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6,武器と魔法を教わろう


 テラオは訓練島の外周をひたすら走っている。

 もう数十分は短距離走で出すようなスピードで走り続けている。

 息を切らし、へとへとな様子だが、これだけの時間を全速力で走り続けることができるのは、高性能なボディーのおかげだろう。


 そこにベイスが不機嫌な顔をし、威圧感たっぷりにのっしのっしとやって来た。


「おいぃぃ! それが全速力なわけないだろ! もっと気合い入れて走れぇぃ!」


「うひぃ、めいいっぱいですぅ」


 ベイスからすると、まだまだ不満な走りだったらしい。


「よぅし、本気を出せるように手伝ってやるっ! 魔力操作の訓練を追加だ! 走りながら魔力を感じろよ!」


 ベイスが右手を上へ掲げると、直上の空間がゆがみ出す。空間のゆがみが球形にまとまると……、グワッと音をたて巨大な火の玉へと変化した。

 ニヤリと白い歯を見せたベイスが腕を振ると、火の玉が飛ばされテラオの背後に迫る。


(うわうわ、も、燃やされるー)


 背後に迫る火の玉に押され、テラオは加速する。火の玉はベイスの身長とほぼ同じ大きさ、威圧感はそれを上回り、熱気をまき散らしながらテラオの背後をぴったりと追尾している。


「腕を振れ! 蹴り脚をケツに当たるくらい上げてから振り出せ! 体の芯がブレてるぞ――」


 ベイスのアドバイスを受け、テラオのへろへろだった走りほうがだんだん様になってきた。速度も少しずつ上がっているように見える。



  ◇



 周回するたびに少しずつ小さくなる火の玉が、拳くらいの大きさになった頃、ベイスが満足げな顔で頷きだした。


「ようし、今日のところはここまでだ。その辺に座って話を聞け」


「ぜーぜー、殺されるかと思いましたよ」


 背後の火の玉が消えたことを確認したテラオは、安心した様子でその場にへたっと座り込んだ。


「始める前にボディーではなくタマシイを鍛えるって言ったよな。今の全力疾走は、おまえのタマシイとボディーの繋がりを深くするための訓練だ。毎日続ければ他のセカイに行ける時間が延びるから頑張るようにな」


「おぉ、そんな効果があったんだー」


「それから、おまえのタマシイに刻まれてる前世の記憶が、今のおまえの力を無意識に制限しているぞ。高性能ボディーはそのくらいじゃ疲れない、走ると疲れると思い込んでるからへたばるんだ」


 目から鱗だったのか。思い込みでへたばっていると聞いたテラオは、ぽかんとした様子で立ち上がると息を整えた。


「もしかして……、こんなにゼーゼー息をする必要も……」


「ないな、極端な話だが、死なねぇんだから呼吸しなくても大丈夫だぞ」


 唖然とするテラオ。常識だったことが、単なる思い込みだと言われてもピンと来なかったようだが。呼吸まで必要がないと言われ、理解の限界を超えフリーズしたようだ。


「寝なくても、食べなくても、呼吸しなくても問題なし。疲れることもないんだから、修行するには最適な環境と体ってわけだな! ガハハハッ」


「食べなくても寝なくてもか……、そういえばお腹は減らないし、眠くもならなかったな。今まで不思議に思わなかったのも変だよね……」


 テラオがここに来てから食べたものと言えば、羊の大好物という牧草くらい。眠ったことは一度もない、と言うより横になった途端に朝になるため、眠れなかったと言ったほうがいいだろう。


「不思議と言えば、夜暗くなる時間がすごく短いのも……」


「ここはあんたに合わせて時間が進むからね。『雲上の孤島』はあんたのために作られた場所って言ったでしょ」


「僕に合わせて時間が進む?」


「正確にはあんたの行動次第で、太陽の位置が動くってところね。修行も宿題も、今日やることは今日の内に終わらせないと明日が来ないってことよ」


 メニューが唐突に現れテラオの疑問に答えてくれた。どうやら超自然な力でこの場所の時間は進んでいるらしい。

 死後の世界なのだから不思議ではないのかもしれない。だが、テラオ一人のために場所を作り、時間を動かし、さらに修行の指導までしてくれる。かなりの好待遇であることは間違いないだろう。


