33.隠し騙し
夕方、佚世が相手の場所を探っていると廃教会の扉が開いた。
疲れた様子のスモッグが現れ、皆が目を丸くする。
スモッグの後ろには、エリオムがいた。
「エリオムさん……!」
「あまりにもストレスフルの環境だから連れてきた」
「ありがとうございます」
小雨が枯梨とミヤとともにエリオムを保護し、奥に連れて行った。
スモッグは陽泰と恋弥を連れ、一度廃教会の外に出ていく。
何かなぁと思って扉を眺めていると、小間の中から佚世が出てきた。
「睦君、これどこかわかる?」
「……視えません。魔法で異能って対処できるんですか?」
「さぁ?」
睦に魔法で浮かび上がった相手の何かを見せたが、無理か。
「対処可能、または睦君と同じ世界の誰かが協力してる可能性がある」
「これ相手のなにかわからないんですか?」
「うーん」
二人で悩んでいると、脳之輔が台所から出てきた。
「どうしたの?」
「睦君が視えなくて。どうやって探そうかなと」
たぶん、外套の端とかそんなんだろうけど、イマイチ手がかりが見えない。
外套であるなら、景矢の敵なんだろうけど。
「景矢君は知らないの?」
「……これでわかるかなー……」
「なんか、魔法ならこっちから解除……みたいな、できないんですか?」
「やってみようか」
あぁできるのね。
相変わらずの無双佚世に苦笑いしながら、また新しく魔法を描き始める手元を覗き込んだ。
悩むことなくさらさら描いているが、前に説明してもらった限りこのスピードで描けていいものじゃないんだよなぁ。
「……どーだ!」
「ぼんやりと、なら……?」
誰だろうか。人で、見えていたのは外套の切れ端。
「……あ」
「どったの?」
「ここガンランですね。シャンユーの時計台が視えます」
「もしや島だったりする?」
「シャンユーの時計台が島だからねぇ」
「ふーんなるほどね! おっけーわかった居場所特定完了ッ!」
「え?」
「いきなり元気になったね」
「小雨くーん移動手段用意してー」
「どこですか」
「時計台あるとこだって」
「時計台って、中央? シャンユーですか?」
「中央なら歩いて行けるわ」
小雨が部下に連絡して、ガンランまではライムが送ってくれるらしいので、睦たちも問題なく動けるようになったし移動に調整はいらなさそう。
双方今日の夜には動けるらしいので、また世界を越えられる前に動いてしまおうということで移動は今夜になった。
「恋弥たちにも伝えようか」
「エリオムさんどうするんですか?」
「私の部下が迎えに来るので心配ありません。それよりも、目的である景矢さんや非戦闘員の枯梨さんはどうするんですか?」
「エリオムさんと一緒に匿っといてください。響皐月と雨豪さんも」
「え!? なんで!? 俺も行く!」
「誰が何があるかわからないから危ないんだよ」
「俺も戦えるのに!」
響皐月が睦にすがりついて、雨豪が離そうとしていると、睦の後ろから佚世が顔を出した。
「ちなみに死の女神代理が同世界にいるから君の死の能力は今失効してるよ。リストもない体術もできないのに自衛もできないでしょ」
「リーパーある!」
「動けないのに意味ないよ。おとなしく待ってなさい」
「睦!」
「今回はほんとに危ないんだよ。意地悪で言ってるんじゃないから」
「響皐月、睦の言う通りだ。敵の力量もわからないのに守れるとは言いきれない」
「雨豪さんと待ってて」
ほんとに駄目だとわかったのか、涙を堪えたまま頷いた。それでも部屋に逃げていき、雨豪はそれを追いかけた。
佚世は睦を覗き込む。
「なんで邪魔って言わないの?」
「佚世さん俺が戦場について行くって駄々こねたら邪魔って言います?」
「言わない。連れても行かない」
「それと同じです」
「好きだから?」
「そんな感じ」
佚世は睦の頭を殴ると、上に上がって行った。
睦は混乱して頭を抱える。なんで殴られたんだろう。
管理人に頭を撫でられながら、謝った方がいいのかなと悩んでいると廃教会の扉が開いた。
刀を抜いた陽泰と、スモッグを引きずった恋弥が戻ってくる。
それを見て、ミヤは景矢とエリオムを奥に移動させた。
「陽泰、どうしたの?」
「佚世さんは?」
「二階にいるけど」
睦が呼ぼうかと聞くと、陽泰は首を横に振った。
刀を収めながら、声を潜める。
「ヴィールヒに戻ったことを勘付かれた」
「力的な?」
