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10, 違うセカイ、異世界

「まぶしいなー、とか言ってる場合じゃなかったな」

 坑道から戻ってきたテラオは、慌ただしい地上の様子を目にする。

 重傷の怪我人は治癒術士の元で治療を受けているが、それ以外の被災者達は救助隊に混じって事後処理に奔走していた。


 テラオも何かしようと、治癒術士達のいるテントに向かおうとした所で、大きな声で呼び掛けられた。


「そこの君! 戻ってきたのか、いや本当に助かったありがとう」


 筋肉質で小柄な中年男性が、テラオに感謝を伝えにわざわざ声を掛けたようだ。


「いえ、お役に立ててよかったです。それでは失礼します」


「いやいや、俺だよリデールだよ。顔洗ったからわからなかったのか」


「あ、あぁー、リデールさんでしたか。真っ黒に汚れた顔で覚えていたので、すみません」


「わはは、現場では慌ただしくて礼も言えなかったからな。まだ下にいると聞いて向かおうとしてたんだ」


 リデールの話によると、他の魔法使い達は通路の拡幅や、細かい補強など、ギリギリまで魔力を使い今は休んでいるらしい。


 治癒術士は、テラオたちを募集していた町――ファンコルヌの街と、近くにあるマレウスの街からかき集め、今は充分に対応出来ているとのこと。

 運ばれてくる怪我人の応急処置が終わっているにもかかわらず、患者の魔力にまだ余裕があることから、治癒術を使ったとは思われなかったらしい。

 多少は興味があったようだが、応急処置を行った者について聞こうとするほど、余裕のある術士はいなかった。


「しかし、あれだけの穴を掘り進んで、まだピンピンしているってすごいな君は」


「えっと、面倒はいやなので、あまり大げさにはしないでくださいね。緊急事態だったからってことで」


「あぁ、君のおかげでかなり早く救出することができた、私の友人達も危なかったそうだ。大きな借りだ、面倒が降りかからないように配慮しよう」


「ありがとうございます、ところで何かお手伝いできることはありませんか?」


「はぁ? まだ動けるのか、若さかねぇ……。魔法使いが必要な所はなさそうだな。それはともかく報酬を渡しておきたい、働きに対して少なすぎるとは思うが、この状況だ、納得してほしい」


 小さな布の袋に入った硬貨が何枚か、中には小さな銀貨が十五枚。

(――♪小銀貨だねっ、一枚でそこそこの夕ご飯一食分だよっ)

(何で毎回夕ご飯が基準なの! ランクの基準も分かり難いよ)

(――♪まったくっ、貨幣価値がいろいろだから比較は難しいんだよっ。そこそこの夕食はカツカレー位だねっ)


 千円くらいだろうか、金貨は豪華な夕ご飯を五食で十万相当だった、小銀貨が百枚で金貨に交換というレートだろう。

 つまり報酬は一万五千円相当、このセカイの仕事単価が不明だが、一週間は食事できる金額を半日で、と言うのはかなりいい待遇だろう。


(――♪というわけでっ。

――♪ポーン。『落盤発生、鉱夫達を助けよう』クエスト達成を認められたよっ!)


「ありがとうございます。それでは……」

「いやいや、まったくすぐ仕事しようとするなぁ君は。あっちで炊き出ししているから、かなり遅いが昼飯食べていってくれ。君には大変世話になった、これ以上働かせるつもりはない。報酬をあまり出せなくて悪いと思っている、だからせめて飯位は、なっ」


