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47,強敵! 巨大ベイスとの戦闘

 大きな火の玉を放たれては、エレベータシャフトという狭い空間では避けようがない。テラオは急ぎ壊された扉から室内へと飛び込み身をかがめた。

 ズオーンと腹に響く低音。放たれた火の玉がエレベーターシャフト内で爆発した。

 テラオの放つ業炎の大玉とはレベルが違う、恐ろしい威力の魔法。


「あ、あぶなかった。まともに食らっていたら酷いことになっただろうな……」


『ガハハ、今のは業炎のなんとかではない。ただの火の玉だ!』


「どこで覚えてきたんですかっ、それ言いたかっただけでしょっ!」


 テラオの故郷の世界で一部の人には有名な台詞を引用したようだ。

 ベイスの放った炎はまだ燃え続けている。テラオの魔法とは桁違いの威力と持続力、だがそのおかげで真っ暗だった部屋が照らされ様子を伺うことができた。

 最上階の部屋は訓練島の半分ほど、出入り口らしき場所はエレベーターしか見当たらない。床は砂岩と思われる荒々しい素材、壁と天井があることから屋上ではないことがわかる。


――バシーン! とベイスが両手の平を合わせると、天井と壁がうっすらと光を放ち始めた。

『よし! 戦闘開始だッ行くぞぉっ! おりゃおりゃおらぁ』


 五メートルを超す巨体から放たれる拳は重く、そして早い。テラオを威嚇するように、上から拳を振り下ろす連続攻撃を放つベイス。テラオはただひたすらあたらないように避けるだけ。息つく暇もないとはこのことだ。


「ぐぁ、うわっ。うひぃ」


 床はすでにボコボコの穴だらけ。破片があたっただけでも大ダメージは間違いない、魔法防御を駆使しつつ転がるように避けまくるテラオ。


『避けるだけか、おい! ちょっとはいい所見せてみろよぉっ! どりゃぁ』


 拳に加え、かかと落としや破片を蹴りとばす攻撃も加わり、さらに余裕がなくなる。


「恨まないでね! 【触手拘束】!」


 テラオは兵隊をまとめて握りつぶした得意の拘束魔法を放った。ベイスを握りつぶすまではできなくても、あの巨体の動きを制限できれば楽になるだろう。地面から伸びる蔦状のワイヤーがベイスを捕らえようとする。

 だが、相手はベイス。そう簡単にいく訳はなかった。


『【魔法無効空間】』


 テラオの放った拘束魔法が、テラオの考えた魔法で打ち消されてしまった。


「う……うっそーん」


『ガハハ、おまえの魔法使わせてもらったぞ。どんどん掛かってこい、遠慮するなよ』


 魔法無効空間は燃費の悪い魔法。だがその欠点は節約魔法を使うことで使い勝手を良くしている。テラオ独特の発想力で作られた魔法なのだが、テラオに魔法を教えてくれたのはベイスだ。簡単に真似できたとしても不思議ではない。


(まさか魔法無効空間で消されるとは……、ベイスさんが魔力消耗とか考えられないよな。僕ばかり一方的に消耗している、このままじゃまずい)

「腕どけ、いっさんー。魔力を――」


 どんどん減る魔力。反撃の前に補充したいのだろうが、なかなかその意思を伝えることができない。そもそもテラオ専用腕時計への魔力の込め方は教わったが、引き出し方は教わっていない。今まで全く使わなかったことがここに来て大きな問題となってしまった。


(ベイスさんに魔法が効くとは思えないし、剣での攻撃も通らないよな……。むーん光の魔法で目をくらませようにも、黒光りする禿頭に反射して僕がまぶしくなりそうだし)


 ベイスの攻撃の手は緩まることなく、大暴れする怪獣のように襲ってくる。


(あれ? 黒光り禿のベイスさーん。もじゃもじゃー。ダンジョン攻略したらシノービさんに褒めてもらえるかなー)

 何かに気が付いたのか、ベイスの気にしていることを心の声で繰り返すテラオ。いらんことも紛れているが……。


(反応がないってことは間違いない、僕の心が読めていない。ってことはベイスさんじゃない! そっくりな別の何かだ)

「ベイスさんそっくりの――」

 ボガン!

