第2話 一刀両断
お楽しみください
"剣卿"の名は主に中堅以上に認知されているようで
若い世代にはただのおじいちゃんに見えるらしく、半分舐めている様子
現に若手の多くには、未だに〈ブランク〉や〈イシナシ〉の中堅層を下に見ており、自分たちはこうはならないぞと思っている夢追い人がゴロゴロと居る
「何がすごいの?」
昔の栄光に縋る老いぼれなんて邪魔なだけ
一生現役とか言って出来もしねぇことをやられて、その後始末を俺らにさせるようならジジイには悪いが現実を見してやらねーと
「すごい、なんてもんではない!!知らないようなら教えてやる!!!」
若い冒険者の思いとは裏腹にかつてのヒーローを語るように
まるでコドモのように目を光らせて熱弁を始める
次の瞬間、ギルドの扉が勢いよく音をたて開かれる
瞬時に入ってきた者に大勢が目を向け、気が動転した男を見て空気がヒリつく
男はどうやらこの街の守衛らしく、確認された脅威について組合長や所属員に助力を得に来たようだ
「南門で確認された巨大黒雲は次第にこの街へと向かって来ております...!!!」
ギルド所属員たちは巨大な黒雲とはなんなのかを知っているようで慌ただしく守衛を問い詰める
「距離は!?どのぐらいで街へと直撃するのか...」
「中身のほうは確認出来たのか!!?」
「若ぇの、つまらないことを聞くな 黒雲、それでいて、奴が丸々と収まるほどの大きさの雲が近づいてくるんだ...」
話に群がる者たちを尻目にマイオは完全に取り残される
巨大な黒雲?なんだそれは、聞いたこともない
嵐が来るのか?それにしては様子がおかしい。中身とはなんぞ...?
直接聞いたほうか早いかな
マイオが受付嬢に聞く
「巨大な黒雲とは、なんだい?」
その問いにギルド内は盛り上がりを見せる
「うおおぉぉぉお!!!そうだっ!!こっちにはあの"剣卿"が居るんだ!!!」
「復活宣言に相応しい相手だ!!!」
ーー!!?
えっ、何いきなり!!さっきまで通夜みたいな雰囲気だったのに
若いコたち、こわい...
「まさか、あの"剣卿"がいらっしゃっていたとは...」
だからなんでわたしを知っているんだ!?
そんな大々的に行動していた憶えはないぞ!!
「こちらです!!そして、領主様直々に組合へと依頼を出されていますので、他の方々も!!!」
「ちょっ!!...!!!」
マイオは背を押されて、南門へと連れられる
道中でアレが何なのかを聞かされる
向かう正面には全てを飲み込むような暗雲が空を侵食していた
どうやらあの中にはドラゴンが棲んでいるらしい
ドラゴン?聞き馴染みはないな...
「ほっふっほっふっ、ただ、住んでいるだけなら良いのではないのか?」
「そうなんですよ ですが、奴らの食事に問題があるのです」
「人でも食うのか?ほっふっほっふっ」
冒険者の1人に背中を押されて、贅肉を揺らしながら聞く
「ご存知でしたか 奴らは人を、しかも、魔力が豊潤な者を好むのです」
そんなやつが、わたしが引退してから現れていたのか
20年...それはかなりの差となるな...
南門を越え、街の外に出る
「はぁはぁ、組合所属の冒険者や傭兵の方々を連れてまいりました!!!」
「よくやった!! ...それで、そちらのご老人は...?」
当然の質問。しかし、守衛に実は...と耳打ちされて暗かった表情がみるみる明るさを取り戻していく
「本当かぁ!!! 領主様から街外れに引退後は腰を据えられたと伺っていたが、まさか、伝説が目の前に...!!!」
「見てろよ!!若者たちよ!!! ジジイたちの英雄を!!!」
もうよく分からない。脅威を前にしての彼らの反応、あまりの熱狂に若者たち、ましてや本人は意味が分からない
えぇぇー!! 出来るならほそぼそと、稼ぎたかったが
まぁ、このまま進み続ければ、いずれ妻や娘家族へと被害が出るからな
「やれる範囲でやるが、あまり期待はし過ぎないでくれよ」
腰にさした剣に振れ、抜刀の構えをする
巨大な黒雲が晴れ、中から、ドラゴンが姿を現す
吼える 轟音が空に響き、街中へと恐怖を運ぶ
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ブラック・ドラゴン A級モンスター
龍の中でも凶悪で狂暴
〈魔霆〉と"剣卿"の激闘の際、周囲で〈魔霆〉の魔力を浴びた龍種の突然変異種
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ブラック・ドラゴンが集う人間に気づき、目一杯に頬を膨らませる
「攻撃が来ます!!!」
守衛が後衛の魔術師へと伝え、国お抱えの街派遣魔術師、数人は魔術式の展開
街の上空に薄白い膜が広がっていく
「よしっ!!いくぞっ!!!」
マイオは息巻いて、剣を抜っ..抜っ...ぬっ..
抜けないっ!!?
20年、使っていない剣は錆び付いていて
「...誰かぁー、錆びとり持ってないー?」
その言葉を聞いた冒険者の1人が叫ぶ
「誰か錆びとり持ってこーーい!!!」
しびれを切らした若い冒険者や傭兵たちがブラック・ドラゴンへと向かい、攻撃を始める
その背後で錆びを落とし方を教える守衛とマイオの姿
若い者たちだけでは歯がたたなく、中堅層も加わる
「どうですか?」
「んっ..だいぶカタカタと弛くなってきたけど...」
ブラック・ドラゴンの咆哮で雷を帯びた光線が街へと放たれる
街全体に張り巡らされた結界で防ぐが、その反動で魔術師がバタバタと倒れ、街を護る結界が解けていく
「これで...磨くと...」
「おぉ!!よしっ、錆びも取れたし、待たせたな!!」
マイオと守衛が振り向くと、居たはずのブラック・ドラゴンは消えており、冒険者や傭兵たちが戦いの跡地で倒れて、散乱していた
「マイオさんっ!!ブラック・ドラゴンが街の上空にっ!!!」
街中の人々が大きな影で覆われた天を見上げる
「もう...終わりだ...」
人々はその脅威に圧倒され、生気を失い、逃げる気さえ起きない
ブラック・ドラゴンは再び光線を放つため、頬を膨らませる
空気が収縮され、ドラゴンへと風が吹き荒れ、悲鳴をかき消す
額に血管を浮き上がらせ、その巨体は門を軽々と越え、建物から建物へと飛び駆ける
「っあっ...!!!」
守衛は伝説は耳にしたことはあるが、直接見たことはなく、それを固唾を飲む
街で1番高い建物から飛び上がり、翼広げたブラック・ドラゴンの背後に
人々はブラック・ドラゴンの背後に突如として現れたナニかに注目する
マイオは剣を抜き、空中で固いゴムのごとく身体を捻らせる
その身体からは想像もつかないような筋肉の音
「黒トカゲよ...少し、オイタが過ぎるな...!!!」
身体を回転させながらブラック・ドラゴンの首へと刃を当てる
硬い鱗と刃が重なり、火花が散る。だが、徐々に刃が通り
一刀両断っ!!!
ブラック・ドラゴンの頭首が、身体から離れ、空中で大きく巨体が傾く
巨大なドラゴンが落ちてくる
マイオの見た目は白チョビ髭の白髪でぽっちゃりです
安西先生の眼鏡無しを想像していただくと分かりやすいです
バスケはしません
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