 にやけ顔を見られたくないから立ち去ろうとしたテラオ。だが引き留められてしまい複雑な表情になっている。

 せっかくなので炊き出しをいただくことになり、リデールに連れられ宿舎へ向かう。


  ◇


 リデールもずっと休みなく動いていたらしく、一緒に遅い昼を食べることになった。

 肉に野菜に魚介類具だくさん、スープと言うより鍋風の炊き出しをたっぷりいただいたテラオは大満足。


「ぷあー、ごちそうさまです。ところでこの鉱山って何が取れるんです?」


「知らないのか! 結構有名なんだぞ、ここ『ファンコルヌ鉱山』ってのは。魔結晶と魔法金属が有名だが、他にも各種金属が取れる。ここは第七十二坑道、魔法金属の坑道だ」


 魔法使いを募集していたのが『ファンコルヌの街』で、鉱石や魔結晶の精錬加工工場や、鉱夫達の家族も多く住んでおり、五万人を超える規模の大きな街だ。

 ファンコルヌの街から南東へ半日ほどの距離に『マレウスの街』があり、こちらは鍛冶などの金属加工や、魔道具工房の店が建ち並ぶ職人の街になっているとのこと。


 職人の街、魔道具工房というワードにテラオは食いついた。


「魔道具の作り方を教えてくれるところがありますかね?」


「弟子にでもなりたいのか? そういう職はいくらでもあるだろう。しかし魔道具に興味があったのか、ここで穴掘りとして雇いたかったんだがな、わはは」


 どちらの職に就くつもりもないだろうが、この場は愛想笑いで誤魔化すテラオ。


「よし用件は済んだな、乗り合い竜車の街への帰り便がもうすぐ出る、代金はこっち持ちだから心配しないでくれ。乗り場まで案内するから付いてきてくれ」


 治癒術士を連れてきたり、移動に耐えられる程度の怪我人を街まで運んだりと、かき集められた竜車は忙しく動いている。

 やっと少し落ち着いてきたので、余裕のある今のうちに街に送ろう言うことだった。かなり気を遣われていたらしい。


「お世話になります。竜車の代金って普通ならいくら掛かるんです?」


「街への入場料込みで小銀貨三枚だ。街から無理してきてもらったんだ、そのくらいは払わないと俺たちの面目が立たないからな」


 歩いて行けないことはないだろうが、入場料で無駄な出費をすることはない。テラオは好意に甘えることにした。


  ◇


 竜車には一緒に来た魔法使い達三人も乗っていた。

 行きとは違い、帰り便はのんびりゆっくり。本来の竜車はこういうものだ、必死に踏ん張ることもなく、舌をかまないよう歯を食いしばる必要もない。

 中年の二人はぐったりとしている。魔力を使い切って、まだまともに動けるほどには回復できていないのだろう。


「二人はまだ辛そうですね」


 老魔法使いは動ける位には回復している。

 魔力を使いきったとしても、一晩寝れば全回復、それがこのセカイの常識。だが、夜ほどではないが、日中でも回復はする。


 はっきりとした数値がある訳では無いが、回復量は時間当たり魔力総量の何パーセントと、誰でもが同じペース。

 また、普通に活動するには、魔力がいくつ以上必要という定量があるらしい。

 そう言った訳で、魔力総量が多い人の方が、魔力切れからの回復が早くなる。

 老魔法使いとアルムの補足で、テラオに欠けている『セカイの常識魔力編』の勉強が少しだけ進んだ。


「君はまだまだ余裕といった所か、さすがじゃの。儂の知らん呪文や魔法を使うし、どう見ても若いのに儂より魔力量が多い。聞きたいことが山ほど有るが……」


「厳しい師匠の元で、毎日死にそうな位修行した成果です。これ以上死なないからってかなり無茶な……、搾り取って……」


 遠い目をして応えたテラオ、後半はぼそぼそっと聞こえないような呟き。

 毎日何体もの相手と、いつ終わるかわからない打ち合い、その間ボッコボコ飛んでくる魔法を避け続けるというハードな訓練。

 毎日気絶寸前まで魔力を搾ること七千百四十四回、そんな辛く厳しい記憶を思い出してしまったようだ。



「大変な努力と苦労をしたようじゃな。じゃがそれだけでは……、まあええわい。そういえば自己紹介をしておらんかったな、儂はロイデル、ロイじいさんとでも呼んでくれ。隠居してファンコルヌで余生を過ごしている魔法使いじゃ」


