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7, 出発したら戻された

「穴? それってどういうことです?」


「さっき飛行船はあまり高く飛べないと話したよな。それは高度を取り過ぎると飛竜に見つかって落とされるからなんだ。見つかったが最後、集団で襲ってきて戦艦でさえ耐えられないほどだ。だが奴らは低高度には来ない、それはその高度にいる飛び虫が原因なんだ」


「虫? 竜が虫を怖がっているんですか」


「目に見えないほどすげー早さで飛び回ってるんだ、だから竜達も面倒がって寄りつかない。飛行船は金属装甲で強化しているからな、虫の突撃ならダメージを受けない。というより、そこしか飛べそうな空域がないから、対策をして飛んでいるんだ」


 地表から十数メートルより上、百メートルまで辺りは飛び虫の領域。そこを飛行船は飛ぶことで、飛竜から身を守っているらしい。

 雨が降ろうが、風が吹こうがその範囲にそう変化はないらしく、地形の高低があればそれに沿って範囲が変わるらしい。ずいぶんと奇妙な虫もいたものだ。


「つまり生身で飛ぶと……、虫に穴だらけにされるか、飛竜に襲われるかってことですか」


「だな、金属の分厚い装甲を着込んでなら飛べるかもしれないが、今度は重たすぎて魔力効率が悪いだろうな」


 そういった理由で、このセカイには地表から十数メートル以上の建物も少ないらしい。

 金属板で建物を隙間なく覆い、窓もない真っ暗な部屋。しかも毎日虫の激突する音が響く上に、掃除も面倒となれば好き好んで建てる者は居ないという理由だ。


「話は変わるが、俺たちは飛行船の修理が終わる明日にはここを発つ。別の村の支援に行くんだ、もし良かったら一緒に来ないか? それなりの給金は出せるぞ」


「ありがたい申し出ですが、最初に話した通り修行中の身です。いろいろ旅して回ろうと思っているので……ごめんなさい!」


 ボルコーはかなり残念がったが、納得してくれた。

 その後これまでの戦利品の精算と言うことで、かなりの金額を報酬として提示されたのだが、テラオはそれを全て支援の資金に回して欲しいと受け取りを拒否した。


 雲上金貨以外にはそれほど興味がないようだ。


「旅もいいが、おかしなところに首突っ込んで利用されないように注意するんだぞ」

 ボルコーはそう言い残してテラオの前を離れた。


――♪一緒について行くかと思ったよっ、なんで一人旅を選んだのかなっ?


「うっかり忘れがちだけど、僕は仕事で異世界に派遣されたんだよね。内容は自由って言われたけど、それはこのセカイのどこかに所属して働くことじゃないと思ったんだよね」


――♪なるほどっ、少しは考えていたんだねっ!


「なんだかアルムにはものすごく低く評価されている気がするよ」


――♪それは日頃の行いが原因だよっ、じゃあこれからの予定を教えてよっ。


「うっ、何も決めていません……。そ、そうだ町があったら行ってみたいな、このセカイの文化とかそういう物に触れてみたい」


――♪行き当たりばったりだねっ、そろそろっぽいからそれでもいいけど。


 「そろそろって何が?」というテラオの質問には、「フフン♪」ととだけ言われてはぐらかされた。



 なんとなくだがこれからの方針が決まった。

 テラオは村長の家に行き、この辺りの地図を見せてもらったり、おもしろそうな名所や名物を聞いたり情報収集に努める。


「ボルコー船長、前に見せてもらった航空地図をまた見せてもらいたいんですけど」


「ん? どこか行きたい所でもあるのかい」


 一般の輸送船船長ではなく軍に所属する彼らの持つ地図だ、本来はそう簡単に見せていい物ではないだろう。だがテラオを信用しているのか、特に気にした様子もなく地図を広げて見せてくれた。

 現在地や今まで通ったルートを確認し、地図の西側に目を向けるテラオ。


「ええ、デュシスに向かうとしたらどういうルートがあるのかなと思って」


「おい、まさか緩衝地帯を徒歩で抜けようとか思ってないだろうな」


「あはは、さすがに二日位かかりそうですね。あっ、でもこの山を越えれば近いな」


「まったく、ちょっと待っててくれ」

 ボルコーはカバンからカードを一枚取り出し、うっすら光る特殊なペンで何かを書き込む。


「俺の名刺だ、デュシスで面倒に巻き込まれたりしたら連絡をくれ」


 表は無難な運送会社に所属している、それなりな地位とボルコーの名前が、裏にはどこぞの部隊の、なかなかな地位とサインに加え、『テラオ君は友人なので失礼のないように』と書かれていた。彼なりの気遣いだろう。


