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44,ロングブリッヂの死闘

 四本の腕にそれぞれ鋭い大きな刃のような爪を持つ大蜘蛛が、隙なくテラオに攻撃を繰り出す。

 テラオは両手剣を巧みに操り受け、流し、避けている。魔力の消費を抑えるためか、いつもは物理防御魔法に当てて弾くような攻撃も、剣で受けたりかわしていた。


「ギャギャ、ギャカギャカギャギュギャ」


 相変わらず何を言ってるかはわからないが、テラオに対して感心しているような雰囲気を大蜘蛛の台詞から感じられる。


「魔力を節約って、大事なことをもっと早く練習しておくべきだったな」


 余裕があるのか普通にしゃべっているテラオ。普段案山子達との訓練では話す余裕など全くないのだが、四本の腕で攻撃されている状況で、魔力をあまり使わない練習を兼ねて戦闘しているらしい。


「ギャ! ギャギュー」


 余裕過ぎるテラオに苛立ったのか、大蜘蛛は体勢をさらに高い位置から攻撃するように変えてきた。

 さすがに真上からの連続攻撃になれていないテラオ、さっきまでの余裕はなくなったようだ。


「そうだよねっ、練習なんてしている余裕ないよね」


 真剣に向き直り、大蜘蛛の攻撃を弾いているテラオ。何か作戦を思いついたようで、タイミングを計っている。


 右腕の攻撃を弾き、もう一つ右腕の攻撃を弾き、左腕の攻撃を躱し、さらに左腕の攻撃をたたき落とした所でテラオが動いた。


「【光の剣】!」


 テラオの両手剣に光が集まり輝きを放つ。

 先日覚えたばかりの魔法剣だが、練習でも使っていた光魔法の魔法剣。この世界の光魔法はただの光だ、聖なる属性などはないし、相手にダメージを与えるものではない。

 大蜘蛛も突然の光に一瞬ひるみはしたが、すぐになれてしまったのか先ほどと変わらず攻撃を繰り出している。


「グギャギャ、ギャースギャース」


 何か言っているようだが、相変わらず通じない。だが、光の剣を使うテラオを小馬鹿にしたような雰囲気。

 テラオは気にした様子もなく、戦闘を継続している。


 数分経った頃テラオが動いた。


「大技いっくよー!」と叫ぶと大蜘蛛から距離を取り、両手剣を上段に構える。


 テラオの言葉を大蜘蛛はちゃんと理解しているようで、テラオの放とうとしている大技を受ける体勢で待ち構えている。

 テラオが走り出した、大蜘蛛へ向かい一直線に。光を放つ両手剣を振り下ろし叫ぶ。


「ぬぉーりゃー」


 振り下ろされた光の剣、大蜘蛛は左右の腕を交差して余裕を持って受ける体勢。

 弾かれるかと思われた光の剣だが、驚くことに大蜘蛛の腕をそのまま通過、顔らしき部分の直前で激しく光を放った。


「ザンッ! グワァッ!」


 光にひるんだ隙を突いて、テラオは大蜘蛛の腕を関節から二本切り落としていた。


「ギギャ! ギャガギャガギャギュギャー。ギャースギャース」


 何か言っているが通じない。卑怯者が! 的なことを言っているのかもしれないが、今のはテラオの作戦勝ちだろう。テラオは光の剣を振り下ろすと見せかけ、魔法剣の魔法だけを振り下ろすというおかしなことをして大蜘蛛の判断ミスを誘ったのだ。

