表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様は御在宅ですか?  作者: 藤嶋 みちかず
2/3

よくある台詞-前編

長くなったので二つに分けます


家の中にいても何も始まらない。

そう思い、最近の日課に散歩を組み込んだ。

日々移り変わるもので、最近まで在った筈のビルが更地になって売りに出されていて、前は此処に何があったんだっけ、なんて考えてしまう。

薄情なのかもしれないが、無いことが当然の世界に浸っていれば、いつかそれに慣れてしまうもの。

人間の感覚は自分に対する痛み以外には鈍く出来ているものだ、なんて悟った風を装う。

ぶらり。

ぷらり。

宛ても無く歩いていると、二駅先の商店街まで来てしまっていた。

何の目印も無しに、二駅先まで来られるなんて、私の方向感覚も捨てたものじゃないな、などと一人でふんぞり返る。

勿論それは心の中でのことで、実際には、お昼休憩をとっている労働者の合間を、丸めた背で歩き進んでいる。

この背中が真っ直ぐ立つのは、いつになるのだろう。

そう思いながら、ぼちぼちと商店街の中を歩いて、そうして出口付近に差し掛かった時。


「幸せですか?」


整った顔立ちの青年に、呼び止められた。


「…はい?」


――あ、失敗した。

如何してこういう勧誘ばかり引っかかるのか。

こういう手合いは関わらないのが一番だというのに、返事をしてしまったつい五秒前の自分を思い切り殴りたい。

内心諦め半分で、出逢い頭に質問をくれた青年を見詰める。

最近外出していないこよりよりも白い肌に、ふたつ嵌め込まれた空色の眼は穏和な微笑の為に細められている。

先程耳朶を打った言葉は随分と流暢な日本語だったので、想像していた発言者とは全く違う容姿に、少々面食らってしまった。

それに、他国の人間をこれ程間近で見るのもそうそう無いことだったので、じっと自分の瞳とは全く違う色合いの双眸を見詰めた。

話す時は人の目を見て話せ、という小学校の教師の教えに則り続け、今では人の目を見るのが癖になっていた。

大抵相手は、その強い眼差しにたじろぐのだが、彼は然程気にした様子も無く、微笑を一層深めた。

パッと見、穏やかそうな好青年だ――只、黒いスーツに黒いネクタイ、というのは葬儀屋を髣髴とさせるが。


「神様を、信じますか?」


ああ、ちくしょう。やっぱり好青年じゃない。

走り去りたい衝動と同時に、本当にこういう人がいるのだ、と思わず興味が湧いてしまったのも事実で。

漫画や小説位でしか聴いたことのない質問に、こよりはまじまじと青年を見詰めてしまった。

大多数の日本人と違って、他国の人間は宗教に熱心な者が多い――というのは、ニュースを観た印象の所為だろうか。

宗教一つで戦争が起こせてしまうというのだから、その信心深さは脱帽ものだと思う。

まあ、共感は出来ないし、しようとする気も全く湧かないが。

とにかく、こういう手合いには下手なことを言っちゃダメだ、ダメだ、と自分に言い聞かせていると、彼が問い掛けを続けた。


「神様は、いると思いますか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