7,日用品クエストを受けよう
特別報酬で専用腕時計という名の腕輪をもらったテラオ。
微妙な様子で腕輪をくるくるといじっていたが、ベイスが今後も指導してくれると聞いて表情が明るく変化した。
威圧感はすごいが熱意のある指導は、テラオの心に響く物だったのだろう。
「あたしからも、ちょっといいものをあげるわ」
メニューが差し出したのは一冊の本。
A4ほどのサイズで厚みはそれほど無い、カラー印刷されたそれは、本と言うよりパンフレット。
「あんたのゴザにちゃぶ台と小さな本棚も置いてきたから、帰ってのんびり読んでなさい」
「いつもありがとうメニュー、早速帰って読んでみるね」
プレゼントを幾つももらい、上機嫌な様子でテラオはゴザへと帰った。
◇
居住スペースに帰ってきたテラオ。
ゴザに追加されていたのは、文庫本なら十冊程入りそうな小さな本棚。
ちゃぶ台は一人分のご飯とおかずと味噌汁を載せたらいっぱいになりそうなサイズ。一人で過ごす空間にはちょうどいい大きさだ。
メニューに渡された本は、『技能習得講座一覧』と表紙に書かれていた。資格取得の通信講座パンフレットに似た雰囲気。
テラオはちゃぶ台の前に座ると、早速もらった本をぱらぱらっと捲る。
大まかに『武器技能系』『特殊職技能系』『魔法技能系』『生産職技能系』『その他技能系』『技能以外』の六項目に分かれ、様々な技能が並んでいる。
技能以外というのは各種知識講座で、異世界の言語講座や、農業などの生産知識、政治経済知識講座などが含まれていた。
だが注意事項として、今すぐこの講座を受けられる訳では無く、基礎を身に付けないと受講資格無しと書かれていた。
今からどの講座を希望するかを検討しするように、と言う事だろう。
――♪ピンポロポン。ペーターのダンス講座の時間です。
唐突にテラオ専用腕時計が音を鳴らし、女性の声でアナウンスが流れた。
テラオはあまりに突然の音と声に驚いたのだろう。飛び上がったついでにちゃぶ台をひっくり返し、開いていた本も飛ばしてしまう始末。
――♪ピンポロポン。ペーターのダンス講座の時間です、いそげ。
「え? えぇ? 受講申し込みしてないよ!」
(なんか時計さんの声が怒ってきてるような……)
――♪ピンポロポン。ペーターのダンス講座 はよっいけっ!
「はいぃ!」
(メニューに今日は帰ってのんびりしていいって言われた気がするんだけどな)
なかなか移動しないテラオに苛立っているのか、専用腕時計から聞こえる声が刺々しいものになっていた。
――♪ピンポロポン。反抗するの?
「い、いえ、今行きますすぐ行きます」
何か恐ろしい事でも起こすかのような。専用腕時計の低い声に脅されたテラオは、慌てて牧場入り口へと向かった。
『ちょっとうれしいいいもの』と説明されて受け取った専用腕時計。ちょっと所では無いほど高性能な、だがテラオに厳しい物だった。
ダッシュで牧場入り口にたどり着いたテラオ。そこには、相も変わらず踊り続けるペーターが居た。
「いつの間にかダンス講座が予定に入ってたのですが……」
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「二回目の服クエスト達成までは毎日ダンス講座があるヨ。合格したら二回目の服クエストを受けられるヨ~~~♪」
「あ、ハイ……」
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「二回目の服クエスト終わったら他のクエストが始まるヨ~~~♪」
どうやらこの講座と二回目の服クエストがキーになり、他のクエストが始まる仕組みになっているらしい。ベイスとペーターに認められたら本格的なクエストが始まるのだろうか。
「なるほど、ダンスの自信は無いですが頑張ります」
教わったダンスはあまり格好の良い物では無かった。
腕をブラブラと振りながら全身を揺らしたり、左右に体をぶんぶん振り回し太鼓を叩く動作をしたり。
音に合わせて体を動かし、緩急つけた動作、メリハリのある動き、と見た目以上に難しそう。これらの動きは戦闘訓練に通じる物なのかもしれない。
◇
専用腕時計の『終了時間です』との声でダンス講座が終了した。およそ一時間位の講座だったが、テラオは相当体力を削られた様子だ。
「関節がガクガクになったような気がする……」
カクカクとした動きでテラオは自分のゴザへと帰った。
ゴザへ戻ったテラオは、パンフレットを開いて講座の確認をしている。
「うーん、最強を目指す訳では無く、無難にのんびり生きていく為の技能と知識は欲しいね。どんなスキルが必要なのかは相談してから決めた方がいいよね」
独り言をぶつぶつと呟きながら、気になったページの端を折っている。
「まずは情報収集だね。行く先の異世界に何があるのかを知らないと、何が必要なのかが分からないよね。
せっかくもらったチャンスだから失敗できないし、事前に準備して転生できたら相当有利に暮らせるだろうなー」
