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42,光魔法の活用法

 タンス講座、アルバイト、野戦病院で二度目の自習と、日課を終えたテラオはゴザに戻ってのんびりと過ごしている。

 ここ最近はその日の講習内容をノートに書き出す作業をするのだが、今日はほとんど自習だったために書くほどのことがなかったらしい。


 ぼけーっとした様子でペンギン人形相手に結界魔法の練習をしているテラオ。

 防御魔法なのか結界なのかは不明だが、魔力で作った空間にペンギン人形を入れたり押し出したり。たまにペンで突っついたりしながら練習しているようだ。

 ちゃぶ台に頬杖突きながらぼんやりしていたテラオが、何か思い出したのかぴょこんと起き上がった。


「シノービさんのあのメッセージ。光で文字を書いてたあれは魔法だよね」


 なにやら急に思いついた光の魔法で文字書き。シノービの残した光のメッセージは、ネオンサインのように光で描かれた文字で作られていた。それを再現したくなったのだろう、テラオは光の魔法を棒状に伸ばして曲げてと試行錯誤を始めた。


 初めのうちは文字とは読めないような物を描いていたが、だんだん見られる物になり、そのうち下手な絵を描き始めた。


 ただの白色発光に飽きたのか、今度は色を変える練習を始める始末。光の魔法での遊びに完全にはまっていた。

 すっかり暗くなっている雲上の孤島、テラオの周囲には練習で作られた光の玉がいくつも浮いている。黄色っぽい白、赤っぽい白、緑がかった白と、光の三原色を作ろうとしているようだ。


「もう少しはっきり色を出せないとだめだなー」


 何をしようとしているのかは不明だが、お願い魔法で色つき光の玉を作るという難度が高いことをしているようだ。

 飽きることなくひたすら練習に打ち込むテラオ。だんだん上達してきたようで、テラオの周りはイルミネーションのように煌びやかな光で溢れている。


「あぁ、隊列だ。リーダーを決めて付いていくようにすれば……」


 唐突に何かを思いついたかのように呟いたテラオ。何かどうでもいいことを思いついたのだろう。


 しばらく光の玉をただふらふらと動かしていたが、二個に増え四個に増えと徐々に増殖する光の玉。しまいには数百個の光の玉がうようよと蛇行し、うろうろと往復移動を繰り返している。


「仕上げは……できるかな」


 きっちりと並んだ光の玉隊が、イルミネーションサインのようにさまざまな光に変化する。そのうち文字を表示し……。


【シノービさんに会いたい】


 ……才能の無駄遣い。今まで時間を掛けてこれかと呆れる成果だった。

 ひとしきり光のイルミネーションサインで楽しんだテラオは、今度は光の玉をさらに小さく細かくし始めた。ゴマよりもさらに細かく、緻密にみっちりと並べられた光の粒は一枚の光の板のようになっていた。


「よーしこれで昨日のあれを……」


 光の板がさまざまな色を放ち、それが落ち着いてくるとぼんやりと何かが浮かんできた。

 そう光で作られた板は、テラオの脳内映像を呼び出して表示させるディスプレイ。

 画面を見つめてにんまりとにやけるテラオ……、何が表示されているのかは知らない方が良さそうだ。



 ディスプレイの魔法に満足したのか、テラオはペンギン人形相手に結界の魔法の練習に戻った。

 ペンギン人形を魔力の球で囲い何らかのお願いをする。お願いがうまくいってるかどうかを確かめる、といったトライアンドエラーの繰り返し。

 ベイスに一度見せてもらって体験しただけの結界魔法は、いくら見よう見まねで光の文字魔法を再現したテラオでも、簡単に再現できる物ではなかったようだ。


 しばらく根気よく続けていたが、ついにタイムリミットが来たようで。


――♪ピンポロポン。十六日目の朝です、走り込みの時間です。


――♪ピンポロポン。カユトマールを支給します。


「よし、今日も頑張ろっと」


 テラオはペンギンを本棚の上に乗せ、いってきますと一言告げると訓練島へと走って行った。



  ◇



 昨日言われた頭を使わずに体を動かせと言うアドバイスが効果を発揮したのか、今日のテラオの動きはとても良くなっている。

 案山子達も昨日のように手加減している様子もなく、全力を出しているように見える。対するテラオも充実しているようで、打ち合いを楽しんでいるように見える。


 ベイスがやって来たが、満足そうな様子で黙って訓練を見守っている。集中しているテラオの邪魔にならないよう、途中で声を掛けるのは遠慮したようだ。


「今日はァ」「ここまでだゾー」「アホタレー」


 五種類の武器から両手剣一本に絞ってから、一本の武器に五倍の練習時間を割くようになっている。これまでは武器の持ち替えや準備時間に息抜きができていたのだろうが、いまは休む暇なく通しで練習が行われている。

