22.眠気と思考
足を伸ばし、椅子に座って机に突っ伏していると、徐々に明るくなってきた。
「あ、帰ってきてる。おかえり佚世くん!」
「いっせー! 久しぶり!」
「寝てる?」
「いや起きてるでしょう」
「君ら朝から元気だね」
「佚世も朝は苦手じゃないでしょ?」
「うるさいのは嫌いかな」
佚世は体を起こすと、肘を突いて頭を支えた。
頭が重い。寝不足、圧倒的寝不足。つーかさっき帰ってきたばかりだ。どうしよう、帰ってきて早々死にそう。
「イツ、二時間だけ仮眠しておいで。まともに頭が回ってないのに参加しないで」
「はい……」
夜、佚世はこちらに来てから転々としていた各隠れ家を回っていた。
結果、隠しに穴のある隠れ家は全部荒らされていた。
塞ぐ度に大切なものは持ち出していたためさしてショックはないが、相手側に知識が行ってしまったのは痛手だ。
景矢の魔法印を見るに、描く魔方はだいぶん退化しているようだし、そのままならちょちょいと片付けられたんだけども。
あと、一番の痛手は逆探知防御の魔法印を知られたことかな。まぁむかしむかーしに考えた雑かつ複雑すぎて到底使えたようなものじゃないが。
景矢の魔法印、歪み補正がかけられないまま正常に作動するほど精巧に描かれていた。詳細は面倒なので省くが、あれを描ける魔法使いがこちらに来ているなら、あれは使われる。
自分の作ったものの穴を突くのが一番苦手だ。
常に完璧であれ。常識を捨てろ。順ずるは龍の御心のみ。
必要不可欠なものはすべて、重ねて重ねて重ねて、重ねた上で不要なものを省いて魔法印を作ってきた。効率最悪だが、これが一番正確な魔法印を作れたから。効率最悪だからヴァイオレットに馬鹿とか言われるんだろうけど。
完璧な魔法印を作ったから穴などないはずで、でももしそれが見つかった時、今は嬉しいと同時にものすごく凹む。頑張って作ったのにって。
でも探さないと。全部、弟子たちのために。
起き上がって、片膝を立てて、姿勢が悪いままゴリゴリ書き始めた。
その頭では、睦たちの活動時間を長める方法も考えて。
それを覗いて、脳之輔を見上げた。呆れ顔ってか、もう諦め顔。
屋根裏に入ると、こちらに気付いていない佚世の横に座った。
「なんの魔法だい」
「……おはようございます」
「寝てないね」
「さっき起きて」
「二時間前はさっきとは言わないし眠らず寝転がっただけを起きたとは言わないよ」
「……一時間だけ寝ます。針ともろもろ……じゅん、び……」
体力がないせいで佚世はそれを言い切る前に眠ってしまい、脳之輔はその頭を撫でた。
紙束をまとめて枕元に置き、上にインク壷と、ペンが挿さったペン立ても。
外套とブランケットもかけると、ちょちょいっと髪をいじった。変なのにしてから、怒られなように上の方に流しておいた。
あきらかに寝具が足りる人数じゃないので、佚世と脳之輔は屋根裏で床寝、小雨と蜃、律と祉夏、帝翔が二階の寝具を使い、同室で貝寄は子供に触らないのを条件に好きに寝ている。
スレッドの人たちは一階の倉庫が片付けいたのでそこで。
陽泰とスモッグは毎日本部に帰り、グロウとニーミスは寝なくてもいけるらしいので。
睦と恋弥の活動時間が短く、ミヤが未だ起きない理由。
ミヤはたぶん、その猫又とやらが原因だ。
魔法を拒絶され猫又が魂を繋ぎ止めている状態、なら起きるかな。佚世が魂を戻す前に、猫又が何かしたとしか考えられない。猫ね。警戒心が強く異変に機敏になるため、一度出てきさえすればわかるんだけども。茶トラでも使うかな。
睦と恋弥に関しては、魂が違うからかもしれない。
睦は、その特殊能力を得る際に。恋弥はそもそも『才能』という異能力が備わった魂だ。
佚世の魂を抑える力が弱く、異常な力を持つ魂の反発が強いとなればその理由もわかる。
となればどうしたものか。佚世の魔法がある限り魂が完全に分離することはない。ただし、魂自体が主を予備体と認めない限り人として完成することはない。
主を変えないと。睦の能力がないと、敵を認識するのに途方もない時間がかかる。
魂の女神は使えないのだろうか。魂を引き寄せただけで脳が焼き切れるのだ、無理だろうな。
時間ではどうにもならない。逆に死の女神代理のニーミスの力が強くなればなるだけ、魂の反発も強くなるだろう。
八百万の神を使うしかないか。
類の女神、種の神、主の神、従の女神。
駄目だ、全員力が弱すぎる。一上魂の女神であぁなるなら、普通の神じゃ歯が立たない。
一上、二上、三上。
二上、運、思、考、心、気、対。
対の神、ね。
二人で一つ、本体と力の複製の、二人で一つの神となる対の神。今、所有者不明だった気がする。
探せるかな。魂が違うから魔法が通用しない。言い訳か。
情報が必要だ。探すため、見つけるため、取り引きを、子供たちを助けるために。




