6, 後片付けいろいろ
「思ったよりすごい煙だなーと思ったら、そういうことですか」
魔法の炎だけでは煙が出ない、村が燃えている演出のために廃材などを炎に放り込んで欲しいとお願いしていた。
だが廃材だけでなく、村の周囲を囲っていた木製の柵がすっかりなくなっている。
船員達だけでなく、村人も総出で手伝っていたらしい。とはテラオの横で呆れ顔を披露しているボルコーの話だ。
「これなー、固形燃料燃やしたら堀と石壁できるとか……、どうすんだこれ」
火を消したあとになぜかできていた大きな空堀と、その内側にそびえる高さ三メートルほどの石壁。
高温で焼き固められたそれは、赤黒く鈍い光を放っている。
所々に焦げ跡が付いているが、これは演出上不可欠だった煙用木材の燃えあと。
「い、いやー。不思議ですね、きっと燃やしたことで上昇気流が発生して、巻き上げられた土が焼き固まったんですね! うんきっとそうだ科学的にそうだ」
「そのいい訳を通せる自信がないんだが。仕方ないな固形燃料とちょっとだけ魔法、ってことで話してみるか……」
ものすごく苦しい言い訳を咄嗟に思いついたテラオだが、全く科学的ではないそれに、ボルコーはもちろん納得などしていない。
なんとかそれっぽいことを言って、誤魔化してくれることに期待するしかない。
◇ ◇
防衛戦の翌日。
北西門付近に一人通れる隙間があるだけで、ぐるりと一周囲っている石壁。通路がなければ困ると、ものすごい苦情を受けたテラオは、こつこつとハンマーで削って入り口を仕上げている。
それは昨日の夕方から始まった。
おおざっぱに魔法でざっくり穴を開け、入り口できたよーと村長宅に報告したテラオ。そこには大勢の村人が集まり、会議のような、世間話のようなことをしていた。
せっかくだから跳ね橋を付けて立派な門にしたいという話が盛り上がり、村人の中にいた大工が張り切った。それはもう立派な門を計画し、いざ現地で計ってみた所、適当に開けられた穴でははまらなかった。
ならば削ればいいかとハンマーで叩いてもびくともしない。
村一番の力自慢でも削れない、ということでテラオに話が回ってきたと言う訳だ。
また魔法でざっくりやろうとしたら、職人魂に火が付いている大工が、とても微妙で繊細な作業を要求してきた。
という訳で、早朝からこつこつと手作業をしている。手作業に見えるように小さく魔法を使っているのだが、バレなければセーフだ。
今日の昼過ぎには戦艦がやってくる、それまでに南門だけでも格好を付けようと、村人みんなが張り切っている。
余談だが、この壁どれだけ強いんだ? と聞かれたテラオ。
試しにと火の玉の魔法を放ってみたが、傷一つ付かず耐えた。
ムキになったテラオが、ざっくり切り取る以外の魔法を放つも全て耐えきり、触手拘束の魔法でぐるぐるに拘束、絞り上げてやっと破壊できたほど。
打撃耐性がかなり強いらしい。
補足だが、テストピースはざっくりで切り取った方の壁だ。
「ここの土で外壁用レンガ作ったら売れるかもしれませんね。魔法にも耐える頑丈な外壁にって」
テラオの何気ない一言に村長がピクリと反応した。
不幸を生まなければ良いのだが……。
◇
壁を削る作業が一段落し、テラオは今集会所にいる。
テラオたち一行がこの村に来てから三日目、ここに居た患者達もだいぶ回復し、残っているのは十人ほどになっていた。
だが、この十人の治療に治癒術士達は頭を抱えている。
「みんなして難しい顔をして、どうしたんです?」
「えぇ、残りの患者、小さな子供ばかりなのですが、体力も魔力も無く治癒術がほとんど掛けられないのです。進行を抑える程度、直した分次の日には進行しているという状況なのです」
「となると、体力の限界が来たら……危険と言うことですね」
「……くっ、なんとかしたいのですが」
「一休みしてリフレッシュしたらアイデアが浮かぶかもしれません。皆さんあまり休んでないですよね、ちょっと早いけどお昼休みを取ってみては?」
「そうですね……」と力なく集会所を出て行く治癒術士達。
治癒術士達が集会所から見えなくなった所でテラオはこっそりと患者に手の平をかざした。
「【診断! 僕の魔力を信じて、指示に従って情報を教えてっ】……、炎症が広がって、リンパ? あー、こっちにも――」
診断の魔法は、生体に向ける空間把握魔法のような物。
ただしそのまま使うと情報量が多すぎて、テラオの能力では処理しきれない。そこで空間把握の3Dでは無く2D、平面で把握して頭の中で組み立てるように作り替えた魔法だ。
診断が終わると治癒に取りかかる。
テラオの治癒魔法は、患者の魔力だけを使う物ではない。
自身の魔力から、誰にでも合う魔素に近い魔力を作り出し提供するすることで、患者の魔力負担を減らすことができる。今回は患者の魔力をほとんど使わず、テラオの有り余る魔力を提供する。
