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【リツキの罪 4】 

 研究所に帰った俺は再び研究に没頭した。

 エリクの永眠を知ったのは、それから一ヶ月後のことであった。

 彼の息子がどうなったのか調べると、どうやら研究所の職員が引き取ったようである。

 引受人はエリクが最後に所属した魔法創造部署の者だったため、息子のことを思ってきっと事前に頼んでいたのだろうと思った。


 俺は自分の罪を償うために、真面目に自分の研究と向き合った。

 副反応を無くすことができれば、いつかエリクに報いることができるだろうか。


 時折他の研究者と共に探究することもあったが、殆どの時間を俺は一人での研究に費やした。

 十数年の時が流れる中で、老衰で研究所を去る者を数え切れないほどに見送ってきたが、それでも自分の見た目は一、二歳年を取っただけだった。


 突き詰める度に確信する。

 体の中を弄ることは禁忌であり、寿命の変化を消すことなどできやしない、と。

 そして、突きつけられる度に僅かな可能性に縋り付く。

 その繰り返しだった。

 それでも、求める答えが出ることはなかった。


 行き詰まる俺を気遣ってか、こっちの部署に来ないかと誘いをかけてくれる者もいた。

 その誘いを全て断り、囚われたように同じ研究を続ける俺を大半は遠巻きに見守るだけであった。


 ある日、魔法創造の研究が成功したと研究所がどよめいた。

 それはこの研究所で一番の成果であった。

 刺激になるかもしれないから研究発表を見に来てはと声をかけられ、行き詰まっているのは事実だからとその部署に足を運んだ。


 研究者でごった返すその講堂の中心には、まだ幼児とも言える子供が座っていた。

 ただし、その髪は通常の人間では決して発色しないような明るい黄色で、その瞳は血潮のように真っ赤であった。

 その華奢な左腕にちらと赤い刺青が見えた時、俺は思わず目を瞠った。


 子供の横に並び立つ研究者は、眼鏡を押し上げながら人集りを見渡すと、誇らしげに話し始めた。


 魔法創造研究も長いこと停滞状態であったが、敢えて視点を変えて宗教の言葉に着目したそうだ。

 ヒトの中には稀にヒトにはあり得ないような色を持って生まれてくる者がいる。

 宗教団体ではその者を《竜の子》と呼んで崇めていた。

 《竜の子》は竜神の使い故に特別な力が宿る、その教に目を向けて《竜の子》の研究をしたのが全ての始まりだという。

 検査の結果、《竜の子》は普通の人間と何ら変わりはなかったが、《竜の子》の血を輸血された人間もまた徐々に髪や瞳の色が変化していき、それによって微量ではあったものの魔法の威力が向上することも分かったらしい。

 輸血の量に比例する訳ではなかったが、それも大きな発見であった。

 副反応と言えばそれこそ色が変わるのみだったため、増加率にさえ目を瞑れば刺青よりも遙かに簡単な手段で魔力向上が望める良い手段であると語った。

《竜の子》の魔法の有無も特に関係はなく、にも関わらず輸血だけで魔力が上がると言うことは、《竜の子》自身に魔法創造の手がかりがある、と確信を持って研究は進められた。

 そして、魔法能力を持たない《竜の子》の細胞からクローンを作り出し、実験を行ったとのことだった。


「この子は№7。彼女は造られた時魔法を発現していなかったが、その後刺青を施すことで後天的に魔法能力を得た珍しい種だ。これから№7の子供に魔法が遺伝するかも追って確認する予定だ。――なに数年待てば大丈夫。彼女は一年で三歳年を取る」

 

 頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。

 あんなにも無垢な様子の子供を利用して、実験して、刺青まで入れて、それでまるで大義を成したかのように話していることが信じられなかった。

 得意げに話していた男は集団の中から俺を見つけると、親しげに笑いかけてきた。


「やぁリツキ君、君も来てくれていたのかい。あぁそうだ、君の研究も使わせてもらったのだから感謝しなければね。謂わばこれは、君と我々の共同研究だと言っても過言じゃない」


 男は握手を求めるかのように手を差し伸べてきたが、俺はそれを睨み付けた。


「……狂ってる」

「ん? №7のことを言っているのか? 笑わせるね、君も同じ穴の狢じゃないか? 君もたくさんの研究者で実験をしてきた」

「それは――」

「分かってるさ、この話はやめよう。私は君を批判したいわけじゃない。君の研究は本当に素晴らしかった。だからこそ、副反応を知っても尚皆は求めた。そうだ、よければ君にも竜の子の血を分けてあげよう。君の魔法はまた微量にだが威力が増すし、君の続ける研究の助けになるかもしれないからね」

 君の研究ほど大きく威力が上がるわけではないけれど、と続けて男はガラスの瓶に入った赤い液体を差し出してきた。


「あんたたちは、一体どれだけの人を犠牲にしたんだ」

「犠牲とは興が冷める言い方だ。協力してもらったんだよ、この国の未来のために。――あぁ、詳しい研究過程を知りたいのであれば、素直にそう言ってくれたまえ」

 リツキ君は少々回りくどいね、と男はガラスの瓶を白衣のポケットにしまうと机の上にあったファイルを持ち上げた。


「えーと、竜の子は少ないからなかなか集まらなくてね、計三人に血液の提供などで協力してもらった。被験者№1、2は竜の子から竜の子に輸血をしてみたが、これは何も変わらなかった。№3、4は普通のヒトだったが竜の子の血を輸血し、髪や瞳の色が変わり、魔法の威力向上が確認できた。更に血液以外の方法で増力するか試している最中だ。平行して№5からは竜の子の細胞を使いクローン研究をしたが、№5は人の形を取らず失敗、№6は人型を取ったが魔法が発現するか色々試している途中に亡くなった」

 より詳しく知りたいならどうぞと男は閉じたファイルをつきだした。


 俺はそれを無視して子供を見つめた。

 子供は純真な瞳でこちらを見返している。


「……あんた達のやり方は間違ってる」

「君ほどの人が嫉妬かい? 光栄だな」


 話が通じないと諦めて踵を返す俺の背中に、男は更に続けた。


「大いなる結果には多少の犠牲はつきものだ。――成長が止まって、思考も子供のままだから君の研究は進まないんじゃないか」


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