27.神の力
女神たちは来ないのかなと思ったら、先に敵側に行って素行調査しておくとのことだった。
ライムの運転で、スイハに向かう。
佚世は睦のHgをいじる。
恋弥が持っていた佚世のはストーカーに完全マークされていて、睦が最新機種をくれた。
ただ、データを移すのに古い機種にいるウイルスや監視カメラが最新についてくるとまた面倒臭いので、睦が書いた手順書を頼りに修茶が移しといてくれるらしい。
自分でやると言いたかったのだが、行動組の自分にできる量ではなかったので。
連絡手段がないと困るので、佚世は睦のを借りてきた。詐欺も屁理屈もなしに許可は貰ってますから。
「ね〜佚世くん」
「ほら写真撮るよ」
「いぇーい」
膝に寝転がった律の写真を撮り、自分のHgに送ると、すぐに既読が付いた。
数分して、一言返信が。
『楽しそうで良かったです』
祉夏に見せたんだろうな。父親の奇行を広い心で受け入れているのか諦めているのか、面白すぎる。
律に見せて、笑い転げて、律に襲われそうになるのを小雨が律を蹴り飛ばす。
「狭いんですからじっとしといてください」
「俺悪くないよね!?」
「あなた以外に悪い人います?」
管理人がいるスイハ本館に着くと、玄関では雨々驟と誰かもう一人が待っていた。
皆が車から降りると、途端雨々驟が後ろに倒れるのを横にいた女性が支えた。
「ようこそスイハへ。管理人からお話は伺っています。中へどうぞ」
「新入り?」
「専務として一昨日雇われ昨日から入りました、凪と申します。以後お見知りおきを」
とてもパキパキした喋り方で挨拶をして頭を下げると、踵を返して雨々驟を引きずりながら中に入った。相当緊張しているのかただの変人か、手と足を出すテンポがおかしい。
エレベーターで十二階まで上がると、開いたエレベーターの先には新人専務と瓜二つの女性が立っていた。
同じ髪型で同じ顔で同じ服で、一瞬瞬間移動かと思った。双子ね。
「遠路はるばるお疲れ様です。管理人の元へご案内いたします」
凪に引きずられていた雨々驟が起きて、エレベーターの扉を支えた。
佚世と陽泰がいるせいでとても機嫌がいいかつ、佚世が動き出すほどの重大事に二人が粗相をしないかものすごく睨んでくるのが怖い。
「雨々驟さんまだ卒倒癖抜けないの?」
「今日は佚世さんと陽泰さんが並んだせいで死ぬかと思いました。ここに睦さんが加われば死んでいました。私心臓発作になったら睦さんに診てもらうのが夢なんです」
「医者として言うけどその夢捨てた方がいいよ」
「……佚世さんさらにイケメンになってませんか?」
「皆に言われるけど俺数年も経てばもうちょっとイケメンになるからね?」
「……あ鼻血」
佚世は慌てて口と鼻を押さえた雨々驟を鼻で笑い、陽泰は引きつらせた。
佚世がこちらを見たので、サッと視線を逸らす。
「なんだい陽泰君」
「雨々驟さん大丈夫ですか」
「やめてください脳の血管が破裂します」
「えー……」
「やめてください結膜下出血してしまう」
「血管もろくない?」
「血圧が高いと言ってください」
「もいいよ」
雨々驟はティッシュで鼻を押さえたまま、管理人の部屋にノックをした。
扉を開けるや、管理人は呆れてか肘を突いて額を押さえた。
「なにやってんの雨々驟……」
「殴られました」
「お久しぶりで〜す管理人」
「……佚世君縮んでない?」
「もう数年もすればもうちょっと身長高くなってイケメンになる予定です。というかなりますので」
雨々驟はこれだと興奮しながら指をさし、原因がわかった管理人が頭を抱えた。こりゃ鼻血も出すし失神もするわ。
「……あれ今日睦君……」
管理人が口を開いた時、隣の部屋と繋がる扉が開いた。
疓憝と俰盤が顔を出し、俰盤は一番客人の方を見る。
「イケメン!」
「二人とも出てこないで」
「俰盤だめだよ……!」
「睦さんいないね」
「睦君は今日はお休みだよ」
「佚世さんお久しぶりです」
「覚えてるの?」
「会ったのは知ってる!」
俰盤が部屋から走って出てしまい、怒られるのが怖い疓憝は雨々驟の後ろに隠れた。
