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2話

 俺、プレイヤー名リフィル・セリア、リアル名 斉藤祐介は現実世界で世にも珍しい奇病に犯されていた。


 自分ですらよく分からないうちに病院に搬送されてスティムを装着させられて外部通信で医師や家族と話した結果分かったのが、レム睡眠状態でないと生命維持機能が停止するという謎の病気だった。


 レム睡眠、つまり浅い眠りでないと死んでしまうという何ともふざけた病気なのだが自分では、は? なにそれ、つまりずっとスティムでゲームしてろって事? やったぜ! 


 てな感じで半ば喜んではいたのだが月日が経つごとに想像以上にやばいって事が分かって、自分でも残り少ない人生と覚悟はしていたけどとうとうダメみたいだ。


「覚悟はしていたけど......早いなぁ......あっギルドのみんなに知らせないと」


 私......俺? 十年くらいネットの世界にいるせいで性別の感覚がおかしくなってる気がするがそんなことより連絡しないと。


 レッドアラートを消して左手で目の前の空間に触れるとチャットウィンドが表示され、ギルドの項目のボイスチャットに手を触れる。一応声も変えられるので男性とも女性とも言えない中性的な声にしてある。


「みんな、こんばんわ」

『あれ? マスターが積極的にボイチャ参加するなんて珍しいね』

『ばんわー ホント珍しいな、いつもなら十回くらいチャットコールして嫌々チャットするマスターを見るために......あ』

『おい! リッケルてめぇ! それは言わない約束だろ! あ、こんばんわです』

『おめぇも何バラしてんだよゲイル! こんばんわ!』


 え、何? 野郎共は私が嫌々チャットするのニヤニヤしながら観察してたの?


『うわぁ......』

『男組最低ぇ......』

『おい、フルにリゼット、お前らこの前の『ギルド対抗かわいい子選手権』でいつもの軍服じゃなくて萌え系衣装に着替えさせられて顔を真っ赤にしたマスターを隠し撮りしてたろ?』


 え、ちょ!


『っ! な、ナンノコトヤラ ねぇ? リゼットさん』

『え、えぇ、私は何も知りませんよ マスタがー赤面しながら涙目上目遣いで「や、やめて」なんて言ってるとこを激写したなんて』


 いやああああ! アレ撮られてたの!? 死にたい! 恥ずかしすぎる! てかリアルでボディが死にそうだった!


『『『え、何そのシチュ、詳しく』』』


 こ、こいつら......


『今ならなんとその写真がたったの五百万ゴールドで!』

『たけぇ! 買った!』

『さすがフルさんだ! 男のかわいいは正義につけ込んで悪徳商法してきやがる! でも買った!』

『くっそぉ! 後二十万ゴールド足りねぇ!』

『ちょっとフーちゃん 高いから値引きしてくださらない?』

『いやいや、いくらりんりんでも今回は値引きしませんよ!』

『分割ってできます? あ、マスターこんばんわ』

『うぉ、茶々さんがこの時間帯にログインしてきてすぐに値引き交渉してきたぞ』

『分割も受け付けませーん!』


 うちのギルドの財務管理フーちゃんだからなぁ、結構お金にはうるさいんだよね。でもそのおかげでみんなの装備が整備できたりしてるんだけど、てか人の写真で生計立ててたの?

 

『むぅ、ならこの間激写した。「マスターが猫耳つけてギルドルームの鏡の前で萌えポーズしてた」写真と交換で』


 いいいいいいいいいいやあああああああああああ! なんでこの人達私のプライベートに密着してるの!?

 

『茶々さん......うっ鼻血が』

『フルの奴即決で写真交換して出血死しそうになてやがる! それと茶々さんその写真ください、家宝にします』

『メディイイイイイック&ポリィイイイイス あと写真ください(真顔)』

『ちょっとみなさんいくら何でも醜態を晒しすぎですわよ......はぁはぁ』

『りんりんさん毎度あり~』

『買ったのか! 買ったんだな!? さすが金持ち!』

『あ、フルさん ギルド『煉獄』の奴等から写真買いたいって連絡来ました』

『了解ー、じゃぁ一枚六百万って言っといて』


 もうやだ このギルド......人の黒歴史写真で資金稼いでたのね。


「あ、あのさみんな」


 メンバー『......』


 何その連携プレイ、大型レイドボスでさえそんなに以心伝心してなかったのに一瞬で静かになっちゃった。


「あ、写真」


 メンバー『ビクゥ!』


「......写真の事は気にしてないから」


メンバー『よ、よかった......』


「今回チャットしたのは、その、えっと......」


 メンバー『ゴクリっ』

 

