HALF MOON
HALF MOON
登場人物
ホラン 衛星
エネミ 〃
ギイザ 〃
パロウ 〃
ケース 惑星
サネル 恒星
ミルー 〃
ホランはしっかり者で彼らのリーダー格
エネミはインテリでどこかひねくれている
ギイザは慌てん坊落ち着きがない
パロウは呑気でいつもマイペース
【第1幕】
開幕
ホランがケースに語りかける
『ホラン』
やあケース こんにちは
いつも見守ってくれてありがとう
惑星の君がいてくれるお陰で
僕たち衛星は宇宙を漂わずにすんでいるんだ
なのに、いつも世話になっているばっかりで
何のお礼もできなくてごめんよ
え?
いつも美しい月を見せてくれているだって?
それは僕たちの力じゃないよ
サネルの光を反射しているだけ
僕たちは決して
自分の力では輝くことができないんだ
それに君の目には
僕たちの姿が完全には見えていないんだろう?
いつだって半分の姿しか見えないんだろう?
だって
僕たちは出来損ないの半月なんだから
ギイザが登場
『ギイザ』
おーいホラン
何を落ち込んでいるのさ
君らしくもない
せっかくかの有名な彗星群が
近くにやってくる時期だって言うのに
『ホラン』
やあギイザ
別に落ち込んじゃないよ。
いつも明るい君とは違って
たまには憂鬱な時があるのさ
『ギイザ』
何が憂鬱だよ
そんなの彗星群を見たらすぐに直るさ
君も知っているだろう
あの彗星群の美しさを!
百万年に一度だけ僕たちのもとに現れる
あの彗星群の荘厳さを!
『ホラン』
ああ もちろん知ってるよ
いつもみんなで一緒に見てるから
『ギイザ』
だろう?
だからそんな落ち込んだ顔してちゃだめだ
さあ 今回も元気な顔で
彗星群を見送ってやろうじゃないか
『ホラン』
それが、ダメなんだ…
『ギイザ』
ダメって何がだい?
『ホラン』
もう彗星群を見ることはできないってこと
『ギイザ』
彗星群が見られないだって?
何を言ってるのさ?
『ホラン』
ケースが言ってたんだ
もう彗星群はやって来ないんだってね
『ギイザ』
ケースが?
そんなの信じられないよ!
エネミが登場
『エネミ』
君が信じようが信じまいが
来ないものは仕方ないだろう。
彗星群だって
好きで来なくなったわけじゃないんだから
『ホラン』
やあエネミ
君も知ってたんだね
彗星群が来られなくなったことを
『エネミ』
当然さ
ケースから宇宙のニュースを聞いているのは
君一人じゃないんだからね
その程度の情報なら
通りすがりの隕石だって知ってるさ
『ギイザ』
相変わらず偉そうな奴だなあ
じゃあホランに聞くまで知らなかった僕は
通りすがりの隕石以下ってことか!
『エネミ』
別にそこまでは言ってないよ
そこまでしか言いたくもないけどね
『ギイザ』
何だと!
『ホラン』
おい 二人ともケンカなんかするなよ
『エネミ』
ケンカじゃないよ
僕はただ本当のことを教えてやっただけさ
お礼を言われる義理があっても
文句を言われる筋合いなんかない
『ホラン』
だからやめろって!
さあそんなことよりギイザだって
彗星群が来なくなった理由を知りたいはず
たぶんエネミは僕よりも詳しいはずだ
ここは一つご教授願おうじゃないか
『ギイザ』
わかったよ
ここはホランの顔を立ててやる
さあ、エネミ先生さんよ
詳しい話とやらを聞かせてもらおうじゃないか
『エネミ』
僕もそこまで詳しいわけじゃあないけどね
まあ仕方ないか
でもその前に…
君たちはこの宇宙が物凄いスピードで
崩壊が進んでいるのは知ってるよね?
『ホラン』
うん
僕たちのところはまだそうでもないけど
他の銀河では恒星同士の衝突と融合が起きて
銀河そのものが姿を消しているらしいね
『エネミ』
その通り
恒星同士の衝突と融合というのは
一つの銀河内で起こっているうちは
さほど珍しい現象じゃあないんだけれど
それが今では幾つもの銀河同士が
互いを巻き込みながら同時に進行しているんだ
『ギイザ』
幾つもの銀河で融合が進行したからって
それがいったいどうなるんだ?
『エネミ』
君は黙って聞いてなよ
ホランなら知っているだろう
恒星同士が融合すると質量が増えてしまうんだ
見た目の体積はそのままに質量が増えると
凝縮されて密度だけが大きくなっていく
密度が大きくなった恒星は巨大な重力を
自分では制御できない凶悪な力を持ってしまう
『ホラン』
ケースがそんなことを言ってたね
惑星であるケースも
衛星である僕たちも
サネルの重力が適度に保たれてあるから
今もここに存在しているんだって
もしサネルの重力が今よりも強大になって
適度なバランスを失ってしまえば
僕たちはサネルに吸い込まれてしまうんだって
『ギイザ』
君たちはよくそんなことを憶えていられるなあ
僕は今の今まですっかり忘れていたよ
『エネミ』
こんな大事なことをよく忘れられるなあ
まあそういうわけで
他の銀河では惑星も衛星も
重力のバランスを崩した恒星に
どんどんと吸い込まれて消えているのさ
『ホラン』
そこまではよく解るよ
でもそれと宇宙の崩壊とが
どこでどう結びついているんだい?
