ゾンビちゃんと幽霊さん
夢で見たのをそのまま書きました。
ある町の高所の曲がり角、そこは事故が多発すると有名な場所。
そこに女2人を乗せた白い車が1台、やってきた。
そして、その車は角を曲がれずに下の町へ落ちていく。
車の中は激しくかき回され、車内は血だらけになっていく。
やがて、進んでいれば着いた道の上に投げ出される2人。
血と臓物、骨が撒き散らされた道路を見てしまった人達は、鉄の匂いにむせ返り、何人かは耐えきれず嘔吐した。
そこに近づく警察官、彼は現場の2人の頭に言う。
「またですか、勘弁してくださいよ…」
「ち、違うんです!あそこ何故かハンドル効かないんです!」
「だから事故車は止めようって言ったのに。事故現場に吸い寄せられてるんでしょ。あ、体まで運んでくれませんか?」
2人の頭が喋る。
否、2人の血だらけの頭部が喋る。
そう、これは死んでも動くゾンビちゃんと幽霊さんの話。
「いやー、我が愛車はどうしてもあそこ飛びたいんだねー。もうショートカットだと思うしかないね」
「いや、内臓とか骨拾うの私なんだから止めてよ、集めるの大変なんだよ」
町外れの廃屋、そんな明るい声が響き渡る。
幽霊とゾンビなのにやたら疲れたように、グダグダする姿はまるでまだ生きているかのようだ。
「それにしても、まだ学校通うの?死んじゃったのに?」
「うるさいな、私はちゃんと3年間の高校生活を謳歌するの。その為に蘇ったところあるんだから」
そう、このゾンビなんと現役高校生なのだ。
白いセーラー服、黒い靴下、ミニスカートという服装である。
ただし、その服はボロボロで、血まみれではあるが。
「幽霊はいいな。体自分で直せて、私はパーツ人に集めてもらわないといけないから」
「そうねー、私の利点はまだまだあるけど、あなたが幽霊だったらペン握れないから困るじゃない?」
「あ」
そう、ゾンビと幽霊の違いは物に触れられるかどうかなのだ。
しかし幽霊が車に乗っていたには理由がある。
壊れた物、死んだ者なら干渉出来るのだ。
何故か幽霊はそれらを操れる。
廃墟や廃車しか使わない理由である。
1番の理由は、死んだ彼女達にお金が無いことだが。
「それでね、明るいうちに町歩いてると職場の人に会うのよ」
「明るいうちに幽霊が出歩くなよ」
この幽霊、何故か日光も、塩も、お経も効かないのだ。
「でね、私に仕事しろよって言ったから、こう返してやったのよ『私もう幽霊社員だから』ってね!」
「0点」
「幽霊だけに?」
「1点」
「上がった!?」
こうして夜が明けるまで、暇を潰す2人であった。
死んでから眠れないのだ。
翌朝、いつもの通り高台の高校まで送ってもらったゾンビが教室に向かっていると、
「ぞんちゃーん!!」
「へぶっ」
背後から飛び付かれた衝撃により、首と腰から分割されてしまったゾンビ。
落ちた首で確認すると、予想通りの人物だった。
「京ちゃん、だから縫合が解けるから突っ込まないでってば」
「ぞんちゃん宿題!数学の宿題見せて!」
「話聞いてくれない?」
彼女は京子、ゾンビになった今でも話しかける数少ない人物、いや友人である。
時は進んで昼食、京子とゾンビは2人で庭で弁当を広げていた。
「ぞんちゃん教室で食べたがらないよね、なんで?」
「死体見てたら食欲なくなるよ普通」
目の前で弁当のレバーを食べてる京子を信じられないと、死んだ目で見るゾンビ。
元々死んでいるということは置いといて。
「えー、でもぞんちゃん綺麗だし腐った匂いとかしないじゃん」
「一応私女子だから体は洗うし、消臭するよ?」
特に血に塗れるため、体は川で丁寧に洗っている。
一度警察に捕まりそうになったが。
消臭スプレーは近所の雑貨屋のおばさんの手伝いで貰っている。
「はい、ぞんちゃんあーん」
「いやね、だから私は食べないから、消化できないから」
「でも、見てるだけじゃつまらないでしょ」
「…美味しそうに食べてるとこ見ると、私も満足するから」
「ぞんちゃんかわいい!」
