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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
102/124

19.眠

 揃ってあくびをした。



 睦とミヤは口を押さえ、恋弥は少し痛むこめかみを指でほぐす。






 昼休み、今は食後ののんびり中。




「どしたん睦君、まだ体調不良抜けんの?」

「いや、いきなり……お腹膨れたんでそのせいかもしれないです」

「ミヤ大丈夫?」

「……ん……」



 猫又が現れたかと思えば、ミヤは気絶並みのスピードで仮眠し始めた。



 睦はミヤに外套(マント)をかけ、猫又は少し心配そうにする。





「恋弥さん大丈夫ですか」

「なーんか…………あたまに、もやがかかったみたいな……」


 恋弥は相当眠たいのか目元に力を入れる。


 睦もかなり眠そう。



「頭痛い……」

「寝た方がいいです。仕事で疲れてるでしょう」


 恋弥は顔を歪め、陽泰に支えられながら、ミヤと同じくほぼ失神するように眠った。





 睦も相当眠そうだが、表情的にはケロッとしている。




「睦は?」

「病み上がりだし無理しない方がいい」



 睦は陽泰と雨豪の心配の声もまるで聞こえていないかのように顔を上げると、視線をどこかに飛ばした。





 佚世と小雨、黒に金の糸の、蜃の予知と重なる夢。



 近いなぁ。





「ちょっと電話してくる」

「え、だ、大丈夫ですか……!?」

「ついて行こう。嫌な予感しかしない」

「俺についてくるより恋弥守っといて、景矢も。なんかあったら緊急連絡網使うんだよ」



 そう言うと、睦はふらっと人混みに消えた。



 陽泰がそれを見送り、皆が不安そうにしていると、そこの集まりに管理人一家がやってきた。





「やほー。……何人か寝てるし。あれ、睦君は?」

「お疲れ様です。睦は電話に行っています。二人は何かありそうなので起こさないでください」

「大丈夫?」

「断言は無理ですね」

「……ま、睦君起きてるなら大丈夫でしょう。私新社長と話しに来たから」



 管理人が雨豪を連れて行き、疓憝と俰盤が枯梨と猫又に可愛がられ、母親が子供たちの世話をする。



 そんなことをやっていると律一家もやってきて、睦がいないのを確認して親子揃ってあからさまに凹む。





 周りの人が避け、少し異質な空気になっていると、小雨がやってきた。


 抱っこされた蜃は小雨にしがみつき、なにかに怯えたように震えている。




「景矢さん、睦さんは?」

「どこかに電話に……」

「叔父様……! だめだよ……!」

「わかってる。……どこに行ったかわかりますか」

「いえ、ただ何かあれば、緊急連絡網使えって言って」



 あぶねぇどころの話じゃなくないか。



 あれは、参界者が自分に何かあった時、参界者の周りにいる人間が参界者に異変が起こった時に使う連絡網で、参界者を保護する小雨を筆頭に参界者守る専用の特殊部隊や政府上層部にも連絡が行くようになっている。



 睦がそれを使えと言うなど、何かを感じ取ったとしか思えないのだが。




「命の危機にいなくなるって猫じゃないんですから……!」

「探しますか」

「いえ、絶対にここを離れないでください。主戦力の要であるミヤさんと睦さんがいないのであれば固まっていないと危険すぎる」



 小雨が部下に睦を探すよう伝えていると、誰かのHgが鳴った。それと同時に、響皐月がなにかに反応する。


 水尋の膝から立ち上がると顔面蒼白で周囲を見回す。



「響皐月さんどうしましたか」

「景矢、ミヤのHg鳴ってる」

「貸して」

「睦は……!? 睦、危ない……! 死んじゃう……!」



 響皐月のその声に小雨は目を丸くしたが、水尋は響皐月が探しに行かないよう手首をしっかり掴んだ。



「響皐月大丈夫だよ、今大人の人が探してるからね。すぐ戻ってくるよ」

「だめだよ……! 駄目……!」

「何が駄目なの? 睦さんに近付いちゃ駄目ってこと? 睦さんが危ないってこと?」

「危ないの……! 睦、体が……!」




 焦って顔面蒼白で血の気が引いて、混乱と焦燥で声が声になっていない響皐月を水尋が慰めていると、突然蜃が小雨の肩から後ろに腕を伸ばした。



「猫ッ!」

「蜃!?」

「叔父様猫! 夢にいた子! 睦さんのそばにいた! 猫!」



 皆が見ると、廃教会にいた茶トラ猫が小雨をじっと見上げていた。


 目が合うと、にゃあと鳴く。





 そのとき合掌が二回、聞こえた。



 混乱していた空気がふっと静まり、皆がそちらを見る。




 そこには、いつからいたのか、睦に付きまとってリンチされていた銀髪の女神が立っていた。



「あなた……!」

「指示する通りに行動しろ。スピード勝負だ、予定に遅れれば寝ている三人の死が近付くと思え。……まず睦くんを見つける。修茶と枯梨、その猫を追え。景矢と陽泰は気絶している二人の護衛。体が傷付くと何が起こるかわからない。小雨はなるべく人が少なく三人を寝かせられるところを手配しろ。人目に付かない、データにも噂にもならない場所」