銀河の崩壊なんて僕たちが生まれてからでも
日常茶飯事に起こっているじゃないか
『エネミ』
まだ話は途中なんだ
君まで話を急いでもらっては困るよ
いいかい? 重要なのは
恒星の重力増大が引き起こす銀河の崩壊が
異なった場所で同時進行していることなんだ
『ギイザ』
だからそれは今聞いたよ
結局どういうことなんだ
『ホラン』
まさか他の銀河では銀河同士の
いや もうそれは
銀河と呼べるようなものではないけれど
そいつらの衝突と融合が
あちこちで起きていると言うのかい?
『エネミ』
そう その通りだ
君は理解が早くて助かるよ
『ギイザ』
何だ? どういう事だ?
『エネミ』
君に説明するのはいつも大変だ
いいかい?
一つの銀河に数万の恒星が存在するとしよう
それが全て融合して一つになってしまう
すると巨大な質量と密度と重力を持つ
超重力の塊が誕生するんだ
『ギイザ』
ひょっとしてそれは【ブラックホール】か?
『エネミ』
そうだよ
今この宇宙には
過去に在り得なかったほど多くの
【ブラックホール】が生まれているんだ
しかも百万光年にも満たない近い距離にね
そして…
『ホラン』
【ブラックホール】同士の融合が始まった…
『エネミ』
そういうことだ
僕の知り得る限りではね
『ギイザ』
ってことはだな
【ブラックホール】同士が合体して
さらに大きな【ブラックホール】が出来て
それがさらに他の銀河を侵食して
もっと大きな【ブラックホール】になって
全部の【ブラックホール】が一つになって…
ええい!わけがわからなくなってきたぞ!
『ホラン』
行き着く先は宇宙の崩壊…か
『エネミ』
そう
この宇宙の全ての質量を吸収した存在なんて
どれほど強大なのか考えたくもないけどね
しばし沈黙
ギイザが口を開く
『ギイザ』
でも それと彗星群がやってこない話と
いったいどこでどう繋がるんだ?
『エネミ』
おやおや
君はまだそんなことを言っているのかい
彼らはもうすでに
どこかの銀河の崩壊に巻き込まれたんだ
今はもうどこに行っても
彼らの美しい姿を目にすることないんだよ
『ギイザ』
そういう…ことか
『ホラン』
そういうことだ
『エネミ』
そういうこと…だ
『全員』
はぁ…
全員でため息をつく
またも沈黙
ホランが口を開く
『ホラン』
ああ 僕たちは
もうじき消えてなくなってしまうんだね
『エネミ』
うん
まだ十億年と生きていないのにね
『ギイザ』
なに二人揃ってのんきなこと言ってんのさ
こうなったら話は早い
僕たちで宇宙の崩壊を止める手を
何か考えようじゃないか!
『ホラン』
どうやって?
『ギイザ』
だから!
それを僕たちで考えるんだ!
『エネミ』
考えるといっても
何をすればいいのか検討もつかないよ
『ギイザ』
だったらケースに聞こう!
彼なら何か知っているかもしれない
『エネミ』
僕のような衛星が言うのも失礼だけれど
ケースだってただの惑星なんだから
宇宙の崩壊を止める術なんて知らないはずだ
『ギイザ』
だったらこうしよう!
サネルにお願いするんだ
【ブラックホール】にならないようにって
だってサネルはこの銀河で一番大きな恒星だ
彼が【ブラックホール】にならなければ
僕たちも安心して暮らせるんだろ?
『エネミ』
サネルが【ブラックホール】にならなくても
他の恒星たちが融合すれば結果は同じさ
もっと大きな【ブラックホール】が生まれる
そうなったら終わりだ
サネルともども僕たちは消えてしまう
『ギイザ』
じゃあ僕たちは
消えることが解っているのに
何も出来ないでこれからも過ごすのか?
『ホラン』
仕方ないよ
僕たちはただの衛星なんだ
それも見ての通り
満足に輝くことさえできない
半人前の出来損ないでしかないんだ
『ギイザ』
ホラン…
君までそんなことを
『エネミ』
どちらにせよ僕たちは
サネルの寿命が尽きた時点で
一緒に消えてしまう運命だったんだ
それが何十億年か短くなってしまっただけ
そう考えるしかないだろう
またも沈黙
パロウが登場
『パロウ』
やあ みんな
ご機嫌いかがですか?
『ホラン』
やあ パロウ
『エネミ』
相変わらず呑気な奴だ
見れば解るだろう?
