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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
109/124

26.赤いベロア生地の箱

 二組に別れたが、それは管理人の元まで辿り着いたらの話。まず、天獄(てんごく)に借りにいかなければならないものがある。




 陽泰は衝突寸前だし佚世が帰ってきたこと知らないし、ピステルの社長とスイハの重役と神迎の頭をぶつけるわけにもいかないので、ここは睦と恋弥が上手く挟まりながら。





「……どう?」

「大丈夫だと思う」


 恋弥に三つ編みにしてもらった睦は軽く確認をして、頷いた。





 眠る場所を屋根裏に変えたので、今は二人だけ。脳之輔は消えて、佚世は準備中なので。




「佚世が過剰に心配するのもわかってやれよ。そんだけお前がおかしくなってる」

「心配かけないようにしたいのに」

「子供たちがいないところではまだ雪でいろ。……本来過ごす時間がなくなったんだから、年齢も時間も関係なしにあいつを安心させてやれ。あいつ寂しがりだから」

「……がんばる」

「おう」






 そういえば外套(マント)佚世に渡したまんまだなぁと思いながら下に降りると、下では佚世が重なって倒れた律と帝翔の上に足を組んで座っていた。小雨は蜃を膝に座らせ髪を梳いている。



「あ、準備できた?」

「はい……えと」

「屋根裏に行こうとしてたからさ」

「きっしょ」

「佚世さん、俺の外套(マント)って……」

「あぁ! ごめんねまだできてないんだ」

「あそうなんですね」



 恋弥の通りすがりの一言にもがいていた律と帝翔が撃沈し、祉夏が焦るのも気にせず佚世は立ち上がった。



「代わりと言ってはなんだけどもこれ貸すよ」

「えいや、ないならないで……」

「君ものすごく危ないことを多々してきたと密告が五件ぐらいあったから付けろ」

「ハイ」



 佚世に貰った紺色の外套(マント)をまとうと、小さいかなと思っていた外套(マント)は足首下まで伸びていた。



「あれ」

「サイズ調整入ってるから恋弥が着たら恋弥サイズになるよ」

「誰がチビだッ!?」

「だまれー?……間に合わないなと思って急遽そっちに基礎の防御は入れたから、銃弾も通さないからね」

「あれの進化版ですね!」

「そんな感じ。……色がよければそれあげるよ。忙しくなりそうだし睦君の外套(マント)できるまで使って」

「ありがとうございます……!」



 睦が喜んでいると、恋弥が走ってきた。


 睦に横から飛び付いて、睦は慌ててそれを受け取める。前に、恋弥は睦を突き飛ばした。



「お前よくんなもん羽織れるな。俺一回着たけど無理だ」

「当たり前のように突き飛ばさないでほしい……」

「睦君の着たの?」

「うん」

「サイズが合わなかったんじゃない!」



 恋弥が佚世を引きずり回していると、陽泰とスモッグがやってきた。



「……あ、外套(マント)変わってる」

「また佚世さんに貰った」

「なんでもいいけど。俺ボスのところ行って大丈夫?」

「うん、エリオムさんとの話も軽く触れられたら根回しできるしいいんじゃない? あれからちょっとは連絡してるんでしょ?」

「あぁ。この多忙でしばらくエリオム様に見せるとかはできそうにないが」

「まぁそれは落ち着いてからだね。俺も恋弥もいるし大丈夫だよ」

「ならいいけど……」



 睦に撫でられた陽泰は少し安心した。



 遊んでいる恋弥に声をかけると、トワイライト本部に向かった。














 廃教会からトワイライト本部は歩いて十分もかからない。逆に車だと路地を通れないので、遠回りになったりする。




 刀を持った陽泰と久しぶりに外に出れて上機嫌な恋弥を先頭に、五人で少し早めのスピードで本部に向かった。







 階段の前で止まり、睦は恋弥を見る。



「何階?」

「十一」