「…ばか」
更に時間は進み、生物の授業。
「で、ここが胃だ。おいしっかり見ろ!こんなのこの先見れるか分からないぞ!」
「新田先生、普通に人体模型使いましょう」
ゾンビは今、体の前面が取り除かれて内蔵丸見えである。
ガラスを持って落ちないようにしている内蔵の生々しさを、生徒は皆知っているため絶対に見ないが。
「安心しろ、ちゃんと縫い合わせるから」
「新田先生セクハラはやめて下さい。外したパーツの胸に手を伸ばさないで下さい」
「いいじゃないか、触感は無いんだろう?」
「普通に恥ずかしいです」
そもそも内蔵を見せるのも好きではない、恥じらいあるゾンビだが、新田はこの学校に通えるのに一役買った人物であり、縫合の技術も教わったため、あまり断れないのだ。
「かわいいなゾンビ!ちょっと先生に内蔵貸してくれ」
「警察呼んできます」
「やだな冗談だ!」
この通り、死体愛好家だが。
放課後、幽霊の迎えが来るまで近くの公園で暇を潰す。
ベンチで遠巻きに遊んでいる子供達を眺める。
子供は嫌いではないが、寄ると親が学校に苦情を言うので近寄らないことにしている、のだが。
「姉ちゃん、あそぼ!」
「えぇ…」
いつの間にか男の子がいた。
興味津々で、ゾンビを見ている。
「ダメだよ、私はゾンビなの」
「おれゾンビすき!かっこいいじゃん!」
「…そう」
褒められて悪い気はしない。
少し考えて、頭を抱えてみる。物理的に。
「怖いだろ、逃げろ」
「すげー!おもしろい!」
「…そっか」
逃げないならしょうがない、少し遊べばどっか行くか、幽霊が来るはず。
だからこの子と遊ぶのはしょうがない。
「ほら、どう、だ、こわ、いだ、ろ」
「すげー!」
頭をお手玉にしたり、てけてけをしたりしてると、幽霊が迎えに来た。
車に向かおうとすると、まってと呼び止められた。
「姉ちゃんみたいになるにはどうすればいいんだ?」
「やっぱり死ぬしかないんじゃない?でも」
「ユウ!ここにいたのね、帰るわよ」
女性が子供の手を引っ張って行く。
いつもの事だ、気にする必要はない。
…だけど、あの子に伝えきれなかったことは気になる。
明日も公園で会えるだろうか?
廃墟に転がったゾンビは暇だった。
「でねー、仕事しろよって」
「その話昨日聞いたし、テレビつけてくんない?」
「もう、いじわる!」
幽霊がブラウン管を叩くと、ニュースが流れた。
録画ではない、リアルタイムだ。
芸能人の不倫だ、なんだといくつか流れた。
その時、知った顔が映った。
「自宅のベランダから飛び降りた平田優くん6歳は、病院に運ばれましたが、本日の6時に死亡したと…」
「えっ…」
「どうかした?おーい、ねぇ、ねえってば!」
頭が腐ってしまったのか、ゾンビは何もわからなかった。
ただ、テレビの写真を眺めていた。
雨がしとしとと降る中、ゾンビは葬儀の会場を訪れた。
奥に白い棺があった。
あの中にあの子はいるのか。
「ちょっと待った、帰ってくれ」
目の前に男が立ちはだかる、それを避けて先に進む。
すると数人がかりで止められた。
「お前を行かせるわけにはいかないんだよ!」
「あの子に言いたい事があるんです」
「黙れ!あの子が死んだのはお前のせいだ!」
「…どういう事ですか?」
男にくしゃくしゃになった紙を投げつけられる。
それを広げてみると、乱雑な字で
ぞんびになる
「分かったか、なら帰ってくれ。あの子の親にあんたを見せるわけにはいかない」
「…きゃ」
「おい?」
「なら、絶対に言わなきゃいけない」
「なっ!待て!」
そう言って駆け出すゾンビ。
しかし、ゾンビの足が速いはずも無く、あと少しというところで捕まってしまう。
「大人しくしろ!帰れ!」
「嫌です」ぶちっ
自分で首を引きちぎり、前に放り投げる。
それはちょうど棺の前に転がり込んだ。
突然生首が転がり込んできたことで、奇跡的に邪魔は入らなかった。
ゾンビは、棺に向かって話しかける。
「昨日、君は私みたいになるにはどうしたらいいか、聞いたよね?
