11, お子様向け小遣い稼ぎで金策しよう
「違う異世界だと常識が違ったりして混乱しそうだよ、最初に言ってくれてもいいのに」
――♪比較的近いセカイだから大丈夫っ!
「つまり、比較的遠いセカイもあるってことだよね……」
――♪人が住めない位に、モンスターだらけのセカイも当然あるよっ。今のテラオが行っても楽しくなさそうだから、まだ行く機会はないんじゃないかなっ。
「まだ、なんだ……」
――♪もっともーっと昇格するんでしょっ! どこに放り込まれても大丈夫、って自信を持って言える位にならないと駄目なんじゃないかなっ。
夕飯には野性味溢れる大きなテールらしき肉のステーキと、穴のあいたサクサク食感のパン。
テールステーキの中心部は骨ではなく、こりっとした軟骨のような食感。スパイスとちょっと濃いめのソースで、サクサクパンが進む。
「ビールによく合いそうだよね……」
お酒の類いは別料金とのことで、懐の寂しいテラオは我慢した。ぐっと堪えて水だけを飲み、楽しそうに飲んでいる他の客を、うらやましそうに眺めてるだけにとどめた。
(――♪テラオの死因って、飲み過ぎて凍死だったよねっ)
(うぐっ、そうなんだけどさ、メイズキッチンで飲んだら楽ししかったから……)
(――♪生前はお酒苦手だったんだよねっ、ベイスのおかげで克服できたんだねっ)
(うん、みんなと合わせられなかったから、苦手だったのかもしれないね。今なら楽しいお酒が飲めそうだよ)
小汚い塊にしか見えないテラオの魂は、何かが寄生しいるために、封印する布を巻かれている姿。
何かは魂の処理速度を激減させる。
処理速度が遅い魂では、何をするにも反応が鈍くなるらしい。それ故に生前のテラオは常にぼんやりとしていた。
何をやってもうまくいかず、仕事の失敗を悔やんで飲み過ぎてしまった。
慣れない酒でへろへろになり、路地裏で倒れていたら、低体温症で凍死というのが生前テラオの死因だ。
まだ何かを除去することはできないが、処理速度激減の枷の発動は抑えられている。
テラオ本人は知らないことだが、ケンサンを始め雲上の孤島のメンバー達は、何かの除去に向けて動いているらしい。
食後にひとっ風呂と向かった風呂場だが、大きな風呂桶などはなく、単なるシャワールームだった。
少々がっかりしたようだが、半日いた坑道の淀んだ空気と埃を被った体を洗い流すことはできた。
高性能ボディーなので実際は全く汚れないのだが、気分の問題だ。
◇
朝食はスクランブルエッグっぽい物とサクサクパン。ふんわりとした卵をパンにのせ、塩とオイルをかけて食べるらしい。
食後にのんびりとしていた所に、店番のおばちゃんがやってきた。
「あんた、当てにしていた金貨が使えないと、ほとんどお金ないんだったよね」
「はい、あと小銀貨十枚しかないです」
「十枚じゃ連泊は厳しそうだね。このまま同じ部屋使うなら、小銀貨四枚と銅貨五枚に割り引けるんだけど、残り十枚か……厳しいね」
「どこか日銭を稼ぐのにいい所有りますか?」
「あんた何ができるんだい? 力はなさそうだし、剣をぶら下げてたけど強そうには見えないし」
「うぐっ、剣もそれなりには使えますが、魔法が使えます。特技と言われると……特にないとしか」
「不器用そうだしね。でも魔法か、そうだねぇ加工場なら魔法使いの仕事がありそうだけど、若い人には向かないね。あんた位若いと河原にでも行って、粒魔結晶でも拾ってた方が稼げそうだわ」
「むむっ、その粒魔結晶を拾う話を詳しく!」
「あはは、変なことに興味を持つね、子供の小遣い稼ぎみたいな仕事だよ」
「それでもいいので教えてくださいー」
「しょうがないねえ、粒魔結晶ってのはこういう物だよ」
と、おばちゃんが持ってきたのは、店内の照明に使っている光の魔道具。
ネジになっている蓋をひねり、ぱかっと開けると、小豆大の粒がいくつか入っているのが見える。