「エレベーターで上がっといてください」

「元気だねー。がんばれ」







 十一階で合流して、ケロッとしている睦と恋弥に陽泰はドン引く。



「化け物……」

「俺は異能だからさ。真の化け物はこいつ」

「あ? 体力付けろ軟弱者」

「せめて息切れしてください」

「正しい呼吸を!」

「行くよー」



 スモッグが恋弥を引きずっていき、五人で天獄の待つ客間に行った。





「ボス来ましたよー」

「はーい」



 恋弥が声をかけて扉を開けると、中には天獄が本を読んで待っていた。


 恋弥と睦に手を振り、笑顔で陽泰を睨む。



「エリオム様いないんですか?」

「部屋にいるよ」

「ふーん」



 恋弥が佚世を見上げると、佚世は中に入った。



 天獄が本を落として、固まる。




「イケメンッ……! 並んでッ……!」

「よかったねぇ睦君」

「俺ですか」

「私の顔面偏差値が限界突破してるのは周知の事実でしょ?」

「それはそうですが」

「まーとりあえず座ろ」



 恋弥が睦と佚世をソファに座らせ、陽泰とスモッグは扉のそばに、恋弥はソファの後ろに立った。



「撮っていい?」

「話を進めたあとでなら」

「なんか借りたいものがあるとか」

神石(みせき)を借りたくて」



 天獄の動きが一瞬鈍り、それを佚世と睦は見逃さなかった。

 のを自覚した天獄は誤魔化すのを諦め、ため息をつく。



「どこで仕入れた知識なんだか」

「死の女神からですよ」

「わーお。ほんとに?」

「神話語りましょうか?」

「いらない。……まさか実在するとは。いや実在はわかってたんだけど……ほんとにぃ……ねぇ?」

「ねぇ……?」

「……佚世君、雰囲気変わったね?」

「数回しか会ってないのによくおわかりで」

「あれ若返ってない?」

「よくおわかりで」

「おかしくない!?」

「時の女神のお力と言っときます」


 事実時の女神の力でここまで成長しましたので。



「えー佚世君も参界者なの……」

「ここの世界の人間ではありませんが自殺志願者ではありませんので」

「あれ?」

「まぁそんなことはどうでもいいんです。神石(みせき)を貸してください」

「何に使うの?」

「対の神を作るのに」

「聞こうか」




 対の神の在り方から、現在対の神が死んでいること、その片割れが見つかったこと。片割れに、神の力を下ろして本体を作ること。


 それが管理人というのはナチュラルに隠して、説明した。




「……なるほどね」

「ということで貸して頂きたいんです」

「それ、片割れが本体になったら片割れ二体目は誰にするの?」

「その場にいる役なしか神石に」

「できるの?」

「対の神たちが対の理由は魂が共鳴しているまたは片割れでセットになっているからです。んで今うちには魂の女神がいます。ついでに先代時の女神と次代死の神がいます」

「ちょっと怖いこと言わないでよ」

「口が滑りました」






 この当たりの話は睦もよくわからないので、深くは考えない。たぶん宗教論的な話なんだろうな。






 神がどうたら神石がどうたら神話が女神がと話してから、天獄は頬杖を突いて黙り込んだ。




 恋弥が睦を見下ろす。



「わかる?」

「全然」

「この辺りは放置でいいよ」

「なんでボスと世界違うのにわかんの?」

「知識としてねぇ」




 天獄が顔を上げ、恋弥を見上げた。


 首を傾げる恋弥を見て、少し目を細め、また頬杖をついてため息を零す。皆お疲れだ。




「降ろした場合元の神石の力は消えるんでしょ?」

「その神石の力にもよりますが基本的にはそうですね」

「それ踏まえた上で寄越せって言うの?」

「神石ぐらい十個でも二十個でも作れるんですもん……」


 何を躊躇うことがあるのかと不服そうな佚世がむくれっ面になると、突然天獄が机に突っ伏した。


 睦はびっくりする佚世を小さく笑う。面白い。




「……睦君だんだん悪魔になってる」

