50. 緊急会議 2
テイトの横でシンがゆっくりと立ち上がる気配がした。
「――敵の竜の子と会ったぞ」
「え」
テイトは驚いてシンを見上げたが、その視線が合うことはなかった。
「拠点に来たアノニマスは、お前が言ってた竜の子だった」
「……それで?」
「勿論、追い返したが……ただ、レンリが研究所の関係者なのか、少し自信が持てなくなった」
それは予期した返答ではなかったが、シンの顔からは後悔や戸惑いと言ったものが透けて見えるようで、テイトは初めて見る彼の弱ったような姿に目を見開いて口を噤んだ。
「いや、レンリの魔法は他とは違う。研究所が関わっているのは間違いないはずなんだ。……でも、№4は彼女を知らない様子だった。彼女は、アノニマスにいる研究者とは関係がないのかも知れない」
シンにしては珍しく支離滅裂に言葉を紡ぐ様子に、彼もまた動揺していることを知った。
「もしかしたら、レンリは奴らに狙われるかも知れない。……だから、彼女を俺と別行動させるつもりはない」
それは、先程仲間に向けて伝えた検討するとの発言が上辺だけのものであることを表わしていた。
「狙われるって……」
「新しい仮説が正しければ、彼女は竜の子だ。ナナや№4と違って、正真正銘の竜の子だ」
「竜の子だと、何か問題でもあるんですか」
「研究所は、竜の子を使って実験を繰り返していた。非人道的なことだって、平気で行っていた」
研究所は竜の子をお金で買っていた、と言う旨の話を以前シンがしていたことを思いだし、テイトは息を呑んだ。
「竜の子は多くない。手に入れたくても竜の子が保護されている教団本部の守りは強固だ。それに引き換えここは出入り自由。アノニマスに研究者がいるなら、喉から手が出るほど彼女が欲しいはずだ。奴らにとって、竜の子はそれだけの価値がある」
シンは詳しく内容を話さなかったが、その真剣な表情から事態は深刻なのだと理解した。
「だから、取り敢えずルゥを俺たちのチームに入れる」
話の前後が繋がらず、テイトは目を瞬いた。
「……どういうことですか?」
「貴族だけあって覚えもいいし、魔法も強い。守りを固めたいんだ」
「でも、ルゥはまだ子供ですよ!」
「……前は、自分と同い年だって言ってなかったか?」
シンに問うような視線を向けられ、テイトは言葉に詰まった。
「……僕は、反対です」
「そうか。でも、こっちにも事情があるんだ。それに、一人隊から抜けたんだ、補充で一人足すのは合理的なことだと思うがな」
「……リゲルは、操られてるだけなんですよね」
テイトが小さく呟くと、シンはこれ見よがしに息を吐いた。
「たとえ操られてたことが判明しても、すぐには地下から出さないぞ」
「どうしてですか?」
「術者がどんな魔法をかけたか分からない以上、リスクは侵せない。魔法の効果が継続してたらどうするんだ?」
テイトは今度こそ完全に黙り込んだ。
シンの言い分は分かるが、それでもルゥの入隊については納得ができなかった。
隊に入れると言うことは、即ち戦場に立つことを意味している。
自分と同い年と言われては身も蓋もないが、彼には自分とは異なり家族がいるのだ。
彼に何かあれば、その家族に申し訳が立たない。
更に納得がいかないのは、テイトが反対するのを分かった上でシンがその発言をしたことであった。
さながら、テイトの意見などさして重要ではないと言われているようで、テイトは悔しさを覚えて俯いた。
シンはそんなテイトを尻目に、話は終わりだとばかりに部屋を出ていってしまった。
一人残された部屋の中でテイトは拳を強く握りしめた。
今できるのは、リゲルの目覚めを待つことのみであった。




