第7話 ワガママな王女さま
お楽しみください
「クインちゃぁん、慰めてぇ~」
「シベリナ様!?どうされたのです」
クイェンナの胸に顔をうずめる
「...ゴメンね、私のワガママに付き合わせたせいで...
大変だったら言って 権力使うから」
「そんな堂々と言えることではないと思いますが...」
優しくシベリナの頭を撫でる
「ボクは平気です
マイヴァイス王国騎士長の懐の広さを改めて...」
唇をツンととんがらせて頬を膨らませながら
「おにいちゃんは小石よっ、こ・い・しぃーー!!
昔から変わらない 私とお父様のためなら命も捨て去る...」
「...?それが騎士なのでは?」
「クインちゃんもそーいうことをさも当然のように言う
...私は、好きな人たちに辛い思いをさせたくない」
すべて分かっている
国民に現状を伝えればどうなるのかを...
もう誰にも死んでほしくない
「...クインちゃん、私のさいごのワガママ...聞いてくれる?」
「最後...ですよ」
「うんっ」
日もおち、空に星がかすかに見える
背伸びして、風に髪がたなびく
「うん、最期の...」
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早朝、騒々しい警鐘が鳴り響く
日常には似つかわしくない、鉄格子が軋む音
轟々しく響くそれに、王都に住む人々は恐怖を感じる
「装備を整え、武器をとれぇ!!!」
騎士の1人が声を荒らげる
正門へと王国騎士団が駆け向かう
「いきなりどうして!!?」
「いやだ、いやだ、死にたくない」
「はんっ!!たかが、ザコモンスターだ!!」
「そうだよ、訓練でC級レベルを俺たちは倒しているんだ
街や都を襲うのはD級以下の頭が足りないやつらだ 敵じゃあない」
国民を正門から離れている王城の周辺へと避難させる
「はぁ、はぁ、隊列を組めぇ!!!」
騎士それぞれが剣を、武器を構えて陣形を組む
城門の上層から門を破壊せんとするモンスターの情報を着いた騎士団へと
受け取った中堅騎士の1人が合図を出すと、門が動きだす
「はぁ、はぁ、はぁ...」
内外の鉄格子が完全に上がり、分厚い門扉もまた上昇する
開門途中にも関わらず、その隙間から異形の腕が中に入ろうとうじゃうじゃと出てくる
実戦を経たとはいえ、あくまで訓練
首輪を付けられた獣と野獣は違う
新人騎士の多くが尻込みする
門扉が上昇を停止する
「バカみたいに差し出している腕を切り落としてやれっ!!」
数人の騎士が武器を振り下ろす
忙しなく城内へと侵入しようとしていた腕が次々と切り落とされ、ほどなくして切り離された腕のカタチをした肉塊は動かなくなり、結晶化して砕け散る
血溜まりを残して
城門の外側から耳障りな奇快音
腕を切り落とされたモンスターの悲鳴がこだまする
門扉が再び閉まる
1人の新人騎士が
「...このような地味な作業を繰り返すのですか?」
「...Dに位置づけられている理由の大まかな部分は数だ...
一個体の力は学校に通う子たちがはじめに習う契獣基礎学にて使われる級無しと同等の力だが侮れない」
新人は騎士としての初陣だが、派手さの欠片もない作業に不満をもつ者も少なくはないようで
「つまんねぇな」
「パーっと活躍して、G5に召集される騎士になるんだよ
そうすれば貴族とコネが出来て毎日がウハウハだ」
士気が傾きはじめる
そして再び門扉の上昇、次は小型モンスターの排除
城門の上層にて外側を観察していた騎士が声を上げる
遠方で確認される大型B級モンスター
同時刻 城内
問題は立て続けて起こる
「っ!!シベリナぁー!!!」
警鐘により、魔王軍の襲来を知らせる1時間前
王女の世話役・マママンナ王室侍従長
彼女はシベリナが乳飲み子の頃からの古株である
彼女はいつもシベリナに寄り添ってきた
異変に気付けば、それに合ったケアを
〈色伯〉の一件以降のシベリナの問題行動にもシベリナなりの意思があると無理に引き止めはせず、失敗または、マイヴァイスからの勘当後のケアも欠かすことはなかった
私たちには子どもが出来なかったから、その反動ですかね...