  「――でっかいなにか!――」

   ボコォ

    「――騙されないぞ!」

     バキィ

 煽るような心の声はベイス本人かを確かめるためだったらしい。余計なことも混じっていたが。

 とにかくこれで絶対に勝てない戦闘ではないとわかったテラオは、逃げながらも隙を見て魔力を集め始めた。


「くぅあんまり時間も魔力も無いな。新魔法【氷丸鋸】!」


 テラオは集めた魔力を丸く、平たく形作り高速回転する氷の魔法を作った。キュイーンと甲高い音をたて、一枚の円盤がベイスを襲う。


「ガハハ、効かんわ!」

 腕を軽く振っただけでバキィと弾かれた円盤。やはり偽物でもベイスなのかと諦めかけたテラオだが、弾いた腕を見てニヤリと笑う。


「効かない訳じゃっ、なさそうですね!」


 ベイスの腕の皮が小さくだがぱっくりと剥がれ、さらに凍り付いていることを見つけたテラオは、この戦いの勝機を見出すことに成功した。

 この魔法は円盤状の氷という物質を造り、それを空気の魔法で包んで高速回転させることで、二重の魔法、つまり外側を魔法防御空間対策の膜として作られている。

 外側の空気の膜がかき消されても、内側の氷の円盤が相手に届くようにと工夫した魔法だ。


「いっくよー【氷丸鋸】【氷丸鋸】【氷丸鋸】……」


 先ほどは初めて使う魔法だったために準備に時間が掛かったが、一度使えばもう自分のもの、テラオは小さくともダメージを与えられる氷丸鋸の魔法を連射する。


 できるだけ同じ位置に当てようと射出しているが、偽物でもベイスだ、そうは簡単にやられてくれない。


「ガハハ、ちまちまと鬱陶しいな。こっちも魔法を使わせてもらうぞ」


 ベイスはそう言うと、火の玉をいくつもいくつも自身の頭上に作り出した。その光景はまるで仏像の背後に浮かぶ後光のよう。


(おー神々しいなー)などと感心しているテラオ、だがそんな余裕も一瞬で消える。

 背後に浮かんだ炎の球からそれぞれ炎の針のような細い魔法が打ち出される。機関銃の一斉射撃のように放たれる炎の針は、地面に突き刺さるほどの威力。

 避けようのない攻撃にテラオは防御魔法で躱すことしかできない。がりがりと魔力を削られる状況にテラオは焦りを見せている。


(まずいまずい、どうしようどうしよう。本物じゃないからと思って安心したけど、偽でも想像以上に強い……)


 連射される炎の針に逃げ場はない、炎なので氷の壁ではあまり防御にならず、土の壁も簡単に貫通してしまう。加えて巨体から繰り出される打撃、蹴りは当たればテラオを簡単に吹き飛ばしてしまう。


(使い捨ての魔法無効空間や遠隔盾じゃ魔力消費が厳しい。氷や土の壁も役に立たない、僕の魔法で固くて盾になるもの……)


 絶え間なく降り注ぐ炎の針を防御しつつ、諦めずに作戦を考えることをやめないテラオ。


「おらぁ! 逃げてばかりじゃおもしろくねぇぞ。ほら、かかってっこい」


 偽ベイスに煽られるがテラオに余裕はない。防御に忙しくて魔法を撃てない、さらにリーチの差が大きすぎて、まず有効な攻撃範囲に入ることができない状況だ。


(なんとかしないと、魔力も残り八分の一位しかない。策を考えないと……足りないものはリーチと速度。どうするどうする……あっ!)


 悩んだ甲斐があったのか、テラオはピコンと何か思いついたようだ。


「いっくよ! 【触手拘束】【触手拘束】!」


 慣れた魔法なら発動も早い、だが先ほど偽ベイスを拘束しようとして失敗している。一つで駄目なら二つでということなのだろうか。

 が、テラオの放った触手拘束はベイスではなくテラオの足下。正確にはテラオの足から生えていた。

 本来は地面に生やして相手を拘束する魔法だが、足の裏から触手拘束を生やし、テラオは今イカのような姿になっている。


『ぶふぉっ。なんじゃそりゃそんなんで』


 おかしな姿になったテラオを見て吹き出す偽ベイス。遠慮なく炎の針を飛ばしてくるが。

 ブオンと振るわれた触腕に炎の針が弾かれる。

 ワイヤーの強度を持つテラオの拘束魔法の蔦は、蜘蛛との戦いでも第三の腕のような使い方をしていた。今回はそれを自分の体から生やすことで、リーチを伸ばす腕として、さらに巨体の敵を相手にする時の延長足として使うことを思いついたのだ。


「や、やっと余裕ができたよ」


 触腕を伸ばして足長になったテラオは、偽ベイスと目線が合う高さになった。両足から伸びる触手を制御して偽ベイスの攻撃を躱し、炎の針を弾き飛ばしている。

 千切られ消された触腕をすぐに補充するだけ、魔力の消費も抑えられる画期的思いつきだ。

 さらに魔法無効空間対策にと光の魔法を触手に纏わせ、躱すだけでなく攻撃に使えるようにと使いながら進化させる。

 青白く光る触腕はホタルイカのよう。普段は電球色を好んで使うテラオの光の魔法だが、自分でもイカっぽいと意識してのこの色の選択なのだろうか。


『うぉおもしれぇこと考えたな。これは結構ダメージあるぞ』


 偽ベイスの腕にはうっすらと傷ができている。氷丸鋸ほどではないが、やっと細かいダメージを与える事ができた。だがこんなものは文字通りかすり傷、偽ベイスにとってはやっと楽しくなってきたという程度。


