18.体育祭
体育祭前、小雨が蜃を連れてやってきた。
「睦さん、お疲れさまです」
「あ、お疲れさまです。どうかしましたか?」
「蜃がまた夢を視て、そこに睦さんが出てきたらしいんです」
「俺ですか?」
「……睦さん、こんなの、見覚えないですか?」
そう言って、蜃はスケッチブックを睦に見せた。
なにか、尖った歯車のような形の絵。
「……うーん……?」
「ないならいいんです。……あんまり、いいものじゃないから……」
「……特に思い当たるものがないです。色はイメージ的なものなんでしょ?」
「うん。今日は人だったから」
「うん、じゃあやっぱり特には。また何かわかればすぐに知らせますが……」
「たぶん、睦さんは見えないと思う。睦さんもこの人も、いなかったから……」
「いなかったの?」
「体は、あったんだけど……」
「魂的な話? 意識的な?」
「……わかんない」
魂はミヤの猫又が、その他に、生気というものがあるがそれは睦の異能の正体である鏡界魔に通ずる。
この世界に生気があるかどうかは知らないがミヤの猫又は魂を喰らって恋弥や陽泰を生き返らせているわけだし、神の力ではない予知夢がそれ系統に干渉しても不思議ではないとは思うが。
明確な答えがない問いだ、わからなくて当たり前。
睦が蜃の頭に手を置くと、目を伏せていた蜃は睦を見上げた。
「またサイン貰えるように頑張ろうね」
小さく頷いた蜃は小雨を見上げると、へらっと笑った。
開会式が終わって少しして、スレッドの大人組の元に恋弥がやってきた。
「よー」
「どしたん」
「陽泰どこいるかなと思って」
「知らん」
「ついに既読無視の対象内に入ったんよ」
「敬語が消える日も遠くないな」
「それだけは阻止する」
睦が連絡すると、校庭の端にいるよ、と。
「校庭の端だって」
「貸せ」
「わぁ」
と言いながら取り返そうともせずスマホをいじり、恋弥は陽泰に電話をかけた。
『なん……』
「端だって?」
『なんで恋弥さんなんですかッ……!』
「端だって?」
『職員テントです。なん……』
通話が切れて、恋弥はハッとした。手、当っちった。
「よし行くぞ」
「一人で行ってくればいいのに」
「俺嫌いな奴に絡まれんだよ。お前全員に愛想振りまいて気に入られてるだろ?」
「ひっでぇ言い方。別に間違ってないけど」
睦は立ち上がると恋弥からHgを返してもらった。
修茶と雨豪に少し任せて、中央学院の教師テントに向かう。
なんで教師テントなんかと思ったら、体育教師の横に座って頬杖を突いて、Hgをいじっていた。麗しッ。
「陽泰おまたせー」
「別に一生待っていてもよかったんですが」
「これがわからないかな後輩」
「返してくださいありがとうございました」
「えーなんてー?」
陽泰の刀を持った恋弥が慌てる陽泰をからかい、陽泰が焦っていると睦が恋弥を殴った。
その隙に陽泰が刀を取り返し、ホッとする。
「何すんだよッ!」
「何してんだよ?」
「陽泰もいつかこうなると思ったら今のが可愛げあるな」
睦が恋弥の頬を引きちぎらんばかりに引っ張って、陽泰がそれを傍観していると、肩がちょんちょんとつつかれた。
振り返ると、雨乃がいる。
「ん?」
「止めなくていいのかよ……」
「ちょっとスッキリしてる」
「聞こえてっからな陽泰ッ!」
「お前すげーな……二人とも金の世代に被ってる人だろ……?」
「恋弥さんは被ってるけど、睦はうーん……まぁ……?」
金の世代の時代、佚世が姿を見せていた六年前までで、そこまで活躍していた人を金の世代と言うならまぁそうだが、二人はどちらかと言えば金の世代の後継である新世代組の筆頭だ。
恋弥に関してはぽっと現れて瞬間活躍しいつがピークかわからないぐらい貢献しているので、たぶん年齢的に新世代なんだろう。
睦に関しては表立って大きく動き始めたのが佚世がいなくなったスレッド設立後で、金の世代ではまだ佚世の後ろに隠れてるような存在だったので。
陽泰は年齢も相まって完全新世代組なんだけども。
「どちらかと言えば新世代?」
「そういやお前様も新世代筆頭でしたね忘れてましたわバカすぎて」
「俺は別に筆頭ではないが」
「恋弥さんと睦さんは金世代に被ってるから完全なる新世代の筆頭はお前だって知らねぇのかよそういう自慢かよ頭潰すぞ」
「返り討ちをお望みなら」
「ゴメンナサイ」
陽泰は自分の荷物を漁ると、修理が終わった刀を袋に入れた。さすがに剥き出しで持つと騒ぎになりかねないので。
新世代は金の世代の弟子の世代だ。
佚世の弟子として恋弥、睦、陽泰
小雨の後継として蜃
一応スイハ二人の後継として俰盤
