テラオ旅立つ!
ペーターから防具を受け取ったテラオは、そのまま訓練島へと足を伸ばし、新しくなったボディーの調子を確かめるように自主訓練を始めていた。
テラオに合わせて大きくなった案山子達に驚いたりもしたのだが、ここに居ればよくあることと、慌てるほどではなかった。
「体の大きさ変わったけど、それほど違和感ないなー」
一通り訓練を終わらせたテラオは、片付けをしようと倉庫の扉に手を掛けた。
――♪今すぐシノービの小屋に移動してっ、いそぎだよっ。
急げと言われずとも、シノービの小屋と聞いたテラオは全速力で向かい、扉を開けると飛び込んだ。
「シノービさぁーん、おまたせしま――」
――ビターン!
なぜか張られている不可視の結界。テラオは見事激突したのだが、それでもずりずりと前へ進もうともがいている。
シノービに「ちゃんとしないとアレッスよ」と言われ、やっと落ち着いたテラオ。結界を解除され、席に座ることを許された。
何もなかったはずのシノービの小屋。今日はケンサンの小屋と同じ配置で机と椅子、そして正面にホワイトボードが用意されていた。
「特別講師に任命されたッス、テラッチにセカイのことを教えるッスよ」
「あれ? シノービさん『ござる』の語尾はやめたんですか?」
「やっと許してもらえたッス。あれは黒歴史ッス、二度と口にしてはいけないッスよ」
誰に何を許してもらえたのかは不明だが、やはり強いられていたらしい。ベタな子分キャラっぽい『ッス』は、許してもらえないのだろうか。
「世界のこと? 異世界のことではなくって?」
「そっちは追々ッス。まずはセカイのことからしっかり覚えるッス。テラッチの言う世界というのは狭い表現なんッスよ、あーしらの言うセカイの一部分でしかないッス」
というとシノービは背後にあるホワイトボードに『世界』と書き、大きく丸で囲んでその上に『セカイ』と書き加えた。
「セカイはその中心、発生点から影響範囲を全て含めたエリアッス。テラッチのセカイでいうと、生前過ごしていた星が発生点。影響範囲は、その星で発生した生物なりなんなりが影響を及ぼした範囲までッスね」
「影響を及ぼした範囲というと……、大航海時代に大陸を発見して世界が広がったとかそういう?」
「ニュアンスはそんな感じっすけど、そうじゃないッスね。先住民族とか生物がすでに影響を及ぼしているッスよね」
シノービはそういうと、ホワイトボードに大きな丸、少し離れた所に小さな丸を書き込む。
「わかりやすい例で言うと、月に有人飛行したり、小惑星に人工衛星でサンプル採取とかしてるッスよね、ガッツリ影響してるッス。望遠鏡で見ただけとかは影響範囲にならないッスよ、それは観測範囲でしかないッス」
ホワイトボード上の大きな丸から点線を飛ばし小さな丸に到達、二つを囲ってその上に『セカイ』と書き加えた。
「そのセカイの生物が知覚している範囲だけじゃないッス。影響を及ぼした範囲ッスから、その状態によらないッス。霊界、わかりやすく言うと死後の世界もセカイに含まれるッスね」
最初に書いた『セカイ』の丸の中に『霊界』を書き加えるシノービ。
「霊界……あるんだ、じゃあここは霊界ということ?」
「霊界は普通のタマシイが集められる場所ッスね。テラッチも霊界の作業場で見つかったッス。で、神界に放り上げられたッスが、対応出来ないので天界へ、天界でも訳わからないものだったので、この天上界に持ち込まれたッスね」
さらに『セカイ』の丸の上に『神界』その上に『天界』、最上部に『天上界』と書き加えた。
「ここは天上界なんだ……。あっ、僕が来ちゃったからここも影響範囲に?」
「今のテラッチはセカイからは切り離されているッス、だからここは影響範囲に含まれないッス」
「そっか、なら安心……なのかな? なんとなく言葉の響きからすると、天上界が一番上っぽいね、そんな所に僕みたいな一般人がいてもいいのかな」
「一般人かどうかは置いておくとしてッスね。わかりやすくざっくりと例えるッス。天上界であるここは、なんちゃらホールディングスの取締役会ッスね。全セカイの運営を取り仕切っているッス。メニューが代表で一番エライッスよ」
「やっぱりかー、メニューただ者ではないと思っていたよ」
「なんかテラッチまで偉そうッスね、あーしももちろん重役の一人ッスよ。ひかえおろーッス」
シノービの説明によると、天界は天上界に所属する企業とかそんな感じ、それぞれ特徴の違う企業が六つあるらしく、セカイの実務を取り仕切っているとのことだ。
神界はその企業の営業部や技術部のようなもの、所属する社員がセカイに派遣されて営業活動や大規模修繕をしている。
で、数多あるセカイは協力会社や部品工場、町工場に例えられた。
「霊界はセカイに含まれるものッスから、例えに組み込むとすれば社員寮? ッスかね、実体セカイの会社に行って、お仕事として一生を過ごしたら寮に戻って一休み。そんな感じッス」