「リアルでそろそろ限界です」 


 メンバー『............え?』


 あー......何となく分かってた反応、うん、まぁ一応みんなにはギルド入ってもらう前に言ってあるからね。


『え......ちょ、ちょっとまって!』

『マジかよ......リッケルト! ゲイル! あと茶々さん俺の家の近くに住んでたよな!?』

『仕事休みにしてもらったぜ支度するわ!』

『お店に臨時休業の紙張ってくるよ』

『ランク、俺バイクで行くからリッケルトと茶々さん拾って先行ってくれ』

『OK任せろ!』

『りんりんどうしよう! ねぇ! どうしよう!?』

『落ち着いてフーちゃん』

『無理だって! あたしとりんりんの家からマスターの病院まで車で二時間弱かかるんだよ!?』


すぐにパニックに陥るメンバー達をなんだか微笑ましく思いながら聞いていると外部からの着信が入った。


『聞こえているかい? 主治医の村上だ』

「はい、先生。聞こえてますよ」

『仮想世界に居るから分からないだろうが君の体の心拍数が急激に落ちている、強心剤を投与したがまるで効果が無いんだ』

「そう......ですか」

『意外と落ち着いてるね......外じゃ大騒ぎだよ』

「でしょうね......でもこの前の検査であと半年って言われたのでその時にもう覚悟というかなんというか......」

『本当にすまない......我々の力不足だ。 君にはスティム開発で世話になったのに......』

「自分にしか出来ないことですからね、役に立ちましたか?」

『あ、あぁ......君のおかげでスティム技術は五年進んだと行ってもいい』

「そうですか、それは良かった」


 少し声が震えてる気がするが一度だけ画像データで送られてきた村上のあの真面目そうな顔からは涙なんて無縁に思えたがいくら真面目でも感情までも制御出来るわけではないだろうし、それにまだ契約が残っている。


 村上さんは主治医兼スティムを開発したアークエレクトロニック社の主任技術者で、度々この奇天烈な病の私にスティム技術の試運転を頼んできた。まぁバイト代と称したお金は貰っては居たが。


「村上さん、あの件よろしくお願いします」

『あぁ......分かってる、君の家族には不自由なく暮らせるように支援を約束しよう。いや、これは契約だな」

「ありがとうございます」

『後数十分で君のスティムは切られる、その間に君の仲間達に挨拶をしておいた方が良いだろう』

「はい、何年ぶりかも分かりませんが自分の本当の目で家族を見たいですからね」

『......そうだな』


 その言葉と同時に通信が切れたのでメンバーに挨拶をしようとログイン状況を見ると一人を除いて全員がログアウトの表示になっていた。


「あれま......まさかみんな病院に向かってきてるのか、あ」


 チームメンバー表を眺めながらそうつぶやいたが一人だけログイン状態の人がいたので普段ではあまり使わないゲーム内の秘匿ボイスチャットをつないだ。


『どうしたの? マスター』

「いや最後に挨拶しようとしたら誰もいなくて、副マスターの名前だけログイン表示になってたから」

『あーみんな一斉に落ちちゃったよね、私は今海外だからどうしようもないしね』

「今どこだにいるんだっけ?」

『えーと、ロシアのアメリカ寄りの所』

「どこ?」

『わからん』

「えぇ......」


 パニックになって一斉にログアウトしたメンバーと違って一人だけ残った彼女セセラは特に焦った様子もなく会話していた。


「セセラ、後は頼みますね」

『うん』

「あ、財務管理とかはフーちゃんに聞いてください。 後はそうだな―――」

『マスター』

「ん?」

『任せて』


 ギルド創立時から一緒だったセセラからの一言で何か胸のつかえが取れた気がした。


「うん......じゃあね」

『すぐ会えるよ』

「いやいや、すぐ会えたらダメでしょ?」

『ふふ、そうだね』


 そんな言葉が聞こえて来たが目の前にシャットダウンのカウントが始まった。


「じゃあそろそろ切るね」


 あれ? 返事がないな......


 彼女の返事を聞く前に目の前が暗くなった。

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