閑話 身分証明書を入手せよ!
山の頂上にある祠前。
隠しダンジョンを攻略した二人は、ボス部屋に出現した転移魔法陣から外に出ていた。
「次は街に向かうのです。クエストクリアーで『身分証明書』をもらえば、いつでもどこでも自由にいけるようになるのです」
「初心者卒業ッスね。冒険者ッス!」
ボスを倒してレベルが上がったとはいえメイが十四シノービ十二と、隠しダンジョン推奨レベルにも届いていない二人。だが全く気にした様子もなく、街への道をズイズイと進んで行く。
――鬼蛙が現れた。
――メイはじっくりと観察した。
――トゲトゲガンガンッス――伸びる舌を手に入れた。
――ビック雀が現れた。
――シノービはよーく観察した。
――双剣ザックザク斬りなのです――糸切りばさみを手に入れた。
ちゃんと調査しながら戦闘しているようだ。
そんなこんなでスイスイと進む二人、『素早く歩ける靴』を手に入れて足取りは軽い。実際早い、速度二割まし位になっているようだ。
「街が見えてきたッス、あれがエルステの街ッスね」
「クエストを受けるのです。さいきょーワールドに飛び立つのです」
大きな門。エルステの街は大きな街、多くのゲームプレイヤーが起点としているこの街には、さまざまな施設が揃っている。
街に着いた二人は意気揚々と歩き出す。当然ここにもナンパ系のプレイヤーがおり、女子二人組を見つけお誘いを掛けてくるのだが。
「さいきょーが待ってるッス、いまは忙しいッス」「なのです」
と、相変わらずあっさり撃退していた。
二人が目指していたのは冒険者ギルド。ここで『身分証明書』をもらうと、国家間の移動制限もなく自由に冒険できるようになるらしい。
冒険者ギルドは多くの人で賑わっていた。
ここで発行されたクエストを受けて、パーティーを募集したり報酬をもらったりと、多くの人が集まる場所、出会いの場所、待ち合わせの場所として使われている。
そのため建物も大きく、役所のような造りになっている。
シノービ一行は人混みをかき分けエントランスを抜けると、案内看板に従い初心者受付に向かった。
初心者受付コーナーも賑わっている。クエストを受けた初心者達が、早速パーティー募集の声を上げていた。
一行は募集の声を上げる人たちを横目に、正面にいる受付嬢に声を掛けた。
「クエストを受けに来たッス」「うけるのです」
「初心者の方ですね、ギルド登録クエストはこちらになります」
【パーティークエスト:
ヘレ大洞窟の中ボス『ギャングリーダー』から『ギャングの証』を奪い取れ
推奨レベル:二十以上
注意事項:ヘレ大洞窟はパーティー四人が揃わないと入場できません
報酬:冒険者身分証明書】
「四人ッスか? 二人だと入れないッスか?」
「そうなりますね。ここで皆さん募集してますから、パーティーに入れてもらって一緒に行くといいですよ」
「なるほどッス。パーティーに潜入するッスよ」
受付嬢から『ヘレ大洞窟マップ』をもらった二人は、募集の声を上げている人たちの元へ向かった。
「初心者クエスト募集してまーす。あと二人!」
「二人入れて欲しいのです」と、パーティー募集に応募して見るも。
「あーレベル低いね。二十以上推奨だからせめて二十はないと……」
「あと二人募集中です。レベル二十以上で――」「レベル二十五から――」
二人のレベルは十五と十三。全然募集要項に合致していなかった。
「仕方ないッス、入れないならこっちから募集を掛けるッス」「なのです!」
ということで二人は募集を掛けようとしたのだが、チラッと目に入った光景が気になったようだ。
「い、いれてほしいです」
「槍使いか、不遇職だよね……うちではちょっと」
「短剣使いも居ます……」「どっちも不遇職じゃん、ごめんね」
ゲームによっては強い職と弱い職が出るのは仕方のないことだが、パーティーを断られるほどとはよっぽどなのだろうか。
「二人ッスね、一緒に行くッス」「一緒に行くのです」
落ち込んでいた槍使いの子をシノービが誘った。ぱあっと明るい笑顔を向けた彼女は、二人を見てすぐに困惑する。
「えっと、二人ともレベル低いですけど……」
「問題ないッス、出発するッスよ! さいきょーが待っているッス」「のです」
強引に二人をパーティーに誘い入れ、ズイズイと歩き出す二人。困惑しながらも付いていく二人は自己紹介を始めた。
「槍使いのランカです、こっちが短剣使いの」「……マシェリ」
シノービ達二人も自己紹介はちゃんとした。我が道を行く二人だが、一応パーティーとしてのコミュニケーションは取れた。
ランカとマシェリの二人は大人しそうな女の子。二人とも学校の友達同士で一緒にゲームを始めたらしい。特にゲームが得意という訳ではないが、違う自分になってみたくて始めたと言うことだった。
「違う自分と言うことは普段はもっと積極的なんッスか?」
「い、いえ……普段もこんな感じです」「……ん」
「だめなのです、もっとグイグイ行かないとなのです」
まあグイグイ過ぎるのも難有りだが、二人は大人しすぎて損しそうなタイプに見える。
雑談をしながら一行は目的地『ヘレ大洞窟』を目指していた。シノービとメイは先頭を歩き、現れた敵は即斬! とガンガン切り捨て進んで行った。ついでの調査も忘れてない、失敗は繰り返さない二人。
「二人ともレベルの割に強すぎません?」「……つよい」
「気合いが違うッス」「やる気が溢れているからなのです」