君以外はみんなご機嫌じゃないんだ!
『パロウ』
おやおや本当だ
みんな暗い顔しているぞ
しかもギイザまで落ち込んでるなんて
こりゃ世も末ですなあ
『ギイザ』
ああそうだよ! 世も末だよ!
この宇宙はじきに終わってしまうんだ
『パロウ』
何だよ 言葉のアヤじゃないか
本気で捉えてどうするんだよ
そんなことよりさ
もうすぐ彗星群がやってくる時期だねえ
彼らすごく綺麗だもんなあ
おい君たち
あんな素晴らしい彗星群がやって来るのに
そんな鬱陶しい顔をしてちゃダメだよ
はい 笑って笑って!
『ホラン』
あれ? パロウ
もしかして君も知らないのかい?
『エネミ』
呆れたね
ぼくは頭が痛いよ
『パロウ』
知らないのかい…って何のことさ?
『ギイザ』
本当に君は呑気な奴だなあ
いいかい?
もう彼らは二度とやって来ないんだよ!
『パロウ』
え? それまたどうしてだい?
『ホラン』
もしかしてまた最初から
パロウに説明しなくちゃいけないのか?
『エネミ』
そのようだね
ちょっと面倒くさいな
『パロウ』
ちょっと待ってよ
話が全然見えてこない
ギイザが知ってて僕が知らないなんて
とてもショックだ
僕一人だけ仲間はずれなんてずるいよ
『ギイザ』
なんだよパロウまで
僕をバカにしやがって!
『ホラン』
仲間はずれにする気はないよ
ねえギイザ
さっきの話をパロウに教えてあげなよ
今の君ならうまく伝えられるだろう?
『ギイザ』
僕が説明するのかい?
しょうがないなあ
えーコホン!
パロウいいかい?
他の銀河では恒星同士の合体が進んで
その影響で【ブラックホール】ができて
【ブラックホール】に彗星群は吸い込まれて
それで
宇宙が駄目になっていこうとして
それで
僕たちはすごく悩んでしまっているんだ
わかったかい?
『パロウ』
ちっとも。
『エネミ』
僕もその説明だけを聞かされて
理解する自信は全くないね
『パロウ』
エネミもわからないってさ
ほら もっとうまく話してよギイザ
『ギイザ』
だから
恒星が合体すると質量やら重力の関係で
【ブラックホール】になってしまうんだ
それが宇宙のあっちこっちで起きていて
その騒ぎに彗星群は巻き込まれて
もうここには来なくなって
一方では宇宙が崩壊していて
僕たちも長くは生きられなくて
だから【ブラックホール】にはならないよう
サネルにお願いしたいんだけど
ケースはただの惑星だから何もできなくて
いいや これは違う
サネルが【ブラックホール】にならなくても
僕たちは【ブラックホール】に吸い込まれて
ああ! わけがわからない!
もう帰る!
帰ってもう一度どうすればいいか考えるよ!
ギイザが退場
『パロウ』
おーい! ギイザ待てよ!
何のことかわからないままじゃないか!
パロウが退場
『ホラン』
おーい! 二人とも待てよー!
『エネミ』
仕方ないな
あとで僕からパロウに説明しとくよ
ホラン じゃあまたね
エネミが退場
あとにはホランが一人きり
【第2幕】
ホランがケースに語りかける
『ホラン』
やあケース
彗星群はやっぱり来なかったね
本当に彼らはもうこの宇宙のどこかで
【ブラックホール】に吸い込まれたの?
そっかあ
エネミの言ってたことは本当だったんだ
あんなに綺麗だったのに
もうどこにもいないのと同じなんて
ねえケース この宇宙は
本当に滅亡への道を進みだしたのかい?
サネルは【ブラックホール】にならないよね?
もし【ブラックホール】に吸い込まれたら
僕たちはどうなってしまうんだろう?
ねえケース
教えておくれよ
お願いだから答えておくれよ。
パロウが登場
『ホラン』
やあパロウ
君一人だけかい
最近ギイザの姿を見なくなったけれど
どうしたんだろう
何か知らないかい?
『パロウ』
やあホラン
僕もギイザを探しているんだ
どうやらケースの所にいるみたいだけど
『ホラン』
そうか
エネミは?
近ごろ彼とも顔を合わさないから
『パロウ』
彼も一人でいることが多くなったね
なんだかずっと
今までよりも考え込んでいるみたいだ
『ホラン』
うん やっぱりそうなのか
『パロウ』
なんだかギスギスしているね。
『ホラン』
そうだね
なんだか最近みんな変わったね
『パロウ』
変わった…ってどういうふうに?