自分の魔力ではなくなるため操作ができなくなるが、それを患者の魔力にお願いして指示通りに動いてもらう。
十人分の治療にはそれほど時間が掛からなかった。
同じ症状の患者が十人だったため、診断に掛ける時間が節約できたことが大きい。
しばらくして治癒術士達が戻ってきた。
患者の魔力量も少し減っているだろうが、計測できるほどではない。また体内の炎症を治療しただけなので、回復したことは見た目ではわからない。
「誰かが苦しそうだったら呼びに行こうと見張ってました」
テラオは治癒術士達と交代で昼休みにするからと、集会所からいそいそと抜け出した。
(――♪絶対バレるよっ、もうちょっと加減して治療しないと駄目だよっ)
(だってさ、子供ばっかりなんだよ……長く辛い思いさせたくないよ)
生前は孤児院育ちだったテラオ。あまりの状況と、治癒術士達の手に負えそうもない病状と聞いて、動かずにはいられなくなったようだ。
(処方していた薬の効果が劇的に! とかなんとか都合良く解釈してくれるといいんだけどな)
ごまかし方を思案していたテラオがぱっと顔を上げる。
北西の空に目を向け一点を見つめている。
「でっかいのきたー」
それは黒く四角い巨大な物体。
飛行船を回収したデュシスの戦艦が、アトレーの戦艦に先導されて村の上空にやって来た。
滅多に見られない戦艦が二艘もやって来たと、村は大騒ぎだ。
あまりに大きいために村の近くにも着陸できず、村付近の上空でホバリング待機するらしい。
山が丸ごと浮いている、そう錯覚するほど大きい戦艦が二艘浮かぶ光景は圧巻だ。
実際はそれほど大きい訳ではなく小型フェリー程。大型トレーラーサイズだったボルコーの船なら、二十艇ほど収まりそうな大きさ。
「こんなに大きいのが空飛べるって、すっごいな」
両戦艦から小さな飛行船が切り離された。
大型の戦艦は目的地近くで着陸できるとは限らない。そのため必ず積載している上陸用小型艇、これをシャトルと言うらしい。
ちなみに、ボルコー達が乗っていた中型艇はランナバウトと呼称される。積載量や定員などでだいたいでしか線引きされていないため、感覚で名前が付いているから覚えなくてもいいけどな、とはボルコーの話だ。
「小さめの飛行船もあるんですね、空飛んで旅行とか憧れですねー。セカイ一周とかしてみたいです」
「そいつは厳しいな。航行区域の制限があるし、あまり高くも飛べない。ついでに他国に無断で侵入すると、戦艦がやってきて打ち落とされるぞ」
「え? なんだがずいぶん窮屈ですね……、もっと自由に飛べるのかと」
「高度や航行区域の制限はモンスターがおっかないからだ、集団で襲ってきて落とされる。他国への侵入は言わずもがなだ。国境付近は常に監視されている、この村や途中で寄った集落なんかがそうだ、そうでもないとあんな辺鄙な所に住もうとは思わないよな」
「国境付近の集落ってそういう役割があったんですね……、フロンティア精神とかそういう感じだと思っていました」
「わはは、飛行船時代だからな。国境警備は重要なんだよ」
両戦艦からそれぞれ二艇のシャトルが南門前に下りてきた。
大型艇から切り離されたのでかなり小さく見えたが、実際はマイクロバスほどの大きさで、その両脇に小さめのソーセージ型装置を付けている。
「あの両脇に付いたソーセージっぽいのは何なのです?」
「ぶはっ、ソーセージってそりゃないだろ。あれはナセル、飛行の魔道具だ。詳しくは難しい話になるから省くが、あの部分が船を持ち上げている重要な機関だ」
弱点を露出していて危なくないのか聞いた所、当然内部に納める研究はされているが、あの形にしないと飛ばないらしい。また作動中のナセルは周囲に斥力が発生し、物理的な接触は弾かれる、魔法も渦を巻きながら減衰して無効化されるがその仕組みはいまいちわからないらしい。
飛行の仕組みはナセルを中心に何かの力が同心円状に広がって、その円が重なるところに……と、省かれたはずの難しい説明をされたが、理解の範囲を超えてしまったのか、テラオはぼやっと聞いている。
シャトルから降りてきたのは、揃いの制服に身を包んだ士官らしき数名。
ボルコーはアトレー側の司令官らしき人物に軽く挨拶を済ませると、デュシスの司令官と思われる人物と二人でシャトルの中に消えた。
おそらく任務の報告などをするのだろう。
テラオは誰かに呼ばれて見にきた訳ではない、集まっている村人達と同じ野次馬の一人だ。少し離れた所からぐるりとシャトルを観察し、満足すると村へ戻る。
――♪子供みたいにキラキラした目だったよっ、そんなに飛行船が好きだったんだねっ。
「そりゃ、興味あるでしょ。空飛ぶんだよ、すごいスピードも出るんだよ。乗りたい、というか操縦してみたいよ」
――♪でもきっとお高いよっ、テラオには買えないねっ。
「そうだよねー、でもほら一人乗りの超小型とかなら……」
