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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
113/124

30.口が達者で

 目を覚ますや、陽泰が発狂する声が聞こえて心臓が縮まった。



 起き上がるとめまいでよろめくのを、佚世が支えてくれる。




「水飲める?」

「ありがとうございます……」

「ちょっとやつれたね」

「食べたら回復しますよ」

「先生がご飯作ってくれてるから」




 恋弥も目を覚まし、こっちも元気に叫んだ。










 風呂から出て、サンドイッチをかじりながら発狂が消えない部屋に行くと、部屋の中には負のオーラが漂っていた。




「陽泰」



 机に突っ伏して頭を抱え、発狂している陽泰に声をかけると、陽泰はハッと顔を上げた。


 半泣きのまま、睦に飛びつく。




「もー無理ッ! 無理ッ! 無理できないやりたくない! 嫌だァッ!」

「おぉ落ち着いて落ち着いて」



 クールキャラ崩壊もいいところに大泣きする陽泰の背を叩いて落ち着かせ、その間にサンドイッチを食べ終わった。脳之輔の手料理はなんでも美味しい。





 五分ほどして泣き止んだ陽泰が意地でも睦から離れんとしていると、同じくサンドイッチをかじった佚世がやってきた。



「すごい声してるけど大丈夫ー?」

「わちょっ……!」



 陽泰が睦を盾にして佚世から隠れ、佚世は睦の後ろに引っ込んだ陽泰を覗いた。

 睦の服を掴んで、怯えてんのか泣いてんのか。まぁいいや。




「管理人そんな筋悪いの?」

「感覚論に対して理論を求められるので俺の頭じゃ無理ですすみませんごめんなさい」

「ただの屁理屈野郎だな」




 佚世は中に入ると机に座って、ふて寝している管理人の腕をつねった。



「ちょっとうちの弟子泣かせんのやめてください」

「感覚論で喋られても感覚なんて一人一人違うじゃん」

「睦君に脅され負けて拗ねてるんですか?」

「そんなんじゃない」

「佚世さん、俺やりましょうか」

「んーいいや。私がやる」



 佚世が立ち上がりながらそう言うと、管理人がビクッと震えた。



「一応世界創ってる神様の初代だからさ。世界の理も秩序も仕組みも全部知ってるからさ」

「それ教えて大丈夫なやつですか?」

「うん。どうせ死の女神の管轄下だしちょちょっといじったら人にも喋れないだろうし、ここには心と思と考と伝承の神が揃ってるからね」

「じゃあ美味しいケーキでも作って待ってますね!」

「スイカも食べていいよ〜」






 てことで暇なのでケーキを作る。



 準備している間にスイカも切った。夏じゃないんだけどさ、あるんだよ。ビニールハウス上位互換があるから。夏も冬も季節外のフルーツの値段変わらんのよ。





 スイカってどう切るのが正解なんだろう。なんか、たしかいい感じの切り方あったよね。維管束がどうたらとか。




 朧気な記憶を辿りながら切ると、なんかよく見る形に切れたので良しとする。大きいか。





「スイカ切れたよー」

「ケーキじゃなかったんかい」

「ケーキは今から。子供たちも呼んできて」

「おう」