私は死ねばいいって言ったよ。確かに言った。
でもね、まだ言いたい事があった」
「私は名前も、家族も、ほとんどのことは死んで忘れちゃった。
でも、忘れてないことがあるんだ」
「学校に行ってどうでもいい話したり、一緒に遊んだり、誰かと一緒にテレビ見たり、そんな当たり前の、当たり前じゃない生活がもう一度したかった」
「私は死んでも死にたくなかった」
「だから、君が死んでしまったのは、間違いだよ」
「君は私が望んだ日常を過ごさなきゃいけなかった」
「だから、だから、う、うぅ」
ゾンビは泣いていた、死んで長いのに、もう枯れたはずだったのに、目から涙が溢れてきた。
「だから!次があれば!次は死なないで!生きて!死ぬまで生きて!お願いだからぁ…」
外ではゾンビと同じように、雨がただ振り続けていた。
「お姉ちゃんの話ちゃんとわかった?」
屋根の上で、幽霊は白い火に話しかける。
白い火はただふわふわしていたが、幽霊は優しい笑みを浮かべた。
「今回はなれなかったけど、君が頑張ればなれるかもね。応援してるよ」
「お前みたいなのが増えたら困るんだが」
突然幽霊の後ろに黒いコートの女が現れる。
幽霊は気にせず白い火に話しかける。
「ほら、お迎えが来たよ。君はまたやり直せるんだ。頑張れ!」
「お前もついでに来てくれんかね」
「嫌ですー!力づくで連れてくんだね」
その言葉にため息をつく女。
もう1年は続くこの返しは聞き飽きてしまった。
「お前もあの子もなんでそんなになってまで続けたいのかね。私にはさっぱりわからん」
「いや、別に私はそっち行ってもいいんだけどね」
「はぁ!?ならなんで来ねぇんだよ!理由くらい教えろ!俺めちゃくちゃ怒られてんだぞ!」
「どうしようかなー?なんてね、冗談よ」
睨まれた幽霊は、思い出すように言葉を綴る。
「あの子はね、楽しみにしてたのよ。高校生になったらあんなことする、こんなことするなんて珍しくはしゃいでね、だからさせてあげられなかった時は悔しかったな」
「でもね、あの子は諦めなかった、失くしたものをまた掴んだ。私はそれを見て、あの子は大丈夫だって思って、だから私はアナタについて行くつもりだった」
「でも向かう寸前に、あの子は家で『1人は寂しい』ってそう言った。だから私はここにいるの」
「馬鹿じゃね?それでなんでそれが出来るんだよ。訳分かんねぇ」
「えぇ!?分かんないの?」
「あの子を見守りたいって、頑張る姿を見たいってそう思ったの。その為なら奇跡だって起こしちゃうわ。だって」
「お母さんだもの」
「だから、あの子が満足するまで居座るからよろしくね!」
「はぁ…もう勝手にしろ」
白い火を連れて、女が現れた時と同じように消え去る。
ふと、幽霊は上を見上げる。
空は青空が続いていた。
どこまでもどこまでも。
あの子を迎えに行こう。
そして家に帰るのだ。
「さて、今日はあの子はどうするかしら?」
「今日は何をしようかな」