「ありがとうございます、何かあったら頼ります!」


  ◇


 翌朝、というにもまだ早い時間、テラオはこっそりと東門から村を抜け、街道を歩いていた。

 別れが辛いとか、気恥ずかしいという理由ではなく、昨日テラオが治療した患者が完治に向かっていること、それは間違いなくテラオが何かしたからだとバレる。面倒に巻き込まれたら、旅どころではなくなりそうだと考えての行動だ。


 朝ご飯にと船員達の持ち込んだ支援物資の中から、固いパンとバターを拝借しているが、それくらいは許してもらえるだろう。

 リュックの中から福引き景品『丈夫で便利な水筒』をとりだし、グビッと飲み干した。


――♪朝日に向かって歩く僕って格好いいとかもとか思ってるでしょっ!

「ぶはっげほっ、お、思って……ちょっとだけ」

――♪あははは。


「町までは歩きで三日の距離らしいよ」

――♪町に着いたら何するつもりなのっ?

「いろいろな店があるらしいからね、見て回りたいなー」

――♪文化を調べるんだよねっ。

「うん、知らないことが多すぎるからね、ついでにちょっとかじった薬のこととか、魔道具も興味あるな」

――♪そんなテラオにお知らせっ。帰還指示が出たよっ。


「え? なにそれ」


 街道を歩いてはずのテラオは、音もなく姿を消した。


  ◆


「おかえり。なかなか充実した初仕事だったわね」


 腰まで届く金色の髪に、パールホワイトのドレス。

 テラオを出迎えたのはメニューだった。ということは。


「ぬおっ。雲上の孤島に戻ってる!」


 背後に浮かぶ三対の羽をパタパタと羽ばたかせ、ふわふわと浮かぶメニューは楽しそうに笑っている。

 帰還地点は雲上の孤島にあるテラオの居住スペースだった。二畳分のゴザにちゃぶ台と座布団、枕と本棚しかない。ちょっと殺風景なテラオの城。


「それじゃ、査定のお時間です」


バン!