 陽泰がふらっと小間(ブース)の中に入っていったので、恋弥はスレッド部屋にいる皆を呼んだ。




 ミヤも起きていて、久しぶりのスイカに喜ぶ反面この季節のスイカにうんざりする。夏に食わせろって言いたいんでしょ、わかるよ。





「陽泰さんは? すごい発狂してましたけど」

「メンタル回復中。そもそも目上の人にド緊張する奴が頼れる人間に頼れない中で目上のしかも下手したら戦争に勃発しかねないド下手くそ相手に教えて音を上げた状態だから」

「で、今は……?」

「佚世が一対一(マンツーマン)で教えてる。屁理屈で弟子泣かせんなってブチギレてたから」



 小雨と律の心臓がヒュッと締まって、二人はそっと顔を逸らした。



 恋弥は首を傾げる。




 この子らはあれだな、佚世の『一対一(マンツーマン)レッスン』の恐怖を知らないんだな。




「……あ、む、睦さんは……?」

「台所でケーキ作ってる」

「オールラウンダーすぎません? 甘いもの食べないでしょう?」

「佚世が甘いもん好きだからさ!」

「オールラウンダーすぎません……?」

「今に始まったことじゃねぇ」







 三十分ほどすると甘い匂いが漂ってきて、それに釣られるように佚世が降りてきた。



「むつくーん」

「台所」

「いないじゃん」

「人の話を聞け」

「私のセリフを取らないでくれるかな」



 佚世が台所の扉を開けると、佚世が入る前に茶トラ猫が突っ込んだ。



「わぁっ!? ねッぎゃぁッ!?」




 睦のそんな叫び声が聞こえ、子供たちと小雨は普段聞かない睦の大声に心配する。が、恋弥はけらけらと笑った。どうせ猫とともに佚世が飛び付いたか猫がなんかやらかしたかのなんかだろうな。わりとあるある。




 睦の顔写真とともに情けない声集とか出したら売れるんだろうか。顔だけで売れそう。




 なんて妄想をしていると、睦が台所から出てきた。背後に佚世を引きずって、茶トラを抱っこして。




「恋弥ヘルプ……」

「世話してやれ」

「せめて猫を……」

「来い猫」



 恋弥が呼ぶと、猫は睦の腕から抜け出し机を数歩歩いて恋弥の腕に飛び込んだ。のを捕まえ、陽泰のいる小間(ブース)へ連れていく。



「陽泰ねこー」

「ね……うわッ!?」

「なはは!」



 陽泰の呻く声を無視して恋弥が出てきたので、睦が代わりに助けに行った。






 睦に置いていかれた佚世は恋弥の向かいに座り、恋弥が食べようと持ったままよそ見をしていたスイカを貰う。



「あ!?」

「あ、これ美味しいね」

「皿の取れよッ!」

「遠いんだもぉん」

「人のを取るな行儀悪ぃな」



 恋弥がもう一個取ったスイカを食っていると、茶トラを持った睦が戻ってきた。



 スイカを一個取って、床にしゃがむとスイカの先を少し取り茶トラにあげる。



 それを、茶トラは上機嫌に食べた。



「……花火見たいなぁ」

「どちらかと言うとこたつの季節になりつつあると思うが」

「スイカと言えば花火じゃない?」

「作れば?」

「さすがに花火作れる技術は持ってねぇわ〜」


 修茶は苦笑いして、睦とミヤでスマホをいじる。




「……一昨年のでよかったらあるが」

「おー。さすが花のJC(女子中学生)