 しばらく光の剣で戦闘をしていたため、慣れた所で不意を突いた形だ。

 次の攻撃を放とうと構えているテラオ。だが、大蜘蛛は落とされた腕を拾うと大きく叫んだ。


「ギャンギャギャウー!」


 大蜘蛛の背後から大きな影が現れた。大蜘蛛と同じ位に大きなオオカミ型のモンスターだ。

 ここに来て援軍を呼ばれたかと構えるテラオ。

 だがオオカミは大蜘蛛を背中に乗せるとテラオに背を向け。


「アオーンワウワウ」「ギャースギャース」


 二匹で何か言い残して消えてしまった。オオカミ語も通じないので何を言っていたのかはさっぱりだが。


「えっと。僕の勝ちでいいのかな?」


 ぽつんと取り残されたテラオ。戦いはこれからだという所で相手の撤退は想定していなかっただろう。

 突如ガシャーンと大きな音が。周囲を囲っていた檻が砕け、ばらばらになって真っ暗な底なし谷へと落ちていく音だった。

 大蜘蛛がいた場所にはいつの間にか木箱が置かれていた。


「お! ドロップアイテムってやつかな」


 うきうきしながら木箱を開けてみると、中には液体の入った瓶が二つ。


「『魔力の源』ね……。魔力ポーション的なものだと思うんだけどさ、普通は小瓶でしょ! この量は何なのさ」


 一升瓶サイズが二本、ラベルに筆で書かれた『魔力の源』の文字が一級の品を思わせる。だがこの量だ、飲んだらお腹がたぽんたぽんになるのは間違いないだろう。背に腹は替えられないと、一本一気に飲み干したテラオだが。


「うっぷ。なるほどね……、ほんのちょびっとしか回復しないよっ!」


 テラオの魔力総量がすごいのか、魔力の源がしょぼいのかは不明だが、二本飲み干してもたいして回復しなかったようだ。

 二升飲み干したテラオの腹はパツンパツンになっているかと思えば、そこは高性能ボディー。不思議空間に格納されるのかは不明だが、いつも通りの体型を維持している。


「この体になっていろいろ驚いてきたけど、この消化の早さはほんとびっくりだね」


 たぽたぽで動けなくなると言うこともなかったので、テラオは次の戦場へと向かうことにしたようだ。空の瓶は丁寧に木箱に戻し、装備の点検を済ませると城へと向かい走り出した。



 相変わらず蜘蛛の糸が漂う道を、鞘に収めた両手剣を振り回しテラオは進んで行く。

 テラオの進んだ道には、所々に繭のようにまとめられた糸がぽつりぽつりと置かれ、道しるべのようになっている。一本道にそんなものは必要ない、ちょっと寂しげな置物だ。




 次の戦場に到着した。広さは先ほどと同じく訓練島位なのだが、中華鍋をひっくり返したような、ドーム状の地形になっている。地面はつるりと滑りやすそうな素材、頂上部分に一本の柱がある以外何もない場所。

 柵もないこの戦場は、足を滑らせると底の見えない真っ暗な谷へ一直線だ。


「恐ろしい戦場だね……、壁登りの技術を使いながら戦えって言うことだよね」


 シノービの講習で覚えた、滑りやすい素材でも魔力を使って足場を固定する技術。この戦場はそれを使うことを前提に作られているようだ。


 早速足を踏み入れたテラオ、その背後でバチィと大きな音が。戦場入り口には大きな封印らしき魔法陣。おまけに高圧電流が流れていますよ、というアピールらしいアーク放電がバチバチと音をたてている。


「な、なるほどね。落っこちるか丸焦げか、どっちにしても滑り落ちたら酷い目に遭うってことだね」


「ギャッギャッギャ、ギャギュギャギャギャ」


 いつの間にか頂上部分に大蜘蛛が。先ほどの負傷はすっかり直り、誇らしげにテラオを見下ろしている。


「ギャギャッギャースギャ」


 大蜘蛛が何か言っているが……。今のが合図だったようだ、頂上の柱の根元からぬるっとした液体がだばだばと溢れ、瞬く間に戦場を覆い尽くす。


「うひゃ、これは油? すごい悪意を感じるよっ」


 体を溶かす粘液のような有害なものではなかったようだ。しかし今回のダンジョンは凝った仕掛けが多い、大規模メンテナンスという準備期間を経て作られたというだけのことはある。

 さらに油をまかれたと言うことは、火の魔法を封じられたと言うこと。大蜘蛛を包む【業炎の大玉】のような魔法を使えば辺りは火の海になってしまうだろう。


「ギャース!」大蜘蛛が叫んだ、戦闘開始だ!

