42. 小さな志願者 1
「――リーダー、少しいいか?」
自室で過ごしていたテイトの元に、困ったような表情を浮かべた仲間が訪れた。
「悪いな、休んでる時に」
「大丈夫。それで、どうかした?」
「実は、門の所にまた仲間にしてほしいって奴が来てるんだけどさ……」
歯切れ悪く話す男に、テイトは首を傾げた。
シンに気をつけろと言われてから、仲間になりたいと志願してくる者が来た場合、ラキドに面接をお願いするようにしていた。
一緒に行動したあの日以来、ラキドは人を見る目があると再認識したからだ。
勿論、ラキドが不在の時はシンの監督下でテイトが面接を行うこともあるのだが、今日はラキドがいない日であっただろうか、とテイトは内心記憶を辿った。
「それが、子供だから、どうしようかと……」
「……こども?」
「リーダーも十の時に加入したって聞いたけど、今門に来てる子は十にも満たなそうだから、どうしたもんか相談したくて」
なるほど、とテイトは思った。
テイトは実年齢こそ十一歳だが、刺青の影響で見た目は既に十五、六歳まで成長している。
本来なら子供の加入など認めないところだが、テイトも年齢だけで言えば子供の範疇だ。
だからこそ、門まで来ているという子供を追い返すかどうか、目の前の仲間が悩んで相談に来たのも頷けた。
「身なりは綺麗だし、子供にしちゃ落ち着いて見えるが……武器を握らせるにはその手は小さすぎる」
「そう。……僕が、話をしようか?」
「そうしてくれると助かる」
男が安心したようにホッと息を吐いた。
どうやら彼はテイトのこの返答を望んでいたらしい。
「それじゃあ、シンさんと一緒にすぐ行くから、いつもの所にその子を案内しといてくれる?」
「あぁ、分かった」
男は足取り軽くその場を離れていった。
テイトは一つ息を吐いてからシンの部屋へと向かった。
嫌な顔をされるだろうなと予想していると、案の定、部屋を訪れたテイトの顔を見てシンは顔を顰めた。
「……何か用か?」
「面接に立ち会ってほしいんです」
「……その役割の奴は決まったんじゃなかったのか?」
「相手が子供だから、今日は僕の方が適任だろうって」
「あんたも一人で見極められるようになってくれなきゃ困るんだが」
溜息を吐くシンにテイトは苦笑を返した。
口では色々と言いながらも、シンは案外人がいいので、テイトの頼みを断ることはなかった。
しっかりと後ろから付いてきてくれるシンを頼もしく思いながら、テイトは正門へと向かった。
正門近くの建物に入ると先程の男が表情明るく出迎えてくれた。
ちらりと背後を窺い見ると、丁度妹と同じ年頃の男の子が椅子に座っているのが見えた。
足もギリギリ床に付いているかどうかというような状態で、背筋をピンと伸ばしてはいるが体の線は細く、報告通りかなり幼い様子である。
(……戸惑うのも分かる気がする)
不意に子供と目が合ったため、テイトは少しドキリとした。
アーモンド型をした黒目は大きく、同じ色のふわふわとした癖毛と相まってまるで子猫のような印象を受けた。
テイトに向かってニコッと愛想良く笑みを浮かべる姿は、なるほど確かに普通の子供に見えた。
「――リーダー、この子だ。ルゥと言うらしい。すまんが、話を聞いてやってくれ」
「うん、分かった」
「……リーダー?」
戸惑ったような声が聞こえて、テイトは内心苦笑した。
この中の誰よりも見た目が若いテイトがリーダーだとは、きっとこの子も予想していなかったのだろう。
子供の前の座席にテイトが腰を下ろすと、シンも黙ってその隣に腰掛けた。
仲間は取り次ぎだけ終えるとそそくさと外に行ってしまい、部屋の中には子供とテイトとシンだけが取り残された。
「はじめまして。クエレブレのリーダー、テイトです。君は、ルゥで良かったかな?」
「はい、ルゥです。……あの、お兄さんがリーダーなんですか?」
「えーと、うん、一応」
お兄さんなどと呼ばれるのが若干むず痒く、テイトは照れ笑いを浮かべながらそう返した。
シンは眉根を寄せてルゥを見ていた。
「そうなんですね! あ、でも刺青があるから、実際はもう少し年上の方なんですか?」
テイトは瞠目した。
刺青を隠しているわけではないが、年上相手に臆することもなく、相手を観察する余裕すら見せたこの子供に、少しの違和感を覚えたのだ。
「よく見てるね。でも、残念ながら僕は見た目より年下で、十一歳だよ」
「え」
子供は大きい目を更に大きく見開き、信じられないと言わんばかりにテイトを見つめた。
その反応に苦笑しながらも、先程の違和感は消えなかった。
「それにしても、よく刺青のことを知ってたね」
「え、あ、有名なので……」
ルゥは気まずそうに一言だけ答えると、テーブルに視線を落とした。
テイトは考えるようにテーブルの上で手を組んだ。
テイトは刺青を入れるまで、その存在すら知らなかった。
貴族しか入れられないもの、しかも今や入れることができる人などいないような珍しいものなのに、何故この子供がその存在を知っていたのか、少し興味が湧いた。
「――ルゥは何故、志願したの?」
「……僕は、アルゲティに住んでいました」
ルゥは覚悟を決めたような表情でそう告げた。
テイトはその言葉を聞いて、ルゥが刺青を知っていたわけを理解した。
きっと、ユーリやステラと同じ理由なのだろう、と。
「家族は、アノニマスの襲撃の時に亡くなりました。その後は親戚を頼って暮らしていましたが、それでも、ずっとアノニマスをなんとかしなくては、と思っていました」
テイトは自分と境遇のよく似た少年に、同情心が芽生えていくのが分かった。
ルゥの気持ちは、それこそ痛いほどによく分かった。
「そんな時に、アノニマスと戦う貴方達のことを知りました。ここに拠点があると聞いて、いても立ってもいられなくて、それで、僕――」
「――嘘だな」
「え?」
テイトの横から、恐ろしく冷たい声が聞こえた。