 くたくたになって崩れ落ちたテラオにベイスがやっと声を掛けた。


「両手使いもずいぶん慣れたな。持ち替えての対応もできていたし安心したぞ」


「ありがとうございます。昨日のアドバイス通り、考えるより動くことを優先したらなんとかなった気がします」


 くたくたになってもすぐに元通り。高性能ボディーのおかげで練習時間に無駄がないのは実に効率的だ。

 ベイスは一通り技術向上のアドバイスを与えると、昨日はとっかかりだけしか教えなかった結界魔法について補足を始めた。


「昨日結界を体験してもらったが、自主練習でちゃんと実現できてなかったな。何が原因でできなかったかもわかんねぇ状況だろ?」


「はい。防御魔法をそこに置いただけって感じにしかできなくて。何をどうしたら結界になるのかがわかりませんでした」


 昨日の晩にずいぶん頑張っていた結界らしき物は、結界魔法にはなっていなかったらしい。防御魔法も結界魔法もはっきりと見える物ではないため、テラオが魔法を再現する時に大事なイメージする、お願いする、ということが難しくなっているのかもしれない。


「んじゃ、昨日と同じ結界を置いてやる。サービスで色つきだ、どうなっているか確認してみろよ」


 と言うとベイスは案山子の周りに魔力を集め、フンと気合い一発。薄青色をしたドーム状の結界空間が完成した。

 テラオは結界を観察する。外から見たり中に入ってみたり、外から殴りかかってみたり、案山子に殴りかかろうとして外にはじき出されたり。


「なんとなくですが防御魔法は張りぼてで、結界は中身が詰まっている感じですか?」


「いい線行ってるぞ。だが薄青色の魔力が詰まっている訳じゃねぇ、そこをちゃんと見ることができれば理解が早いぞ」


 中身が詰まっているというテラオの観察はいい線行っていて、薄青色の魔力が詰まっている訳ではないという。少々謎だがベイスはヒントになることをテラオに教えているようだ。

 詰まっているけど詰まっていないと、テラオはぶつぶつ呟きながら結界を観察する。さっきと同じ観察をより注意深く慎重に行っている。

 繰り返し観察するうちに、何かに気が付いたのか案山子に殴りかかろうとしては外に飛ばされ、戻っては飛ばされを繰り返し始めた。


「結界の中にある魔力は普段は色が付いていないのに、弾き飛ばす時だけ色が付くと言うのが何かありそうな気がします」


「おう、そういうことだ。何故そうなるか、どうしてそんなことをするかを考えろ」


 ベイスに言われ、テラオは出たり入ったりを繰り返しながら考えている。


「あっ! 節約魔法と同じ考え方ですか? 結界の中の魔力にお願いして役目がある時だけ動いてもらう。そんな感じで色が変わるような気がしました」


「よし合格だ。それを踏まえて今日の自主練やってみれば結界魔法が使えるようになるはずだ」


――♪ピンポロポン。斥候技能講習の時間です。


 腕時計さんの声が聞こえるやいなや、「ありがとうございましたー」と片付け走り去っていったテラオ。よっぽどシノービに会いたかったのだろう……。いやいつものことだった。



 勢いよく小屋に入ったテラオは、正面のコタツでだら~んとするシノービを見つけると早速走り寄る。


「シノービさん~昨日は会えずに辛かったでs、うわーぁああああぁ」


 今日も床にできた大穴から落ちて行くテラオ。シノービも素直に講習会場に案内することなく、毎回テラオを落とし穴に落とすという扱いが日常になっているようだ。



  ◆



 落下地点は昨日と全くおなじに見える場所だった。遠くから呼び掛けるシノービの声が聞こえる。


『ということで今日は昨日と同じマップッス。ノート以外は見えなくなる呪いを掛けるッス、自分のマッピングを信じて進むッス、ござる』


 なにが『ということ』なのかは不明だが、テラオは急に視線を泳がせ「えぇーっ!」と叫び慌てている。シノービの言った通りに呪いとやらで視力を奪われたらしい。

 少しして落ち着いたテラオは、リュックの背当てポケットからノートを取り出すと驚いたように中を確認しだした。ノートだけは見ることができる呪い……確かに見えているらしい。


