魔法と
「あの。カノン……さん。」
あー……なんか人の名前で呼ぶの嫌だなぁ……。
いやまあ、苗字だとしてもなんかなぁ……。
呼び慣れてないなぁ……。
「カノンでいいよ?」
あー……ですよねぇ。そう来るよねぇ……。
「あ、うん。、でもさん付けの方が僕としては楽だから。うん。」
「あ、そう?なんかさん付けされると少しだけ身を捩りたくなるから嫌なんだけどなぁ。
まあ、いいや。」
よかった。許してくれるみたいだ。
「それで、なんでここに?」
「ん?依頼でね。えっと。待ってね。」
ゴソゴソとウエストポーチから紙を取り出す。
「これこれ。はい。」
広げて僕に渡す。
「あ、うん。
……壊れた機械の破壊……?」
あれ?どこかで?
「そう。なんでも不良品?がドヴォルザークにあるって聞いてさ。
その依頼内容を読んでたら居てもたってもいられなくって。」
「あ、うん。そうなんだ。へー。」
あ、やばい。この返しは興味が無いやつも思われそう。
違う。違うんだって。これはそのえっとつまり。
「そういうネワはなんで?」
うわー……この人すごいな。もう呼び捨てにできてるよォ。怖いよぉ。怖いよぉ
「僕はその。えっと。クエストで。その。」
てんやわんやで言葉を繋いでいるとある事を思いだす。
そういえば、僕の受けたクエストも似たような内容だった気がする。
なんか、ドヴォルザークの外れにある機械の不良品をぶっ壊してくれって感じだった。
……待てよ、ひょっとして。
僕はもう一度カノンから受け取った書類に目を通す。
……やっぱりだ。
「ネワ?」
「あ、うん、ごめん。
それよりもカノンさん。」
少しだけ目付きを鋭くして話す。
「これどこで?」
「え?えっと、私の国の協会の掲示板に。」
「カノンさんの出身国は?」
「え、バッハだけど。」
バッハ……!?
ここから約100kmは離れてるぞ!?
「バッハからここまで!?」
「え、うん。そうだよ?」
「…………。」
「?」
「……えっと、もしかして」
「なに?」
「もしかしてですよ?
馬鹿なんですか?」
「馬鹿じゃないよ!?」
「あ、はい。ごめんなさい。許してください。」
「な、なんで自分で言ってそんなに怯えてるの……?」
「いやでもですよ。カノンさん。
バッハってここから約100kmは離れてますよね。」
「え、うん。そうなの?」
「そうなのって……。えっとここまでどうやって?」
「えー……うーん。
飛んできた。」
「飛んできた。」
「うん。飛んできた。」
もう訳が分からない。なんなのだこれはどう言う事だ。
「ど、どうやって?」
「いや、だから飛んで」
「往来の仕方は分かりました。
僕が言ってるのは飛び方です。」
「あ、なんだそんなこと。
それなら。」
そう言うとカノンは少しだけ僕から距離をとって
「“素は風 空の拠り所を 我が身に捧げん”
来い!“ブレス”!」
そうカノンが言い終えると
ブワッ!と音を立て砂埃を巻き上げなら体が上空へ行った
「……す、凄い。」
聞いてはいた。バッハは魔術の国だということを。
しかし見たことも聞いたことも無かった技術に僕はただあっけに取られるだけだった。