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幕間1 そういえばアレどうなった? の話

 今日のメイズキッチンはいつもと少し様子違う。

 普段テーブル席が並ぶ場所にはガラスの保冷庫付きカウンターが置かれ、その前にいつものメンバーが並んで座っている。


「江戸前寿司ッスね、文化ファイルでチラッと見たッス」


「すごい目利きのおっちゃんに頼んで材料仕入れたのです! へいらっしゃいなのです」


 威勢良く握る職人は店主のメイ。ねじりはちまき付き羊の被り物を頭にのせ、メイド服の上に純白の半纏はんてんを着込んだ寿司屋スタイル。


「うまそうだな! 早速いただくか」


「あいよっ! まずはみんなに一人前をにぎるのです」


 見事な手さばきで、柵取りされた素材から人数分を切り分けるメイ。その動きは素早く、素材が傷まないよう細心の注意を払っているようだ。

 切り終えたメイは、その手に水を付けるとパシーンと手を合わせ余分な水気を払う。素早く寿司飯を手に取ると、熟練の職人かという速度の握りを披露した。


「へいおまちっ! なのです」


 それぞれの目の前に見事なお寿司一人前が並ぶ。待ってましたと一斉に手を伸ばす一同。

「うまいうまい」「おいしいッス」「おいしいネー」「お見事です」と大絶賛だ。



「ケンサンとベイスはテラッチが起きるまで待機ッスか、結構時間かかるッスよね?」


「ボディーの追加だけでしたらすぐに終わるのですがね、タマシイの調整が必要になりましたからそのぶん掛かりますね」


「いきなり決まったけど驚いたネー、人種ひとしゅやめちゃったんだからネ~~~♪」


 みんながみんな、初めて食べる寿司を気に入ったようだ。最初に出された一人前は、ガリを残してすっかりなくなっている。

 メイはご機嫌な様子で調理道具の清掃をしながら追加オーダーを待っているようだ。


「あぁ驚いたな。だがよぉ、あの小僧、イチコが問題にするほど強いか? オレには全然そうは見えねぇんだが」


「それテラッチの文化ファイルにあったやつッス、『わしの強さを測る定規は一キロ単位だ、一ミリと二ミリの違いはわからん』って、ベイスのことッスね。大トロッス」


「なんだそれ、ずいぶんとざっくりだな。って、おい。オレはそこまで鈍くねぇぞ。オレも大トロを」


 注文を受けたメイは、素早く保冷庫から柵を取り出すと、すぱぱぱぱっと包丁を入れ、ぱしっと握った。素早く握っただけ、ほんの少し室温に置いただけで溢れる油が輝いている。この大トロのトロっとした食感と、濃厚な味を想像させるに充分だ。


「ナニカ除去に必要とはいえ、確かに『普通の人種ひとしゅ』の範囲には収まらない強化を施してしまったのは事実ですね。私はエンガワを」


「そういやまだ強度不足なのか? 前に使った装置でピッとやればシュッと回収できるんじゃねえのか? オレもエンガワ」


 保冷庫から昆布の包みを手に取ったメイ、肉厚のそれを開くと乳白半透明のヒラメが姿を現した。ヒラメの身からエンガワ部分を素早く切り取ると、ぱしっと握り、はらりと塩を一振り。


「この前行った回収作戦で使った装置だネー、またみんなで行くんだよネ、楽しみだネー。カンパチ~~~♪」


「活性化前なら装置で回収できるのですが、テラオ君のように活性化して、タマシイ内部で分裂した後となると……、難しいですね。ヒラメを」


 先に注文を受けたカンパチから。メイは別のまな板と包丁を取り出し素早くさばき、ペーターに握りを提供する。すぐさまヒラメをさばき、塩を一振りと、柚子かカボスの皮を一切れ、寿司の上でピッと潰して香りを纏わせる。