 まずは挨拶とばかりに大蜘蛛はテラオへと突進、止まることを考えていない勢いで迫ってくる。テラオは慌てて脇へと避けたが、大蜘蛛は避けることを予想していたのだろう、振り子のように横移動するとテラオを弾き飛ばした。

 なんとか落とされないよう耐えたものの、巨大な蜘蛛の体当たりだ、ダメージは大きい。


「ぐぅ、これ生身の体だったら危ない所だったよね……。この体でもクラッときたよ」


 ぶつかってくる大質量の慣性を無効にする、そんな都合の良い防御魔法をテラオは覚えていない。小型のトラックほどある大蜘蛛の体当たりを、滑る床との間に魔力で固定する足場を設け、足を踏ん張り耐えきったのは修行の成果だろう。


 大蜘蛛はというと、テラオを攻撃するとすぐ引っ張られるように頂上へと戻っていた。まるでヨーヨーのような動き。

 頂上の柱は蜘蛛が糸で自分の体を支えるためのものだったらしい。糸の伸縮は自由自在、避けてもすぐに対応してくる。滑りやすく作られたこの戦場は、テラオに不利なだけでなく、大蜘蛛にとってかなり勝手のいい場所に作られていると言うことだ。


「あれはずるいなー、ここはきっちり逃げながら作戦を考えるしかないね」


 大蜘蛛は今にも次の攻撃を仕掛けようと力を貯めている。テラオもすぐに動けるようにと、緊張しつつ適度に力を抜いた構えで待ち構える。


「ギャッギャッギャー、ギャースギャースギャギャッ」


 大蜘蛛がなにか叫ぶと同時に突っ込んできた。漆黒の鉄球が転がり落ちてくるような勢い。だがテラオはまだ動かない、直前で避けるつもりなのか大蜘蛛を見つめタイミングを計っている。


「【空板】!」


 激突寸前という所でテラオは大蜘蛛の上を走り抜けた。蜘蛛の体の上に空板を造り、下からの攻撃を防ぐ壁を兼ねた足場を作ったようだ。

 通り過ぎた蜘蛛の背後には伸縮自在な糸が付いている。


「うおぉー!」


 かけ声一発。テラオは蜘蛛を繋いでいる糸に渾身の一撃をたたき込む。


――ガッキーン。

「うっそーん……、いけると思ったのに」


 予想外に固かった蜘蛛の糸はまるで鋼の棒。糸を切れば勢い余って大蜘蛛を谷底に落とせると予想したのだろう、だがその考えは甘かったようだ。

 思惑が外れ、気を抜いてしまったテラオは忘れていたようだ。


「ふごぉっ!」


 通り過ぎた蜘蛛はヨーヨーのように戻ってくる。ヒップアタックをもらったテラオは、勢いよく弾かれ頂上の柱に激突した。


 痛みを堪えながらなのだろう、苦しい表情をしたテラオは柱をよじ登る。


「こ、ここなら突進は来ないよね……」


 確かに柱の上なら突進は来ないだろうが、蜘蛛の攻撃手段はそれだけではない。


「ギャギャッ、ギャスギャースギャース」


 テラオと蜘蛛、どちらがよじ登るのが得意かと言えば蜘蛛に軍配が上がり、八つの足を使ってスイスイとテラオの元へと迫っている。

 だが、敵よりも上に位置取るテラオは慌てず魔法を使う。


「大きめに【氷の壁】!」


 大蜘蛛よりも大きく作られた氷の壁を、よじ登ってくる蜘蛛めがけて自由落下させる。


 ドスンと落ちた氷の壁は、蜘蛛を潰したかに見えたが。


「ギャ、ギャギャギャース」


 『べ、別に焦ってないし』的なことを言ってそうな大蜘蛛。見事大きな氷の塊を避けたようだ。


「ならばもっと増やしていっくよー」


 一つで駄目なら数打ちゃいいじゃない的発想だろうか。魔力の塊をいくつも浮かべ、氷の壁を作ろうとしているようだ。


「ギャッギャッギャー、ギャースギャギャギャギャーウ」


 『いくらでも撃ってこい、全て避けてみせる』的なことを言ってそうな大蜘蛛。余裕な様子で待ち構えている。


 さらに魔力を込めるテラオ、魔力の塊はどんどん増えている。魔力の補充ができないここで無駄使いはできない、勝てるという確信がある作戦なのだろうか。



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