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第21話 頑張ったのににゃあ

「どうもっす! あ、お嬢様もお久しぶりっす!」

 元気に挨拶したリリスは、何とも言えない顔で眺めてくる三人を不思議そうに見た。

「皆さん、どうしたっすか?」

「どうしたも、こうしたも……」

 様子がおかしい侯爵家の面々を不思議そうに見たリリスは、ちょっと考えてにやりと笑った。

「そういうことっすね? 大丈夫、このリリスにお任せくださいっす!」

「は? 何を……」

「良い下痢止め知ってるんで、ひとっ走り取ってきます!」

「イイ笑顔でいきなり何を言い出すのよ……!?」

 嘆く侍女に、男爵令嬢(一応お嬢様)は真面目に答えた。

「だって、お嬢様の具合がよくないっていってたから、てっきりそれかと」

「それだけで何日も寝込むはずがないでしょう!?」

「……あ」

 リリスが膝を打った。

「出ない方っすか」

「あなたの知ってる体調不良って、腹具合しかないの?」

「メシが食えるかどうかは、生物には一番大事なことっすよ?」




「おまえ、違法店舗の取り締まりで捕まったんじゃなかったのか?」

 ナネットに訊かれて三人が何を不思議がっているのか理解したリリスは、ゲタゲタ笑いながら手をひらひら振った。

「アッハッハ、あんなのに捕まる訳ないじゃないっすか!このリリスちゃんを見くびらないで下さいっすよ」

「そう言うってことは、ろくな話じゃないな?」

警吏(マッポ)が踏み込んで来た時、ちょうどホールの片づけをしてたんすよ。だからピンと来た瞬間、奴らが名乗る前に近くの窓を突き破って外へ脱出したっす!」

 リリスが歴戦の猛者の貫禄を滲ませ、親指をグッと立ててみせた。

「不意をついて包囲網を突破してしまえば、下町はこっちのフィールドっすからね! このリリス・バレンタイン、()()()()()()()いつでも『常在戦場』の心意気っす!」

摘発逃れ(そんなの)に慣れてて、なぜ恥ずかしげもなく貴族令嬢を名乗れるのかしら……」

「何の経験値を稼いでいるのよ、あなたは」

「貴族の誇りって、そういうところで使うものじゃないだろ……」

「あっれー? 意外な低評価!?」




「あー、それにしても……せっかく上客をたくさん紹介したのに、分け前もらいそこなったっす……」

 ガサ入れの話を思い出して一転して元気がなくなったリリス。店が閉鎖になっちゃったので、紹介料が払われなかったのだという。

「それ紹介って言うより、騙して連れ込んだって言った方が正しいのでは」

「好きな店で良いって言うから、馴染みの店を紹介しただけっすよ!」

「物は言いようね……」

 リリスがハッとして顔を上げた。

「あ、よく考えたら」

「なによ?」

「これクララさんに言われてた、『取り巻きを(とりこ)にして骨抜きにしろ』って指示通りと言えないこともないんじゃないっすかね!?」

「確かに虜囚にはしたわね。警吏が、だけど」

「大幅に欠員にしたって意味では、骨抜きって言えなくもないのかな……」



  

「さて」

 リリスの武勇伝? が一段落したところで、カテリーナがマニュアル(少女小説)を手に咳払いをした。

「ここまでこちらを参考に、『ミシェル殿下からの婚約破棄大作戦』を続けてきたわけでございますが……」

「お嬢様、作戦名がダサいっす」

「しっ! 黙って聞いてろ!」

 いったん口をつぐんだカテリーナは、本をぱたんと伏せると頭を抱えて考え込んだ。

「……これだけやって、なんで物語が始まらないの……」

 侍女と騎士も思いは主と同じだ。

「リリスさんがいろいろやりすぎましたからね……」

「しかも一つも成果につながってないよ」

 誰も褒めない。


「いやいやいやいや! お待ちになって?」

 仕事ぶりを次々非難され、金欠系男爵令嬢は慌てて待ったをかけた。ここで計画中止とか言われたらとっても困る。前の勤め先は潰れちゃったし。

「ちょっと皆さん? なんかまるで、アタシが何も役に立ってないみたいな言い方じゃないっすか」

「“まるで”じゃなくって、“そのもの”じゃない」

「いやいや、そんなことはないっしょ? 順調に行ってるじゃないっすか!」

「今までにどんな進展があったんだよ」

 リリスの有能アピールに、ジト目のナネットが指折り数えた。

「ちょっとしたアクシデントからの出会い。

 王太子殿下に助けられての微笑ましい交友。

 手作り弁当を差し入れての昼食会。

 側近が出場するイベントで応援で注目される。

 いじめられてひどい目にあっているところを助けられる。

 取り巻きたちと親密な付き合いでメロメロに」

「ほら、盛りだくさん」

「これだけイベントを重ねておいて、王太子殿下と少しでもイイ感じになった?」

「えーっと……」

 天井を見つめながら一生懸命記憶を探るリリス。

「……あの王子様、思ってることが顔に出にくいっすからね! きっと内心リリスちゃんにメロメロ! たぶんあと一押しっすよ!」

「どこがだよ」

 



「予定では、そろそろリリスと殿下がお互いに秘めた思いを募らせているところへ私がいじめているのが発覚! なはずなのですけれど……」

 カテリーナがどんよりした目でため息をつく。

「全然そこまで行けてないんですの」

「まず王太子殿下の好感度が上がってないですね」

「そもそもか弱くいじめられてないといけないのに、この役立たずが図太過ぎて全然可哀想にならないよ」

「今まさにいじめられてるっす」

 周囲の声にまた頭を抱えるお嬢様。

「なんでシナリオの通りに行かないの……」

「脚本がポンコツだからじゃないっすかね」

「メチャクチャに引っ掻き回している主演女優(おまえ)が言うな」

 悩んでいる主に聞こえないのを確認しながら、女騎士(ナネット)がリリスに耳打ちする。

「おい、お嬢様は打たれ弱いんだからさ。おまえがしっかりしてくれよ」

「と言われても」

「じゃないと」

 女騎士は最高にまじめなキメ顔で囁いた。

「傷心のお嬢様を私が身も心も慰めてキャッキャウフフって将来設計はどうなるのよ!?」

「なんでこのダメ人間のダダ漏れな欲望が、お嬢様にバレてないのか不思議で仕方ないっす」




 そんな感じに婚約破棄(茶番劇)が、演出の問題で頓挫しかけているちょうどその頃。

 彼女たちのあずかり知らぬところで、別口に黒い陰謀(笑)が動き始めていた。



   ◆



「やはり人選ミスが大きいと思われます。コレをまず他の者に交代させましょう」

「そんな悲しいことを言わないでクララさん!? 一緒に王宮へ行った仲じゃない!」

「いや、賛成だな。そこをやらないと、にっちもさっちも進まない気がする」

「ナネットさんも、何をとんでもないことおっしゃるの!?」 

「ミシェル様ぁ……」

「お嬢様も未練があるのか無いのかはっきりしてくれませんかねえ!?」

「とりあえずコイツはクビで」

「お嬢様に洗いざらいぶちまけるぞこの野郎!」

「どうしたら、この泥沼から抜け出せるのかしら……」

「クララさんも考えすぎるとハゲるっすよ……ア痛タタタタ!? ちょっ、手が出るようになってきた!? もうツッコミが間に合わないっすよ、この人たち!」

「おまえが言うな」

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