「テラオです。修行を兼ねて、あてなくふらふらしている旅人です」


「あてのない旅か、ええのう。ここには日銭でも稼ぎに来たのかい、土の魔法使いの仕事はたくさんあるからのう」


「見聞を広めるためという感じですかね。お金はそれなりにあるので、しばらくは大丈夫そうですし」


 輸送隊の護衛任務でもらった金貨八枚、これだけあればしばらく過ごせるだろう。テラオはそう考え、日銭を稼ぐことは考えていないようだ。


「悠々自適な一人旅か、若いのにうらやましいのう。それではまた縁が交差する機会があったらじゃの」


 行きとは違いのんびりゆっくり一時間半ほどの行程は、ロイじいさんとの会話で退屈を感じることなく過ごすことができた。


「それじゃあロイじいさん、またどこかでー」


 到着に気が付き、よろよろと竜車を降りた中年魔法使い二人と、年の割に動きの良いロイじいさんを見送ったテラオは、御者の元にもどって一言尋ねた。


「この街の見所ってどこですかね?」


  ◇


 すでに夕方近い時間帯、御者に勧められた宿に向かうテラオは、初めての異世界の大きな街をきょろきょろと、田舎者丸出しで歩いている。


 およそ五万人が住む街、五メートルを超す立派な壁に囲まれ、城壁都市のような雰囲気だ。周囲は山に囲まれ、山に向かういくつもの道がこの街を中心に放射状に延びている。鉱山を中心に発展している街だと実感できる。


「なんかさー、中世ヨーロッパというより、テレビで見たことあるヨーロッパ、南フランスとか? そんな雰囲気だね」


 石積みの家もあるが、多くは明るめのオレンジを基調としたタイルやレンガ造り。屋根瓦も明るめの素焼き色で、街がとても明るく感じる。

 夕焼けに染まる街、地の色と相まって異国感漂う光景に浸っている。


(――♪テラオは異世界を馬鹿にしすぎだよっ。原始人の集まりじゃないんだからさっ、想像してるより遙かに文化的だよっ)


(うん、飛行船とか魔道具を見た時にそんな気はしていたけど、やっぱり異世界と言えば中世ヨーロッパって、テンプレ的に考えちゃうんだよね)


 今まで旅した範囲では、このセカイに排気ガスを出すような物はなかった。もしかするとテラオの元いたセカイより、こちらの方が美しい光景を保てるのかもしれない。

 テレビや雑誌でしか見ることがなかった、海外の観光名所を思わせる光景。意外な異世界の街に目を奪われたテラオは、相変わらずきょろきょろとお上りさん丸出しだ。


「そういえば異世界と言えば冒険者ギルドだよね、場所を聞いておけば良かったな」

(――♪ないよっ)


「えっ? ギルドないの?」

(――♪傭兵、護衛、ハンターの組合はあるけどねっ。冒険者っていう、定住しないふらふらした人を雇う組織はないよっ)


