[ブラック童話]ノエルとウランと存在感消失病(そんざいかんしょうしつびょう)
この『おはなし』はすこし『こわい』かもしれないよ。
『こわいおはなし』がにがてな子はひとりで読まないでね。
1
あるところにノエルという、とても目鼻立ちがととのった、とてもうつくしく、とてもかわいい女の子がくらしていました。
ノエルのおしごとは『アイドル』です。
『アイドル』とは、『ファン』のまえで歌ったりおどったりして『ファンクラブ』のみんなをたのしませるおしごとをする職業です。
ノエルは国のナンバー1の『アイドル』です。
どれくらいのナンバー1かというと、『ファンクラブ』の人数をしらべればこの国の人口がわかるほどでした。
つまり、王様もふくめて、全国民が『ファンクラブ』に入っているということです。
ある日、ノエルの重大発表があり、王様と全国民はとてもおどろきました。
それは、ノエルが『存在感消失病』という、おそろしい病気にかかってしまったというニュースでした。
『存在感消失病』というのは、たいへんおそろしい病気で、だんだんと存在感がうすれていき、さいごにはなくなってしまうという病気です。
「わたしは不治のやまいにかかってしまいました。存在感のなくなった『アイドル』なんて、死んだもどうぜんです」
ナンバー1の『アイドル』のノエルのかなしげな表情が、王様と多くの国民のなみだをさそいました。
「どうかお願いです。どなたかわたしに存在感のいしょく手術をしていただけないでしょうか」
王様とノエル以外の全国民は、だれがノエルに存在感をいしょくするか、はなしあいをしました。
でも、存在感をいしょくしてしまったら、いしょくしたひとの存在感がなくなってしまいます。
存在感がないと色んなことをするとき、こまってしまうでしょう。
なかなか、ドナー(いしょくする人)のりっこうほしゃは、あられませんでした。
2
「あ、あちしがドナーになってもいいですよ」
ようやく、ノエルと王様と全国民が待ちのぞんでいたドナー(いしょくする人)があらわれました。
名のりをあげたのは、ノエルのファンクラブの370014106番、ウランというとてもじみな女の子でした。
王様と全国民が、ウランの勇気をたたえます。
テレビ局のリポーターがウランにマイクをむけます。
「どうして、ドナーになろうと思ったのですか?」
ウランはこう答えます。
「あちしは、おともだちが1人もいないし、だれとも話さないから、存在感はひつようないと思って。ノエルみたいなみんなにひつようとされる人の、お役にたてたらうれしいです」
ウランはおともだちが出来たことがなかったので、こんなに多くの人からちゅうもくをあびたことがありません。
いろんな人に話しかけられたり、ほめられたりで、とてもいい気分です。
「では、『存在感いしょく手術』を明日とりおこないます」
王様と全国民がみまもる中、手術しつのランプがともりました。
手術しつのランプがきえました。
しばらくして中から出てきたお医者さんが言いました。
「手術は大せいこうです」
3
ウランは王様と全国民からたたえられ、かんしゃされました。
だいぶうすれていたノエルの存在感がすこしずつ元にもどってきました。
そしてウランじしん、かくごはしていましたが、ウランの存在感はじょじょにうすれていきます。
存在感がしだいにうすれていくウランへの全国民のかんしゃの手紙がみるみるへっていきました。
でも、ウランは平気でした。
どうせ、おともだちはひとりもいないし、お買いものもいまどきはネット通販で出来ますから。
ある時、気づきました。
かがみにうつっている、じぶんのすがたがとてもうすいことに。
「あれ、とうめいになってる?」
ウランは、存在感をうしなうことの本当のおそろしさを知ったのです。
4
ウランは存在感をいしょくしてしまったことをこうかいしました。
「おともだちがいなくても存在感は必要だったんだ……」
じぶんを見ることさえもできなくなってしまうなんて。
あちし、もうすぐ空気にとけて、この世界からきえちゃうよ……。
5
そして、とうとうウランのすがたは完全にかがみにうつらなくなったのです。
もう、ウランのはなし声がきこえているのは、このおはなしを読んでいるきみだけなんです。
だから、どうかお願いします。
きみの存在感をウランに分けてもらえませんか。
きみがいなくなっても誰もかなしまないって、このまえきみ言ってなかった?
「はしの下でひろわれた子なんだ」って言ってなかった?
ほら。
きみの存在感をウランに早くいしょく手術してください。
ほら。
きみのすぐそばに、見えなくなったウランがおねがいに来ていますよ。
きみに向かって、おねがいしているよ。
見える?
感じる?
お わ り
最後までお読みくださりありがとうございます。
もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がります。
同シリーズ続編、書きました。
↓
「[ブラック童話]スノーのさがしものと存在感消失病(そんざいかんしょうしつびょう)」
https://ncode.syosetu.com/n3853gr/
※紹介作品のリンク、感想欄の下辺りに用意してます。