(いろいろメモとか残したいな、付箋とかペンが有ると便利だよね。メニューに聞いてみようかな)
「日用品をもらえるクエストでも用意しようかしら」
「おっ! え? 日用品クエスト! それはうれしい、すぐにでも行きたいよ」
いきなり現れたメニューにテラオはビクッと驚いたようだ。だが、日用品クエストは聞き逃せない情報だったらしく、食いつくような反応を見せた。
「ベイスの講座が進んだら受けられるようにするわ。息抜きになりそうな簡単なクエストにするわね」
簡単なクエストで日常生活が豊かになる。魅力的すぎる情報にテラオも興奮している。
「おほぉー、やる気みなぎるぅ」
「変な声出すんじゃ無いわよ。魔力操作の練習でもして、早く合格もらえるようにしなさい。時間がある時は少しでも自分を高める努力をするように!」
「了解です!」
興奮から落ち着いたテラオは自分を高める努力を始めたようだ。
パンフレットをパラパラめくりながら、体をうにょうにょとうねらせている。
端から見るとなんだか怪しくキモい動きをしているようだった……。
辺りがすっかり暗くなるとテラオは本を閉じた。文字が読み辛くなったので、魔力操作の練習に集中するのだろう。
うにょんうにょんとキモ怪しい動きが続いている。
横になって枕を抱き、全身を使ってうねりだす。あっちに転がりうにょん、こっちへ転がりうにょん。
「うーん、簡単にうまくいく訳は無いか……」
勢いをつけて起き上がろうとしたところで、ちゃぶ台に足をぶつけたテラオ。
ぽーんと跳ね上げられた本が宙を舞う。
慌てたテラオは本を掴もうと手を伸ばすが、あとちょっとのところで届かない。転がりそうになるテラオ。
「ふぬぅ!」
気合いを入れたテラオの指先から、何かが伸びた。指先から伸びた何かは、本に触れはしたがすり抜けてしまう。
「今の感覚……、魔力を伸ばして本に触れることができたような」
偶然だったが感覚をつかめたらしい。テラオは左右の腕を伸ばしたり、脚を伸ばしたりと、新しく覚えた感覚を確かめるように体を動かしていた。
(うっかりのおかげでやり方が分かった。ぐぐっと動かして集めて伸ばすような感覚……)
一度できた事は、繰り返せば繰り返すほど上達が早いもの。
体のあちらこちらに魔力を集めているらしく、テラオの体をぼんやりとした光の明滅が移動している。
だが、「魔眼が……うずく……」とか言って片目を光らせていたのは無駄な事だろう……。
一通り動かせるようになり満足したのか、テラオはごろんと横になり満足げなため息をついた。
――♪ピンポロポン。4日目の朝です、走り込みの時間です。
――♪ピンポロポン。カユトマールを支給します。
「ですよねー、達成感に浸る時間とか無いですよね」
やるべき事が終わったので、時間が進み朝になったらしい。
『カユトマール』をちびちびと飲みながら、とぼとぼと訓練島へと歩くテラオ。だが、専用腕時計は容赦なくテラオを叱咤し走らせた。
訓練島外周をぐるぐると全力疾走、一時間ほど周回を続けていたテラオの元にベイスがやって来た。
「魔力操作できるようになったな、とにかく自由に動かせるようになっておけ。手足の指先一本一本から、体全体にまんべんなく、さらに皮膚の周りにうっすらまとわせるように、そんな感じで練習して行けば上達するぞ」
魔力操作をしながら全力疾走。その後も素振りをしながら魔力操作、弓を射ながら魔力操作と、テラオは難しい組み合わせ練習をこなしていった。
◇ ◇ ◇ ◇
――♪ピンポロポン。8日目の朝です、走り込みの時間です。
――♪ピンポロポン。カユトマールを支給します。
数日経って、魔力を皮膚に纏わせる事もできるようになり、素振りもなかなかサマになってきたと評価をもらえたテラオ。
ダンス講座の方も、まあなんとかついて行けるかな? という位には上達したようだ。
「いい感じに成長してるわね。ベイスも認めているようだし、日用品クエスト行ってみる?」
「おぉー、是非是非是非にー、おねがいしますー」
メニューの魅力的な提案に前のめりの積極性を見せるテラオ。
「わかったわよ。じゃあ行ってみましょうか」
バン!
【日用品を手に入れよう その一
○フィールドクエスト(体験)○
フィールド:剣と魔法のファンタジー世界17(ファスト村付近の山小屋)
テラオ:9歳(狩人の子供役)
同行者:ベイス(父親役)
岡マリモを十匹倒そう。
岡マリモはとっても弱い、素手でも勝てる最底辺モンスターだ
レンタルアイテム:鉄製武器一種類
クエスト期限:一日間
クエスト報酬:希望の日用品二個まで】
初めて見るフィールドクエストの文字、さらに指定フィールドに『剣と魔法のファンタジー世界』と書かれた看板を見て、テンションを上げたテラオ。
「わわっ、異世界に行ってクエストするんだ! これはうれしい」
「クエスト受けますか?」
「もちろん受けます!」