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【テイトの覚悟 7】 

 結局、ユーリさんが刺青を入れることは叶わなかった。


 刺青を彫ることができる人はそもそも少ない上に、刺青の研究をしていた研究施設は何者かによって半年程前に破壊され、彫師が今どこにいるのか、生きているのか死んでいるのかも分からない状況だったため、僕が出会えたのは本当に奇跡のようなことだったらしい。

 しかも、通常は高い金額が発生するため、貴族ぐらいしか刺青を入れることはできないのだと後から教えられた。


 その後、僕は一応仲間として認められたが、戦闘に駆り出されることはなかった。

 まだまだ不安要素だらけだと言われ、ユーリさんから体術や剣の使い方を学び続けた。

 ユーリさん達が不在の時は、一人魔法の勉強に注力した。


 仲間はよく入れ替わった。

 見送ったはずの人が帰って来ず、代わりに新しい人が仲間に加わった。

 その度にユーリさんは僕にちゃんと覚えるようにと挨拶を促した。

 みんな僕に何も言わなかったが、おそらく帰って来なかった者は戦いの中で命を落とし、新しくやってきた者は僕のように助けられた人なのだろうと思った。


 ユーリさんから合格を貰ったのは、僕が《クエレブレ》に加入して半年経った頃だった。

 その頃には身長も二十センチほど伸びて、髪も少し長くなっていたため、ステラさんに妹のリボンで髪を一つに縛ってもらった。

 筋肉もついてきたのか、ユーリさんが使うような剣も持てるようになっていたが、合格は短剣だけだからと剣を持つ許可は下りなかった。

 ステラさんは合格祝いと言って僕に赤い革の眼帯をプレゼントしてくれた。

 いつまでも包帯じゃ格好つかないからね、とステラさんは悲しそうに笑っていた。


 初めて立つ戦う者としての戦場は、本当に恐ろしかった。

 でも、考えるよりも早く体は動いてくれた。


 虐殺を行う敵を退けながら、敵の魔法の強さを目の当たりにした。

 確かにこれは僕では敵わない、でも最初に指示された通り懐に入ってしまえば僕の方が強かった。


 強大な魔法に苦戦しながら敵を全て退ける頃には、町は半壊していて、たくさんの犠牲者が出ていた。

 助けてくれてありがとうと感謝されたが、でも、もっと早く敵を退ければこれほどの犠牲は出なかったのに、と歯がゆさが残った。


 ユーリさんは戦いの後に僕の元へとやってきて、ちゃんと生きてるか?と可笑しなことを聞いてきた。

 見ての通り大丈夫ですと伝えれば、俺が鍛えたんだから当然だなと笑っていた。


 子供である僕が戦う姿に感化されたのか、仲間は増えていったが、それと同じくらい失うことも多く、情報収集のできる非戦闘員の協力者がたくさん増えても、戦うことのできる仲間は百人前後を行ったり来たりするような状態だった。

 大きな魔法を見せつけられ、戦意喪失して離脱する者も少なくなかった。

 そうなると、やはりこちらも大きな魔法を使える者を仲間にしなければならないだろう、と言う声が多く上がるようになった。


「って言っても貴族の連中は協力する気もねぇし」

 どうしたもんかなぁ、とユーリさんは僕とステラさんしかいない部屋で項垂れた。


 戦場に立つようになって三ヶ月程経つと、僕は作戦会議にも同席させてもらえるようになった。

 それと同時に、彼はこうして弱い部分を見せてくれるようになった。


 仲間の前では冷静に指示を出す彼は、本当はプレッシャーで押しつぶされそうになっていたのだと知って、驚くと同時に安心したのを覚えている。

 仲間を失っても泣き言一つ言わず、常に次の戦いのことを考えていた彼をどこか遠くの存在のように感じていたのだが、彼も一喜一憂する僕と変わらない一人の人間だったのだ。


「……あん時、俺も刺青を入れられたら良かったのに」

「あんたが入れたところでそこまで変わんないわよ」

 ステラさんにぴしゃりと言われ唇を尖らせるユーリさんは、実年齢よりも幼く見えた。


 雑談も多くするようになって、二人は幼馴染みであることを知った。

 恋人ではないのかと尋ねると、ステラさんは顔を真っ赤にして否定していた。

 二人はアルゲティという首都の近くの街の出身なのだそうだ。

 近くに大きな国立の魔法研究所があって、そこで働く研究者がものすごい早さで老化していくのが近所で忽ち噂になり、その原因が刺青であったことを知った時に、二人はそれがとても恐ろしい物なのだと認識してしまったのだと言う。