「そういえばメニューも不思議だよね……、いつも唐突に現れる。ずっと僕のそばについて見ているの?」


「そんなわけないでしょ、ストーカーじゃないんだから。失礼ね! 呼ばれた時や用がある時に、だいたいいつもそばに居るのよ」


「え? 普段は居ないのに? 見てる訳でもなく? でもそばにいる……」


「難しいこと考えないで『そういう物』と思えばいいのよ。気にしてなかった時は気にならなかったでしょ」


「そ、そうだね。そうだったよ」


 メニューは不思議な存在だ、と言うことがわかっていればそれでいい。ということらしい。

 理解できることではなく、『そういう不思議な存在だ』と言うことで納得するしかないのだろう。


「そろそろいいか? 魔力を感じられるようになったかテストするぞ。そこに立って目を閉じろ」


 のんびり歓談タイムは終了らしい。テラオはベイスに言われた通り目を閉じ、これから行われる何かを待っている。


「何か感じる物があったら目を閉じたまま指さしてくれ」


 ベイズが手をかざすと、テラオの顔の周囲を真っ黒な霧が覆い尽くした。

 次にテラオの頭上に手を伸ばし、頭の真上辺りに光の球を生み出した。少しずつ光の球は大きく、光量を増して行く。


 光の球が2メートルを超え、全力疾走中にテラオを追いかけていた火の玉と同じ位に大きくなった。テラオはピクリと反応し、指先を頭上に向け指し示した。


「目を開けていいぞ。ここまで大きくしてやっとと言うことは、魔力感知は並ってところだな」


 テラオの顔の周りにあった真っ黒な霧が晴れ、表情が確認できるようになった。

 並と言われた評価にとても喜んでいる様子だ。


「うわっ、でかっ、まぶしっ。評価が並ってことは普通と言うことですよね! 落ちこぼれじゃなくって普通なんですね!」


 並と言われたことに大興奮している様子。

 前世のテラオは何をやってもうまくいかず、物覚えも相当悪かった。人並みという評価は、彼にとっては非常にうれしい物だった。


「例え並以下だったとしても修行すれば能力は上がる。おまえにやる気さえあればオレや他の奴らが引っ張り上げてやる。努力すれば成果をあげることができるだろう、だから挫折だけはするなよ」


「ありがとうございます。ここに来ることができて、修行ができて、幸せを実感しています」


 ベイスに言われた言葉に感激したのだろう。テラオは目うるうるとさせ、ベイスに尊敬の眼差しを向けている。


「さて、魔力を感じることは確認できた。次は武器訓練の指導だ。倉庫と練習相手を用意するからこっちに来い」


 ベイスはそう言うと蔦の橋の脇へと移動し、手の平でバチィンと地面を叩く。

 ボコボコっと地面から物置小屋が湧いてきた。中には鉄製と木製の武器数種類と革の防具がきれいに並んでいる。


「この中の物は全部自由に使っていいぞ」


 さらにベイスは小屋の脇へと移動し、適当に間隔を開けて地面を三カ所バチバチバチィンっと叩く。


 地面からもこもこっと湧いてくる人型の物体。

 手前から布の服、革の鎧、鉄の鎧を装備している。テラオと同じ位の身長体格をした三体が、それぞれボディービルダーのポージングを決め、地面からせり上がってきた。


「案山子だ。おまえの練習相手だ」


 人間と同じ動きができるように、関節部分は球状になっている。指まで精巧に作られた、案山子と言うより糸のない操り人形。所謂マリオネットと言われる物だ。


 防具は装備しているが武器はなく、顔に目鼻はないが、口だけはカクカクと動く切れ目が付いたのっぺらぼう。


「こういう練習に使う的って丸太とか、藁束じゃないんですか? 人型だとなんだか抵抗がありますね」


 前世はとても平和で、人を相手に戦闘など考えられない世界だった。まして、普段からびくびくして生きていたテラオには、人型の的は抵抗を感じる練習相手なのだろう。


「だろ、そういう自分で縛っちまった枷ってのは、おまえの望む『剣と魔法のファンタジー異世界』では邪魔になるんだ。

 そんな物があるせいで早死にすることになったり、無駄に犠牲を増やすことだってある。

 『想定できることに対処するための用意をしておく』ってぇことは無駄にはならない。

 人型案山子を相手にすることで、おまえの前世の常識を取っ払っちまおうって訳だ。

 まあ今日の所は素振りだな、ろくに扱えない武器で案山子を相手にするのは意味がないからな」


 今日は素振りの練習だけらしい。テラオはベイスに言われ鉄製の片手剣と丸い鉄盾を持ってきた。まだまだ子供にしか見えないテラオには、ちょっと大きな剣と盾はとても重たそうだ。

 ベイスも同じ物を装備し、握り方や構え方等を丁寧に指導した。


「よし、今教えたことを忘れるんじゃねぇぞ。

 次は素振りだ。こう、ウンッ、シャッ! グァッ、ムン! ザッ、ムゥン! グゥッ、ウァッ! と八方向の素振り。

 続けてフッホッハッと突く。

 そして盾だ、フン、ハッ! と受けて弾き飛ばす、ゴシャッと叩きつける。こんな感じだ」


(擬音が気になる……、指導内容よりも擬音が気になりすぎて集中できない……)