管理人は額を押さえ、雨々驟に疓憝だけ連れて行くよう指示する。
「サインください」
「サイン?」
「イケメンのサイン集めるのが趣味なの。睦さんと陽泰さんも貰った。恋弥さんももらったよ」
「……帝翔君のないね。管理人のも」
「うんいらない」
「俰盤」
管理人に呼ばれた俰盤はビクッとして、ハッとするとすぐに佚世の後ろに逃げた。
「睦さんが恋弥さんが佚世さんが帝翔が貝寄がって家でもぶつぶつギーギー言って私が聞いたら怒ってお母さんに離婚されそうになったくせに怒らないで」
「俰盤……!」
「俰盤ちゃん八歳だっけ、面白いこと知ってるね」
「昨日のことだよ」
「だから今日来たの?」
「睦さんに会えるかなと思って。いないの?」
「わー泣かないで。睦君今ちょっと体調崩してるんだよ」
「また?」
「また?」
しゃがんで俰盤に視線を合わせた佚世は俰盤のその言葉に目を丸くし、思わず少しトーンの下がった声で聞き返してしまった。
それでも俰盤は怯えることなく、自分の目に浮かんだ涙をゴシゴシと拭う。
「ここに来てた先週もずっと熱だったり吐いたり倒れたりしてたの、まだ治ってないの?」
「まだ治ってないのかなー? でも熱もないし吐いてないから大丈夫だよ。心配してたの伝えとくね」
「うん。……サイン描いてください」
「どんなのがいい?」
佚世は俰盤にサインを描くと、それを渡して頭を撫でた。
抱き上げると、俰盤は管理人にべーっと舌を出す。やめてやれ、既に瀕死。
「……陽泰、睦君そんな不調だったの?」
「イノンダイで一悶着あって、それが思った方向に行かずに長引いたせいで能力フル活用だったんです。……あと、たぶん多くはストレスで……」
「聞いてないなー」
「恋弥さんに、もっと頼れって言われて頑張るって言ってたぐらいですから……」
佚世が後ろにいる律と小雨を睨むと、二人は死ぬ気で目を逸らした。顔面真っ青。
「佚世さん降ろして。枯梨ちゃん」
「ど、どうしたの……? 久しぶりだねぇ」
「久しぶり。ねぇ睦さん大丈夫? ミヤちゃんも」
「大丈夫だよ。二人ともわりと元気そうだからね」
枯梨が雨々驟に連れられて隣室に連れていってくれたので、管理人はふらふらと席に戻った。とっても体調悪そうだわ。
「管理人大丈夫ですか?」
「うーん……ここ数日処理落ち的なことが連発してまともに思考が回ってなくて」
「多忙?」
「だとは思うけど。何故か知らないけど政府のお偉いさんがいるから詳しくは言えないけどさ」
「そ。じゃ仕方ない。早速降ろしましょ。空き部屋あります?」
こいつこれ狙って小雨連れてきたのか。
策士にもほどがあるってか、人の心理言動読むの上手すぎるだろッ。
空き部屋で二人で、佚世は管理人を中央ちょっと右に立たせた。見た目ただの石の神石を中央ちょっと左の管理人の隣に置く。
「なにするの……」
「まぁまぁ身を任せてください」
本来なら一方通行の転移の印を魔改造して両通行にして、本来なら紙に描く魔法印をちょこっといじって空中に描いて、時短でその間に祈りを唱える。
なんで元とはいえ五大神の一角であったかつ信仰対象は龍の自分が自分より下のランクの信仰すらしてない神様を降ろすのに祈らなければならないんだろう。まぁいいけどさ。
『窮地に立ちし我らに偉大なる叡智と恩恵に溢れし慈悲の手を』
ゾッと背筋を突き抜ける圧とともに魔法印が反応し、管理人が失神し倒れた。
両通行だったおかげで管理人の魂の色に神石も染まったし、うん、成功。
「はるさめー!? はるさめ手伝ってー! 手伝え管理人の無駄話止めるためだけに選ばれたやつーッ!」
「あなたのその無礼講、弟子たちにもそっくりそのまま伝染ってますよ」
「うちの弟子たち頭いいからッ!」
「その頭が消し飛ばないことを願いましょうね」
小雨は雨々驟に管理人が仮眠を取る部屋に案内してもらい、佚世は管理人の面を拾い上げた。
対の神の力で、自身と面を対にして付けていたのか。紐もシールもないと思ったら。
「佚世様、お茶が入りました」
「はーい」




