第8話 変態クソ野郎
お楽しみください
「はっ、はっ、はっ」
シベリナとクイェンナ、そしてもう1人は森を駆けていた
~~王女失踪事件〈解決編〉~~
事件の犯人は王女シベリナ自身である
ことの顛末を説明するには少し時を遡り、
昨夜ーー。
「...サンシティのギルドに向かい、ゴールドのランカーを雇うということですか...?」
「そう、おにいちゃんたちの負担をなるべく減らしてあげたい
...マイオさんには悪いけど、あの歳でシルバーランクだよ...心許ない...」
「ボクも、なぜあの方が王女護衛として雇われたのか不思議です...」
「お父様もまた信頼を置いているようだけど」
「...そうですね、ボクもシベリナ様の案には賛成です
...ですけど、護衛をボク1人だけというのは断固として反対です!!」
「んー!!なぜか説明したでしょ!!」
説明は受けた
〈色伯〉エロアイズは色狂いの変態クソ野郎だけど、魔術師としては最強に位置づけられている
魔力感知が優れているかもしれない
大勢で移動すれば感づかれるリスクは高い
それにギルドに向かっていると悟られれば、王国の人員不足もバレ、魔王軍に攻めいられる可能性がある
「納得は出来ます」
「じゃあ、深夜出発ね!!
私の魔力が最も弱まる時間帯だから」
魔力量はマイヴァイス王国騎士長とほぼ同じ
普通ならそんな強大な魔力が移動すれば九分九厘感知される
闇や無に対抗しうる系統・光
シベリナ様はその魔力の持ち主
太陽の加護であり、ラセニマ王国で広く信仰されている力
ただ、あくまで陽光から得ている魔力で陽が沈めば大幅に弱まる
「だから危険なのです!!
自ら火のなかに飛び込むバカがどこに居るんですかっ!!」
「火じゃなくて暗闇だよ...?」
「例えですよ!!バカぁ!!」
クイェンナが珍しく怒っているのに少し驚きつつも、シベリナも根が負けず嫌いなので
「バカバカ言うなぁ!!私、王女だかんね!!
クインちゃんが護れよ、バカぁ!!!」
「っ...護りたくても、ボクには魔力が無い!!
悔しいけどボクの力ではシベリナ様を護りきれないのですよ...!!」
言いたいことを言い切り、2人は息があがる
「...ボクに魔力が無いのも理由のひとつですよね......」
「うん、感知されるリスクは減るしね...
それに、クインちゃんは不遇を乗り越え、騎士になった...!!」
...女性騎士は居るが、その多くが魔力を武器に纏っての特殊攻撃
そのために手持ち武器は短剣などの力に頼らないものが基本
でもボクは両手剣を選び、騎士学校を卒業した
頑張りはボクが女だということと魔力が無いことで全く見てももらえなかったけど...
「...ボクは弱くない...」
「そうだよ!!
だからクインちゃんが居れば...」
「ダメです、誰にでも弱さはあると始めに会ったときにシベリナ様は仰っていましたよね
その通りです
その弱さを補うのに数は必要なのです」
ぐっ...ぐぅぅ!!
言ったよ!!覚えてるよ!!
でもそこはあれでしょ!?分かるよね!?
「頑固者ぉ!!私の権力に媚びれよぉ!!!
否定したらどうなるか!?とか、ここで恩を売っておけば...!!とかぁ!!!
頑固すぎるわっ!!」
「シベリナ様が大事だからですよっ!!」
「ぶふぉーー!!」
暗闇からの突然笑い声に2人は身を寄せる
「あっいや、別に盗み聞きするわけでは無かったんだけどね」
「ビトライ2等!!」
2等ってことは...まずいっ!!
おにいちゃんに報告される...!!
中堅層は世代なのか特に規律や騎士社会を重んじる
おにいちゃんに知られれば、本当のことも...
「先ほどの話だが、僕で良ければ同行するよ」
「...へ?」
「夜中の城門の見張りは僕にですけど、昼に出たから今日は休みなんです
書類には夜見張りは僕となっているから、バレずに城門を越える手引きは出来ますよ」
たしかにそこが唯一の懸念だった...が、
「...協力は感謝しますが、なぜおにいちゃんに従順な中堅騎士が私に?」
「ははっ、そう警戒しないでください
...たとえここで引き留めたとしても行きますよね?
僕自身も見込めない援軍よりも少しでも戦力を整え、マイヴァイス王国騎士長に、国王陛下に恩を返したい一心でありますので」
「...それなら...別に...