 ベイスは熱心に指導しているが、独特な擬音がテラオの集中を乱しているようだ。

 ちなみに。あまりに気になったのか、テラオは擬音について質問し、その場のノリで適当でいいとの回答をもらった。


 八方向の素振りは時計回りと反時計回りで繰り返し。突きは上段から中段からと、いろいろ変化させて繰り出す。

 盾の使い方も、ただ攻撃を受けるだけでなく、受けたら弾き飛ばして相手の隙を作ることや、叩きつけたり角を使って攻撃したりと多彩な使用法を教わる。

 さらに武器で防御する構えや、正面を向いたまま右や左に向けての素振りなど実戦に向けたものを教わっている。


 両手剣や槍、棒の使い方も教わったテラオは、最後に弓の指導を受けるべく倉庫から弓と矢筒を取り出した。矢筒に矢は3本のみ、倉庫にも予備は見当たらない。


「ベイスさん、矢の予備が見当たらないのですが」


「あぁ、その矢筒が補充してくれるから気にする必要はないぞ。使った本数のカウント機能が付いた、ちょっといい矢筒だからな」


 とてもありがたい機能が付いた高性能矢筒だった。


「引いて放って当てるだけだと思ったら大間違いだ。相手までの距離や動き、天候や風に影響を受けるから弓は奥が深いぞ」


 ベイスが地面をベシッと叩くと、交点と先端に球が付いた大の字型の的が、十メートルほど先の地面からずるりと沸き出し立ち上がった。


「球になっている所に1発ずつ当てる練習だな。今日はこの位置だが、慣れてくれば距離も球の大きさも変化する。希望すれば動きも加えることができるぞ」


 矢筒だけでなく、的も高性能だった。ついでに、放った矢も時間が経つと勝手に消える。片付けの手間いらずだ。

 ベイスの指導は持ち方から始まり、姿勢や放ち方、狙いの取り方など至れり尽くせりの丁寧な指導。テラオは初めて扱うにしてはなかなかの上達を見せている。


 運の力も借りていたが、テラオが6カ所ある球状の的全てに矢を当てると、ガラガラガラと音をたてて崩れ消えた。


「おぉ、達成感ありますね」


「だろ、オレもなかなかいい物作ったなと思ってたんだよ」


 自慢の作品を褒めてもらって上機嫌、と言った様子のベイスは白い歯を見せニヤリとほほえんだ。


「今日教えた武器全てを完璧に覚えろという訳じゃねぇが、ある程度扱える位にはなって欲しい。扱った経験があるってことは、その武器を扱う奴と組んで戦う時に、相手が何をしたいかが理解しやすい。おまえだけじゃなく、仲間も動きやすくなれば戦闘を生き残る確率が上がるってもんだ」


 どこにでもある応用が利きやすい武器を何種類も覚えることには、一人で生きていくのではなく仲間と生きていくために、と言うテラオの将来を見据えた意図があったようだ。


「よし、次は魔力操作だ。

 こいつはいつでもどんな時でも練習できる。武器の練習をしながら魔力操作の練習をするってのは一番効果的だ。

 まずは、おまえの魔力をオレが動かすから感じ取れ、目を瞑って集中だ」


 ベイスのでっかい手が、目を瞑ったテラオの頭をガシッと掴む。


 テラオの体からぼんやりとした光が漏れ出した。光は霧のようにテラオの体を纏うと、右へ左へ、上へ下へとゆっくりと移動して行く。

 動きがどんどん激しくなり、テラオの体もがくがくと震え出す。


 突如、テラオはハッと目を開く。何かを感じ取ったのか、驚いた表情で自分の手のひらを見つめている。


「感じ取れたようだな。ついでに動かす感覚を掴みそうだった。なかなか期待させるじゃねぇか」


「体内の隅々に満ちている何かを動かせたような、手繰れたような気配がしました。かなりうれしいかもー」


「いい傾向だ、あとは自力で自在に動かせるようになれば魔力操作はできそうだな。

 よし、チュートリアル -基礎編- 終了だ!」



 バン! 毎度いつもの看板がテラオの顔前に現れる。


【チュートリアル -基礎編-  終了!


 実力アップは今後の努力次第、

 日々精進で力を身につけよう。



特別報酬:テラオ専用腕時計】



「おっ特別報酬!」


「おう! これだ『ちょっとうれしいいいもの』だな、大事にしろよ」


 じーんと感動した様子のテラオ。

 左腕に付けられた腕時計は素朴な感じの黒い金属製、文字盤はなく針もなく、デジタル表示でもない。

 どう見ても時計ではなく腕輪、親指ほどの太さのリングが腕にぴったりフィットしている。


「あれ? 時間がわからない……、というか時計なのこれ?」


「ああ、ランニングや講習の時間を音声で知らせる、おまえ専用修行スケジュール管理腕時計だ。繊細だからぶつけたりするなよ。ちなみにおまえが外そうとしても外れないからな。

 んじゃ、今後もビシビシ指導してやるから感謝しろよ」


 ニャァと恐ろしく不気味な笑顔でベイスは笑った。

 腕輪には留め金など見当たらない。ぴったりフィットしていると言うことは、普通の手段では外せないのだろう。



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