くすんだ透明、少し濁った色をした物もあり、あまり上質ではないことが覗える。
一粒手に取ったテラオは、その特徴と魔素の気配のような物を探って覚える。
「魔力をあてると音が変わって跳ね返ってくる感じかな? 慎重に探せばなんとなく分かりそうだな」
「何言ってるかわかんないけど、ちゃんと返してよ。で、こういう物が河原に落ちてるんだよ、小さな魔道具の動力源だからね、あまり高くは売れないが、雑貨屋に持って行けば売れる。この辺の子供達は遊びがてらに拾って、買い食いとかする小遣いにしてるんだよ」
「なるほどなるほど。で、河原と雑貨屋はどこですか? 早速行ってみます」
◆
おばちゃんから聞いた河原を歩くテラオ。その表情は冴えない。
テラオは宿を出てすぐ、教えてもらった雑貨屋で粒魔結晶の買い取り価格を調べたのだが、本当に子供の小遣い稼ぎと言うだけあり安かった。
稼げそうな話を聞いたテラオは、その場で今夜の宿を予約しお金も支払った。残金は僅かしかない、お金を稼げなければ何もできなくなってしまうと焦るテラオ。
「一粒銅貨一枚か。ベルゴ亭一泊四十五粒、マレウスまでの竜車百粒……」
――♪大量に持ち込んだら値下がりするよっ、魔法でたくさん集めちゃおうって考えは甘いよっ!
「ぐふぅ、市場原理だよね。でも少しでも稼がないとね、あまり子供が行かなそうな上流に行って探すよ」
身体強化と空板の魔法を発動し、テラオは上流へ向かった。
「空間把握だとただの石だな。魔力を飛ばす感じで、跳ね返ってきた波長を……」
テラオは走っている途中で見つけた粒魔結晶を手に取り、その探索方法を探っている。
「ぽんぽんと飛ばしてカンカンと帰ってきた中から、キンキンと言うのを探せばよさそうだね!」
と、訳のわからないことを言っているようだが、ついに魔結晶の探索方法を編み出したらしい。
テラオはその場に座ると、目を閉じて集中、辺りに魔力を飛ばす。
「反応が多すぎて訳わからないんですけど!」
失敗だったようだ。あまり人の来ない上流には粒魔結晶がたくさん。一攫千金、大きな魔結晶を狙っていたのだろうが、なかなかうまくいかないらしい。
◇
反応があったところを虱潰しに探ってみたが、砂粒位、ごま粒位と小さすぎる物がほとんど、売れるようなサイズはいくつかしか見つからなかった。
「ここには夢がないことがわかりました」
ゴールドラッシュのような、魔法でうっはうはを夢見ていたようだが、現実はそう甘くない。
さらに上流へ、夢を求めてテラオは走る。
◇
「【魔力走査】……よし、発見! 【地面圧縮!】」
ついに魔結晶を探すためだけの魔法を開発したテラオ。
魔力走査は魔力をレーダーのように細く送り、魔結晶の大きさまで判別して探る。とても欲にまみれた用途にしか使えない魔法だ。
テラオは地表を諦めた。
地表には小さなつぶしか見つからない、なら地中を探ればいいじゃないと、長い時間をかけ魔法を開発、穴を掘る魔法と合わせて最大の効果を発揮している。
その手には抱えるほど塊。外見はただの石だが、中に魔結晶があることがわかっている。
テラオはニヤニヤとしながら石を割り、中身を確認する。
「おぉー、これは大きいよ! 期待できるよ」
――♪欲って怖いねっ、テラオをここまでやる気にさせるなんてっ。
「あ、アルムも野宿より宿で休んだ方がうれしいよね。僕だけじゃなくてアルムのことも考えて――。ごめんなさい、嘘をつきました」
なぜか帯電を始めたアルムに、テラオは素直に嘘を認めた。
◇
「ふっふっふっふー。これだけあればきっと大金、しばらく困らないね」
テラオの前には色とりどりの魔結晶の塊、肉まんほどの大きさが六個に、温泉まんじゅう位が四個。
全てリュックにしまい、いざ雑貨屋へ! 期待に胸を膨らませてテラオは走る。
期待して雑貨屋で換金を頼んだが、「お、大きすぎますよ! うちではこれを取り扱うことはできません」と、高価すぎるために買い取ってもらえなかった。
