45. 一歩踏み出す勇気
今回の作戦会議も、シンが襲撃予測地を伝え、そこにどこの隊の者が向かうかを決めて終わりを告げる予定であったが、解散の前にテイトは声を上げた。
「――少し、相談したいことがあります」
注目が集まったことを確認し、テイトはゆっくりと発言した。
「貴族に、再度協力を仰ぐのはどうでしょうか?」
その言葉に数人が渋い表情に変わった。
「僕は、貴族の方に断られた時のことを知りません。でも、今は以前とは状況が違います。敵の場所を予測する手立てがあり、それによって街を救った実績もある。今なら、協力してもらえると思いませんか」
テイトはユーリやステラから、貴族に協力を求めたが断られた、としか聞いていない。
貴族にも自分の治める街がある。
そこを守るための人員は増強できるが、それを各地に分散できるほどの余裕はないと言われたのだと。
どういう話し合いで以て断られたのかは知らないが、今の数人の渋い表情から、手酷くあしらわれたことだけは理解した。
しかし、ルゥの言葉を聞いて、貴族の中にも協力しようと考えてくれている存在かいることを知った。
だからこそ、これはいい機会なのではないかと思ったのだ。
「……テイトは知らないと思うが、貴族は魔法が使える者しか認めない。状況が変わったとしても、それは変わらない」
一人が苦々しく呟き、それに同意するように更に数人が重たく頷いた。
前回協力を打診した時にその場にいた者は皆、テイトの案には否定的なようであった。
「協力を求めるだけなら自由だろう。引き受けてくれるなら良し、断られたのなら仕方ない。ただそれだけのことだ」
ラキドがテイトを庇うように発言し、真っ直ぐにテイトを見つめた。
「リーダーが貴族の協力を求めに行くなら、俺の隊が首都まで同行しよう」
「ラキド、お前もあの時いなかったから知らないと思うが、嫌な気持ちになるだけだぞ」
「そうだとしたら、ここまで状況が改善しても貴族は動かないと認識するだけだ。なんの問題もない」
ラキドの言葉はテイトにとってかなり心強いものだった。
「大人数で押しかけるつもりはありません。ラキドのところが協力してくれるならそれだけで十分です。嫌な思いをするなら、少ない方がいいですから」
止めた方がいいのにと言う空気感ではあるが、反論の声は上がらなかった。
その事に一先ず安堵し、ラキドにはまた日程を改めて相談すると伝え、会議は閉幕となった。
退出していく仲間を見送り、テイトの発言には終始無言だったシンに顔を向けた。
「シンさんも、一緒に来てくれますか?」
「俺は行かない」
きっぱりとした否定にテイトは目を丸くした。
シンはなんだかんだ文句を言いながらも、結局はテイトに付き合ってくれることが常であったため、今回も付いてきてくれるものだとばかり思っていたのだ。
「俺も他の奴らと同意見だ。貴族は家の繁栄、つまりは魔法が一番だ。面倒なことに手を貸そうなんて物好き、いるわけない」
「でも、ルゥは……」
「それはあいつがまだ子供で、貴族の考えが染みついてないだけだ」
「でも、彼は僕と同い年です。十一歳なら子供と言ってもある程度自分で考えられる」
シンは小さく息を吐くと、テイトの目を正面から見据えた。
「その刺青を入れる時に、説明されなかったか?」
「え?」
「研究的にはお前はもうすぐ一六歳で、あいつはまだ十歳以下だ。生きた年数が一緒でも、成長速度が異なるからな」
「……意味が、よく分かりません」
「思考の成長速度は身体に比例するんだよ」
そうは言っても同い年であることに変わりはないのではないかとテイトは思ったが、シンはそれ以上説明する気はないようで、すっと立ち上がるとテイトに背を向けた。
「行かない理由は他にもある。緑の鳥がピィピィ五月蠅いから、そろそろ教団に行こうと思ってたんだ」
緑の鳥。
それは以前アニールがレンリに手渡していたものだ。
その鳥が元となり、今では連絡手段として《クエレブレ》でもかなり重宝している魔法の一つとなっている。
そういえば、あれからレンリもナナも戦場に出ずっぱりで確かにルフェール教団には行けてなかった事を思い出した。
「……分かりました」
いまいち腑に落ちなかったが、テイトはアニールが苦手だったため、自分が不在の内に行ってくれるのであれば、とその言葉を飲み込んだ。
その後、テイトはラキドと共に計画を擦り合わせた。
貴族の家長が集まって行われる月に一度の議会に合わせて首都カストルへ行こうと段取りをつけると、来たるべきその時までに準備を整えることを決めた。
隣町のサラファまで行けば、そこからは馬車を乗り継いで一週間とかからずにカストルへ行くことができる。
次の議会までにはまだ二週間以上の余裕があった。