『ホラン』
なんだか避けられているみたいだ。
普段どおりなのは パロウ
君ぐらいしかいないよ
エネミが登場
『エネミ』
避けているだなんて人聞きが悪いなあ
僕だって普段と変わらないつもりだけどな
『パロウ』
やあエネミ
『ホラン』
聞いていたのかい
ごめんよ
陰口をたたくみたいになって
『エネミ』
立ち聞きする趣味はないけれど
聞こえてしまったからね
そうそう
ついでに君たちに伝えたいことがある
あまりいいニュースではないけどね
『パロウ』
なんだろう
悪いニュースは聞きたくないなあ
『ホラン』
また何かあったのかい?
『エネミ』
ああ とうとうこの銀河付近にも
【ブラックホール】が誕生するそうだ
ケースが教えてくれた話によると
サネルから十万光年しか離れていない
ミル―という大きな恒星が
その近隣の恒星を吸収し始めてるらしい
厳密にはまだ規模が小さくて
【ブラックホール】ではないらしいけれどね
『ホラン』
十万光年って…そんなに近くで?
『パロウ』
ミルーの名はケースから聞いたことがあるよ
サネルほど大きくはないけど
生まれや組成の似た兄弟みたいな星だって
『エネミ』
そうさ そのミルーが
【ブラックホール】になろうとしているんだ
パロウの言った通り
サネルとは兄弟のように似た恒星だからね
けっして影響がないとは言えない
そのことをケースがとても心配していた
しばし沈黙
ギイザが登場
『パロウ』
やあギイザ
ずいぶん久しぶりだね
少しは気が楽になったかい?
『ギイザ』
自分が消えてなくなるかもしれないのに
気が楽になるわけがないだろう
今も気が狂ってしまいそうさ
僕は呑気でも冷静でもないからね
いっそ隕石にでもなって
この場から逃げてやりたいぐらいさ!
『エネミ』
隕石になったからってどうなのさ
そんなことしたって
消えてしまうことに変わりはない
知っているだろう?
宇宙での旅に慣れていた彗星群だって
銀河の崩壊に巻き込まれてしまったことを
『ギイザ』
ああ知っているとも!
でもね どうせ消えてなくなるのなら
ここでじっとしているよりも
気が済むまで宇宙を飛び回って
それからでも悪くないと思わないのか?
『エネミ』
まったく思わないね!
僕たち衛星はケースに選ばれたんだ
だからこそここにいるんだ
衛星になる前のことを憶えているかい?
惑星の狭間をさまよって
仲間たちがどんどんと惑星に衝突して
消えていったことを憶えているかい?
そんな隕石に戻るくらいなら
このまま消えたほうがよっぽどましさ!
『ギイザ』
よく言うよ!
僕たち衛星と隕石にどれだけの差があるんだ
こんな出来損ないの半月に
隕石を馬鹿にする資格があるって言うのか?
『エネミ』
そこまでは言っていないだろう!
じゃあ君にも教えてやるよ
ここから十万光年しか離れていない場所に
ミルーという恒星があるだろう、それが…
『ギイザ』
ああ知っているとも
ミルーが【ブラックホール】になるんだろう
自分だけが知っていると思ったら大間違いだ
ふざけやがって!
『エネミ』
なんだと!
『ギイザ』
いつも馬鹿にされている僕が
君よりも先に知っていて悔しかったかい?
『エネミ』
ああ悔しいね
『ブラックホール』の影響が
もう近くにまで及んできていて
そんな危険な場所にわざわざ
自分から隕石になって向かおうとする
馬鹿に先を越されただなんてね!
はあ 世も末だよ!
『パロウ』
おいおい二人ともやめろよ
ここで言い争っても仕方がないだろう
『ギイザ』
先にケンカを売ってきたのはエネミさ!
『エネミ』
ケンカを売っただって?
いつも言っているだろう
僕は本当のことを言っただけだ!
『ホラン』
だからそれが喧嘩だよ!
ここは冷静になろうじゃないか。
『ギイザ』
うるさい!
君は黙ってろよ!
『ホラン』
黙っていられるわけがないだろ
僕たちは兄弟だろう?
ケースに選ばれた兄弟のはずだろう?
『エネミ』
『ギイザ』
僕たちが兄弟?
『ホラン』
そうさ 僕たちは隕石だった頃から
一緒に宇宙をさまよってきたじゃないか
そして4人揃ってケースに選ばれて
ここでまた一緒に衛星になったんじゃないか
こんな時こそ力を合わせるべきだろう
『パロウ』
ホラン…
『ホラン』
たとえ僕たちが出来損ないの半月だって
みんなの力を合わせれば
美しい満月になれるかもしれないだろう?
