31.血の兄弟
小雨に呼び出され、小間の中の椅子に座った。
「なぁに」
「睦さんのことで話があります」
「スレッドやめるって話?」
「…………それはご本人とやってください。話したいのは睦さんの記憶についてです」
「記憶?」
作業をしていた佚世は手を止め、小雨の方に向き直った。
「彼、記憶喪失だそうです」
「は?」
「先月末、一人の参界者が見つかりました。偶然なのか神のイタズラなのかはどうでもいいんですが、睦さんの幼馴染の方。写真に写っていた和装の女性です」
たしか、恋弥が元カノかと聞いた女の子がどの写真も浴衣や袴だった気がする。たまにドレスワンピもあったけど、基本和装だったような。
「その方に、ずっと聞けなかった睦さんの参界前の話を聞きました」
「それが記憶喪失って話?」
「睦さん、ご兄弟がいたそうです。お兄さんと弟さん」
一人っ子じゃなかったの。
「睦さんが九歳の時、お兄さんが十二歳で弟さんが六歳の時、睦さんを除いて亡くなって」
「そのショックで記憶喪失ってこと」
「はい。……当時担当していた医者が、相当な拒絶反応のせいだからあまり写真や思い出は見せない方がいいと判断したそうです。その時から、自殺に興味を示し始めたそうで」
「……なるほどね」
睦の時折見せる謎の異常性は、小さい頃に人格が歪んだせいだったのか。普通の人間は人殺せって言われてわかりましたとはならん。恋弥でさえ、陽泰でさえ初めは怯えて大泣きだったのに。
幼い頃に人の死、兄弟の死に直面し、そのショックで記憶を封印し、死を知ったが故に死に興味を持ち始め。
自殺をする躊躇いもなく、親が死んでも絶望に浸ることなく、迷わず自殺できた。
歪んだ人格の裏には普通じゃ有り得ない家族死があったってことか。
「睦さんが誰かわからないと言っていたあの二人が睦さんのご兄弟です」
「…………まぁ今は特に変わった様子もないし、恋弥と陽泰と擬似兄弟やって楽しそうだし。真ん中っ子ってのに変わりはないし私はなんも動かないよ? そう言う精神障害とか心の傷とかは睦君の領域だから私専門外だし」
「それはわかっていますが、一応知らせておこうと思いまして。睦さんが参界前の世界の話、キョウカイマの話を拒絶するのは、キョウカイマに家族を全員殺されたからだと頭の片隅に置いといてください」
鏡界魔ねぇ。
初めは、ヴァイオレットが物語のために勝手に創り出した力だっけ。死の変換だからそうだよね。
あんまり刺激したくない二人を会わせることになりそう。
「お知らせご苦労さま。……政府に参界者がいるのにここにいて大丈夫なの?」
「部下が優秀でして」
「特殊部部隊長に取られないようにね」
「部下がものすごく優秀でして」
「そりゃ安心だ」




