の光は全体的に渦を巻き始め、黄色から金、銀、最後には濃い濃い桃色に変わった。




「わぁ」

「ファンタジーだなー」

「ここが唯一の正規ルートなんだけど。下にいるってことはどっかに穴開けられたからさ。タイムリミット二時間ね」

「二時間!?」

「新しく穴開けた場所はたぶん塞いでない。塞いでてもここ以外からアクセスするには長い穴掘る必要があるから、律儀にそれを全部埋めたとは考えにくい。んでここも穴空いたから。二時間で崩れるよ」

「佚世さん、ここは……?」



 小雨が聞くと、佚世は一歩中に入った。



 扉の奥は真っ暗な洞窟だったはずが、佚世が入るや、壁に照らされていたランプが一斉に点灯した。



「私の秘密基地第二号。ようこそ、歓迎する」







 佚世は地理はわかっていても誰がどこにいるかはわからないので、睦が視回した。



「……広間にヴィールヒ、研究室にレイがいます」

「ヴィールヒの場所もわかったの?」

酸雨(すいう)さんが純ジュワルパ人だったので」

「あぁ……ちょっと縁があった酸雨ね」

「その酸雨さんです」




 広間にヴィールヒペア、研究室にレイ。研究室近くに(ネイ)がいる。




「…………ルゼスがいません」

「佚世さん、魔法で瞬間移動ってできたりしますか」

「作戦変更ミヤは帝翔ペアとスレッドに送る」

「了解した。問題がなければ戻って待機しておく」

「話が早くて助かるよ」



 佚世は三人を少し離れたところに集めると、地面に手を突いた。



 軽く力を込めれば、三人がズンっと姿を消す。



「わぁ!」

「交通手段いらなくないですかッ」

「瞬間移動が制限なく使えたら世界は秩序どころの話じゃない。力の範囲が及ぶのは本人含めせいぜい四人。……力の範囲外から出た場所はどうなるかもわからないからな」

「そゆこと。だから甘えるな春雨君」



 脳天に手刀を落とされた佚世は半泣きで頭を抱え、その間に睦は皆に連絡を入れる。



 景矢が気付かないのを見ると、既に、かな。



「佚世さん、ふざけてないで早く行きましょう。リミット二時間なんでしょう?」

「はぁい……! 駄女神、私の思考伝達させて」

「グロウって名前があるんだけど」

「だから?」

「……やりました」




 地下の見取り図を伝達させると、それぞれのチームで三手に別れた。














 恋弥はマガジンを抜くと、弾がフルで詰まっているものに替えた。いつも使い終わったあと放置なので使う前に替えるのがルーティンだ。



「あんた何でやるん?」

「俺? 俺素手か妖心」

「……化け猫と同じやつか」

「そそ、その類。俺の妖心殺人特化やから」

「へー便利」

「……便利って言われたんは初めてやわぁ……」

殺人(それ)が生業だからな!」

「トワイライトってマフィアなん? ただの殺人集団?」

「……まー、マフィアはマフィアでジャンルがあるから明確にそうとは言えないけど、そんな感じ。殺すのも手当り次第じゃないし、薬物売買とかやるし。孤児院に支援とかもしてるし」

「おー突然の善行。なんで?」

「元は孤児院始まりだったからさ、孤児院は二個経営して四つぐらい支援してる。その中で成人年齢になっても引き取り手がいなかったり親が逃げた奴はトライトが引き取って育ててる。だからほぼ孤児しかいない」

「へー!」






 二人が和気あいあいと話しているうちに、ふと恋弥が足を止めた。



「ここだって」

「お、じゃやりますか」

「俺ヴィールヒな。お前男の方殺して」

「任せろ」



 二人で扉を蹴り開けると、中にはHgに向かい合っている女性と、女性の後ろにくっ付いている男がいた。



 ブロンドのふわふわした髪の、全体的に薄い色素の女性と、金髪にイケメンの部類に入る男。



「うぇッ……!」



 女の周りには、怨霊らしき何かが大量に取り憑いていた。


 半数が生霊。半数が、死霊の怨霊。




 一体全体、何十人にどう恨まれたらそんな怨霊地獄になるんだよ。




──妖心 トンカラトン──


「殺せ」




 突然背後に現れた錆れた日本刀を持った包帯男が、ヴィールヒの背後にいたルズの背を骨ごと切り裂いた。



 ヴィールヒはそれに動じることなく、崩れ落ちるルズの頭を撫でた。


 途端、怨霊がまた一人増える。




「久しぶり恋弥」

「動くなヴィールヒ」



 発砲した弾丸はヴィールヒの鼻尖寸前で止まり、ヴィールヒは目を丸くした。



「なぁに?」

「答えろ。……十二年前、本部に火を放ったのはお前か?」

「あら、佚世と言われてるはずだけど」

「そうだ。佚世とも佚世を恨んだ下っ端とも、お前とも言われてる。だから聞く。あの日あの時、ボスを薬で殺したのは、本部諸共俺の仲間を殺したのはお前か……!?」




 恋弥の声が怒りで震え、修茶が眉をひそめるのもよそに、ヴィールヒは麗しい顔で笑った。



「そうよ。でも私が殺したかったのは佚世だけなのよ。あの人が浮気するからいけないの。何十回何百回何千回も言ってるのに、あなたも知ってるでしょ? 私がどれだけあの人に傷付けられたか。私がどれだけ愛してもあの人はまるで知らない見えないふりをするの。だから殺そうとした。あそこまでしないと彼が死なないのは、あなたも知ってるでしょう?」

「じゃあ……! じゃあなんで佚世に執着するッ!? あいつはあれで死に損ねたッ! お前はトワイライトから追放された! それで終わりでいいだろ!? 廃教会にも本拠地にも干渉しやがって、睦が陽泰がどれだけ怯えてると思ってるッ!?」

「あなたにはわからないのよ! 私は恋をして、あの人を愛してるだけなのにッ!」

「わかるわけねぇだろッ!? 俺は自分の欲のためにたとえ昔だったとしても今は別れたとしても、仲間は傷付けねぇッ! 仲間が怯えるぐらいならさっさと死んだ方がマシだッ! お前の自己中心的な気色悪ぃ感情なんかわかってたまるかよッ!」




 恋弥の鬼気迫る怒声にヴィールヒが怯えを見せ、恋弥は少し離れた弾丸をさらに近付けた。



「……聞きたかったのはそれだけだ。お前には謝罪させる気も復讐する気もねぇ。せいぜいおとなしく死んで二度と迷惑かけんな」

「恋弥……!」




 恋弥が宙に止まった弾丸でその頭蓋を貫こうとしたとき。




 突然地面が揺れ、恋弥たちがいたところ含め地面が傾き始めた。



「はッ!?」

「タイムリミット二時間やろ!? 三十分も経っとらんのにッ!」

「地面割れてッ……!?」



 恋弥は地割れが迫る中でとりあえず、ヴィールヒの頭蓋を弾丸で貫いた。


 リストがどうとか言っとったけど知らん。あとから浮かんだでいい。




 修茶に手を掴まれ、坂を登って地盤沈下&地割れから必死に逃げた。

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