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【双子の夢 4】

 僕が家督を継いで一年が経つ頃に、ワカは魔導師団長に就任した。

 彼女は我が公爵家が得意とする精神干渉系の魔法を既に習得しており、どうもその実力が認められたらしい。

 聞いた話によると父もそれを得意としていたようで、やはり公爵家の娘ですな、と貴族達は更に彼女を持て囃した。


 僕は彼女が羨ましかった。

 未だに子供扱いの自分とは異なり、彼女は既に大人と遜色がない。

 勿論、彼女が優れていることは事実だろうし、公爵家という後ろ盾だってある。

 魔導師団長にはいずれなれたのだろうが、それがこんなにも早まったのは、彼女が大人だと認められたからだと思った。


 それと比べて僕は……。

 公爵家だから発言はさせてくれる、でもそれだけだった。


 今日も憂鬱な気持ちで議会に参加すると、貴族達の顔がやけに強張っているのが気になった。

 議会が始まり、僕はその理由を知った。


「――クエレブレに魔法の強い者が協力している?」

「えぇ。その所為か最近勢力を増したようで、彼らがアノニマスを圧倒することも増えてきたとか」


 顔に冷や汗を浮かべながらそう告げられ、僕は内心首を傾げた。

 それは、とてもいいニュースに思えた。

 それなのに、何故そんな顔をするのだろうか。


「それだけじゃない。あの教団も手を貸していると聞く」

「市民達も彼らに期待し、支持する者も現れているとか。早急になんとかする必要がありそうですな」

「確かに、貴族に批判的な市民も出てきていると聞いています」


 僕はそこで合点がいった。

 彼らは何もしないことを選択しながら、何かを成し遂げようとする者を嫉み、自分たちの立場が脅かされることを恐れているのだと。


「それでは、私たちもクエレブレと協力しては?」


 僕は以前ワカに一蹴された言葉を口にしてみた。

 今なら、その提案は馬鹿にされないのではないかと思った。


 しかし、貴族達の反応はいまいちだった。

 彼らは顔を見合わせては口を閉ざし、場には重たい沈黙が訪れた。

 しばらく経つと、ぽつり、ぽつりと言葉が漏れてきた。


「……それもありだが、うーん、」

「勝つ算段が見えたからと協力しては、それも批判の種となるのでは」

「確かに」


 この期に及んでそんなことを言う連中に僕は呆れかえった。


「クエレブレの者が爵位を望むこともあり得ましょう。慎重に検討せねば」

「いっそ共倒れしてくれれば」

「違いない」


 その瞬間、僕は懸命に保っていた何かが音を立てて崩れ去るような感覚に陥った。

 貴族の言葉が雑音のように意味の無い音となり、内容は何も耳に入らなくなった。

 ここにいることにも意味を見出せなくなり、思わず椅子から立ち上がった。


「――閣下?」

「……用事を思い出しましたので、先に失礼させて頂きます」


 僕は足早にその場を立ち去った。

 その足のまま待機していた馬車に乗り込むと、御者が訝しげな視線を向けてきたが、それすらも無視して屋敷に帰ると指示を出した。


 屋敷に着くと、いつもよりも早い帰宅に執事も不思議そうな顔をしていたが、外套を渡しながら今日はもう休むと先に告げれば、その理由を追及されることはなかった。


 部屋に一人籠もり、途中にしていた書類を片付けながら暇を潰し、ワカの帰宅の時間に合わせて彼女の部屋を訪れた。


「ワカ、僕だ」

「……公爵?」


 戸惑いを含んだ声の後に、間を置かずして扉は開かれた。

 目をぱちくりと瞬かせるその表情は、少しだけ幼かった時のワカを思い出させた。


「どうかしましたか?」

「話がしたい。部屋に入っても?」

「呼んでいただければ、すぐにでも駆けつけましたのに」


 そう言いながらもワカは僅かに体をずらし、僕が入れるようにスペースを空けてくれた。

 僕はありがとうと告げると、部屋の中に入りこんでソファの上に浅く腰をかけた。

 彼女の部屋に入るのは実は初めてのことだった。

 あまり飾り気のない、シンプルな部屋だと思った。


 ワカは僕の目の前に座ると、生真面目な顔をしてみせた。


「それで、突然どうされたのですか?」

「師団長にお願いだ。魔導師団の者を、数人で構わないからクエレブレに派遣して欲しい」

「……それは、議会で決まったことですか?」

「いや、僕の独断だ。彼らは決断が遅いから」


 ワカは何かを考えるように厳しい表情を浮かべて目を伏せた。


「……できかねます」

「何故?」

「魔導師団は貴族の者も多く所属しております。それを議会の了承なしに動かすことはできません」

「公爵の言葉でも?」

「はい」

「……そう」


 それは予想していた返答だった。

 魔導師団は、魔法の威力の強い一般人も所属しているが、殆どはワカのように家督を継ぐことのない貴族で構成されている。

 議会に参加していた者の息子、娘も入隊しているのは必至だった。


 だから、僕はもう一つ用意していた案を口にした。


「それなら、僕がクエレブレに協力しに行く」


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