「七千百四十四個に分裂ッスよね、タマシイの見た目ボッコボコになってたッス。イクラッス」


 ズバババっと調理器具を洗浄したメイ。カウンターの引き出しから海苔を一枚取り出すと、二片の短冊に切り取る。寿司飯をぱぱんと握ると、背後に用意していた炭火で海苔をささっと炙り、シャリ玉にくるりと巻き付ける。できあがった軍艦の上にこんもりとイクラをのせて完成だ。


「あの状態で症状固定できているだけでも幸運です。破裂寸前に封印凍結帯で処置されていなければ、テラオ君は消滅していた訳ですからね。数の子をお願いします」


 ぱぱんと握ってシャリ玉を作ったメイ、出汁に漬かった数の子を取り出し、汁気を切るときゅっと一握り。さらに海苔を取り出し短冊に切ると、炭火の上をささっと通しくるりと寿司に巻き付ける。


「数が多いだけならよ、単純にあの装置でこつこつ処理できねぇのかね? 理由があってそれができねぇってなら教えてくれよ。しめ鯖頼むわ」


「あーしもしめ鯖」「もう一つ追加デ~~~♪」


 メイは保冷庫からペーパーに包まれた柵を取り出した。中から大ぶりのぷっくりとした鯖が姿を現す、スパスパスパッっと切り出した身は、中はほぼ生、外側がうっすら白く酢〆された色に変わっている。新鮮で安全な鯖でなければできない、サンサンじめという手法で作られたしめ鯖だ。

 気を利かせたメイはケンサンの分も握ると素早く提供した。


「彼のナニカは、タマシイの中でばらばらにある訳では無いのです。外側に七つの千個入りの袋、その内側に七個の二十個入りの袋、さらに内側に四個という配置です。しめ鯖ありがとうございます、次はウニをお願いします」


「あーしもウニもらうッス」


 注文を受けたメイの目が輝く。今までとは一段階も二段階も上がったスピードで軍艦を握ると、目にもとまらぬ早さで保冷庫からウニ舟を取り出し、素早く完成させた。

 ケンサンの軍艦にはほんのり緑色をした塩――昆布塩と思われる――をはらりと一振り、シノービの軍艦には醤油を数滴垂らして提供した。


「まとまって袋に入っているなら、丸ごと引っ張り出せば――」

「こ! これはっ! ウニじゃないッス! 醤油垂らしたプリンッス!」


 クワッと目を見開きメイを見るシノービ。メイはとても満足そうにほほえんでいる。


「プリン大好きなシノービ姉さんにちょっと悪戯してみたのです」

「ぐぬぬーッス。まさか、まさかとは思うッスが、この悪戯のために今日はお寿司屋さんやってるッスか?」

「ぎくりなのです。ちゃ、ちゃんとしたウニもすぐ用意するのです」


 ちょっと悔しそうなシノービ、うれしそうなメイ。その後のやりとりで、メイはこの悪戯のためだけに、有名な寿司屋でおいしさの秘密を聞き出したり、仕入れに一緒について行き、おいしい素材を分けてもらったのだという。

 ただこの悪戯は、教師の役割が終わって少しぼんやりしているシノービに、ちょっと元気になってもらいたいという気持ちからだったという。

 何にしても努力の無駄使い甚だしいことだ。



 本物のウニを提供されたシノービはご機嫌な様子に戻っていた。また、悪戯が終わったからといって、メイのお寿司屋さんはそこで終わることなく続いている。


「話の途中だったッスね、袋ごと取り出せない理由とかあるんスか?」


「袋が未知の性質を持っているかもしれないといった所ですね。隔離して取り出してみることはできますが、タマシイの保証は出来ません。新たに寄生されて分裂、枷の再発といった危険もあります」


「そりゃ下手に手を出せねぇな。どうにかなんねえのか?」


「もう少し強化薬を続けて、条件が整えば、外側の七千個だけは目処が立っているのですが、問題はその先ですね」


「できることからやっていけばいいッス。その先のことはその時考えればいいッスよ。本物のウニお願いするッス」


 テラオの魂に取り憑いている何かの除去は、相変わらず難しいらしい。だがケンサンの研究により、兆しは見えてきたといったところ。

 今は今後の進展に期待するしかなさそうだ。



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