「わかりました。場所は?」

「どこでもいい。ただここから近くないと移動が長くなる。時短必須だ」

「わかりました」

「雨豪、社員をまとめてみせろ。社長だろう」



 雨豪が指示を出し始めた直後、女神は膝を付いて響皐月と視線を合わせた。




「死の女神の後継者だね」

「……うまく操れないの。リストもない」

「体が近くにあればわかるね?」

「うん。…………睦の、魂が、()()()()()………!」

「私は魂の女神だ。私が分離する。……できるね?」

「頑張るよ。睦が死ぬのは、だめ」

「偉いね」



 水尋に響皐月の手足となるよう頼み、女神グロウは立ち上がった。




 小雨が顔を上げ、グロウに声をかけた。



「移動しましょう」




















 しばらくすると脳之輔が着き、小間(ブース)の仕切りを全て避け、小間(ブース)を全て繋げて一室にしてくれた。




 廃教会。噂に、データに、記録に、情報にならない唯一の建物。





「揃った?」

「はい」




 昏睡者除くスレッド五人、社長と社員たち

 トライト二人、陽泰とスモッグ

 ピステルから一人、祉夏(ちなつ)

 政府から一人、蜃


 金の世代から、小雨、律、帝翔、貝寄


 廃教会から、脳之輔を。




 グロウ含め計十四人。




「まず一つ目、相手は参界者だ」

「どこの世界?」

「景矢と同じ。無紋使い……と言えばわかるね?」



 景矢を見ると、景矢は無表情で頷いた。



「禁忌魔法集団ですね。俺の体に印を刻んだ奴ら」

「そう。それで、狙いは君だ。景矢」

「はい」

「相手は参界者と言えど自殺志願者じゃない」



 相手は参界者と言えど自殺志願者じゃない。完全に自らの力で世界の壁を、隔てを越えた奴ら。


 死、生、命、魂の『神』が招く魂が参界者とするなら、こいつらは神に『反する』力で無理やり訪れるウジ虫のような奴ら。



 相手にとって景矢は研究に必須の歯車だ。勝手に死なれてブチ切れてきたさ中に飛んできた景矢からの魔法使用反応、そりゃあ歓喜どころじゃないよね。




「一項目目の相手と二項目目の目的はこれ」

「三は?」

「現状の説明。……参界者は自殺志願者じゃない。自殺済みの人間の魂がたまたま世界の壁を越えただけ。その彷徨う魂に神が体を付け足して、さも異世界転移したように見せかけていただけだ」



 だから、前の世界には彼らの遺体がある。

 睦は手首と首に深い切り傷のある、恋弥は半身の潰れた、ミヤは海の中で沈む。

 響皐月は魔法に当てられた、景矢は原型を留めていないほどの、枯梨はこめかみが貫かれた、修茶は首の骨が折れた、雨豪は首が半分繋がっていない、遺体が、それぞれの世界、それぞれの時間軸に、それぞれの世界の物語に合うように存在する。




 ただし、魂が抜けたためにそれはただの箱となる。壊れた箱に神は見向きもしない。


 遺体は腐らないし傷まない。当然どれだけ天才的な医者がいても魂がないので生き返ることはないし、意識が戻ることもない。




 ただ、一つ。とある条件下で、とある現象が起こる。



空の箱(遺体)第二の箱(新体)が同じ世界に存在した場合。今睦がいるこの世界に、鏡界にあるはずの睦の遺体が持ってこられた場合。……第二の箱(新体)に宿っていた魂は空の箱(遺体)に戻ろうとする。既に死んだ魂だ。死んだ体に戻って神の力に浄化されようとするのは自然の摂理、神が決めた世界の理に準ずる。……魂が遺体に戻るのは時間の問題、そもそもこれは過去の一例から死の女神本人が結論付けた理論だ。時間等の詳しい状況は一切がわからない。だからスピード勝負で行きたい」




 その御伽噺のような話に皆が眉をひそめたが、そもそもファンタジー世界からファンタジー異世界人が来るファンタジーな世界。そうなんだよと言われたらそうなんだねとしか言いようがない。だって、実際そうなっている。





「私は魂の女神であり、ここには死の女神の力を本来なら正式に継げるはずだった子がいる。魂が体に戻るのと魂が死にたがるのを抑えるのはできる限りはやってみる。……が、世界の理に逆らってるんだ。長く、強くはできない」

「解決策としてはやはり、遺体を世界に返す他ありませんか」

「世界に返して……魂も私が戻せたらいいけど。まぁそれは解決してからでいい。さぁ! 作戦参謀名乗り出ろ」

「作戦参謀は私だ。あまり派手に動くなグロウ」




 声が聞こえ、開いた扉から何かが入ってきた。



 白いまん丸の、うさぎの耳がピンと立った、デフォルメうさぎみたいな謎生き物。




 それに続き、桃色の髪の少女も。

 片目は青空よりも清く澄み渡る青で、片目は宝石よりも輝く紫の瞳。




「ニース! 遅かったねぇ」

「気にするな。状況は?」

「倒れてばっつん。傷はまだ」

「……これで全員か?」

「誰か足りない?」



 グロウが首を傾げると、その唐突にやってきて割り込んだ少女は脳之輔を見た。



「ルベは? あいつがいないと世界に戻せない」

「すぐ合流するって。夜には」

「時間にルーズなのはまるで変わってないな……。医者いるか? 第二体の生命を維持しないとこっちはすぐ腐り崩壊する」

「私やろう」







 脳之輔は呼吸が浅いミヤから取りかかり、グロウは、ずっと体の死を阻止続けていたはずの小間(ブース)の隅にいる響皐月に視線を向けた。途端、目を丸くする。



「ウィル……!」

「響皐月!」



 椅子から落ちて手を突き、口を押さえ、目からは涙が溢れ、鼻血と吐瀉物でぐちゃぐちゃだ。



 また、すぐに吐いた。




「響皐月ッ!」

「どういうこと?」

「ヴィオラの対反保護魔法に当てられたんだ。休めろ、脳が焼けるぞ」

「時間は」

「私がやる」



 水尋と雨豪が響皐月の介護をしてくれたので、ニーミスが響皐月に代わって魂の融合を遅らせる。



 これでも先代時の女神。時間を操る、魂の時間軸を遅くするのはおちゃのこさいさいだ。

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