律の弟子に関しては、そもそも息子がいるかすら、親しい睦も知らなかったので。
周囲に知られていないのは当然。なので、たぶん後継に息子を選ぶことはないか、まだその名を冠するには相応しくないと律が判断しているのだろう。
今明確な新世代として名が上がってあるのは佚世の弟子三人だけ。
小雨は明確に『蜃を後継にする』と宣言したわけではないが、その予知能力から度々名前は上がるし。
朧気ながらも徐々に決まりつつある世代。
別に金の世代が師にいないと数えられないってわけじゃないし金の世代も活躍してたのがたまたまその五人ってだけでどこかで繋がりがあったわけじゃない。
ただ、この五人が異常に才に恵まれ、知的で、技術が神域レベルだったというだけ。
そして、その審美眼から選んだ弟子もまた、強者揃いと言うだけ。
「てことで新世代に数えられるのは夢ではない」
「夢より向こうの世界の果てってことがわかったよ」
「いや違うが」
「俺も転生後はさ、もうちょっとマシな腕持ってるかな」
「死後転生があるなら参界者など生まれていないだろう。幻想を語るな」
「ひっどッ!」
「体育祭なんかに出て幻想を語る暇があるなら師に教えを乞え。努力なしには才能も実らん」
「お前人生何周目だよ」
「人の話が聞こえるように耳の穴突き刺してやろう」
「ごめんなさいゴメンナサイごめんなさいッ!」
雨乃が頭を抱えて陽泰が雨乃に掴みかかり、教師が慌てていると陽泰の頭に手刀が降った。
「楽しんでるところ悪いけど、出番だよ」
「……はぁ。持っといて、あとで取りに行く。置いといたら盗られかねない」
「場所わかる?」
「うん。見つけた」
「わーすごい。じゃ頑張って」
睦は刀を預かると、恋弥を引きずって戻って行った。
陽泰が出る一番最初の種目は、借り物競争。
プログラム的には最後の最後にリレーがあるのでそれのアンカーも飾る予定、らしい。顔で選ばれたんだって。お前50、100、長距離走全部クラス1位だって自覚した方がいいよ。
恋弥を連れて修茶たちのところに戻ると、響皐月が恋弥に飛び乗った。
恋弥は慌ててそれを支え、膝に座らせる。
「今日も元気だなぁ。寒くない?」
「へいきー」
全競技、各三校から推薦やランダムで数人から数クラスが選出される。学年バラッバラで、でも学年に合わせた距離と、借り物競争ならお題もやりやすくして。
ちなみに流行らせたのは睦。
「睦君借り物競争の思い出ある?」
「えー、自分より足の速い異性とかいうお題になったことはありますけど」
「せめて好きな異性とかにせぇや」
「俺常に学年一位の優秀君だったのでマドンナ連れて走りました」
「青春してんなぁ!?」
「青春潰れましたけどね」
「ははは! 参界者なんてそんなもんやて!」
選手紹介に、陽泰以外にもう一人、俰盤の名前が上がった。苗字が伏せられているので名前だけ。第二代表として陽泰の隣に並び、陽泰を見上げて数言話した。
様子を見るだけで陽泰が負けたのがわかる。何言われたんだ。
ピストルが鳴り、九人が一斉に走り出した。
俰盤が最年少なので一番短く、お題も簡単なはず。
と思ったら、紙を拾うやすぐにどこかに走ってった。相当簡単なんだろうな。
陽泰はと言えば、二番目に紙に辿り着いて硬直している。十八歳には十八歳らしいお題が振られるだろうな。流行らせたのは睦。
「睦、陽泰のお題何?」
「助けを求められるまで待っといて」
睦がスマホをいじって、修茶と雨豪と話していると、ふらふらの陽泰がやってきた。
「睦ヘルプ」
「なんだい」
「スマホ使ってる人」
「おいこれ絶対猫の子供だろ」
そうだよ知ってるよ。ミヤが夜のリビングでいそいそと書いて一人爆笑していたのを。
睦がそっと目を伏せると、陽泰が睦の前にしゃがんだ。
「むッ……」
「修茶さん行ってらっしゃい」
「えーけど俺君引きずるで」
「人の足でお願いします」
「頑張れ」
修茶は上機嫌に走っていき、結局陽泰は固まっていた時間と移動時間含め四位になった。
一位は俰盤。お題は『好きな人』で疓憝連れてゴールして反応で管理人の居場所がわかった。
そのあとも年々進化している競技種目をやって、障害物競走では体育教師に引きずられ睦が飛び入り参加させられミヤと接戦を繰り広げ、部活対抗リレーでは恋弥がOBとして引きづられそうになって睦に叩き出され、その他山のように保護者や卒業生が巻き込まれ、果てには現役神迎と小雨の対決になったりなんかして、見ている人からはとても楽しい。やった人からは「二度と来ん」と宣言を取れる午前中が終わった。




