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41.  進退の行方

 翌朝、テイトとルゴーの隊は拠点への帰路についた。

 一週間様子を見て何もなければ戻ってくるように伝えると、ラキドはしっかりと頷いてみせた。

 ナナはカノンとの一時の別れを惜しんでいるようで、抱きつかれているカノンは満更でもなさそうな表情で笑っていた。


 途中通りがかった小さな村の宿で皆が思い思いに休む中、テイトはレンリを外に呼び出して、もう一度話をしようとした。

 シンの心ない言動に困っていないか確認すると、レンリはただ微笑んだ。


「ありがとうございます。無理難題を押しつけられそうな時はすぐに伝えますね」

「でも、あんなに冷たい言い方でしたし、傷付いたりしてませんか?」

「冷たい?」


 レンリは首を傾げた。

 戦場でまた同じ状況になったら困るとの物言いはテイトは非情だと感じたが、彼女はそれを本当に気にしてないらしい。


「……気にしてないのなら、大丈夫です」


 わざわざシンの台詞を繰り返す必要もないだろうとテイトは話を終わらせようとしたが、レンリは困ったように笑った。


「冷たいと思いましたか?」

「いや、どうでしょう……効率的な人だとは思いますが」


 冷たいと口にしたが、それは本意では無い。

 シンがそれなりに面倒見のいい人物であることも知っていたため、テイトが気まずくなって目を逸らすと、レンリは可笑しそうに笑った。


「ふふ、確かに」

「ごめんなさい、僕の言葉が悪かったと思います」


 シンを冷たいと称することがまるで陰口のように思え、テイトは罪悪感を覚えると同時に恥ずかしく思った。


「シンは決して嘘を吐かないから、私はそれだけで安心できます」

 だから、本当に大丈夫ですと繰り返してレンリは再度微笑んだ。


 その言葉に、テイトは視界が晴れるようなそんな感覚を覚えた。


 レンリの言う通り、シンの発言に今まで嘘はなかった。

 予想で語る時はきちんとそれを伝えるし、無理なことは無理と言う。

 思ったことをそのまま取り繕うことなく語る明け透けな態度は、周囲に生意気と評価されることも確かだが、嘘を吐かないと称されれば途端にシンが善人のように思えた。

 レンリにかかれば悪人などいなくなりそうで、そんな突拍子もないことを考えてしまうぐらい、テイトのシンに対する評価も一瞬にして変化した気がしたのだった。



 行きと同じ日数をかけて拠点に戻り、拠点到着後テイトは迅速に会議を開いた。

 シンの予測が的中したこと、ラキドは様子見のために街に残ってもらっていること、そして《アノニマス》の者に施された呪いの可能性を伝えると、驚きの表情を浮かべていた仲間の顔は次第に曇っていった。


 シンにどうするか再び選択を迫られたが、すぐには答えが出なかった。

 仲間の殆どが《アノニマス》に大切なものを奪われた者であり、《アノニマス》に対して一様に並々ならぬ感情を抱いている。

 《アノニマス》が望まぬまま人を殺すよう指示されていたとしても、複雑な感情が生まれることは仕方のないことであった。

 何故なら、彼らが人々を殺したのは変えようもない事実で、許せるはずもない存在であることも依然として変わりないのだから。


 誰もが口を閉ざす中、出し抜けにシンが次の襲撃場所として二つの地方を提示した。

 一つは、今まで通り無作為に見せたい場合としての襲撃場所。

 もう一つは、テイト達によって邪魔されたことで敵が作戦を変えた場合の襲撃場所だと語った。


「……君は、どちらの可能性が高いと思う?」

「完全に五分だな。敵の指導者への伝達速度がどれくらいのものかも分からないし。ただ相手は魔道士だ。あんた達の想像の範疇は超えてくるだろうな」


 シンの言葉には相変わらず棘があったが、仲間達がそれに反論をすることはなかった。

 彼に対する信頼の気持ちが生まれたのだろう、とテイトは人知れず安堵した。


 取り敢えずは追い返すことを目的に話し合いは進められ、現在する隊を三つに分けて一つは拠点の守りを、後の二つはそれぞれの襲撃予測地へ向かうということで議論は収束し、シンは全ての隊の隊長にあの鳥を手渡した。

 遠く離れていても鳥を持っている者への伝達が可能だと教えると、各々驚嘆の声を上げながら、シンの力を認め心強く思っている様子であった。


 シンは拠点で《アノニマス》の動向を探るだけではなく、テイトと共に襲撃地に向かい戦ってくれる意志を見せたが、戦場にはレンリとナナも同行させる気でいるようだった。

 テイトは正直、レンリを戦場に連れて行くことには反対だった。

 彼女は少し強力な魔法が使えるだけで、戦いとは無縁のただの民間人なのだ。

 前回のでそれは証明されたはずだ。

 彼女の魔法は確かに重宝できるものではあるが必須でもないだろうとシンに抗議したが、それが聞き入れられることはなかった。

 レンリにまで大丈夫だと言われてしまえば、テイトにはそれ以上何も言うことができなかった。

 

 そうして各地に分散した仲間達だったが、またしてもシンの予測は的中することとなった。

 襲撃される前に全ての敵を追い払い、未然に街を守ることができたと仲間達は湧いていた。

 しかも、シンやレンリと言った強力な魔道士がいたおかげで、皆が無傷であったこともその大きな一因であった。


 その後拠点で行われた宴会にて、今回も一緒に戦ったルゴーがレンリのことを何やら仲間達に吹き込んだらしく、翌日に彼らがレンリを見る目はどこかルゴーに似た眼差しとなっていた。


 二回続けて予測に成功したシンを疑う者など、もう殆どいなくなっていた。

 しかし、追い返すことができても根本的な解決になっていないこともまた事実。

 テイトはどうにか状況を打開しなければと必死だったが、それらは全て徒労に終わった。

 シンもあの夜に言ったように敵の出方を窺っているようで、何か新しい提案をすることはなかった。


 気付けば、拠点を得てから一ヶ月の時が過ぎようとしていた。


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