「黙れおっさん」

「口裂くぞ」



 皆がスマホの周りに集まり、動画を眺める。



 小雨と子供たちが一番魅入ってる。



「すご。これ上がってるんだよね?」

「そう。ここは山から海で上がってるのを見てたから綺麗に色が出てる」

「どこの花火大会?」

「これは……東京夜会花火の会」

「知らねー」

「俺も知らんわ。どこであるん?」

「えーっと」



 睦は自分のスマホを探すが、花火とか景色とか撮るたちじゃなかったからなぁ。






 探していると、恋弥がグイッと覗き込んできた。



「元カノ?」

「幼馴染」

「元カノの写真は?」

「女にも男にも興味なかったからなぁ。あって母親とか?」

「あのクソ美人のな」

「それ見せて」



 佚世がこっちに来たので、三人で花火チームから離れ母の写真を探した。




「これとか」

「びじーん!」


 つーかヴァイオレットと同じ顔じゃん。睦君あれか、ヴァイオレットの力の欠片の子供か。そりゃ、こんだけ顔も良くなるわ。



「あれ見せてあれ、睦の」

「えー」

「何?」

「消しました」

「絶対残ってる」



 恋弥がスマホを奪い、睦が取り返そうと奮闘していると陽泰が出てきた。



 睦と恋弥の間からスマホを覗く。


「睦、これ誰?」



 睦とともに写っている男二人。一人は睦より上で、一人は下だろうか。二人とも目は黒いが、歳上っぽい男は髪が赤みがかって見える。


 なんか、睦に雰囲気的に似ているような気もしなくもないような。




 陽泰が指さすと、睦は首を傾げた。



「わかんないんだよねー。親戚が多かったから親戚の子か、母親の元同僚の子供の可能性も無きにしも非ずってかんじ」

「ここからは睦が写ってる写真多いな」

「この辺りは誰かのスマホのデータ入れたんじゃないかな? これとか俺スマホ持ってるし」

「お前ずっとゲームしてんじゃん」

「一応プロのゲーマーやってたんでね」

「明らかやってねぇ歳からやってんだろ」

「プロゲーマーになるぐらいなんだからちっさい頃からやってるに決まってるでしょ」




 なんて話していると、睦が見ていないことに気付いたミヤが声をかけた。



「おい言い出しっぺがどっか行ってどうする」

「花火の写真なかったー」

「もう消すぞ」

「あざましたー」














 ケーキができて、佚世と恋弥と陽泰はそれを食べる。

 佚世は、ずっと何か描いてるけど。




「……あ、できたかも」

「……これ使うんですか?」

「もうちょっと簡略化するけどね」


 黒すぎて何描いてるかまるでわかりませんけど。





 簡略化するのはものの五分ほどで終わり、佚世はそれを睦に見せる。



「景矢に使わせるんですか?」

「ううん、龍の魔力に反応するように作ったから使うだけで参界者がどこにいるかわかる。私でもできる代物」

「頼ったらいいのに」

「景矢君に相手との何かしらの繋がりがない限り逆探知って難しいからねぇ。これなら簡易的でいいでしょ?」

「じゃああとは俺の活動時間ですね」

「俺もだろうが」

「お前は役に立たん」

「あぁ!?」




 仲睦まじい兄弟喧嘩はおいといて、佚世は二階に移動した。



 部屋の中を見ると、未だ管理人が突っ伏して動いていない。




「管理人」



 佚世が呼ぶと、管理人がビクッと震えた。


「……はい」

「わかりましたよね? また説明しましょうか?」

「もういいです……!」

「じゃあまた感覚論講座受けますか?」

「いいです。頑張ってみます」

「実りのない努力は無駄と言ったのは管理人ですからね」

「はい……」




 佚世が下に戻ると、瞬間の間に帝翔と貝寄が増えていた。


 貝寄はミヤと談笑し、帝翔は佚世のケーキを当たり前のように食べている。




「あ、管理人どうだったー?」

「ねぇそれ誰のかわかって食べてるよね」

「美味しいねぇ」

「きっしょ」

「佚世さん、もう一つ切ってきました」

「ありがとー」




 佚世はその八等分に切られたケーキを三口で食べると小間(ブース)の中に入っていき、佚世の大口を初めて見る人は目を丸くした。



「あいつの詰め込み癖は直んねぇな」

「まだマシになった方じゃない? りんご四等分を一口で食べないだけマシだと思う」

「スイカの早食いさせようぜ」

「遊ぶな」

「お前も口でかいよなぁ陽泰」

「詰め込めますけど佚世さんほどじゃないです」

「陽泰は喉開けるんだよね。いちご丸呑みした時はびっくりしたよ」

「死ぬぞ!?」

「生きてます」



 後輩の知らぬ間の奇行に引いていると、佚世が出てきた。



 自分の席に座っていた帝翔を掴んでそこら辺に捨てて、睦に何かを渡す。



「はい薬。持ってなさい」

「ありがとうございます。使用期限切れてたので助かります」

「ちょっと成分いじったからまた使った時の感想教えて」

「はい」



 恋弥と陽泰にも小さいものを渡しておく。

 昔は佚世と脳之輔が持ってたんだけど、今は恋弥と陽泰といる時間も長いので。




「今日管理人に徹夜させて明日には起きとけるようになる予定だから」

「今さらだけどさ」

「ん?」

「管理人が練習してる間は別に能力いらなくねって」

「魂の種類をんなコロコロ変えれてたまるかよ。神の力も限界がある」

「佚世さんがやらない道にはそれなりに理由があるんだぞ」

「お前は佚世信者すぎる」

「神を崇めて何が悪い」

「無神論者つって豪語してただろうが」

「豪語はしてねぇ断じてねぇ」

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