また、テラオの元いたセカイで言う『天国』という場所も定義も存在しないが、あえて言うなら神界から上のこと。
「神界から上が天国だとしたら、ここは天国のてっぺんッスね」
というシノービの意見だった。
「その中で僕の立場ってどうなっているの? セカイから切り離されて無職の無所属ってこと?」
「テラッチは拾ってきた廃棄物とか、天上界に届けられた欠陥品サンプル的なものとかそんな感じだったッス」
「廃棄物……」自分の立場を告げられたテラオ、あまりの事実に力なく崩れ落ちる。「今はぶちゃいくなマスコットキャラ位になったッスね」というシノービの呟きは耳に入らなかったようだ。
「では一番エライしゃちょーからの挨拶ッス」
「ご紹介にあずかりました、しゃちょーです」
突然現れたメニューに気が付き、よろよろと起き上がるテラオ。
「シノービの説明でセカイのことがだいたいわかったわね。あたしからは、あんたの状況を説明するわね」
「僕の状況? 廃棄物的なものだったという衝撃の事実なら……」
「あはは、とにかく自分のタマシイを確認してみるといいわ」
メニューがパチンと指を鳴らすと、テラオの目の前に懐かしの姿見鏡が出現した。そこには初めてこの天上界に来た日に見た、布を巻かれたボコボコの魂と全く変わらない姿……、だけではなく、魂からぴょこっと伸びた棒の先にもう一つ少し小さめの玉が付いている。
「ダンベルみたいになってる……」
「あはは、ダンベル! いいわね。くもりミイラダンベルねっ」
「いやいや、またおかしな通称を気に入られても困るんだけど。で、この追加されたものはなんなの?」
「オプションッスよ、四つまで追加できるッス。オプションは無敵ッス」
「え? 無敵?」と困惑するテラオ。
「あはは、違うわよ、四つまでとか無敵というのは冗談ね。オプションというのはだいたいあってるけど」
「テラッチのタマシイは昇格したッス。普通はタマシイ自体をアレするッスが、テラッチのタマシイはアレッスからアレできないのでオプションが付いたッス。努力の結果ッスからめでたいことッスよ」
「おめでとう! 一段階昇格。あんたは天使になったの」
「へ? え? はっ? はぁー? 天使ってあの天使? エンジェル? キューピット? 裸で羽生えて頭の上に輪っかがあってハート型の弓と矢を持っている?」
「さすがテラッチ、天使におかしなイメージをもっているッスね。天使は文字通り使者ッス、ここで天使になったッスから、天上界の使者ッスね」
「じゃあ、羽が生えたり輪っかのせたり、裸にならなくていいんだね。よかったー」
さすがに青年ボディーのテラオが、素っ裸で飛び回っていたら……、それは見るに堪えない光景だろう。
「今までの修行、チュートリアルは研修期間だったと言うことね。ということで、今からきっちり働いてもらうわよ」
「今から!」と驚くテラオに、メニューは容赦なくたたみかける。
「働いてお金を稼いで、食堂で食事するんでしょ。まあこのまま行っても役に立たないから『言語ファイル』を覚えてもらうわ」
メニューの手に小さく薄い手帳が出現した、これが言語ファイルというものらしい。
それを手渡すかに見えたが、ぽいっとテラオの方へ放り投げる。
慌てて受け止めようとしたテラオだが、手帳はその手をすり抜け、体の中、魂から伸びているオプションに吸い込まれる。と、途端にテラオが苦しみだした。
「ぐあー。頭がわれるー、激痛がー」
「文化ファイルじゃなくて良かったッスね」「そうね。激しく容量オーバーだったわ、補助はアルムの役目って分けて良かったわね」
床を転がるテラオをよそに、二人はのんびりと会話している。激痛は想定されていたことだったらしい。なぜか机と椅子を端に寄せたシノービ。メニューは転げ回るテラオにかまわず説明を始めた。
「勤務地はあんたの望み通り、『剣と魔法のファンタジー異世界』よ。仕事の内容は自由に決めていいわ、ただしどう評価されるかはあんた次第ね。行ったきりじゃなくて、たまに戻ってもらうから心配しなくてもいいわよ」
しばらくうめきながら転がり回っていたテラオがやっと落ち着いた。
「うぅいたかった-。これは何なの? 何をされたの?」
「仕事に必要なことよ、言葉が通じないと困るでしょ。じゃ、『剣と魔法のファンタジー異世界』にいってらっしゃーい」
メニューの後ろでシノービがニンニンと印を結んでいる。このパターンは……。
「えぇー。いきなりすぎだよー、もうちょっと説明をぉー、あぁー」
この部屋で毎度よく見た光景。床が消え、テラオは真っ暗な空間へと落ちて行く。
天使に昇格したテラオの、異世界出稼ぎ生活が始まった。
来週25日火曜日から新章開始します。
時間は未定で、三話投稿する予定です。




