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52.  少年と青年の狭間

 その後テイトは再び会議を開き、リゲルの状態と処遇についての共有を行った。

 大方はシンの言っていた通りで間違いないだろうと伝えると、隊長達は皆微妙な顔をしながらも、仲間が裏切っていなかった事実に少なからず安堵しているようであった。


 もしリゲルの不在に疑問を持つ者がいれば、極秘任務にあたっている最中だと回答する旨で口裏を合わせ、しばらくはお互いに警戒して過ごそうと気を引き締めた。


 一応拠点に魔法をかけた、と解散間際にシンがどこか難しそうな顔で報告してくれた。

 彼曰く『《クエレブレ》に協力する意思がある者』だけが入場可能になるよう設定してくれたそうだ。

 それなら今後侵入者については心配しなくて大丈夫だと安心しかけたが、シンは続けて内容が曖昧だから破られる可能性が高いと口にした。

 内容は具体的であればあるほど効果が高いらしく、ちょっとでも魔法に詳しい者にはこの程度では抑止力にすらならないのだとか。

 だが、ないよりはマシであることに変わりはないため、テイトは素直に感謝の言葉を伝えた。


 自室に戻る前に、テイトはラキドを呼び止めた。

 リゲルが悔いて謝りたがっているが、今はまだ合わせる顔がないそうだと伝えると、不可抗力なんだから気にしなくていいのになとラキドは眉を下げて呟いた。

 腕一本失くしたというのに彼のこの心の広さはなんなのだろう、とテイトは彼に畏敬の念を抱いた。

 彼の方が自分よりもよっぽどリーダーに向いている気がした。


 度重なる出来事ですっかり気落ちした心を紛らわすために歩いていると、背後から小走りで駆け寄ってくる足音が聞こえたため、テイトは徐に振り返った。

 そこには頬を上気させたルゥの姿があった。


「テイト! 師匠から聞いたよ!」

「え? 何を?」


 目を丸くするテイトに気付いた様子もなく、ルゥはニコニコと嬉しそうに笑った。


「リゲルさんが任務で外に出ている間、僕がテイトのチームに加わるって」


 シンの素早い根回しに、テイトは思わず苦い表情を浮かべた。


「聞いた時はびっくりしたけど、でも認められたからには頑張るね! リゲルさんに比べたら頼りないかも知れないけど、レンリさんやナナさんのことは勿論、テイトのことも守ってみせるから」


 両手の拳を握りしめて一生懸命に伝える姿をテイトは複雑な気持ちで眺めた。


「……ありがとう、でも、」


 喜んでいる彼に水を差すようなことを言うべきか一時迷い、それでも生死に関わることであるし、とテイトは覚悟を決めて口を開いた。


「でも、僕はルゥが加わることには反対で……」


 その言葉を耳にした途端、ルゥの顔はみるみる傷付いたようなものへと変化した。


「……僕じゃ、頼りない?」

「そうじゃなくて、心配で」


 それはテイトの本心だった。

 しかし、それをどう受け取ったのか、ルゥは真剣さを帯びた瞳で睨むようにテイトを見つめた。


「僕と同い年のテイトも戦ってるじゃないか。テイトだって、同い年だから気安く話しかけてくれていいって言ったのに、それなのに、やっぱり僕を年下扱いするの?」


 テイトはハッと息を呑んだ。

 同時に、何故かユーリのことが思い出された。

 あの時、周囲が子供だからとテイトを気遣う中で、ユーリだけは違った。

 気を遣ってもらうのは確かに有難かったが、それよりもユーリが自分を仲間として扱ってくれた時の方が嬉しかった。

 それが如何に自分への自信に繋がったことか。


 表には出さなかっただけで、おそらくユーリも子供である自分を心配していたことだろう。

 何度も理由をつけては顔を見に来てくれたことを覚えている。

 その行動の理由が、テイトを次のリーダーとして育てようとしていたからだけではないことぐらい、今だからこそ分かる。


「――ごめん、そういうつもりはなくて……」


 ルゥはやはり自分に似ていると思った。

 戦いにでることが怖くないわけではない。

 でも、それよりもこの状況をなんとかしたくて、早く認められたくて、その為に努力を惜しまない危うさが、周囲から見た自分だったのだろうかと考えた。


 同時にやはりユーリの偉大さが身に染みるようだった。

 ユーリは戦う意志と戦う力がある者全てを仲間と見做していた。

 今更ながら、自分と彼とでは覚悟に差があるように感じた。


「……ルゥも自分で決めてここにいるんだよね。ごめん、認めないような言い方をして」


 何度も繰り返される謝罪の言葉に、ルゥは決まりが悪そうに視線を逸らした。


「……僕の方こそごめんなさい、心配してくれただけなのに」


 ルゥはしょんぼりとした様子で俯いた。


「あのさ、これだけは言わせて欲しい。無理はしないで、危険だと思ったらすぐ逃げて。僕も、自分のことは自分で守るようにするから」

「……うん、師匠にも後方にいろって言われた。僕の主な役目はレンリさんとナナさんの護衛だって」

「それなら少し安心した」


 流石のシンもルゥを前線に出す気はないことを知り、テイトは安堵の息を吐いた。

 ルゥの魔法はシンが褒めるぐらいの実力だ。

 もしかしたら、戦場でもテイトよりも上手く立ち回ることができるのかも知れないが、戦いの場においては何があっても可笑しくないのもまた事実。

 後方にいてくれるのであれば、それに越したことはない。


「……確認だけど、シンさんに無理強いされたわけじゃないよね?」


 小声で尋ねると、ルゥは可笑しそうに笑った。


「大丈夫だよ」

「よかった。……レンリさんとナナをよろしくね」

「うん、任せて」


 ルゥは満面の笑みを浮かべて返事をした後に、窺うような表情でテイトを見上げた。


「……それで、どうだった?」

「え?」


 首を傾げるテイトに、ルゥはもどかしそうに手を弄った。


「……貴族の反応」

「あ、あぁ、ダメだったよ。断られちゃった」


 ルゥはその答えにさして驚いた様子もなく、そっかと頷いた。


「……ルゥもダメだと思ってた?」

「……僕の考えは、貴族では少数派だったから」


 ルゥは気まずそうな表情で視線を逸らした。


「出発する前に、やっぱり引き留めれば良かった。そうすれば、テイトが嫌な思いをしなくて済んだのにね」


 まるでどう断られたか知っているような言動に、それだけ貴族の考えとは凝り固まったものだったのだなと改めて理解した。

 そして、出発前のよそよそしいルゥの態度にもようやく合点がいった。


「気にしないで。きっと自分でちゃんと見聞きしないと納得できなかったはずだから」

「そっか。うん、分かった」

 それがちょっと気になってたんだ、とはにかんでルゥは来た道を戻っていった。


 その後ろ姿を眺めながら、テイトはなんとなく以前シンに言われたことを思い出していた。

 生きた年数が同じでも、成長速度は違う。


(思考の成長速度は身体に比例する、か)


 テイト自身もまた、自分がルゥを子供と見做していたことに、確かに衝撃を受けたのだ。


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