幕間2 それほどか? の話
「ナニカの除去はまだ難しいってのはわかったがよ、あいつの強さ、そんなに大げさなことかって話が途中だったな」
メイは大きめのどんぶりを四つ並べ、ちいさく、おにぎり程度の酢飯をその中央によそった。
保冷庫から柵を取り出すと、寿司の時より僅かに薄く、小さめに切っては酢飯の上に盛り付ける。トロ、ヒラメ、カンパチ、アワビ、イカ、ウニにイクラと豪華に盛られた海鮮丼が完成した。添えられたわかめと豆腐の味噌汁からは、厚削りの鰹節から取られたであろう強い出汁の香りがする。
お寿司の次は海鮮丼セットということらしい。
「そういえばイチコが指摘していたのは、魔法に関することと、魔力だけでしたね。そのほかに関しては、我々の認識で間違いないと言うことかもしれません」
「そうだよな! あいつの筋力は並以下だってオレの見立ては、間違ってねえはずなんだよ。さすがにそれくらいは比べられるからな」
「ベイスの強さを測る定規はざっくりだから当てにならないッス」
「いや、オレを雑キャラに仕立てるのやめてくれよ。もうちょっと細かい定規持ってるはずだぞ……しらんけど」
「ハハハー、テラオくんの強さに関しては僕も同じ意見だヨー、ただ魔法が特別なだけじゃないかナ~~~♪」
「私もそう思うのですが、こういう曖昧なことは、はっきりさせた方がいい気がします」
「そうだな、《おいイチコーちょっと海鮮丼食べに来ないかー》」
ベイスが声を掛けるやいなや、店内にイチコが姿を現した。
「呼ばれましたわ。べ、別に海鮮丼に釣られた訳ではありませんわよ。たまたまちょっとお邪魔しても――」
「大丈夫ッス、みんな食い意地が張ってるとか思っても口に出さないッスよ。うだうだいってないでさっさと座るッス」
「私のイメージがー」などとじたばたしているイチコを座らせたシノービ。待ってましたと、メイは準備していた海鮮丼セットをイチコの前にすっと提供した。
「おいしいですわ、極上ですわ。……はっ! これを食べさせるためだけに呼んだ訳ありませんわよね、どういったご用件ですの?」
「いや、あいつがかなり強いって言ってたけどよ、実はそれほどでもないんじゃねぇかと思って確認をな」
「魔法は確かにと思えるのですが、総合力としてそれほど目立っているとは思えませんでしたので」
「そうそう、力は人並み以下だと思うんだよネー」
「わかりましたわ、ご説明いたしますわ」
イチコの説明によると、確かにテラオの筋力は人並み以下なのだが、反応速度や動かし方など、総合的に考えると九歳の子供ボディーにしては行き過ぎだと言うこと。
魔法を制限して戦った大蜘蛛――蜘蛛ガメッシュというらしい――との最初の戦闘で、四本腕を使った蜘蛛に対して互角以上だったことから、そのことに誰も考えが至らない方がおかしいとイチコは熱弁を振るった。
「あれくらいテラッチならよゆーッスよ、まだまだ足りない位ッス」
「だよな! あの程度で一太刀でももらっているようなら鍛え直さにゃならねぇところだぜ」
「でーすーかーらー! それが常識的な範囲を振り切った原因なのですわ……」
イチコはまだまだ言い足りないのか、ちょっとほおを膨らませてアピールしている。が、その雰囲気を一変させるように。
「おまたせー。メイ、あたしの分もお願いね」
どこからともなく現れたメニュー。少し変わったメニューの様子に全員が少し驚いている。
「大きくなったッス! メニューがリンゴ三個分くらいに成長したッス!」
「あははは、通常の三倍になったわよ」
通常の三倍、早さではなく大きさがだが。シノービの言うように、今までのメニューはリンゴ一個分位の大きさだった、だが今の彼女は三個分の大きさに。ちなみに横方向ではなく全体にだ、縦横奥行き全体にだ。
「あいつが大きくなるのを見越してってことか、というかいっそのこと俺たちと同じ位、いや本体と同じ位に大きくなればいいんじゃねえのか?」
「うーん、大きくなったのも気分の問題だからね。今後はそれほど看板出す機会もないしね!」
「そういやそうか。あいつがここに居る時間も減るしな」
「この分体ではもっと遊べるつもりだったんだけどね、予定が変わって忙しくなっちゃったからね」
体の大きさを変えられたことも、まあ驚きなのだが、ここにいるメニューは分体、しかも『この分体』ということは他にもいると言うこと。常識外れなメンバーだらけのここでも、メニューは不思議さが飛び抜けている。
「あの子の強さについて話してたのよね、うっかり鍛え過ぎちゃったってのもあるけどさ、かえって良かったと思っているわ」
「人種を捨てたのですわよ、よく本人が納得しましたわね」
「あはは、言ってないわ、事後報告で納得してもらうしかないわね!」
「だ、大事なことですわ、それを事後報告とか……」
「だって頑張って鍛えたけど、行き過ぎちゃったからリセットする。そんなの残酷じゃない? 生前のあの子は努力が全く報われなかったの、それがやっと、頑張ればその分だけ成長できているの。事後報告にはなるけど、納得してもらって、新しい道を示してあげれば問題ないと思っているわ」
テラオの扱いは、だいたいいつも軽い感じで話されているが、今後の事もしっかり考えてくれていたようだ。
メニューの説明を受け、イチコは納得した様子だ。一同落ち着いた所で、ケンサンが口を開いた。
「ちょうどいい話の流れですね、テラオ君の成長速度についての研究結果をお話させてください。多少仮説の範囲も混じりますのでご了承を」
ケンサンは立ち上がると、メイの立つカウンター側へと移動した。メニューはメイの用意した、お寿司一人前と海鮮丼セットをおいしそうに食べている。
「生前の彼のタマシイは枷をはめられ、その処理速度が百分の一になっていたことは前にお話しした通りです。ですが、周囲の人種の中でかなりどんくさい程度で済んでいたのは、彼がタマシイの処理を上限いっぱいでフル回転させていたためと思われます」
「あぁ、普通は処理能力に余裕を持たせて半分か、それ以下で処理している。だがあいつは十数年限界いっぱいで処理し続けていたってことか」
「寝ている間、夢の中でも休むことなくですね。で、ここに来てその枷が外れてからもそれは続いています」
「それでおかしな発想がぽんぽん飛びだすんだネー」
「累積して遅れていた処理も、今になってどんどん進めているようです。ですから生前に見聞きしたこと、学んだことを整理して記憶し直し、教わった事以上に成長している。そういった情報処理の流れが彼のタマシイの中で起こっています」
「なるほどねー、だからあたし達の想定以上の早さで成長しちゃったのね」
「応用すれば多くの人種のタマシイを昇格させることができますわね」
「おもしろい試みだと思います。ですが、彼以外にそれに耐える事ができるかどうかは……」
何かに取り憑かれ、その想定以上に長生きだったと言われたテラオだが、その理由の一端が忍耐強さだったのかもしれない。