ビトライさんに同行を頼めばクインちゃんも文句無いよね?」
「...分かりました...」
やけにアッサリと引き下がる
「雇うためのお金は用意してある
説明した通り、深夜出発ね」
ーーそして、現在に至る
「はぁ、はぁ、はぁ...おかしい...」
クインちゃんや私はともかく、ビトライさんに同調が使われないのはなぜ...?
不在には気付かれているはず
探すのに時間がかかるのは分かる、でも同調という手段を使ってこないのはおかしい
私の予想外のビトライさんへと使わないのはなんで...?
違う、今はそれはどうでもいい
考えなければ
この2人を撒く方法を...
「はぁ、はぁ...だいぶ明るくなってきましたね」
変態クソ野郎に気付かれる前にこのお金を2人に渡して、私は自らの意思でエロアイズの手におちる
それで万事解決なはず...
噂に聞く性格なら私を手に入れれば、ヤツの興味は国から外れる
ただその場合、私のワガママに付き合わせた2人はどうなるか...
せめて責任が届かない場所で、このお金で暮らしてほしい
「...ごめんなさい...」
陽が昇れば魔力が供給されて、光特有の回復魔法を使える
隙を見計らい、足を緩める
「はぁ、はぁ...シベリナ様...?」
ちょうど朝方に森を抜けるようルートを調整したのも、今、この時のため!!
〈光・回復魔法 “リ・チャージ“〉
全速力でっ!!
「前方でモンスター確認っ!!」
足を止めるシベリナ
「もぉ!!タイミング悪いなぁ!!」
「なんですか?」
「なんでもない!!」
魔王軍の手先...?
だとしたら、私が居なければ却ってこの2人が危うくなる!!
「ビトライ2等!!
周囲に他モンスターがいる気配はないかと...」
「では、あの1体だけか」
あのモンスターはC級か級無しか
判断を誤れば、シベリナ様に危害が及ぶ
「...僕が相手をしよう
クイェンナ3等はシベリナ様を」
「了解!!」
夜通しでサンシティへと向かって、体力は削られている
C級と戦うには不安だ
2人で戦えば勝つ可能性はあるが、負ければシベリナ様は1人
その状況は避けるべき
マイヴァイス王国騎士長への報告の時間は、多分だけど意図してシベリナ様に潰された
期待していたビトライ2等への同調もなぜかこない
とにかく、あのモンスターを打破するのが絶対
ビトライ、クイェンナは剣を抜く
「ふぅ......
かかってこいっ!!!」
ビトライの声に反応するように襲いかかってくる
「ギィヤァァァァア!!!」
「っふっっ!!!」
2等の実力は確かのようで、一振りで確実に斬り伏せた
断ちキズを受け、血を流しながら地面を弾むように転がる
「はぁ、はぁ...良かった
この程度で周囲に他モンスターの気配が無いというのならば、級無しか...」
「...先に進みましょう
また襲われるまえに」
この気が散っているいまが、絶好のチャンスなのでは...!!
バキバキ...。
ーー瞬間、
「っあ!?ビトライ2等っ!!!」
殺したはずのモンスターがビトライの顔を覆うように噛みついてくる
「うぐぁ、ぐっ...えばぁ!!...」
歯が食い込み、鮮血が飛び散る
小石に足がとられ転ぶ
土埃が舞うほどの抵抗を見せるが、次第に身体が痙攣するだけとなる
「...あ...っ!!
引き返しましょう!!シベリナ様っ!!」
誰も死なない選択をしたはず...
だっ...だっ...だれ、誰も...
「シベリナ様っ!!」
「......えっ...」
あり得ない光景に2人は目を見開く
顔面をモンスターに噛みつかれながらも、フラフラと立ち上がる
キズからは血が流れ続けていて、踏む地面には血溜まりが出来ている
その異質な人体は姿を変えていく
ビキッバキバキ...ベキャッ...
「はぁ...使えないザコも役に立つものだな
足りない魔力を補えた...」
変化した姿形は前までの異形とは異なり
まるで美少年のような見た目へと変態する
「あはっ、会いたかったよ
シ・ベ・リ・ナ...ちゃんっ!!」
魔王・幹部〈色伯〉のエロアイズ
シベリナの前に顕現する
ビトライさんはマイオが迷子のときに会った騎士です
ビトライからエロアイズへと変わるのは同調と同じ仕組みで、これは移行と呼ばれています
お時間いただきありがとうございました