第二話 have no memory
男は職場への道を歩き続けていた。街の中心地には、"グリーン"と呼ばれる巨大な塔が建っている。以前同僚の物好きな奴にどう言ったものか教えてもらった気もするが、もう覚えていない。ただ、同僚が政府の機密がどうたらと言っていたことだけが頭にあった。あいつはそういうのが好きな変なやつだ。誰もあんな塔の事などたいして気にしてはいないのに。そんな無意味なモノローグが終わる頃、男は自分の職場であるとあるビルの前にたっていた。
"社会に秩序と平穏を───ヴラドインク社標"
男はいつも通り社標の書かれた石碑の左、ビルの
正面入り口から建物へと入っていった。
「おはようございます。カード認証を終えた後、右のエレベーターにお進みください」
機械的な声が耳に響く。いつもと同じ受付の第三世代のアンドロイドが挨拶をした。男はカード認証を済ませ、20階にある自分のオフィスへ向かった。そう言えば、第三世代は第二世代に比べて外見も声も逆行している。第三世代は第二世代より何故か機械的なのだ。この理由も確かあの同僚に教えてもらっていたような…
そんなことを考えている暇もなく、エレベーターの扉が開く。
男の足音に振り替える同僚たち。
「やあ、おはよう」
こうして男の一日は始まった。
長い、長い一日が。