「呪い恐るべし……。でも今日はシノービさんに会うために全力出しちゃうもんね」


 空間詳細把握を使ったテラオはかなり細かく周囲を認識できる。例え視力を封印されていてもそれは変わらなかった。多少は不安なのだろうが、信じるテラオは進んで行く。目標に向かって進んで行く。シノービに会うために……。



  ◇



「シノービさん~。会いたかったですー」


 テラオがゴールの扉を開け、部屋に入ったところで呪いは解かれた。

 間髪入れずにシノービの元へと駆け寄るテラオ。だがシノービは全く動じず避ける様子を見せない。

 そのままテラオを受け入れるのかと思いきや……。


 シノービはテラオの手が届く直前に姿を消してしまった。「フゴッ!」っと地面に激突する哀れなテラオ。


「あれ? シノービさんが消えちゃった!」


『フフーリ、いまのは残像ッスござる。

 というのは冗談ッス、これは光魔法を応用した幻影魔法ッスね。昨日テラッチのイルミネーションを見たッスからちょっとだけお披露目ッス、ござる。ということで今日の講習は修了ッスね、マッピングは及第点をあげるッスよ』


「わー、ありがとうございます。て! まさかシノービさんの講習卒業とか言わないですよね。もう会えないなんて……ないですよね」


 相変わらず消えたままのシノービ。声だけはどこからともなく聞こえてくる。

 だがテラオにとって気になることはそこではなく、卒業でシノービに会えなくなっては困ると必死な様子だ。


『あぁ、テラッチに教えるのはあと罠の知識と獲物の解体ッス。あと何回かで終わりッスね』


「そんなぁ。あと何回かとか……、しかも獲物の解体なんて野蛮なことをシノービさんにやらせる訳には……」


『他の講習をまた担当するかもしれないッスから、会わなくなることはたぶんないッス。明日は罠のことやるッスからそのつもりで居るッスよ。今日の所は終わりッス、ござる』


――♪ピンポロポン。治癒魔法講座の時間です。


 ゴールの部屋からいきなり転送され、何故かケンサンの小屋の前にテラオが現れた。

 もしかしたらシノービはずっと幻影でテラオの相手をしていたのかもしれない。まあ直接会ってもろくなことしなそうなので、そういう扱いでもかまわないだろうが。

 ろくに相手にしてもらえなかったテラオだが表情は朗らかだ。

 『会わなくなることはたぶんないッス』と聞いて安心したようだ。ついでにシノービニウムの補充もできたのだろう。例え幻影だったとしても、本人が満足しているならそれでいいのだ。


 テラオは満足げな表情でケンサンの小屋の扉を開ける。

 だが待ち構えていた内蔵模型君に驚きビクゥと体をこわばらせる。


「治癒魔法の能力向上は野戦病院での自習で頑張ってもらうことにして、本日は人体の構造について少々学んでもらいます」


 何の前置きもなくケンサンの説明から講習が始まった。


「構造ですか……」


 気乗りしない様子のテラオ。だがケンサンはそんなことは気にもせず、淡々と講義を進めていった。

 内蔵の主な役割とその場所を説明するケンサンに合わせて、内蔵模型君が自分の体からその部位を取り出しテラオに見せる。

 当然取れるようになっている内蔵だ、スプラッターな場面にはならない。じっくりと時間を掛けて内蔵講習は行われた。



  ◇



 げっそりした様子でケンサンの小屋から出てきたテラオ。さまざまな生々しい『モツ』を使った講習は、相当テラオの心の何かをすり減らしてしまったのだろう。成長のために、人を救うために頑張ってほしいものだ。


 続けてペーターのダンス講座だ。今日は今までに教わったことの総まとめと言うことで、やたらと長い曲を通しで踊るという課題が与えられた。

 実はテラオはダンス講習をけっこう熱心に受けている。

 十六歳ボディーをもらったら、今の案山子とは体格面で釣り合わない。新しくパートナーとなる相手に淡い期待しているという、全く褒められたものではない理由なのだが。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「おぉけい。テラオくんのダンスに合格をあげるヨー、特に希望がなければダンス講座は卒業だヨ~~~♪」


「えぇっ! 卒業しちゃったら十六歳ボディーでシノービさんをパートナーにぃっ、いったぁーい」


 淡い期待は無残にも打ち砕かれた。気を悪くしたのだろう軽装案山子がテラオの尻をむんずとつねりあげる。


「こういうときは寂しくなると言うものだゾー。デリカシーがないゾー」


 ご機嫌斜めの軽装案山子。

 体格は変わらないが、打ち合い訓練ではテラオを軽くひねる実力の持ち主だ。尻をつまみ上げられたままのテラオは、羊小屋へと放り捨てられた。



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