「余裕のあるうちに。腕時計さん魔力の補充をお願いします!」


――♪ピンポロポン。ご自分で吸い出してください。


「えぇー! 吸い出すってことはぶちゅぅーって――」


――♪ピンポロポン。違います! 魔力を込めた時とは逆に吸い出すだけです! ぶちゅーなどしたら電撃ですよっ。


 ぶちゅーがよほどいやだったのだろう。珍しく早口の専用腕時計がテラオに魔力補充の方法を教えてくれた。


「逆と言われても……どうやるんだろう」


 魔力を込めることは毎日何千回もやっているので慣れている。だが吸い出すなど初めてのことだ、やり方が分からないテラオは専用腕時計を見つめておろおろしている。


『おらぁっ! ずいぶん余裕見せてくれてるな、おい』


 少し余裕ができたとはいえ、今は偽ベイスとの戦闘中だ。テラオに都合良く待ってくれる訳もなく、偽ベイスは攻撃を手数を増やし、さらに激しく攻めてくる。

 テラオも触腕を増やすことで対応するが、その分魔力を消費してしまうことで焦りを生む。


「あうあう、吸い出すってどうやるんだろう。魔力を込める時の逆って言われても……、込める時はどうやってたっけ?」


『うぉらぁ! 次行くぞっ』


 焦るテラオを見た偽ベイスは、さらに攻撃のバリエーションを増やしてきた。地面をベシッと叩くと、テラオの足下から鍾乳石のような巨大な棘がいくつも生える。

 触腕を足代わりにしているから無事だったものの、初めからこの魔法を使われていたら、テラオは串刺しになっていただろう。


 ベイスを中心にぐるぐる回るように避けるテラオ。周囲はトゲトゲだらけのドーナツ状の地形へと変わり果てている。


「吸い出す吸い出す、込めるの逆。込める時は……特に意識しないでできたよね。最初はあの装置に――。ケンサンがくれた装置だからできないはずはないと何も考えずにできた。吸い出すこともできないはずはないと思えば! そうだよ思い込みが大事なんだ!」


 できないはずはないと思い込む。テラオが魔法を使う時にお願いする、というのと似たようなものかもしれない。理屈で理解することが苦手なテラオには、思い込むというのも大事なことなのだろう。

 そういうものそういうものと、ぶつぶつ繰り返し呟くテラオ。慣れないことを戦闘中に行っているためか、その速度は非常に遅い。だがほんの少しでも魔力の回復ができれば余裕が生まれる。


「四分の一位まで戻ったよ! これならいけそうだ」


 ずっと練っていた作戦でもあったのだろう。魔力不足で実現できなかった作戦を決行するようだ。


『何でもいいから掛かってこい!』


 身構えることもなく、変わらず攻撃を放ち続ける偽ベイスにテラオは魔法を放つ。


「【空板レール】!」


『はぁ?』


 練りに練った作戦が足場魔法の空板。偽ベイスは拍子抜けした表情でテラオに殴りかかろうとするが。


――つるんっ!

 足を滑らせくるんと回転。自分の作ったトゲトゲ鍾乳石に後頭部を思いっきりぶつける。テラオが放った魔法はシノービに空板を教わっていた時に、滑ることができたら楽しいかな? とかいういい加減な思いつきで生み出した魔法。これを突然偽ベイスの足の下に敷いて、つるんと転ばせたということだ。


『ぐぉー、いってぇー』


 自分の魔法で生み出したトゲトゲ。テラオの魔法と同じものなら、魔法無効空間は自分の魔法を無効化しないようにお願いしている。

 つまり偽ベイスの作ったトゲトゲ鍾乳石も無効化されず、後頭部に強烈なダメージを与えたという訳だ。


「いまだ! 【触手拘束】【触手拘束】からのー」


 こけた偽ベイスを何重にも補強した拘束魔法で縛ると、足から生やした触腕を使い大きくジャンプしたテラオ。両手で構えた剣を一気に偽ベイスの喉へと突き刺した!


『ぐぉー』 硬い皮膚に阻まれ、完全には刺さらなかったが大きなダメージを与えた。

 さらに刺さった剣に魔法を放とうと魔力を高めるテラオ、だがその前に。


『きょ、今日の所はこの辺で勘弁して置いてやろう! 次回さらに強くなったオレを相手に恐怖するがいい! ガハハハハ』


 ものすごい三下感漂う台詞を残して偽ベイスの姿が消えてしまった。不完全燃焼だがテラオの勝利と言うことだろう。


「えと……、勝ったどーでいいんだよね?」


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