17.準備の朝
空高く快晴に、気持ちのいい体育祭当日となった。
景矢は緊張した様子の枯梨の髪を編み、ミヤは久しぶりに動けるということで少し上機嫌。インテリな見た目して結構アグレッシブなんだよなこの子。
響皐月は、直前になって少し怖くなったようで、出たくないと言っている。水尋が練習したやつだけ出てあとは一緒にいようと説得しているが、まぁ去年も休んだし、運動は体育祭にしか使えないわけじゃないし、睦はどっちでもいいかなって感じ。
「睦君はここの体育祭何回かやったんやろ? どやった?」
「特筆すべきことはないと思いますよ。全部普通」
「なんやそりゃ。好きな競技とかは?」
「障害物競走とかは好きでした。卒業の歳は体育教師が本気出してきてなんか仮設うんていとか跳び箱三十段とか」
「普通かなぁ!? それ普通なのかなぁ!?」
修茶か混乱していると、事務室の扉が開いた。
響皐月が走って、睦にしがみつく。
「決まった?」
「……出ない」
「わかった。まぁ走りたくなったら飛び入り参加もできるからね。のびのびいこう」
朝から疓憝と俰盤は走り回り、母親が呆れている。
今日は第二学院の生徒として出る最後の学校なので、今日の体育祭よりも明日から通う中央学院で盛り上がっている。
先日、というか昨日までの一週間ちょっとでものすごく枯梨に懐いていたので、枯梨と同じ学校に通うのが楽しみなんだろう。
「二人とも、あんまり元気にしてると疲れて怪我するよ」
「早く明日になってほしい!」
「今日のことを楽しみにしてほしいなぁ。気が早いのはお父さん似ね」
「おいで二人とも、髪編もう」
「猫耳にしてー!」
「私カチューシャ!」
「順番ね」
「俰盤先いいよ」
「やった!」
俰盤は管理人の膝に座り、疓憝は俰盤の向かいに座った。
頬をふにふにして可愛いねぇと笑い、管理人は顔面を押さえて絶句する。それを、妻はとてもとても冷めた目で見下ろした。
前髪をちょっと切って、目にかからない程度にした。
学校指定のジャージのファスナーを上げ、頬を挟む。
やらないと。よし。
久しぶりに帰ってきた家の中を歩いて、居間に行くと、昨日の夜は本部に帰ったはずの父が母を抱っこしていた。
母は父の頭を死ぬほど押し返して、顔をしかめている。
開けかけた襖をそっと閉めようとすると、それが上から開けられた。
見上げると、ライムがいる。
「律、子供がドン引きしてますが」
「おはようなつ。おいで」
「おはようございます父様。今日は仕事のはずでは……」
「クロに頼んで来たからさ。我が子の勇姿を目に焼き付けたいの」
「母様は、体調は……」
「今日はいいの。なつが頑張る姿楽しみにしてたから」
「無理しないでください」
「ほんとに平気。頑張ってねぇ」
「はい!」
膝に座ってクレヨンを握り、ごりごりとスケッチブックに描きこむ蜃の頭を撫でた。
右側に、ツノ吹き出しのようなギザギザを、オレンジや赤、紫、白で描きこんでいる。
本人の表情的にも、とても良いとは言えない夢。
「……できた」
「何?」
「顔。人の顔の右……左? こっち側」
「知ってる人?」
「……睦さんと、並んでる人」
参界者の可能性があるのか。
「よく覚えてるね。偉い」
「死んでるのじゃなかったよ! でも、怖かった……!」
「今日睦さんに会って大丈夫か聞いてみよう」
「うん……」
髪をポニーテールにして、日焼け止めを塗りたくり、人の顔に見えるようにメイクをした。
天獄が後ろからもたれてきて、邪魔だがここで払うとまだ陽泰が睦がと騒ぎ立てて鬱陶しいのでもう黙り。
「行かなくてもいいのに」
「出席で出したので」
「体調不良ってことにして休も?」
「黙って私が帰ってくるまで留守番してろ」
しゃがみこんで指揮台に突っ伏していると、上からのしかかられた。
「氷の王子様が何絶望してんだよ葉笶くん」
「なんで生徒が朝五時半から準備とか」
「毎年恒例だからな! 養成校も第二も来てるんだしちょっとはしっかりしろよ」
「そもそも去年まで委員会がやってただろう。なんでよりによって今年から」
「今年が特例みたいだぞ? 第二も来るから人が異常なことになるからって」
「第二とやるなら養成校は引っ込んでろよッ……!」
「まぁまぁ……」
指揮台に座って足を組んだ陽泰が呻いて、クラスメイトの雨乃は陽泰を慰める。
「そもそもあれ、誰だっけ。スレッドに出入りしてる奴はいないじゃん」
「うん水尋ちゃんな? 零曇水尋ちゃんな? 覚えろ?」
「景矢もいないしふざけんな」
「塵風油さんは参界者だからさ。警備が薄い朝は不参加。水尋ちゃんは響皐月君? 連れ出す任務があんだってさ。教師直々に任命されてた」
「帰りたぁいぃ……」
「黙ってさっさと進めるぞ外見インテリ出不精」