 冒険者は日雇い労働者扱い。情勢が不安定なら日雇いの仕事も多いだろうが、それらの仕事は、定職に就いている人達だけで間に合っていると言うこと。

 冒険者に夢でも見ていたのだろうか、現実を知ったテラオはショックを受け、いつも以上のぼんやりフェイスでその場に立ちすくんでいる。

 通りがかる街の人達が哀れみの眼差しを向けるが、テラオがそれに気が付くことはなかった。


  ◇


「迷ったー」

 ショックから立ち直ったテラオは、御者に紹介された宿を目指してさまよっていた。

 鉱山への道がたくさんありすぎて、どの道を行けばどの坑道に通じているか、覚えられる人は街の住人でも少ないのだろう。

 おそらくそういう訳で、街のあちこちには道案内の看板と、街道案内の地図が掲示されている。

 テラオは地図を見ながら、今いる場所と、目的の宿とを探し方角を確かめているのだが。


「むーん、この辺りのはずなんだけどなー。すみませんこの辺にベルゴ亭って宿があるはずなんですが」


 悩んでいても仕方ないと、通りかかった近所のおばちゃんに声を掛け、道を尋ねる。


「あぁ、わかりづらいよね。あそこの建物の隙間に階段がある、昇ればそこがベルゴ亭だよ」


 言われてやっとわかるような狭い通路。その奥には確かに階段が見える。


「おぉここかー、ありがとうございましたー」


 旗竿型の敷地のような、入り口がとても分かり難かったベルゴ亭だが、階段を昇ってその立地の良さがわかる。

 街の中では比較的高くなっている場所、遠くまで見通せるこの宿は街を一望できる。観光目当てで街に来たらとてもおすすめの宿だった。


「いらっしゃい! 泊まりかい、夕飯かい? それとも……」


「と、泊まりでお願いします」


 扉を開けると恰幅のいいおばちゃん店番が出迎えてくれた。

 それともが何なのかはいらない情報だ。


「あんた、これはどこの金貨だい? こいつは使えないねぇ」


「えぇー! この店ではってことですか? それともまさか、この街では使えないと……」


「あたしも方々の旅行者の相手をしているけど、この金貨は見たことがないね。鋳つぶして金として……、いやだめだねこれは、魔法処理されてる金貨だね」


 おばちゃんがテラオの金貨を指でピンと弾くと、金貨の縁がきらりと光る。何か魔法的な物が仕掛けられている証拠らしい。

 このセカイの金貨には、ただ単に金を鍛造で作るものと、魔法金属と魔結晶を混ぜ、魔法処理して作るものがあるらしい。

 ただの鍛造金貨は鋳つぶして金としての価値があるが、魔法処理されたものは、高温に晒すと何らかの魔法を発動して最悪炉を破壊する。

 偽造防止と金貨の価値を保つための処理が施されているらしい。


「で、この金貨はその処理をされているから使えないんですね……」


「悪いね、価値はあるんだろうけど、ここいらじゃ使えない。両替できる所があればいいけどねぇ」



 宿代は一晩朝夕二食付き、風呂サービスで小銀貨五枚。鉱山の騒動で報酬をもらっていなければ、この街で一文無しで過ごすところだった。


 夕方と夜の間、街に光りの魔道具と思われる明かりがちらほら灯りだす。

 あてがわれた部屋の窓から外を眺め、テラオは呟く。


「お金稼がないと……何もできないよ」


 ここまで乗せてくれた竜車の御者によると、隣のマレウスの街までの乗り合い竜車と、入場料合わせた金額が小銀貨十枚。入場料だけだと小銀貨八枚となぜか割高。

 竜車を使うと得なのは、ファンコルヌ発の竜車なら入場審査済だから、その分手間が省けるからと言う理由らしい。

 職人の街マレウスは、この街よりも人の出入りが激しい。そのために特定の竜車に乗って入場すれば、審査の時間とお金を節約できるという仕組みができたそうだ。


「手持ちのお金でマレウスまではいけるけど、そこから何もできないんじゃ楽しくないよね……。明日は観光兼ねて日銭を稼げる仕事でも探してみようかな」


――♪おもしろくなってきたねっ。


「貧乏はつらいよ! 飲まず食わず野宿でもいいけどさ、せっかくの異世界だからいろいろ見て聞いて楽しみたいんだよねー」


――♪そうだねっ、山の中で狩りしながらキャンプじゃあどのセカイでも一緒だもんねっ。


「金貨さえ使えれば、楽々イージーモードでスタートだったのになぁー。アトレーとかデュシスってここから遠い国なのかな」


――♪ある意味とっても遠いよっ、セカイが違うからねっ!


「はぁ? セカイが違う!? それって違う異世界ってこと?」



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