僕たちはきっと1人だけじゃ
満足な月の形にすらなれないんだから
『エネミ』
ホラン…
『ホラン』
だからケンカなんかしてちゃいけないよ
こんな時こそ助け合おうよ
兄弟なんだから仲良くしようよ
『ギイザ』
ホラン…
ごめんよ 僕たちが悪かった
『エネミ』
僕も少し冷静さを欠いてしまっていたよ
ギイザのことを悪く言う資格なんてないな
君の言う通り どこか変だったみたいだ
『ホラン』
ギイザ… エネミ…
『ギイザ』
少し頭を冷やしてくるよ
ギイザが退場
『エネミ』
僕も 一人になって気を落ち着かせるよ
エネミが退場
『パロウ』
あーあ行っちゃったか
いつもこうだ
あの二人が顔を合わせると
揉め事しか起こらない気がするな
まったく…飽きもせずによくやるよね
『ホラン』
うん そうだね
『パロウ』
毎回毎回 後始末しなきゃならない
僕とホランの身になって欲しいもんだ
こういう気まずい空気が僕は苦手でね
まあ喧嘩するほど仲がいいって言うから
放っておいたほうがいいだろうけど
それにしても
今回ばかりはホランまで熱くなってしまって
僕はどうしたらいいのか心配していたんだぞ
さすがに3人もなだめるのは難しいからね
『ホラン』
ごめんよ
つい口を挟んでしまった
どうやら僕もあまり平静ではないらしいや
『パロウ』
それは仕方ないよ
こんな時期だからね
君はいつも自分を押し殺して
みんなのバランスをとろうとするんだから
こんな時は少しぐらい感情的になったほうがいい
そのほうが体にずっといい
『ホラン』
ありがとう パロウ
君だけがいつもどおりだね
すごく自然に落ち着いていられる
もしかしたら僕たちの中で
一番頼りになるのは君なのかもしれないな
『パロウ』
冗談はよせよ
僕は決して頼りになんかならない
君も知っての通り
僕はただマイペースで呑気なだけだ
もうすぐ世界が終わるかもしれないのに
何の実感もわかないぐらいね
『ホラン』
そんなことはないよ
確かにマイペースかもしれないけど
君はただ呑気なわけじゃない
『パロウ』
おだてるのはやめてくれって
本当の僕は自分勝手なだけだ
それが呑気でマイペースに見えるだけ
あまり他人のことを考えていないからさ
自分がよければそれでいいとは言わないけど
僕は君のように
相手の心の深く深くまで考えて
合わせることなんてできやしない
ただそれだけなんだ ホラン
『ホラン』
いいや 僕だって
他人のことばかり考えて生きちゃいないよ
いつも自分の意見を通そうとして
いつも後悔してしまう
誰が正しいなんて決まっていないのに
『パロウ』
だけど考え方の基準は必要さ
君の考え方や振る舞いが僕たちの基準になる
それは僕たち3人にはマネのできない
君の本当に素晴らしいところだ
『ホラン』
基準だなんて
そんなこと言われても
『パロウ』
重いかい?
『ホラン』
うん
しばし沈黙
パロウが口を開く
『パロウ』
ねえホラン
僕たちが衛星として生まれ変わった時に
それぞれが一つの夢を見たのを憶えているかい?
『ホラン』
ああ もちろん憶えているとも
『パロウ』
僕が見た夢はね
自分の衛星になったその瞬間だったんだ
ふらふらと惑星の間を彷徨い続けて
もう疲れ果ててしまって
やっと見つけた安住の場所
ここにじっとしていてもいいって知った時
なんだかとても嬉しくなった
それが僕の夢だったんだ
僕の夢は衛星になることで叶えられてしまったんだ
だからねホラン 僕は
衛星になってから過ごしてきた今までの時間を
おまけのような余生だと思っている
スタート地点に立った時点で
自分の意味をすでに見つけてしまったんだから
だからねホラン
僕が呑気でマイペースなのは仕方がないんだ
最初に夢を叶えてしまった僕が
これ以上に素敵なことを望めるわけがないだろう?
きっと僕たちの性格は
衛星となったあの時に見た
それぞれの夢の中に埋められてあったんだ
ギイザがせっかちなのも
エネミが物知りなのも
たぶん君の性格だってそうさ
『ホラン』
あの時に見た夢が?
『パロウ』
そうさ 君も見ただろう?
僕は今でも克明に憶えているよ
『ホラン』
僕の…見た夢…
エネミが登場
『エネミ』
大変だ みんな!
ギイザが…
ギイザが飛び出してしまった!
『パロウ』
やあエネミ
何かあったのかい?
『ホラン』
ギイザに何かあったのか?
『パロウ』
そんなに慌てて君らしくないなあ
いつものように
落ち着いて説明してくれないと困るじゃないか
『エネミ』
こんな時にまで落ち着いていられないよ
今ケースに聞いたんだ
ギイザが衛星軌道から外れてしまったって
どうやら彼は
本当に隕石にでもなるつもりらしいよ!
『ホラン』
なんだって! 本当かい?
『パロウ』
ああ なんてこった
ギイザのやつ…
『エネミ』
今はまだケースの力の及ぶ場所で
そんなに遠くまでは行っていないけれど
急いで連れ戻さないと
本当にギイザが宇宙をさまよってしまう!
だから君たちも一緒に来てくれ
ギイザを… 兄弟を連れ戻さないと…
『ホラン』
わかった みんな急ごう!