「わからない。ただ佚世さんがいるのに確信を持ってたから」
「わかった。……三人の話は聞いてもいいやつ?」
「イノンダイが傘下に下った」
「わぉ」
「詳細はあとで話す。先にスモッグの手当て頼む」
「脳之輔さーん、中度急患でーす」
「はーい」
睦はスモッグを脳之輔に頼むと、二階に上がった。
「佚世さん」
「どうしたー」
「Hgちょっと見せてください」
「お? 何?」
「少し確認を」
パソコンがスレッドにあるので、取りに行くのも面倒だしタブレットで。
一階に戻って、Hgとタブレットを繋げる。
鍵や連絡先等、ウイルスの感染経路となるものは全て切ったつもりだったが、どうやら相手の方が一枚上手だったらしい。
「これ全世界のホロに不法アクセスしてますね」
「規模で頭がバグるんだけども」
「それ私関係ある話じゃないですか?」
「だいぶん」
小雨も寄ってきて、睦とともにHgを眺める。
「全世界の各ホロにアクセスして写真と動画をシステムフィルターにかけて所有者と使用者特定してます。……それを防御したのを逆手に取られました」
「アクセスできないから、という?」
「もー……」
こんぐらい防ぐアプリなんか何十個あってもいいだろうに、なんで機械は発達してんのに防御システムはこんなクソなんだ。
「どうすんの?」
「来たってことは居場所も完全に特定されてるし。ちょっといじってどっかに逃げたように位置情報動かす」
「誘き出した先で捕まえますか」
「それはやめた方がいい。全員の首に起爆装置があった。情報吐く前に殺すのもそうだろうが、相当威力の強いものだ。こちら側も巻き添えを食らう」
「陽泰顔面真っ青だけど大丈夫?」
ぶんぶんと首を縦に振るので余計心配になり、とりあえず恋弥に屋根裏に連れて行ってもらった。
「……大丈夫なの?」
「大丈夫だと思います。佚世さんがいるから緊張してるんでしょう」
「あの子も緊張しいでストレス抱えやすいからね。悲観的だし」
「最近は頑張ってますしちょっと自信もついてきてるの大丈夫だと思いますよ。恋弥がぶっ倒れてからは余計に頼もしくなってますし」
睦は相手に気付かれないように位置情報をバグらせて、数十分後から移動するように設定した。下手したら法に触れるかもしれないけど、まぁ参界者と神迎のトップが金の世代として真横にいるので。
「これで位置情報が完全に特定されることはないはずです」
「よかったー! また首吊る寸前になるとこだった!」
「あれはほんとに冗談でもやめてくださいッ!」
「あのときは冗談じゃなかったんだよ」
「知ってますけど。俺には手術台に乗るなって言うくせに自分は精神病患者になるんですから」
「だって君乗るじゃん!? 乗ったじゃん!? 私いなかったらどうせ死ぬじゃん!?」
「ほんっとに申し訳ないと思っております。佚世さんがいなくなってからは乗ってません」
「信用なんねぇよ」
「先生がいたら安心するんですよ」
「私のそばには世界一の精神科医がいるからさ」
「ごめんなさいもうやりません」
「やったら私首吊るからね」
「はい」
屋根裏に行くと、座った陽泰のそばで恋弥が眠っていた。
茶トラが座って、睦が来ると歩いて寄ってくる。
「よしよし」
「話終わったか?」
「うん。できる限りの対処はしといたからたぶん即特定されるってことはないと思う」
「ならよかった」
「それと今夜立つって。律さんと小雨さんが足用意してくれたから」
「わかった。…………これどうする?」
「もちろん連れてくけど」
恋弥を指さし睦を見上げた陽泰に呆れていると、恋弥が陽泰の指さした指を掴んだ。
陽泰の顔が瞬間青くなって、寝落ちかけていた恋弥は陽泰に襲いかかる。仲良さそうで何よりだ。
「恋弥さんストップ……!」
「何がこれだ俺はものじゃねぇ」
「寝てるかと思ったんです……!」
「いっつも寝てる間にモノ扱いしてるってことかなるほどな」
「睦助けてッ!」
「恋弥寝てなくていいの?」
「寝るならこいつ絞める」
「だいぶんご立腹だ。素直に謝りなさい」
「すみませんでしたッ……!」
陽泰を襲う恋弥を一線を越えないよう止めながらも面倒臭くなっていると、部屋の扉が開いた。
「睦さん? 管理人が呼んでるんですが……」
「はーい、すぐ行く」
「大丈夫ですか……?」
「うん、一種の愛情表現みたいなもん」
「ずいぶん歪んでますね……?」