で、紹介してもらった魔道具屋。ここでは大きめの魔結晶も取り扱っているため、買い取りもしてもらえるのではいかと言われてきた訳だ。
「でかいなこれは! 透明度も高いしかなりいい物だ、金貨五十枚ほどの価値があるんじゃないかな。だが、これは高すぎてうちでは買い取れないな」
肉まんサイズを見せたが買い取りはできないとの回答。普通の店にそれだけの大金を常に置いている訳がない、当然のことだった。
だが、テラオはここで諦めなかった。
「も、もうちょっと小さい結晶なら買い取れますか?」
「四分の一位なら金貨二枚くらいだ、それなら買い取るだけの手持ちがあるぞ」
「ちょっと待っててくださいね」とリュックの中に手を突っ込んでごそごそ。
「これを金貨二枚で買い取ってください! もし良かったら明日も同じ位のをあと三個、金貨六枚で買ってもらえると……」
「わ、わかった買い取ろう、それと明日なら金貨六枚用意もしておく。だがこれなら金貨三,四枚の価値があるぞ、いいのかい?」
マレウスの街ならおそらく、肉まんサイズを買い取ってくれる商人がいるだろう。だが、テラオはこの街で観光するための資金が欲しかった。
この街で大きな魔結晶を売れる相手はいないらしい。鉱山関係者がほとんどの街だ、自分らで掘った物を使った方が安上がり。
すぐに観光資金が欲しかったテラオと、かなり安く魔結晶を買い取れた魔道具屋、お互いに損のないいい取引ができたようだ。
「ずいぶんたくさん持ち歩いてますね……」
リュックの中をちらりと見た店主が何か呟いているが、金貨を受け取ったテラオは、「また明日」と言い残しいそいそと店を出た。
(――♪大きい魔結晶は大きな出力を出す時に使えるんだよっ、例えば飛行船だねっ)
(へぇー、あんな大きいの動かすとなったら、どれだけ大きな魔結晶が必要なんだろう)
(――♪船艦で肉まん位の数十個を並列に、ランナバウトで何個か、かな)
「肉まんってかなり貴重だったんだ!」
町中でいきなり叫べば当然大注目を浴びる。
ちょっと恥ずかしい思いをしたテラオは、急いでその場を離れた。
「大きな街だなー。ここから見ると結構高低差があって……、あの辺に古い壁のあとかな? だんだん大きな街になったんだな」
テラオは今、街まで乗せてくれた竜車の御者に教えてもらった観光名所、高台にある展望台で街を眺めている。
周囲を鉱山に囲まれているこの街は、近くを流れる川に浸食されてできた盆地に作られたようで、川に沿って縦長にどんどん拡張してできたらしき跡が見える。
「きれいな街だねー、鉱山の街だから真っ黒かと思ったけど全然違った」
淡いオレンジ色の屋根瓦が連続して連なる街並み。道には白い石が敷かれ、なだらかな曲線を描いている。
「そういえば、そろそろお昼だね。名物料理でも食べに行こうかな」
中央の大通りにはたくさんの店が並んでいる。
おすすめされたのは、地元料理が有名な料理屋。肉詰め料理がこの店の一押しらしい。
何の肉かは不明だが、さまざまな種類の肉と香草をトマトやピーマン、キャベツやパイ生地などに、肉と野菜を詰めたり包んだりした料理が出される。
「なんか料理に合うワインでも……」とオーダーしかけたテラオだが、アルムからの無言の圧力に屈し、昼間から飲むのは控えた。
遊びに来ている訳ではない。いくら自由にしていいと言われていても、異世界にいる間は二十四時間仕事中だと忘れてはいけない。
食後は少々勉強をしようと、近くにあった本屋に寄ることになった。
が、店頭に書かれている看板を見て回れ右することになった。
(――♪『買わない方は図書館へどうぞ』って看板には驚いたねっ)
「荷物になっちゃうから買う気全くなかったんだよね。僕みたいな人が多いんだろうね。はははっ」
異世界だろうと、立ち読みは歓迎されないようだ。




