あたしの空宙さかあがり
ちっちゃいころのほうが得意でした。
つかむところがないからって
あたしは手をのばすのをやめたりしない
ほしいものがなにかわからなくたって
とりあえず ほしい! って
ボタンをおしてみることからはじめる
カレーがたべたいか お肉がたべたいか
じぶんでもわかんなくて
はじめてはいった牛丼屋さんは
いがいといろんなメニューがあって
あしたもまたこようってちかいながら
ネギトロ丼に納豆をつけて注文してた
なんとなくまっすぐ帰りたくなくて
きまぐれに寄った いつもとちがう服屋さんは
胸にねこのついた
ピンクのパーカーがかけてあって
あたしがほしかったのはきっとこれだ!
あしたの牛丼ぶんと お財布に相談しながら
うきうきしたきもちで
試着室のカーテンをしめたけど
べつに脱がなくてもいいんだってきづいて
そのまま ピンクの長袖に腕をとおした
ほらね
なにがほしいか じぶんでもわかんなくたって
とりあえず手をのばしてみたら
なにかほしいものが そのさきにあるかもしんないし
そこでふれたものがなにかさえわかんなくたって
とりあえず ぎゅむってつかんどこうよ
うえからかぶせるようにじゃ
こぼれおちちゃうから
したからすくうようにして
空にかざすんじゃなくて
空をうけとめるようなむきのてのひらで
ここらへんかなって あたりをつけたら
ぎゅむってつかんどけ!
つかんだものをひきよせて
ポケットにおしこめたら あたしの勝ちだもん
これがほしかったんだって ほくほく顔で
あなたにも見せびらかすよ きっと
つかんだのはいいけど ひきよせられなくて
あたしのからだごと
もってかれそうになっちゃうときも
あるんだよ きっと
そんなときは あなただったらどうする?
あたしはちゃんと知ってるさ
そんなとき どうすればいいのかって
こわくなって手をはなしちゃうのは
もったいないじゃん
だからあたしは
したからすくうようにした手をはなすんじゃなくて
むしろ ぎゅむむって つよくつかんだまま
ばぁんって 大地をけりあげる
なにをつかんでるのか じぶんでもわかんないけど
それと あたしのおへそがキスするあたりを支点にして
大地をけりあげた足のほうから一回転
ほら こうやってやれば きっと
なにをつかんでるのかじぶんでもわかんなくて
ポケットにもおしこめないし
ひきよせられもしないけど
こわくなって手をはなしちゃうのが
もったいないそのなにかは
もう あたしのものなんだ
大地をけりあげた足のほうから一回転
ぐるんってしてやったから
やっぱり あたしの勝ちなんだってば
胸にねこのついたピンクのパーカーの
ポケットにはおさまらなかったけど
もうあたしのものだよ きっと
なにをつかんでたのかは いまだにわかんなくても
これからじっくりたしかめてけばいい
それでもあのとき
こわくなって手をはなしちゃったりしないで
ほんとうによかった
あたしはそんなふうにおもえた
こんなときのためにかもしれないし
こんなときのためにじゃないかもしれないけど
ちゃんと さかあがりを練習しといて
ほんとうによかった
あたしはそんなふうにおもえた
ほしいものいっぱい(笑)