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神様は御在宅ですか?  作者: 藤嶋 みちかず
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よくある台詞-後編

「…いてもいなくても、さして変わりませんよねぇ」


思わず、答えを返してしまった。

後ろ頭をぼりぼりと掻きながら、大したことでもないように言い放たれた言葉は、空気読めなさ過ぎにも程がある。

しかし、言ってしまったものは致し方ない。

少し驚いた様に目を見開いた青年に、こよりは言葉を続けた。


「んー、神様がいるから、何かしようっていう訳じゃないですよね。神様がいてもいなくても、自分がしなくちゃならないことは変わりませんし」


――この就活浪人状態を、神様が替わってくれる訳じゃないし。

それに替わって貰ったところで、働くのは自分だ。

自分の人生を誰かが肩代わり出来る筈も無ければ、人生の全てを誰かの所為にし続ける様な卑怯な人間になりたくない。

結局、自分の馬鹿な考えと惰性の所為で二年も無駄に浪費してしまったこよりは、その二年を自業自得だと思いながら背負っている。

世間の所為にもしないし、派遣会社の所為にも、ましてや親の所為にもしない。

掻き集めたところで、自分が持っている誠意とはその程度だったが、最低限自分を嫌わない程度の努力はしていた。

だから、神様がいようがいなかろうが、こよりには何ら関係無いのだ。

窮地を助けてくれるのは自分が引き寄せた縁だろうし、何より自分自身でもある。

良い事も悪い事も、他人の所為にはしない。

こよりの答えに、青年は一度ゆっくりと瞬きを繰り出し、そして小首を傾いだ。

さらり、と細い髪が揺れて、陽の光を照り返しながら彼の目元に掛かる。


「あなたは、幸せですか?」

「…まあ、ぼちぼちだと思います」


仕事は見付からないが、五体満足で生きている。

狭い家だが一応一国一城の主だし、世界規模で言ってしまえば自分はよっぽど幸せだ。

が、自分規模で言ってしまえば、幸せかどうかは分からない。

しかし少なくとも、不幸だとは思わない。

返された曖昧な応えに、一瞬オニーサンはきょとんとした表情をして、そしてちょっと面白そうに笑った。

例えるなら、眼を細めた猫みたいな笑い方。

こよりも言ってしまってから、「ぼちぼちって…」とは思ったが、結局気にしないことにした。

彼との会話も潮時だろうと思い、何歩か足を踏み出して、ふと、青年に振り返った。

彼はちょっと驚いたように、此方を見詰めている。


「あなたは?」


きょとん、と。


「幸せですか?」


鳩が豆鉄砲とか動物保護団体に訴えられるような例えを使用しても良い程度には、間の抜けた表情だった。

けれど、そこから花が綻ぶようにふぅわりと微笑まれれば、成る程確かに彼はイケメンの類だな、と改めて理解する。


「あなたにお逢い出来て、幸せです」


思わず、笑ってしまった。

ふふ、と声に出ていたかもしれない。

こよりの目前にいる男性は全く知らない赤の他人で、どれ程イケメンだろうが、そう言われることは気持ち悪い筈だが。

それでも、彼の雰囲気の所為だろうか、不思議と嫌悪感は湧かなかった。



「そうですか。じゃあ、きっとわたしも幸せです」


前言撤回。

「ぼちぼち」を「きっと」に変更して。

こよりは再び歩き始めた。

先刻よりも少し意識して、背を伸ばす。

凛と、とはいかないまでも、皆俯きがちに歩いているのを視認出来る程度には、自分は顔を上げていた。


――まあ、でも。幸せかどうかってのは、未来で今を振り返った時に実感出来ると思う。

彼との出逢い自体は、幸せか如何かは今のところ分かりかねる。

それでも、時を経た折にでもふと今日のことを思い出して、「ああ、こんなこともあったな…」と思って、ちょっと笑える程度には、悪くない日だろう。


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