全員が退場
【第3幕】
ギイザが登場
『ギイザ』
みんな さようなら
やっぱり僕は隕石になって宇宙を旅するよ
これ以上 迷惑かけるわけにはいかないからね
あと少しでケースの重力から完全に抜け出せる
そうすれば僕はもうただの隕石だ
そういえばケースが言っていたなあ
僕たちが衛星になった時に見た夢のこと
隕石に戻ってしまえば夢から解放されるって
僕の見た夢は
色とりどりのガスを体に纏わせて
宇宙を旅し続けている彗星の姿だったんだ
夢の中で僕は
真っ暗な宇宙空間を彩り染めていたっけ
こんな不細工な半月じゃなくて
赤も青も緑も黄色も金色も
全ての色が僕の体から生まれていたんだ
だけど本当の僕には
サネルの光を反射するだけしかできない
ケースの見せてくれた夢から覚めて
衛星であったことを忘れたなら
いつか僕も彗星になることができるかな
真っ暗な宇宙空間で輝けるのかな
ホラン・エネミ・パロウが登場
『ホラン』
ギイザ 待って!
『エネミ』
間に合ったか よかった
『ギイザ』
みんな… どうしてここに
『パロウ』
どうしたもこうしたもないよ
君が隕石になるのを止めにきたんじゃないか
『ギイザ』
ほっといてくれよ
僕は隕石になって
そして彗星になって光り輝きたいんだ
ここにいたって
衛星のままじゃそれもままならない
僕たちはここにいても半月のままなんだ
決して満月にはなれない
どうせ近いうちに
【ブラックホール】に飲み込まれるんだろう?
それだったら好きなようにやらせてくれよ!
ケースに見せられた夢から覚めて
自分の描く本当の夢を見てもいいじゃないか!
『パロウ』
バカなこと言うなよ ギイザ
隕石になったからって
彗星のように輝けるわけないだろう
『ギイザ』
ああ 僕はバカさ
どうしようもないぐらいにね
こんなバカな僕が一緒にいたって
君たちに迷惑かけるだけだろう?
『ホラン』
何を言ってるんだ 迷惑だなんて
そんなこと誰も言っていないだろう?
『エネミ』
ああ迷惑だね!
『パロウ』
おいエネミ!
こんな時に君は何を言ってるんだ
『ギイザ』
ほうら見ろ
やっぱりそうだろう!
『エネミ』
いくら馬鹿だからって
こんなことをされたらひどく迷惑だ
こんな時だからみんなで助け合おうって
支え合おうってホランが言っていたのに
僕たちは兄弟だから
力を合わせようって言ってくれたのに
その思いを乱すなんて許せないことだ!
『ホラン』
エネミ…
『ギイザ』
…
『エネミ』
ケースに見せられた夢から抜け出すだって?
彗星になって輝きたいだって?
好きにすればいいさ
だけどね、ギイザ
僕たちは一人じゃ何もできない衛星なんだ
僕たちは四人が揃って
ようやく一人前に過ごすことができるんだ
それなのに君が抜けてしまったら
残された僕たちは一体どうなってしまうのさ
君が抜けた衛星軌道のバランスが崩れて
僕たちまで隕石に戻ってしまったらどうするんだ!
『ギイザ』
そんなこと知らないよ…
あとは君たちで頑張ってくれ
『ホラン』
ねえギイザ
お願いだから考え直してくれよ?
『パロウ』
そうだよ!
いつも騒がしい君がいなくなったら
僕たちがすごく寂しくなるじゃないか!
『エネミ』
惑星から離れた衛星がたどる末路を
君は知っているのか?
『ギイザ』
何だって?
『エネミ』
惑星の重力から離れてしまった衛星が
隕石となったあとにたどる
その末路を君は知っているのかと聞いたんだよ
『ギイザ』
ふん!
隕石になったらどうなるって言うんだよ!
『エネミ』
君は衛星になった時に見た夢を
ケースに見せられた夢だって言ったよね?
それは違う
あの時に見た夢は
僕たちがそれぞれに生まれもった属性なんだ
それをスクリーンのように映し出して
見せてくれたのがケースだっただけなんだ
『ギイザ』
そんなことは聞いていないだろう
僕は隕石になったらどうなるのか聞いたんだ!
『エネミ』
過去にも君のような衛星が沢山いたんだ
自分が見た夢を具現化するために
衛星である今を捨てて
隕石になってしまったものたちが
彼らは全員 惑星の重力から離れた途端に
自分の夢を忘れてしまった
自分が衛星だったことを忘れてしまった
ただ隕石である自分に怯えて
すぐに近くの惑星に吸い込まれたり
運が悪ければ同じ隕石同士がぶつかって
それで終わり
決して自分の夢を叶えたものはいないんだ
『ホラン』
それ本当かい?
『エネミ』
ああ本当さ
『ギイザ』
どうして君がそこまで知っているんだよ!