――♪空飛ぶ魔法でも作ってみればっ? それなら無料だよっ。
「そういえば試したことあったな……、そっか! 飛行の魔道具を見せてもらえばヒントになるかも」
とてもいいことを思いついたとニコニコのテラオ、広場に向かいボルコーが戻るのを待つことにした。
◇
ただじっと待っていられるテラオではない。
相変わらずの高速素振りを披露したり、力自慢の村人と力比べをして全敗したりと、それなりに忙しくしながら待ち時間を過ごしていた。
腕相撲を村人達に教え、見事にころころ転がされているテラオの元にボルコーが戻ってきた。
ちなみにテラオは身体強化の魔法を使わないと、その辺の一般人に劣る位の筋力しかない。使ったとしても常用できるのは五割増し。筋力に関しては本当にそれほどでもない体だ。
「大人一人軽々抱えてきたから力も強いのかと思っていたよ、さっきから見ていたが見事に転がっているね」
「ボルコー船長! 待ってたんですよ。見ていたのなら声かけてくれればいいのに」
「いや、おもしろことをしているから邪魔しては悪いと思ったんだ。それで――」
会話の途中、整備士が魔法砲を持ってやって来た。
荷車と同じように車輪がなく、ちょっと浮かんでするする動く、可搬性に優れた砲台に載っている。
テラオも間近で見たことはないので、「先にお仕事の話を済ませちゃってください」と伝え魔法砲観察を始めた。
「船長、こいつに何か仕掛けられた跡はありませんでした。すぐにでも使えます」
暴発するような物を急ぐ撤退行軍で持って帰りたくはないと、正体不明軍が残していった魔法砲。念のために何か仕掛けられていないかと、整備士が調べていたらしい。
そう、この魔法砲は暴発した訳ではない。魔法砲とはどういう物かをボルコーから詳しく聞き、それっぽく砲口に魔力を伸ばし、火の玉の魔法を発動させただけ。
実際に撃つ所を見たことがなかったため、ちょっと大げさな位大きめの火の玉を作ったのだが、敵兵士達が暴走したと信じてくれたのは幸運だった。
「これも魔道具なんですよね、そもそも魔道具ってどういう仕組みで魔法を使えるんですか?」
その質問には魔法砲を持ってきた整備士が得意満面で答えてくれた。
「魔道具は魔法を使えない人が、簡単に魔法を使えるようにと開発された物で、魔法発動補助道具の略なのです。その仕組みは、魔法導線を通して魔法回路に魔力を送り、魔法発動素子で発動します」
すごい早口ですらすらと答える整備士、ボルコーは『またか』といった表情でその様子を見ている。この整備士は魔道具オタだったのか、マニア心に火を付けてしまったのかもしれない。
「およそ四千年ほど前に魔結晶が発見されてから、魔道具の開発ラッシュになったと言う記録があります。後期古代文明の頃ですね。それまで自前の魔力でしか動かせなかった魔道具は、魔力が豊富な年寄りにしか動かせない物でした。それが魔結晶を補助に使うことで、魔力の少ない子供でも動かせるものになったのです」
魔力に近い魔素を取り出せるという魔結晶の発見が、魔道具界のブレイクスルーとなり、その発展に大いに貢献しているということを懇々と力説する整備士。
さらに武器として魔法砲や魔法爆弾のように、戦争に使われるようになってさらなる発展をする。
「また、奇跡の発見。プテーシスの奇跡と呼ばれている飛行魔法回路の発見で、世界に大飛行船時代が訪れることになりました」
さすがに少々うんざり気味だったテラオだが、聞きたかった飛行の魔道具の話が始まり身を乗り出す。
「それまでは魔法で実現できるものしか作れなかった魔道具でしたが、存在しない飛行の魔法が、魔法回路を通すことで実現可能だとわかり、魔法使い達にも大きな衝撃を与えることとなりました。ただその運用は困難を極めました、制御が難しく――、ですが二つ同時に使うことで――、右手の法則が――、素子を並列に――――、位相を逆にすることで――」
確かに聞きたかったことではあるが、専門的なことを詳細にわたって延々と解説する整備士、さすがに理解の範疇を超えてしまいテラオはげんなりしている。
「――とここまでが魔道具の簡単な歴史です。では次に――」
「待って待って! そこまででいいです、ありがとうございました」
話足りなそうな整備士だったが、ボルコーが別の仕事を指示してくれたおかげで渋々ながら引き下がってくれた。
「ああいう奴なんだ、整備士としては優秀なんだが、魔道具のことになるといつもあんな調子でな」
「いやー、興味あることでしたのでありがたいですよ、はははっ」
「そう言ってくれると助かるよ。ところで私を待っていたというのは?」
「そうそう、飛行の魔道具、ナセルを見せてもらいたいなと思いまして。空飛ぶ魔法の参考にしたいなって」
「空飛ぶ魔法! それはやめておけ、生身で空を飛んだら風穴開けられちまうぞ」