 だからこそ、僕の刺青を見た時にあれほどまでに動揺してしまったのだ、と改めて教えてくれた。


「テイト、命令だ。魔法が強い奴を連れてこい」

 お前は子供だから、みんな警戒を解いたり同情したりして色々情報もくれるだろう、と真面目腐った表情で語るユーリさんの後頭部をステラさんが叩いた。


 いつものやりとりに僕はははと乾いた笑みを浮かべた。


「情報収集ぐらいは勿論しますけど……」


 前と比べて低くなった声で僕はそう伝えた。

 人より早く成長するようになった僕が子供と認識されるのは、あとどれぐらいなのだろう。

 子供であることが役に立つならば元より協力するつもりではあるが、時間はそれほどないかも知れない。


「声変わりしてなきゃ完璧だったけど、仕方ねぇな」

「ユーリ! テイト君にだけ任すんじゃなくて、あんたもやるのよ」


 ステラさんに言われ、ユーリさんはうんざりとした顔で両耳を塞いだ。

 そういうことをするから悪化するのになぁと内心思って眺めていると、ユーリさんはまた後頭部を叩かれていた。


 それから、僕は言われたとおり《アノニマス》の情報よりも優先して、大きな魔法を使える人の情報収集を行うようになった。

 移動した先々で聞いてみたが大した情報は集まらず、仲間内で情報交換もしたが有力そうなのは手に入らなかった。

 たまに、それらしい情報をもらって当事者の元へ行き協力を仰いでみても、渋い顔で拒否されるだけだった。


 成果を得ないまま三ヶ月の時が過ぎた。


 仲間達は終わらない戦いに次第に疲弊していき、仲間割れも頻繁に起こるようになった。

 ギスギスした空気が残って連携も上手く行かず、仲間は徐々に減っていった。

 表向きは気にした風のないユーリさんも相当参っているようであった。


 圧倒的な魔法力を持つ少数精鋭の相手に、事前に襲撃を防ぐことも叶わず、たくさんの死を目の当たりにして、皆の心も死んでいくようだった。


 そんな時に、僕はとうとう有力な情報を掴み、ユーリさんの元へ駆け足で報告に向かった。


 運搬業を営む御者から仕入れた情報だった。

 彼によると、ここから東に行った所に《迷いの森》と呼ばれる場所があり、そこに足を踏み入れると気付かぬ内に入口に戻っているのだという。

 彼も実際にそこを訪れ、近道のために森の中を突っ切ろうとしたらしいが、いつの間にか森に入る前の場所に戻ってきており、結局遠回りをしなければいけなかったのだとか。

 三年前に通った時にはそんなことなかったのになぁ、と最後にぼやいていたのが印象的だった。


 僕はそれらの情報を全て、余すことなく伝えた。


「ふーん、迷いの森、ねぇ……」

「誰かが魔法を使って空間認識能力を奪っているんだと思うんです」

「だとしたら、すげぇ魔法使いだけど……」


 喜ぶ様子もなく、歯切れ悪く答えるユーリさんに僕は不安になる。


「入口に戻されるなら、私たち会えるかしら?」

「あ……」


 ステラさんの声で、その可能性にようやく気が付いた。


「そんな広範囲に、俺たちが想像もつかない魔法をかけてる奴、確かに仲間にできたら心強いな。てか、本当に魔法か?」

「疑う気持ちには同意するけど……それ以外説明はつかないわね」

「だったらかなり賢い奴だな」


 からから笑うユーリさんの声を聞きながら、僕は自分の考えの足りなさを恨んだ。

 すごい魔法使いがいるかもしれない、それだけしか頭になかった。


「まぁ、会えない可能性がゼロって訳でもねぇだろう。行ってみるか?」

「え?」

「なんだよ、そのために俺に報告くれたんじゃねぇのかよ?」

「そうですけど、時間の無駄になるかも……」

「無駄? 今までだって別に上手く使えてねぇよ」


 可笑しそうに笑うユーリさんに救われた気持ちがした。

 じゃあ何人かに声かけるか、とユーリさんが立ち上がりかけた時、慌ただしく扉が開かれた。


「ユーリさん! 次のところ、ここから近いみたいです!」


 その言葉に、ユーリさんの目の色が変わった。


「分かった、この街にいる奴らに準備するよう伝えろ。十五分後には出る」

「はい!」


 来た時と同じように素早く去って行く仲間の背中を見送っていると、小さなため息が聞こえてきた。


「わりぃな、テイト。魔法使いはこれが終わってからだ」

「いえ、当然です」

 僕も準備しますと伝え、部屋を出た。


 街にいた仲間達が集まり、時間通りに襲撃地へと出発した。

 暗い顔をした集団は、それでも間に合うことを期待して勇み足で彼の地へと向かった。


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