エネミ いつもそうだ
君は僕たちが知らないことを知りすぎている
『パロウ』
そういえばそうだな
今までは不思議に思わなかったけど
言われてみれば見ればたしかに変だな
『エネミ』
それが僕の見た夢だからさ
『ホラン』
君の見た夢?
『エネミ』
そう 僕が見た夢はね
【ビッグバン】と呼ばれる
宇宙の原始期の姿だったんだ
そこから様々なガスが宇宙に撒き散らされて
いたるところで銀河が形成されて
今の宇宙を作り上げていったんだ
その様子を夢の中の僕は見守っていた
なぜ僕がそんな夢を見たのかは解らないけれど
僕は宇宙が辿った歴史を見てしまったんだ
『パロウ』
そりゃスケールのでかい夢だな
僕なんかとは大違いだ
『ギイザ』
へえ それで君はいつも偉そうだったわけか
僕たちの誰よりも頭がよくて
威張り散らせたわけか
宇宙の歴史を見てしまっただって?
それだったらそのご立派な知識を活かして
銀河の崩壊を止めてみやがれってんだ
『エネミ』
そんなことができるわけないだろう
『ホラン』
どうしてだい?
宇宙で起こったことを全て知っているなら
【ブラックホール】を止める方法ぐらい
簡単に思いつくだろう?
【エネミ】
そうもいかないよ
僕が見たのは歴史だけだ
僕たちが衛星になる直前までの宇宙の姿だけだ
これから起こることなんて検討もつかないし
今どこで何が起きているかも解らないんだよ
僕にできることは歴史を語るだけ
それしかできないんだ
現在起こっていることも
ケースから聞かなければ何も解らないし
未来を予測することもなんて不可能なんだ
『パロウ』
うまくいかないもんだね
『エネミ』
そうだね
ぼくは所詮ただの衛星だからね
『ホラン』
つらかっただろうね
一人でそんな膨大な情報を抱え込んでいただんて
『ギイザ』
君のことはわかったよ エネミ
だけど だからってそれが
僕が出て行ってはいけない理由なのかい?
『エネミ』
出て行ってはいけないんじゃない
出て行って欲しくないだけなんだ
夢を忘れた隕石になって
君に無駄死にして欲しくないだけなんだ
本当に 本当にただそれだけなんだ
『ギイザ』
エネミ…
『ホラン』
ねえギイザ 本当はね
エネミが君のことを一番心配していたんだ
いつだってね
そうじゃなかったら
こんな場所まで追いかけてくるわけがないだろう
だからね 君も
変な意地を張らずに帰ってこいよ
またみんなで一緒に過ごそう
『パロウ』
そうだよ
珍しく素直なエネミが見れたのは
なかなかの収穫だったけど
それと引き換えに君を失いたくなんかない
騒がしい君がいなくなったら
呑気な僕はどうしたらいいのさ
あとは真面目で堅物のホランと
小難しくて気分屋のエネミの
2人を相手しなくちゃいけないんだぞ
そんなことになったら
息苦しくって僕までが隕石になりそうだ!
『ギイザ』
ふっ それもそうだな
『ホラン』
おいおいパロウ
何もそこまで言うことはないだろう
真面目はいいけど堅物は聞き逃せないな!
『パロウ』
冗談じゃないかホラン
この嫌な空気を和ましただけさ
本気で怒るなんて
やっぱり堅物の証拠じゃないか
広がる和やかな空気
一同に笑顔が戻る
『ギイザ』
みんなごめんよ
もうこれ以上迷惑はかけないようにする。
『エネミ』
もういいよ
君が戻ってくれるならそれでいい
『パロウ』
そうそう それでいい
『ホラン』
じゃあみんな帰ろうか
空間が歪みはじめる
どこかへ流されていく4人
サネルが【ブラックホール】へと姿を変えていく
『ギイザ』
何だって言うんだよ!
『パロウ』
もしかして、サネルが?
『エネミ』
どうやらそうみたいだね
この銀河を取り巻く空間が悲鳴をあげている
『パロウ』
僕も悲鳴をあげたい気分だ
『ギイザ』
何を呑気なこと言ってんだよ
こんな時にまで
『ホラン』
危ない! 隕石が!
『ギイザ』
ケースにぶつかっちまった!
『エネミ』
僕たちもいつ同じ目に遭うか解らないな
『パロウ』
嫌だなあ
どうせなら潔く隕石になってたらよかったよ
ねえギイザ?
『ギイザ』
おい いい加減にしろ
『パロウ』
冗談だってば
『エネミ』
冗談を言ってる場合じゃないかもしれない
段々とケースに近づいている
そして その向こうにはサネルがいる
『ホラン』
本当だ
こんなに近くでサネルを見たのは初めてだ
『エネミ』
異常な光景だ…
こんなの信じられないよ
『パロウ』
僕たちよりも手前にいた惑星や衛星が
どんどんとサネルに吸い込まれていっているね
『ギイザ』
あちこちから他の星もどんどん引き寄せられてるよ
『エネミ』
どうやらミルーの変化が
サネルを狂わせてしまったみたいだね
まさか こんなに早く起こるとは
『ホラン』
僕たちもこのまま終わってしまうのかな?