【 最初のお仕事 査定結果発表! 】


 激しい音と共にテラオの目の前に木製の看板が現れた。

 もちろんVR的な物ではなく、メニューが出現させた手持ち看板だ。

 淡く優しい金色のオーラを放つ彼女が持つ看板はとても大きい。いや、彼女の身長がリンゴ三個分しかないから大きく見えるだけ。

 小さなメニューが大きな看板を支える姿はちょっとかわいらしい。


――くるっ。ひっくり返した看板の裏には、テラオがクリアーしたクエストの結果が書かれていた。

乗組員を守り抜け : クリアー

――査定+1


輸送隊を護衛しよう : クリアー

――査定+1


所属不明軍から村を守ろう : クリアー

――査定+3


合計 査定+5 報酬+5】


「なかなかの結果ね、報酬は雲上金貨五枚よ」


「うぉー、すぐください今ください。お腹ペコペコです、メイズキッチンに急いで行かないと」


「まったく、手に持ったパンをなんとかしてからでもいいでしょうに……。それから査定の結果については明日にでも説明するわね」


――♪ちゃりんーと五枚受け取ったよっ。


「あれ? 何でアルムが受け取るの?」


「今時現物の硬貨は邪魔でしょ、電子マネー的な物よ」


「そ、そうなんだ。どんなすごい金貨なのかちょっと楽しみだったんだけど」


「現物で欲しいなら五対一で交換してあげるわよ。ちょうど五枚あるから現物一枚になるわね!」


「ごめんなさい結構です。五回分の幸せを一回に減らしてまで見たくはありません」


「あははは。冗談はさておき、まずはペーターのところに行ってらっしゃい。メイズキッチンは今の時間は準備中、終わってから行けばいいわ」


「うっ、わかりました……」


 準備中なら仕方ないと、渋々ペーターの小屋に向かうテラオ。途中目に入るメイズキッチンをちらちらと、諦め切れなそうに見ながらとぼとぼ向かう。


 居住スペースのすぐ隣には小さな牧場がある。

 雲上の孤島自体が小学校の校庭ほどしかない広さ。その中にある牧場は、十台駐められる駐車場位の広さしかない。

 牧場入り口付近にある管理小屋にペーターがいるはずだ。


「おかえりテラオくん、待ってたヨ~~♪」

 すらりと背の高い金髪リーゼントのお兄さん、かなり二枚目だが、オーバーオールにゴム長靴の牧場主スタイル、ダンスと生産技能の講師を担当しているペーターだ。

 なぜか常に踊っているという不思議な存在だが、その生産技能はかなりのもので、テラオが今装備している普段着兼防具もペーターの作品だ。


「ただいま戻りました、メニューに寄るように言われたんですけど」


「そう、下界に降りて足りない物があったよネー、それを渡す代わりに一仕事やってもらうヨ~~♪」


「足りない物? なにかあったかな……」


「替えのパンツだヨ~~♪」



 テラオは下界に降りてから、いやもっと前、雲上の孤島に来てから、一枚しか持っていないパンツをずっとはき続けていた。

 ここには風呂がない、体を拭く場所もない、そもそも天上界特製ボディーのテラオの体は汚れない、汗も排泄もしようと思わなければ出てこないという高性能。

 そんなボディーと、ここの生活ににすっかり慣れていたテラオは、普通の人が当たり前にすることをすっかり忘れていた。


「思い返せば……みんな着替えとかしてたな、僕だけずっと同じ服で過ごしてた、もしかして臭そうとか思われてたのかな」


「あはっ、替えのパンツがないと不便でショー、だからちょっと働いてネ~~♪」



 以前クエストで獲得し、その後使わなくなった布のズボンを仕立て直し、ということでパンツを作ってもらえることになった。

 詳しい仕事の内容はベイスに聞くようにと言われ、途中にあるメイズキッチンをちらちらと見ながら連結された隣りの島、訓練島に向かっている。


 メイズキッチンはちょっと大きめのロッジ風建物。広い一階の上に小さな二階が乗った三角屋根の佇まい。

――カランカラン♪

 ふいにメイズキッチンの扉が開き、中からメイド服を着た小さな女の子が出てきた、なぜか頭の上には羊の被り物がちょこんと乗っかっている。


「メイちゃん! も、もう開店したの? シノービさん! シノービさんは来店してる?」


「テラオさんお帰りなさいなのです、シノービ姉さんはまだ来てないのです。それにまだ準備中、開店はまだなのです」


 自称メーメイドのメイ。このメイズキッチンの店長であり。


「そういえば中ダンジョン挑戦の日を過ぎちゃったね、遅れたけどあとで挑戦できるのかな」


 中ダンジョンのダンジョンマスター、を兼業している。


「何を言っているのです? 中ダンジョンは三日後なのです。今日は挑戦できないのです」


「あれ? え? 異世界で五日過ごしたから……」

――♪ここの時間と下界の時間はちがうよっ、ここはテラオに合わせてしか時間が進まないよっ!


「ということは、僕がいなかったから……出発した日のままってこと?」


「そういうことなのです。ダンジョンの準備にたっぷり時間が取れるので、メイは助かるのです」


 つまりここでの今日は、テラオが雲上の孤島に来てから十九日目。雲上時間では異世界に出発した日のままだったということ。

 ここの時間は太陽の位置でなんとなくでしかわからない、テラオ専用腕時計ことアルムは、そのスケジュールを知らせるためにテラオに与えられた。

 テラオのためだけに作られた、テラオ専用の島――雲上の孤島。天上界では下界の常識は通用しないのだ。


「そ、そうだ、雲上金貨を手に入れたから今日は、今日こそはお客さんとしてお店に入れてよね! シノービさんがいる時を狙ってまた来るよ」


「わかったのです、お客さんにはちゃんとお料理を提供するのです。ご来店お待ちしていますなのです」


 ぺこりとお辞儀したメイ。テラオは「またすぐ来るねー」と言い残し、訓練島へ足を向けた。



 蔦でできた橋を渡ると訓練島だ。

 訓練島は雲上の孤島の倍ほどの広さ。

 橋の先には仁王立ちした黒い巨人が不機嫌そうに待っていた。


「おっせぇよ! 寄り道長すぎだろうがっ!」



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