その愛情は、母親のいないシベリナにとっても心地の良いもので
しかし、シベリナ26回目の暴露作戦失敗後...
王の間から帰ってきたシベリナの様子はいつもと違った
「...シベリナ様、私程度で役に立つかは分かりませんが、お力になれれば...」
「...っ...なんでもないわ、ありがとう
ママンさん、悪いけど1人にしてくれる?」
どうすれば正解なのだろうか
私は、危険だと分かりながらも、その日はシベリナ様の部屋に入ることはしなかった
翌朝、一番に部屋へ
「シベリナ様...シベリナ様!...
入りますよっ!!」
案の定、部屋に王女シベリナの姿はなく
その話がマイヴァイスの耳に入る
「...昨日今日で、しかもあの件で自重するかと思ったが...!!
都で見回りに出向いている騎士たちと同調し、この話を伝えてくれ!!」
「あぁぁ!!すみません...すみません...!!」
自責の念で押し潰されそうになるマママンナに
「しっかり!!そして、シベリナが無事に帰ってきたら怒ってやってくれ...!!」
正直、事態は最悪だ...!!
もし城門を越えていたとしたら...!!!
「マイヴァイス君っ!!」
「マイオ殿!!やはり城内には...!!」
頭を横に振る
「ぐぅ...、出るとすれば夜中が妥当か...
食事と風呂を済ますとすぐ眠くなる...失態だ...!!」
自らのお腹を小突く
「そうですね...!!互いの名が泣きますよ...!!」
「...誰の目にも留まらずに城、可能性として城門を出れるものなのかい...?」
「...クイェンナ3等の不在は確認済みですが、彼女と2人だとかえって目立ちます!!
誰かの助けなしに出るのも難しい話...!!
...中堅騎士が手を貸せば、あり得ま...」
鉄を幾度も打ち付ける音
シベリナ失踪で騒然となる城内に追い打ちをかけるように警鐘が鳴り響く
「こっ、これは...!?」
問題の連鎖、最悪な組み合わせが頭をよぎる
振り払うようにマイヴァイスは駆け出す
「警告ですっ!!
俺は城門出入口へと向かいますのでマイオ殿っ!!
...頼みます!!!」
警告...そしてマイヴァイス君はそれの対処へ...
頼むか...嬉しいねぇ、この老いぼれを信頼してくれるのか
護衛任務を引き受けての最大の失態
挽回するチャンスをくれた...それに応えるには
「無傷っ!!必ず見つけ出す!!!」
任せられる...!!
直接、その実力を見たわけではないが感じる!!
背に向けられる衰え知らずの一本の剣
いくら研鑽を積み重ねようと握ることのできないただ一本の剣
失態ではなく、天からの試練なのだろうか
そんなおかしなことを考えるほどの存在感
違う違う!!今は浸っている場合ではないっ!!
「王女捜索の先行はマイオ殿たちに任せるっ!!
城門の問題を早急に対処、その後に捜索に加わるほうがまちが...」
腹に響くほどの轟音!!!
門扉は上下するので木製で軽量化されている
もちろん安心安全のため厚い木板と木板の間に薄くて頑強な鋼鉄が仕込まれており、その鋼鉄はC級以下では壊すどころかキズひとつ付けることも出来ない
簡単に言ってしまえば
門が突破されたということである
同調とは同等な魔力量で系統が同じでないと出来ません
マイヴァイスと魔力量が唯一王国内で同等なのが、シベリナだけですが系統が異なるため連絡等の同調手段が不可能なのです
それを補う魔道具があるのですが、のちに出るはずです
お時間いただきありがとうございました