『ギイザ』
どうしたんだよホラン!
君が弱気になってどうするんだ
『パロウ』
そうだよ 最後まで諦めちゃ駄目だ!
『ホラン』
そんなこと言ったって
どうしようもないだろう
怖いよ どうしようもなく怖いよ
本当にこんなことになるなんて思っていなかった
『ギイザ』
ホラン…
『ホラン』
見ただろう? みんな
これが僕の本性なんだ
肝心なときに何もできない
臆病者が僕の正体なんだ
『パロウ』
何言ってるんだよホラン!
『ホラン』
僕は君たちみたいに個性もないし
役に立つ取り柄もないんだ
一人じゃ何もできない
出来損ないの衛星の中でも
とりわけ役に立たないただの半月なんだ!
『エネミ』
ホラン!弱気になるな!
夢を思い出せ!
君も衛星になったあの時に夢を見ただろう?
あの夢の本当の使い方は
こんな時に自分自身に勇気を与える為なんだ!
『ホラン』
僕の見た夢?
夢を思い出す?
『エネミ』
そうだホラン
君があの時に見た夢を思い出すんだ
『ホラン』
僕の…見た夢
『パロウ』
忘れたなんて言わせないよ!
僕の夢を話した時に言ったよね
君は自分が見た夢を憶えているって
『ホラン』
夢… でも僕の夢は…
『ギイザ』
あーもう! じれったいなあ!
こんな大事な時にまで
思わせぶりな事をしてる場合じゃないだろ!
『ホラン』
思わせぶりなんかじゃないよ!
ただ自分の見た夢が
自分自身が信じられないんだ
叶いもしない夢を
今さら口にしたって仕方ないじゃないか!
『エネミ』
さっきも言っただろうホラン
僕たちの見た夢はえ
生まれた意味を問いただしているわけでも
生きている間にやり遂げる使命を
決め付けているわけでもないんだ
ただ僕たちが自分自身を誇るために
自分は自分でいいんだって
そんな当たり前の自信を持つために見たんだ
自分のことを絶対に嫌いにならないようにね
『ギイザ』
そうだよホラン 僕もね
【ブラックホール】に怯えていたときに
ケースに相談したんだ
その時にケースが言ってたよ
僕たちが見たのと同じような夢を
サネルの惑星に選ばれた時に見たって
ケースが見た夢はね
広い宇宙を意味もなく彷徨うだけの隕石を
自分の衛星にしてあげる事だったんだって
だから僕たちを迎え入れられた時
とても嬉しかったんだって
『パロウ』
ねえホラン
僕やケースのように叶う夢を見る場合もある
ギイザやエネミのように自分を信じるための夢もある
どっちも素敵な夢なんだ
だから大丈夫!
『3人』
さあ ホラン
君の夢を聞かせてよ
『ホラン』
僕が見た夢…
僕が見た夢は…
僕たちがみんなで満月になって輝くことだった
実際にはこんな半月だったけど
僕はいつの日かみんなで満月になれる夢を見たんだ
サネルの光を体いっぱいに浴びて
出来損ないじゃない本当の衛星の姿を
ケースにも見せてあげたかったんだ
そう 僕たちは出来損ないなんかじゃない
本当は立派な姿で生まれたんだ
一人一人ではできないかもしれないけど
みんなの力を合わせたら
きっと一つのものになれるって
僕はそんな素敵な夢を見て生まれたんだ。
空間が歪む
衛星軌道の変化する
4人の全身が光り輝く
『パロウ』
あれれ
もしかしたら僕たち満月になっていないか?
『ギイザ』
本当だ…全身に光を感じる
『エネミ』
サネルに吸い寄せられて
ケースの衛星軌道が変わったんだ
『ホラン』
ねえ…僕たち
満月になったのかい?
『パロウ』
ああそうさ ホラン!
もう僕たちは出来損ないなんかじゃない!
『ギイザ』
そうさ こんなに立派に輝いている!
僕たちはもう半月なんかじゃないんだ!
『エネミ』
さあホラン
君の見た夢が今叶ったんだ
君が見た夢のおかげで
僕たちは満月になれたんだ
『ホラン』
本当に… 本当に満月になったんだね
これは夢じゃないんだね
『ギイザ』
夢じゃないよ
『パロウ』
うん 夢じゃない
『エネミ』
僕たちの想いが一つになったから
最後に奇跡が起きたのかもしれないね
『ホラン』
ねえ見てよケース!
僕たちはやっと満月になれたんだ
僕たちは立派な満月になれたんだ
半人前の衛星じゃない
出来損ないの半月でもない
ねえ見てよケース
僕たちの姿を見て
僕たちはもう出来損ないじゃないんだ!
ケースに吸い込まれて消えていく4人
サネルに吸い込まれていくケース
そして1つの宇宙が跡形もなく崩壊した
閉幕