それだけでこれだけの無双はできないはずだが……。きっと一番いい『ギア』のおかげだろう、きっとそうだろう。
道中はずっとこんな感じで、ランカとマシェリが遠慮しつつ付いてくるだけ状態だった。そして到着したのが『ヘレ大洞窟』の入り口。
入り口にはゲートが設けられており、規定人数に満たないパーティーは入れない。
「それじゃあ行くッスよ! ついてまいれーッス」
四人パーティーの一行は止められることなく、無事ゲートをくぐることができた。洞窟内はうっすらと明かりが灯され、明かりの魔法や道具がなくても進むことができる。ゲームらしい洞窟だ。
攻略サイトで事前の下調べばっちりなシノービとメイは、迷うことなくズンズン進む。ランカとマシェリはマップを確認しながら、自信ありげに進む二人についていくのがやっとな様子。
「二人とも来たことがあるみたいに迷わず進みますね」「……マップいらず」
道中に置かれている宝箱ももれなく回収するルートで、四人はほくほく顔で進んでいた。
「ついたッス、ギャングのアジトッス」
洞窟内の広い空間に、木を組み合わせて作られた大規模な建物があった。ここがギャングのアジトと呼ばれる場所。奥に居るギャングリーダーを倒し、ギャングの証を手に入れればクエスト完了だ。
「ランカはあーしの後ろについて、隙を見て槍を突くッス。マシェリは背後の警戒を、何かあっても一人で対応しないで声を掛けるッスよ。メイは自由に戦うッス」
シノービがてきぱきと指示を出す、初めて見るリーダーらしき行動だ。
「では、行くッスよ!」「おーなのです」「はい!」「……ん」
◇
ガンガン倒してガンガン進む、ついでに調査も忘れない。
ギャングのアジトの探索も順調に進む。ついでに攻略情報で得た隠し宝箱も拾った四人は、初心者にとってかなりの大金となるお宝も拾っていた。
「すごい! おかげで武器と防具も買い換えられそうです」「……大感謝」
「攻略サイトのおかげッス、下調べは大事ッス」
「なのです。それよりボスエリアなのです、到着なのです」
アジトの最奥、柵に囲まれた広場の奥に小屋が見える。柵内に入るとギャングリーダーとのボス戦になるようだ。四人は柵の手前で作戦会議中。
「あーしが前衛するッス。メイとマシェリは遊撃、隙を見て強いのをたたき込むッス。ランカは基本あーしの後ろで距離を取って攻撃ッス」
「了解なのです」「わかりました」「……がんばる」
「じゃあ行くッスよ!」さあ、戦闘開始だ。
広場に入る四人。
すると柵がガシャンと閉まり、ドーム状に広場を囲う檻が落ちてきた。どっしゃーんと落ちた檻に驚く四人。
小屋から一人の男が出てきた。筋骨隆々いかついおっさんがギャングリーダだ。
大きなハンマーを両手で持ち、重たい一撃を放つだろうことが覗える。
「どぉーりゃぁー! 来たなひよっこ冒険者っ! 掛かってきやがれ」
♪ドデデン、ドデデン、ドンチャカドンチャカ~。
ギャングリーダーの叫びを合図にBGMが流れ始めた。
シノービが盾を前に構えギャングリーダーの前へ飛び出した。リーダーの気を引くためにトゲトゲメイスで突きを放つ。
「どぉっせぃ!」リーダーが巨大ハンマーをシノービに打ち付けようとするが、シノービは盾を使って受け流す。その隙にシノービの影から出たランカが槍で突く。
前衛陣の連携がうまく決まりリーダーの視線を集める。
視界の外を回り込んだメイとマシェリが左右後方から一撃を放つ。
「うぉぉおっ! ちょこまかとぉー、くっそぉう」
リーダーが視線を左右に振ろうとすれば、シノービのトゲトゲメイスとランカの槍攻撃。シノービを攻撃しようとハンマーを振れば、後方からメイとマシェリの強烈な一撃。
ガンガンと攻撃を加え、ダメージを与え続ける四人のコンビネーションはなかなかのものだ。
盾役のシノービは衝撃でダメージを受けるが、神官職でもあるため自己治癒の魔法が使える。直撃を受けない回避能力と合わせて継戦能力はかなり高い。
槍職のランカは引っ込み思案だけど思い切ったら頑張る性格。この役割にぴったりだったのか、シノービの影からざくざくと突きを放っては隠れを繰り返す。
メイは持ち前の思いっきりの良さで、リーダーの隙を見つけては鋭い攻撃を放つ。
マシェリは気配を隠すのが得意なようで、いつの間にそこに? という神出鬼没な攻撃を繰り出している。
――ガランッ
「ぐふぅ。み、認めてやるぞ、つ、つよいなおまえら……」
長い戦闘の末ギャングリーダーを倒した!
「終わったッス」「悪を葬ったのです」「や、やったんだね私達」「……完全勝利」
◆
「取ってきたッス、身分証明書と交換して欲しいッス」
四人は冒険者ギルドの受付前に戻っていた。
報酬をもらうために受付で手続きをしている所だ。ちなみに帰りはチュートリアルでもらった『拠点帰還スクロール』を使い一瞬で戻ることができた。
無事四人ともクエストをクリアーを認められ、報酬の『冒険者身分証明書』を獲得。どこでも自由に行き来できるようになった。
「あの、フレンドになってもらえませんか?」「……是非」
「二人はもう友達ッスよ! 一緒に冒険すれば友達ッス」「なのです!」
「あっ、それもうれしいのですが。ゲームシステムのフレンドのことで……」
シノービもメイも最強しか頭になかったため、そういう機能は調べていなかったようだ。ちょっと恥ずかしくなった二人。その後四人はお互いにフレンド登録して解散となった。
「野良パーティープレイもおもしろいッスね」「たのしかったのです」




