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35.  呼び出し

 三日ほどかけてナスタチウム地方に到着した時、ラキドだけは憔悴しきった様子であった。


 それもそのはず、女子三人(特にカノンとナナ)は恋バナに花を咲かせ、その話題の中心は専らカノンとラキドのことであった。

 ナナはカノンのことを気に入ったのか、お姉様と呼んで話を促し、カノンはそれに乗せられるようにペラペラと自分のことを語った。

 カノンもナナも声が大きく、一緒に固まって歩く仲間達にはその会話の大半が聞こえていた。

 ラキドは何度か諫めていたが、それが効かないと知ると頭を抱えながら歩くのみであった。

 本当にご愁傷様としか言えない。


 話の流れでナナとレンリに恋人の有無を尋ねた時には、ルゴーも含めソワソワと聞き耳を立てていた者が何人かいた。


「――ナナちゃんは? 好きな人はいるの?」

「それは……乙女の秘密ですわ」

「教えてよー。あ、レンリちゃんは? 恋人の一人か二人ぐらいいそうだけど」

「……どうでしょう」

「えーなにそれ。あ、じゃあ、この場を代表して聞くけど、好みのタイプとかは?」

「……すみません、考えたことがありません」

「もしや、レンリちゃんも乙女の秘密ってやつ? 私は赤裸々に話したのに」


 記憶のないレンリに恋人の有無など分かるはずもないのでそう答えるしかなかったのだろう、とテイトは思っていたが、その返答に勝手な想像をしたのか、ルゴーは顔を顰めて歯を食いしばっていた。

 どうしたのかは敢えて訊かなかったが、おそらくその判断は正解だと思う。


 勿論、女子の話に耳を傾けていただけではなく、《アノニマス》と戦うことになった時の注意点の共有も事前に行っていた。

 魔道士であるシンは前線で一緒に戦うが、レンリとナナは後方支援に回るとあらかじめ伝えておいた。

 そして、敵と戦う時は遮蔽物がない場所で戦うようにとも。

 その言葉に耳を疑うようにしていた者達も、レンリの防御魔法のことを伝えると驚きながらも納得したようであった。


 いつもより賑やかな旅は、分岐点に訪れた時に終わりを告げた。


 シンの予想はナスタチウム地方であるとだけで、明確に村や街の名前を挙げたわけではない。

 ここから隊ごとで村や街に分かれなければいけないため、気になるものがあったら伝えてくれ、とシンはアニールに渡したような小鳥を三羽創り出し、それぞれテイトとルゴーとラキドに手渡した。


 ちなみにアニールから貰った小鳥は、あれからずっとナナの肩にいる。


 興味深そうに小鳥を眺めていた二人も、使い方についてはアニールに説明していた内容を聞いていたようで、了解したと小鳥を手にその場を離れた。

 先日知ったばかりの魔法を早速応用していることにテイトは素直に賞賛の目を向けたが、どれだけの範囲で何日間形を保っていられるのか楽しみだな、と研究者の目で口の端を吊り上げたシンに、応用ではなく実戦で試しているだけなのだと知り、一気に不安を覚えた。


 テイト達は近くの村に滞在し、周辺の町村を行き来する形で何か異常がないかを探った。

 しかし、この二日間周囲に取り立てて変わった様子はなく、ルゴーやラキドから連絡がくることもなかった。

 シンの予想が外れたのだろうかと危惧した時、こちらへ飛んでくる青い小鳥の姿が見えたため、鬱蒼とした空気は瞬く間に張り詰めたものへと変わった。


 小鳥はシンの伸ばした手に止まると、ラキドの声音で話し出した。


「――ラキドだ。怪しい奴を見かけた。場所はヴィオレイだ」


 その言葉を伝えると、小鳥は空気に溶けるように消えていった。


 ヴィオレイは隣の街だ。

 今から向かえばすぐに着くことができるだろう。

 テイトもリゲルもピリピリとした空気を纏ったが、シンは冷静な様子でテイトの肩に乗った小鳥に手を伸ばした。


「――ヴィオレイに来てくれ」


 シンはそう告げると、小鳥を空に放った。

 鳥は真っ直ぐとどこかを目指して飛んでいき、その姿はすぐに見えなくなった。


「……これじゃ伝言ゲームだな。まだまだ改善の余地がありそうだ」


 緊迫した空気を気にも留めず、シンは面白そうに笑った。

 いつも通りのシンにテイトの緊張も解けていくようで、しっかりとした足取りでヴィオレイに向けて歩き出した。


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