「よく化け物と言われます」

「まーなんでもいいけどさ。……天獄さん貸してってか神石ください。時のやつでいいなら百ぐらいなら作りますから」

「いやいいよ……どうせ使わないし」

「やった」

「ただし命、海、月しかないよ。あげるのは月。それ以外は無理」

「なんでもいいです」

「というか自分で作れるなら自分で作ったら!?」

「加護対象がいないのにお守り作れるわけないでしょう」

「睦君にさ!」

「魂ってわりと重要なんです。生きてるか死んでるかぐらい重要なんです」





 部屋を移動するために外に出ると、ちょうどエリオムが向かいから歩いてきた。



 ボスや陽泰、睦にも佚世にも見向きもせず、通り過ぎていく。




「エリオムさん大丈夫ですか」

「最近ずっとあんな調子だよ。面白くないし覇気もないから放置してる。佚世君うち来ない?」

「あなたが政府の管理下に行ってくれるなら」

「睦君は?」

「別に構いませんがエリオムさん貰いますね」

「いーよー。傷だらけで可愛くないんだもの。睦君うちにおいでね」

「ちょっと聞いてください、俺特技があるんです。人を殺すのに躊躇いがないっていう」

「この際誰でもいいや。陽泰君来ない!?」


 衝突寸前はどこ行ったよ。




 いきなり振られたもんだから陽泰は挙動不審になり、スモッグの袖を掴んで勢いよく首を横に振った。心なしか涙目な気もする。



「行かないって」

「恋弥は元気すぎるんだよねぇ。正直一緒にいて疲れる」

「ボス階段の上かここの窓から蹴り落とすのはどっちがいいですか?」

「せめてこめかみ貫いてよ怖いんだよ君がトラウマになってるから」

「痛いですよ〜?」

「怖いんだよッ!」




 仲良しな天獄と恋弥の後ろで、睦は佚世に腕をつねられる。


 誘われて別にいいけどって言ったの怒ってんだろうな。睦の中にも天獄がこれで引くという確証はなかったから。

 なかったから怒るのはわかったけど、痛い。ごめんなさい。







 同じ階の小さな部屋行くと、天獄は扉を開け一歩内側に立った。



 こちらを向いて、何かと思えば睦の胸ぐらを掴み、部屋の中に引っ張った。




 睦が一歩踏み止まるよりも、佚世が腕を掴むよりも先に、恋弥が睦の腕を掴んで陽泰が睦の首元を掴んで引き戻した。



「ボス」

「……冗談だよ、こわいなぁ」

「陽泰首はやめて……」

「あ悪い」

「助かったよ、ありがとう」

「せめて抵抗しろ」

「びっくりして」

「こういうところで小心者が出るな。混乱に即座対応ができないっていう」

「うるっせぇな耳引きちぎるぞ」

「なんッでだよッ!?」






 天獄は赤いベロア生地の箱を持って出てきて、佚世を手招いた。



 睦が引きずり込まれそうになった直後だというのに、佚世は躊躇いなく中に入り扉は閉まった。




 陽泰は少し顔色が悪い気もする睦を見上げる。


「睦、顔色が悪い」

「ちょっと眠い気がする……?」

「大丈夫か? 先に戻った方が……」

「んーいや、失神するほどじゃないから大丈夫なんだけど」

「ならいいが……」

「な〜、佚世さっき反応遅くなかった?」



 恋弥が聞くと、陽泰は首をぶんぶんと横に振った。もげるぞ。



 こいつは当てにならんと、恋弥がスモッグを見ると、スモッグは小さく頷く。



「恋弥よりも遅かった」

「考えてたんじゃない? 天獄さんを突き飛ばすか俺を引っ張るか、俺が中に引きずり込まれて俺がどうにかするか恋弥たちが手伸ばすか」

「にしても遅いだろ」



 その時、扉が開いて恋弥の首に腕が回った。


 絞められると思ったがその腕は緩く、肩にかかる。



 そのまま恋弥は頬を刺され、それは頬に頬に穴を開けそうなほど突き刺した。



「痛い……!」

「次はお前突き出すぞ」

「佚世さん終わったなら帰りましょう。俺眠いです」

「帰ろう」

「はい」

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